週刊金曜日6/19号、p.47。
長いタイトルの、高嶋伸欣「看過できないTV番組介入の議員連盟発足/厳しさが足りない身分を保障された者への監視姿勢」。
高嶋伸欣は琉球大学名誉教授との肩書きで、いつぞやの日曜午後のTV番組「…言って委員会」で<左翼教条>発言をしていた。
上の文章も面白く読ませる。嗤ってしまうのだが。
NHK4/05の台湾統治に関する「NHKスペシャル」を契機に「公共放送のあり方に関する議員連盟」が発足したことにつき、「明らかに政治家による番組内容への介入」、「組織的にやろうというのは悪質」と批判。
また、産経・朝日がこの議連発足をベタ記事でしか報道しなかったことにつき、「本来ならば社説で厳しく批判して当然な程の言論界の大問題」だと批判。
さらに、読売がNHKは「政治家の介入を招くスキを自ら」作った等の識者コメントをのせたことを「NHK批判」だとし、「スキがあろうとなかろうと、政治家の介入は不当とするのが、メディアの立場だろう」と批判。
高嶋によると、メディアは「憲法感覚から迫る姿勢を失って久し」い。そして、「違憲違法の議員連盟を客観視の名目で黙認するのか」と最後を締め括る。
さて、第一に、古屋圭司・安倍晋三らの「公共放送のあり方に関する議員連盟」の発足のどこに<違憲・違法>性があるのか。「憲法感覚」を語るわりには、高嶋は何も解っていないのだろう。具体的にどの憲法条項違反かを高嶋は語らない。
放送法というNHKの設立根拠法でもある法律が適正に執行されているかを監視することは、むしろ国会議員の義務・責務だ。
第二に、高嶋の頭の中には、NHKの<表現の自由>対自民党国会議員(政治家)・<権力>の介入という構図が描かれているのかもしれない。この構図に立たないで後者を「社説」で「厳しく批判」しないのは怪しからんと怒っているわけだ。
上の構図しか描けないことこそ「左翼教条」の高嶋らしい。<表現の自由>はNHKのみならず、国会議員・政治家にもある。特定の番組についてであれ、国会議員・政治家が批判的にコメントすれば<不当な政治家による介入>と捉えられるのだとすると、国会議員・政治家はマスメディアについて何も発言できなくなる。
第三にそもそも、高嶋はNHKの番組の内容とそれ問題視する側の見解についてほとんど何も語っていないし(「日本の台湾支配を悪く描きすぎているとのバッシング」というだけ)、かつそれらに関する自らの見解は何も語っていない。
問題は、<表現の自由と「権力」>ではない。NHKが行使した「表現の自由」の結果・具体的内容の当否なのだ。それについて、種々の議論があることこそが、「表現の自由」の保障のもとでは当然のことなのだ。NHKが放送法等による規制を受ける、一般の民間放送会社とも異なる「公共放送」だとすれば、一方の「表現の自由」を国会議員が行使するのはますます当然のことだ。
高嶋伸欣においては、おそらく明瞭なダブル・スタンダード=「ご都合主義」があるのだろう。
すなわち、かりにNHKが高嶋の気にくわない<保守・反動的>番組を作り、それを例えば日本共産党(社民党でもよい)が問題視する質問を国会(・委員会)で行ったとする場合、高嶋は上の文章の如く、<政治家による不当な介入>と批判するだろうか。
国民の代表者・国会議員は国民主権のもと、NHK(の「保守反動」性)を厳しく監視すべきだ、とでも主張するのではないか。
高嶋伸欣にとっては、自分に都合のよい(自分の思想・歴史認識・考え方と同じか近い)マスメディアの番組・報道は<表現の自由>として「憲法」上守られなければならず、自分に都合の悪い(自分の思想・歴史認識・考え方と異なるか対立する)マスメディアの番組・報道は<表現の自由>の保障に値せず、封殺されるべきものなのだ。
そういう本音を隠したまま、あるいはそういう矛盾が自らのうちにあるのを(「左翼教条」のゆえに)自覚すらしないままで、上のような文章を高嶋は書いたのだろう。
隔週刊・サピオ7/08号(小学館)で小林よしのりは、月刊・世界6月号(岩波)で古木杜恵(男性)が結局は「小林よしのりは差別者だ!」「こんな奴に発言させるな!」とだけ主張していることを捉えて、「全体主義」と称している。
この回のタイトルは「『世界』に暗躍する全体主義者」で(p.55)で、「左翼の本質そのものが全体主義だから、左翼は無意識のうちに全体主義の言動をとってしまう!」、「左翼の本質・本能をなめてはいけない! 彼らは言論の自由が大っ嫌いなのだ!」とも書いている(p.62)。
週刊金曜日6/19号を読んだのが先だったが、高嶋伸欣の文章・主張に私は「(左翼)全体主義」を感じた。
