秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

音階

2670/1892年の日本音階研究—上原六四郎②。

  上原六四郎・俗楽旋律考(岩波文庫、1927。第8刷/1992)
 上原がこの著で示した二種の音階は、この人が考案したものではなく、明治前半期に彼が当時の日本で実際に「聴いた」諸音楽を検討して「発見」した結果の音階だ。
 このことは、「一 緒言」に語られている。
 原文の文語体・旧仮名遣いではない「現代文」化を「一 緒言」について秋月瑛二が勝手に試みると、つぎのとおり。p.29-p.30。一文ずつ改行する。
 ——
 「そもそも世に言う俗楽とは、社会の上流なると下流なるとを問わず、あまねく世間に行なわれる、俚歌、童謡をはじめ、浄瑠璃、端歌、琴歌、謡曲、尺八本曲の類を総称するものである。
 現今にその流派はきわめて多いけれども、その一二を除く他はおおむね同一であり、その発達とともにようやく分岐してきたけれども、曲節はまた相類している。
 しかしとりわけ、都府で行なわれているものと田舎間で行なわれているものとは、大いにその趣味を異にし、あるいは来源が同じではないようにみえる。
 よって、ここでは前者の類を都節と称し、後者の類を田舎節と名づける。
 〈改行〉
 雅楽には呂律等の旋法、西洋音楽(「西楽」)には長短の二音階があって、それぞれその曲節を律している。
 俗楽でもまた、そのような旋法がないはずはない。
 しかしながら、古来これを論ずる者なく、わずかに近時、伊藤脩二、瓜生寅等の両三氏がこれを論じているだけである。
 自分はもともと音楽に精しくはないけれども、明治8年以来少しだけこれの攻究を試みた。
 しかして、自分がもっぱら攻究したのは都節中の俗箏、長歌および京阪地方のいわゆる地歌ならびに尺八の本曲であって、田舎節、謡曲等はわずかにしかこれを玩味していない。
 加えて、すでに講究に年月を費やしたが、なお疑惑の箇所が少なくないので、これを書物に論載するようなことは他日に譲ろうと考えていた。
 しかるに、今回東京音楽学校長村岡範爲馳氏の命があったので、あえていささかこの論説を今日に試みるだけである。
 その足らない所は、怠らず討究して、他日に補うこととする。」
 ——
  もう一つ、「十八 都節と田舎節との関係の事」を「現代文」化してみよう。「陰旋」、「陽旋」という言葉の由来の一端が書かれている。p.86-p.88。
 内容には難しい部分があるが、①「一」とは最も単純には今日に言う「一半音」に当たる(または、近い)と思われる。②「」とは、最初の一定の音、つまり「基音」のことだ(「絶対音」の呼称ではない)。この二点以外は、そのままにしておく。
 「十日戎のように田舎節を都節に変唄し、また沖の大船のように田舎節と都節を混用するものについて、田舎節音階と都節音階との関係を求めると、左図<前回に言及したのと同じ—秋月>のごとくであって、主として両音階の性質を変えるものは、その第二音と下行第五音との位置にある。
 すなわち、田舎節のこれら二音を一律低くすればただちに都節となり、都節のこれらの二音を一律高くすればただちに田舎節になることを知ることができる。
 〈改行〉
 田舎節と都節とにはこのような親密な関係があるがゆえに、これを譜表に示そうとする場合には、かりに田舎節を記入するに*dを宮とするときは都節もまたこれを宮としなければならず、あるいは都節を記入するに*eを宮とするならば田舎節もまたこれを宮とする必要がある。<一文、省略>
 〈改行〉
 田舎節の曲節は都節に比べるとおおむね爽快で、きわめて力がある。
 このことが、ややもすると、その曲節が野鄙に聞こえる理由であって、普通〔平凡〕である弊に陥りやすい。
 これに対して、都節はきわめて柔和な性質をもっている。
 このことが淫猥に傾きやすい原因であって、また普通である弊がこれに伴ないやすい。
 しかして、西洋音楽に長短の二音階があるように俗楽にもまた二旋法があり、両者は全く性質を異にするのだから、自分は、都節の音階に陰旋の名を与え、田舎節の音階に陽旋との呼称を与えて、この区別を試みる。」
 以上。
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2666/「ドレミ…」はなぜ「7音」なのか⑦。

 結果としてはほとんど意味をもたせないのだが、行きがかり上、掲載する。
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  XX-01/M、XX-02=ZZ-01/N、ZZ-02/Pとして行なった作業を、XX-03/Q、ZZ-03/Rについても、行なってみよう。
