秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

K・パスモア

1676/ファシズム-岩波書店「検閲済」邦訳書(2016)②。

 ケヴィン・パスモア=福井憲彦訳・ファシズムとは何か(岩波書店、2016.04)。
 4.この著者が書いていることも、イギリスの学者にしては「左翼的」だ。
 第8章の表題は、<ファシズム、女性そしてジェンダー>。通常の?ファシズム関連書に比べて、なかなかユニークだ。
 また、この章名にも見られるかもしれないが、歴史書というよりも、執筆時点でのこの著者の政治的見解・主張をかなり強く出すものになっている。 
 むろん同一視はしていないが、ファシズムの歴史と現在の欧州の「極右」・<民族主義者または人種主義者>とを関連づけて、後者に対する警戒または批判の主張を明確に述べている。
 日本でもよく知られたフランスの国民戦線(FN、ルペン)をはじめ、イタリアの「社会運動」(MSI)、イギリスにもあるという国民戦線(NF)等の「極右政党同士」の絡み合う関係を批判的に叙述している。p.158など。
 これでは、かつてのファシズムを冷静に把握するという書物になっていないのも当然だろう。ドイツ・ファシズムあるいはナチズム・国家社会主義や戦後ドイツの「歴史家論争」に立ち入ることができないのも、無理はない。
 さすがに岩波書店が邦訳書を刊行し、訳者・福井憲彦が前回紹介のようなことを訳者として自分で書いている、そういう書物だ。
 5.著者も訳者も<ファシズム>研究を一生の仕事?とはしていない、少なくとも第一の専門研究分野としてはしていない。
 そして、著者の文献案内や訳者の日本語文献についての案内を通覧すると、興味深いことにも気づく。
 もっぱら英語文献に限ってケヴィン・パスモアは原書に32文献(アレントは一つ)を最後に挙げているようだ。
 そのうち、日本語訳書があるのは、ハンナ・アレントの三巻本を一つとして、4つだけ。
 もともと原著者の参考文献提示の数も少ないと思われるが、邦訳書の少なさもまた、驚くべきことだ。
 ファシズム、ファシズムとよく言う日本人だが、あるいは日本の「左翼」だが、いかほどにきちんとした知識があるのか、これから見てもきわめて疑わしい。
 訳者・福井憲彦が挙げる日本語文献案内(邦訳書を当然に除く)も、きわめて少ない。
 まともな単著らしきものは、山口定・ファシズム(岩波現代文庫)だけで、もう一つの複数著者の本は「旧聞に属するが」と福井自身が書く1978年刊行のもの。
 あとは論文少しと各国についての通史もの。
 ドイツ・ヒトラーに関するものも数冊挙げられているが、ナチス時代の歴史叙述であり、<<ファシズム>に焦点を絞ったものではなさそうにみえる。
 福井はまた、こう書く。
 「一連のファシズム現象のなかでもナチ・ドイツに関する研究は、翻訳書も含めて日本ではきわめて層が厚い」。
 これは、趣旨やや不明だが、ほとんど信じられない。フランスが専門対象の福井憲彦にはそう思えるのかもしれない。しかし、かりにヒトラー時代あるいはその前のワイマール期も含めてのナチス党等を研究しているからといって、<ファシズム>を研究していることには全くならないだろう。言うまでもないことだ。
 2016年に日本で刊行された時点での、訳者・福井の叙述だ。
 6.2016年から今年にかけて、アメリカ大統領選、フランス大統領選等々、関心を集めた選挙があり「右派」あるいは「保守派」台頭も話題になった。日本ではずっと安倍晋三内閣だった。 
 こういう時機に合わせての、岩波書店によるこの邦訳書刊行ではないだろうか。
 じつに「商売」上手な、そしてきわめて「政治的な」出版物だろう。
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 少しは立ち入る用意をしていたが、できなくなった。
 一つの英語文献、二つの独語文献の名前だけ記す。
 Paul E. Gottfried, Fascism -The Carter of a Concept (USA, Northern Illinois Uni. 2016).〔ファシズム。2016〕
 Siegfried Gerlich, Ernst Nolte -Portrait eines Geschichtsdenkers (2009). 〔Siegfried Gerlich, エルンスト・ノルテ-ある歴史哲学者の肖像。 2009〕
 Vincent Sboron, Die Rezeption der Thesen Ernst Noltes ueber Nationalsozialismus und Holocaust seit 1980 (Grin, 2015). 〔Vincent Sboron, 国家社会主義とホロコーストに関する1980年以来のエルンスト・ノルテの諸命題の受容。 2015〕