<表現の自由>どおしの闘い=議論・討論をしようとする姿勢を全く示さず(=NHKの番組の内容的評価には何も触れず)、一方の側(国会議員)の<言論の自由>(「政治活動の自由」でもあるかもしれない)を封殺しようとし、そうしようとしない新聞を批判しているからだ。
さらに言えば、まだ<言論の自由>(「政治活動の自由」)の行使には至っていない段階かもしれない。「議員連盟」が設立されただけ、なのかもしれない。それでも、その「議員連盟」の言論・諸活動を、高嶋伸欣は事前に封殺しようとしているのだ。
これは考え方の出発点において、「全体主義」だ。<言論>・<思想・信条>の中身いかんによって保護したり抑圧したりするのは、「全体主義」だ。
高嶋伸欣よ。よく自覚するがよい。小林よしのりが対象としているのは別の人物だが、あなたも「全体主義」者だ。「左翼の本質そのものが全体主義だから、左翼は無意識のうちに全体主義の言動をとってしまう」のだろう。また、ここにも、マルクス主義の痛ましい犠牲者がいるのかもしれない。
なお、週刊新潮7/02号(新潮社)p.163は、水島総らが上に言及のNHK番組を理由に民事の「大訴訟」を検討中と伝える。この問題関係の訴訟の法的な勝算・コストパフォーマンスには疑問全くなしとしないが、同じ週刊誌でも週刊金曜日とは大きな違いがある。
JAPANデビュー
月刊正論7月号(産経新聞社)の特集は<NHKよ、そんなに日本が憎いのか>。
この問題を取り上げるのはよいことに決まっているが、発売部数7万弱の月刊雑誌に、いかほどの世論形成能力があるのだろうと考えると、かなり悲観的にはなる。
「かなり悲観的」の根拠では全くないが、ネット上でNHKの今年4/28の「理事会議事録」を見ると、NHKの「考査室」が同理事会で、「プロジェクトJAPAN NHKスペシャルシリーズ『JAPANデビュー』第1回『アジアの“一等国”』(4月5日(日)放送)は、一等国をめざした日本による台湾の植民地政策の変遷をテーマに、膨大な史料と海外の研究者による解説をもとに、日本や列強の思惑をわかりやすく読み解いていたと考えます」、と報告している。
確認しないが、NHK会長・福地茂雄は「問題ない」旨を語った、と(たぶん少なくとも産経新聞で)報道されていた。
ネット上の<産経ニュース>5/14によると、こうある。
「NHKの福地茂雄会長は14日の会見で『あの番組はいいところも随分言っていると思った』と、内容に問題はないとの認識を示した。/福地会長は『(当時の)産業・インフラの芽が今の台湾の産業につながっているという気がしたし、教育でも規律正しい子供たちが映っており、一方的とは感じなかった。文献や証言に基づいているし、(取材対象の)発言の“いいとこ取り”もない』と評価した」。
問題の番組の製作者もそうだが、福地茂雄という人物は、台湾や日本の台湾統治に関する知識など殆ど持っていないのだろう。問題の番組の製作者は<無知>のみではなく、特定の<意図>があったと考えられるが。
月刊正論7月号の水島総の連載記事(p.282~)によると、「NHKスペシャル『JAPANデビュー』」批判の新聞「意見広告」は産経新聞の東京版・大阪版だけだったようだ。
広告費の問題もあるだろうが、産経新聞に載せるだけでは、朝日新聞の出版物の広告記事を<週刊金曜日>に載せるのに近いのではなかろうか。問題の所在自体を知らせるだけにでも朝日新聞にも、少なくとも(部数の面で広告費も安いと思われる)日本経済新聞くらいには掲載してほしかったものだ。
それにしても、やはりとも思うのは、水島総によると、5/16の集会と1000名を超える人々のNHK抗議デモ(中村粲の連載記事p.163も参照)について、当日のNHKニュースは「原発プルサーマル計画に反対する十数人のデモを報道」したにもかかわらず、完全に黙殺した、ということだ。
NHKばかりではなく、産経新聞を除く全マスメディアがそうだと思われる。
これでは勝負にならない。田母神俊雄論文問題と同様で、田母神更迭等を政府・防衛大臣が反省しないのと同様に、<一部の批判・反対はあったが…>というだけで、NHKが反省・自己批判することは、客観的にはありえそうにない。
だからといって、むろん、今後も批判する、あるいは批判的に番組を検討することを続けることを無意味だとは思っていない。重要だ。だが、客観的情勢を観ると、たぶんに歯痒い思いがする。