 Q/XX-03について。各音を①〜⑧と表現する。「β」は「(32/27)の2乗根」のことだ。
 Q。①1、②9/8、③(9/8)×β、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦(27/16)×β、⑧2。
 間差は、つぎのとおり。
 Q。①-②9/8、②-③β、③-④β=(4/3)÷(9/8)β=(32/27)/β、④-⑤9/8、⑤-⑥9/8=(27/16)÷(3/2)、⑥-⑦β=(27/16)β÷(27/16)、⑦-⑧β=2÷((27/16)×β)=(32/27)/β=βの2乗/β。
 最大は①-②、④-⑤、⑤-⑥の3箇所にある9/8(=1.125)で、残り4箇所はβ だ。。 
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 R/ZZ-03について。各音を①〜⑧と表記する。「β」は「(32/27)の2乗根」のこと。
 R。①1、②β、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥(3/2)β、⑦16/9、⑧2。
 間差は、つぎのとおり。
 ①-②β、②-③β=(32/27)÷β、③-④9/8=(4/3)÷(32/27)、④-⑤9/8、⑤-⑥β=(3/2)β÷β、⑦-⑧9/8=2÷(16/9)。
 最大の間差は9/8(=1.125)で、3箇所ある。残りの4箇所はβ(=約1.0887)だ。
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  最大の間差は3箇所にある9/8なので、これを二分割しよう。
 そうすると、新しく3音が得られ、10音(11音)音階が形成されるだろう。3箇所全てについて二分割すること以外(いずれかを選択して分割すること)は、考え難い。
 さて、9/8より小さい数値で、これらの方式でこれまでに出てきているのは、β だ。
 そこで、9/8=β×θ、またはθ×βとなるθを求める。(9/8)÷βの計算で求められる。
 これは、1.125/βだが、βはもともと(32/27)の2乘根なので、1.125/約1.0887という計算式になる。答えは、θ=約1.0333になる。
 これを利用することにし、β とθ ではβ を先に置いて計算した結果を示し、かつ小さい順に並べると、こうなる。<>は間差。
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 Q/XX-03。①1—<β>—②β—<θ>—③9/8(②)—<β>—④(9/8)×β(③)— <β>—⑤(9/8)×(32/27)=4/3(④)— <β>—⑥(4/3)×β—<θ>—⑦(3/2(⑤)=(4/3)(9/8)—<β>—⑧(3/2)β—<θ>—⑨27/16(⑥)—<β>—⑩(27/16)β(⑦)—<β>—⑪(27/16)×(32/27)=2(⑧)。
 間差は、β が7箇所、θ が3箇所(=かつて9/8があった3箇所内)。
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 R/ZZ-03。①1—<β>—②β—<β>—③(32/27)—<β>—④(32/27)β—<θ>—⑤4/3=(32/27)×(9/8)—<β>—⑥(4/3)β—<θ>—⑦(3/2)=(4/3)×(9/8)—<β>—⑧(3/2)β(⑥)—<β>—⑨16/9=(3/2)×(32/27)(⑦)—<β>—⑩(16/9)β—<θ>—⑪(16/9)×(9/8)=2。
 間差は、β が7箇所、θ が3箇所(=かつて9/8があった3箇所内)。
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  若干のコメントを付す。
 第一に、Q、Rで10音(11音)音階を作ることができるが、最大の三つの間差箇所を全て二分割するかぎり、8音(9音)音階や9音(10音)音階はできない
 このかぎりでは、M、N、Pの場合と同じだ。
 第二に、M、N、Pで最後に得られる12音は「ドレミ…」という「7音」音階よりもむしろ、十二平均律、純正律、ピタゴラス音律に共通する<計12音>構造に対比できるもので、これらでの12音との差異を考察するのは意味がないわけではないと思われる。しかし、QやRは「10音」(11音)音階であるので、こいうした対照ができない。
 第三に、Q、Rは「β」=「(32/27)の2乗根」という数値を用いるもので、「θ」もこの2乗根を要素としている(θ=(9/8)÷((32/27)の2乗根))。
 この点で、全ての音を通常の整数による分数で表記することのできる純正律、ピタゴラス音律とは性格がかなり異なる。限定的だが、〈平均律〉と似ている側面がある。