1675/ファシズム-岩波書店「検閲済」邦訳書(2016)①。

 邦訳書として翻訳されて出版されているからといって、信頼が措けると思ってきたわけではない。
 しかし、最近はむしろ、邦訳書があること自体が、日本共産党や日本の<容共・左翼>にとって危険ではないことの証拠ではないかと、とりあえずは疑問視できるのではないか、とすら思うようになった。
 とくに、岩波書店が出版している邦訳書は、おそらくほとんどこのように判断して間違いない、つまり日本の<左翼>にとっては危険ではない(むしろ推奨される)から出版されているのだ、と推測される。
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 ここで<容共=容共産主義>の意味で「左翼」という言葉を使っている。そのような狭義の意味での「左翼」に加えて、共産主義(者)を含めて「左翼」ということもある。日本共産党は当然に後者に入る。しかし日本の共産主義者=日本共産党ではない。反・非日本共産党のマルクス主義者あるいはレーニン主義者もいる。
 <容共・左翼>と上で書いたが、したがって、どちらでも同じこと。
 「反共左翼」という言葉をネット上で見たことがあるが、秋月の用語法には、こういう概念はない。
 「反共左翼」という語の使用者はおそらく日本共産党員で、日本共産党に従わない、日本共産党を支持・擁護しようとはいない「左翼」のことを「反共左翼」と称していたと思われる。日本共産党から見て、批判・糾弾的な言葉になっていた。  
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 ケヴィン・パスモア=福井憲彦訳・ファシズムとは何か(岩波書店、2016.04)。
 1.訳者の福井は、「訳者あとがき」でこう書く。
 「…、そういうファシズム的な状況の再来に対する警戒を解いてはならない」。p.241。
 「ファシズムないしファシスト」が「世界のあちこちをも席巻し」、「…大いなる魅了と反発とを喚起し」、「そして悲惨な戦争を引き起こした時代」を忘れてしまってはいけない。「もちろん」、「大日本帝国が陥った超帝国主義やミリタリズム」についても忘れてはいけない。p.242。
 これは、翻訳ではなく、訳者・福井憲彦自身の文章
 最初の文などは、消滅しているはずのファシズムを何度でも呼び覚まそうとするのが「左翼」>共産主義者だという、フランソワ・フュレの言葉を思い出させる。
 安倍晋三や橋下徹を簡単に「ファシスト」とレッテル貼りする者、反トランプのデモで、Anti-Fascism とか Refuse-Fascist とかを書いた胸板を掲げて行進していたアメリカ人も思い出す。
 二つ目の文のように、先の「悲惨な」大戦は「ファシズム(・ファシスト)」が「引き起こした」と断定的に叙述してしまってよいのだろうか。
 もちろん、以上のように簡単に言える人ではないと、岩波書店の邦訳書の訳者にはならないのだろう。
 2.表面的な紹介等からしても、この著が欧米でのファシズム研究の現在を示しているとは、とても思えない。
 ①著者はイギリスの歴史学者で、第一の専攻は「フランス現代史」。ドイツ語文献はたぶんいっさい出てこない。
 訳者(1946-)は「フランス近現代史」が専門。たぶん、ドイツ語を使って仕事はしていない。
 ②二人とも、ドイツでの議論状況を全くかほとんど知らない。
 ドイツのエルンスト・ノルテへの言及が本文に二カ所ほどあるが、これでは何のことか判らない。 
 3.なぜ岩波書店はこの本の邦訳書を刊行したのか。
 別に述べる叙述内容を理由としているからだろう。これが決定的だ。
 しかし、形式的・表面的にも疑問視できる。
 この書物の原書は、Kevin Passmore, Fascism : A Very Short Introduction (2版加筆訂正、2014/1版2002)で、オクスフォード大学が出版している人文社会系の新書的なシリーズものの一つ。
 この全てまたはほとんどについて岩波書店から邦訳書が出版されていればまだよいが、例えばつぎの二つについては、岩波書店は邦訳書を出していない(他の日本の出版社からも出ていない)。
 Steven A. Smith, The Russian Revolution: A Very Short Introduction。〔ロシア革命〕
 Leslie Holms, Communism: A Very Short Introduction。〔共産主義〕
 この二つとも所持している。熟読はしていないが(前者にはこの欄で一度触れた)、いずれも日本の「左翼」・日本共産党にとって「危険な」部分を含んでいる。とくに前者は。といっても、欧米ではごく普通レベルだろう。
 なぜこれらの邦訳書は刊行しないで、シリーズものの一つの〔ファシズム〕についてだけは刊行するのか。
 岩波書店の、政治的判断によるとみられる
 つまり、あえて言えば、岩波書店による<検閲済み>の書物だ。むろん、社内や編集部等だけの判断ではなく、誰か研究者・学者が関与している可能性もある(訳者となった福井自身かもしれない)。
 続ける。 
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