朝日新聞(系)と読売新聞(系)とが結託していれば、同じ報道姿勢を続ければ、<世論>はほぼ決定的なのではないか。潮匡人が「リベラルな俗物たち」の一人として取り上げている(p.204-)渡辺恒雄の読売新聞(系)への影響力が完全になくなり、読売新聞(系)が(今でも問題によっては朝日・毎日対読売・産経という構図になるようだ)、より産経新聞に接近することを期待する他はない(といって、産経新聞や産経新聞社出版物を全面的に信頼しているわけではない)。
潮匡人の巻頭の方の連載コラム(p.48-49、今回のタイトルは「続・NHKの暴走」)を読んで、いつか頭に浮かんだことを思い出した。
NHKは「LGBT」(省略)、「いろんなセクシャリティ-のかたちや価値観」があること、に好意的で、「虹色」という語を使うサイトもあるという。
では、と思うのだが、NHKの年末の<紅白歌合戦>は男でも女でもない、男のような女、女のような男等々の存在を無視するもので、「紅組」と「白組」の二つだけではなく中間の「ピンク(桃)組」も作るべきではないのか(「虹色」でもよいが、この色はどんな色か分かりにくい)。<紅・桃・白歌合戦>、にすべきではないのか(「こうとうはく歌合戦」。虹組だと「こうこうはく歌合戦」になる)。
<紅白歌合戦>という(「男」と「女」に分かれた)長く続く番組の名称こそ、「いろんなセクシャリティ-のかたちや価値観」を結果として排する方向のものとして、なかなか意味がある、と感じているのだが。
4/05のNHKスペシャル「JAPANデビュー第一回」につき、林建良という「台湾団結連盟日本代表」が、サピオ5/13号(小学館)の巻頭(p.3)でこう語っている。以下、一部抜粋。
・上の番組は「日本の台湾統治の苛酷さを強調し、大きな波紋を呼んだ」。「衝撃は日本人以上に台湾人の方が大きかった」。「…NHKが、なぜ事実歪曲したのかが理解できない」。「一番多く歴史証言で登場した柯徳三氏(87)は『NHKに騙された』と語っている」。「負の面の証言だけが取り上げられ、プラス評価の部分がすべて削られたからだ」。
・台湾(人)が「今回『反日』に仕立てられたことには強い怒りを覚え」る。「親父の世代を『反日偽造工作』に加担させたNHKの手口は、侮辱である」。「NHKのディレクターに『日本精神』はなく、台湾人に欺瞞的な手法を使った。…精神の砦は、無残にもこの若い日本人によってぶち壊された」。
・NHKの2007年の「青海チベット鉄道」特別番組は「チベット人への弾圧や略奪に使うあの鉄道を美化している」。今回の番組には「日台分断を図る」NHKの意図があり、さらに「中国の意向」があるのではないか。
・「日台さえ分断させれば中国の台湾侵略に弾みがつく。そして台湾併合後は日本も中国の勢力圏に組み込まれる。そのような侵略国家に加担するNHKは、今や銃口を自国民に向ける洗脳軍隊に化けた」。
上の「若い」「NHKのディレクター」とは誰かは書かれていないが、この番組の<ディレクター>は、浜崎憲一、島田雄介、<制作統括>は、田辺雅泰、河野伸洋だった。
このような林建良の批判は「一部」(の例外?)のものだとしてNHKは無視するのかもしれないが、かなり強い批判・非難だ。NHKを実質的に中国(共産党)の<手先>と、そして明示的にNHKを「侵略国家に加担する…今や銃口を自国民に向ける洗脳軍隊」と形容しているのだ。
心あるNHK職員は、こんな番組が作られたことを憂い、嘆くべきだ。また、多くの心ある国会議員・政治家も、放送法の観点から、NHKのこの番組をもっと問題視すべきだ。
同じようなトーンの<反日・自虐>番組が今後月に一度放送されたのでは、たまったものではない。今からでも遅くはない。第2回以降の番組内容が「公平・公正」なものかどうかも放送総局長・日向英実らのNHKの権限・職責ある立場の者はチェックすべきだろう。
なお、放送法第三の二は「放送事業者」による「国内放送の放送番組」の「編集」につき、「次の各号の定めるところ」によるべき旨を定める。各号のうち一号以外は次のとおりだ。
「二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」
NHKの上の番組は、これらに正面から抵触してはいないか!? 雑誌・週刊誌や新聞社のうち産経は別として、NHK以外の放送会社や他の新聞社は、なぜこのNHKの番組に強い批判が寄せられているという事実すら報道しないのか。
反朝日新聞と反日本共産党のみならず「反NHK」をも一般的には掲げたくないのだが。
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