 このことから、Q、Rは 「7音」および「10音」音階であることを否定できないが、以下では視野に入れないことにする。
 —- 
  M、N、P、それぞれの「7音」音階—いわば「私的」7音音階—および「12音」については、なお言及しておきたいことがある。
 各音の1に対する周波数比と、あえて1=「ド」とした「ドレミ…」を使った場合のこれらの音階を表記すると、既述のことだが、こうなる。再記する。
 M—①1、②9/8、③81/64、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦243/128、⑧2。
   =ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド。
 N—①1、②9/8、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦16/9、⑧2。
   =ド、レ、ミ♭、ファ、ソ、ラ、シ♭、ド。
 P—①1、②256/243、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥128/81、⑦16/9、⑧2。
   =ド、レ♭、ミ♭、ファ、ソ、ラ♭、シ♭、ド。
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2663/1892年の日本音階研究—上原六四郎①。

  1892年(明治25年)に執筆が完了した原稿は1895年(明治28年)8月付で「金港堂」から出版された。
 岩波文庫に加えられたのは1927年(昭和2年)で、兼常清佐という校訂者の緒言は、その際に加えられたように推察される。
 上原六四郎・俗楽旋律考(岩波文庫、第8刷/1992)。
 この書物は貴重だ。最近にこの欄で日本独自の音階論はなかったようだと書いたり、三味線・尺八・和琴、長唄・浄瑠璃・義太夫、神道での「祝詞」等々を思い浮かべることなく、寺院での「声明」での音階は仏教界以外に広まらなかったようだと書いたりして、日本の「伝統的」音階や音階論の存在を知らなかったのは、素人とは言え、相当に恥ずかしい。
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  上原六四郎(1848〜1913)という人物の経歴、生涯については今回は省く。
 注目すべきは、この人は、130余年前の1892年の段階で、「日本の音楽」を関心と研究の対象とし、「陽旋」と「陰旋」(「陰陽二旋法」)—長音階と短音階に相当すると見られる—の存在を発見し、それらの音階(「5音」音階)の各音の位置を明らかにし、さらに各音の、一定の音(いわば「基音」)との関係での周波数比まで示していることだ。
 すでにこの欄に書いたが、私の中学生時代の音楽の教科書には、「日本音階」または「和音階」での長調(長音階)と短調(短音階)が、音階の五線譜での楽譜付きで紹介されていた。
 「律音階」、「民謡音階」、「都節音階」、「琉球音階」が日本の「伝統的」音階の四種として挙げられることがある。しかし、私がこれを知ったのは比較的最近のことだ。
 そして、日本音階での四種ではなく長音階・短音階という二種の取り上げ方は、少なくとも結果としては、上原六四郎の研究・考察の結果と符号している。
 現在の(とくに義務教育課程での)音楽教科書の内容を全く知らないが、私の中学生時代の文部省告示「教育指導要領」には、「音楽」教科の内容として、上の四種ではなく、「長音階」と「短音階」の二種だけが明記されていたのだろうと推察される。
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  上原の上の著は三味線の三線での位置から音階や音程の考察を始めていて、私にはほとんどか全く理解できない。
 結論的叙述が、西洋音楽の五線譜ではなく、12段の枡形のような図で示されている。第一音が一番下、最後の1オクターブ上の(第六)音が一番上にくる。数字番号しか書かれていない。
 強引に一番下の第一音を(Cでもよいが)「ド」として、現在に支配的な音・音階の表示方法に倣って各音の位置を表記すると、つぎのようになる(岩波文庫、p.105の図表による)。
 第五音だけが、上行と下行で異なる。
 「陽旋」
 ①ド、②レ、③ファ、④ソ、⑤ラ#、⑥ド。
 下行—⑥ド、⑤ラ、④ソ、③ファ、②レ、①ド。
 上原著自体が、「律」音階—「所謂雅楽の律旋」(p.113)—と、この「陽旋」は「全く同物」だと明記している(同上等)。
 この点は、私自身が音階の形成を試みる中で出現した、ド—レ—ファ—ソ—ラ—ドという「5音」音階について記したことがある(各音は上の下行の場合と同じ)。
 これをさらに強引に、第一音を「レ」に替えて表現し直すと、つぎのようになる。
 ①レ、②ミ、③ソ、④ラ、⑤ド、⑥レ。
 下行—⑥レ、⑤シ、④ラ、③ソ、②ミ、①レ。
 これは、上行・下行ともに、かつての教科書上の「長音階」と全く同じだ。
 既述のように、<君が代>は、下行も含めて、この音階による。
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 「陰旋」
 ①ド、②ド♯、③ファ、④ソ、⑤ラ♯、⑥ド。
 下行—⑥ド、⑤ソ♯、④ソ、③ファ、②ド♯、①ド。
 これをさらに強引に、第一音を「ミ」に替えて表現し直すと、つぎのようになる。
 ①ミ、②ファ、③ラ、④シ、⑤レ、⑥ミ。
 下行—⑥ミ、⑤ド、④シ、③ラ、②ファ、①ミ。
 これは、上行・下行ともに、かつての教科書上の「短音階」と全く同じだ。
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  上に見た図表において、各段の段差(周波数比)は同一だと考えられているのだろうか。同じ数値で等分されているのが前提ならば、<平均律>になってしまう。
 だが、同一ではない。上原著でますます注目されるのは、各音の周波数比(これは弦の長さの比率でも表示され得る)を明記していることだ。
 次回に、続ける。
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2662/「ドレミ…」はなぜ7音なのか⑥。

 「音階あそび」を続ける。
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  これまでに導き出した1オクターブ内7音(最後を含めて8音)音階は、つぎの五種だった。便宜的に、M、N、P、Q、Rと称する。すでに見たように、XX-02とZZ-01は同じ結果になる。
 M/XX-01。①1、②(9/8)、③(81/64)、④(4/3)、⑤(3/2)、⑥(27/16)、⑦(243/128)、⑧2。
 N/XX-02=ZZ-01。①1、②(9/8)、③(32/27)、④(4/3)、⑤(3/2)、⑥(27/16)、⑦(16/9)、⑧2。 
 P/ZZ-02。①1、②(256/243)、③(32/27)、④(4/3)、⑤(3/2)、⑥(128/81)、⑦(16/9)、⑧2。
 XX-03とZZ-03はβ=(32/27)の2乗根=√(32/27)という数値を使い、分数表記ができないので、同列に扱い難い。いちおうは「7音(8音)音階」に含めつつ、叙述の対象としては後回しにする。
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  さて、新しい音を発見する手がかり・方法にしてきたのは、第一に、各音の間差(周波数比の差異)が最も大きい箇所を見出すこと、第二に、その間差をすでに得ている数値を用いて二分割することだった。2音を二つに分割すれば、新しい1音が得られる。
 最大の間差は、3→5の第一段階では、(4/3)だった。
 最大の間差は、5→7の第二段階では、(32/27)だった。
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 そこで、上の五種の7(8)音音階について、隣り合う各音の間差を求めてみる。最後の音を含めて8音があるので、間差は7箇所で見られることになる。まず、上のM、N、Pについて確認する。
 M/XX-01について。各音を①〜⑧と表現する。
 間差。①-②(9/8)、②-③(9/8)、③-④(256/243)=(4/3)÷(81/64)、④-⑤(9/8)、⑤-⑥(9/8)、⑥-⑦(9/8)、⑦-⑧(256/243)=2÷(243/128)。
 最大の間差は9/8で、5箇所ある。残りの2箇所の③-④と⑦-⑧はいずれも(256/243)だ。
 M①1—<9/8>—②9/8—<9/8>—③81/64—<256/243>—④4/3—<9/8>—⑤3/2—<9/8>—⑥27/16—<9/8>—⑦243/128—<256/243>—②2。
 なお、9/8=W、256/243=h、と略記すると、間差の並びは、WWhWWWh。
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 N/XX-02=ZZ-01について。各音を①〜⑧と表現する。
 間差。①-②(9/8)、②-③(256/243)=(32/27)÷(9/8)、③-④(9/8)=(4/3)÷(32/27)、④-⑤(9/8)、⑤-⑥(9/8)=(27/16)÷(3/2)、⑥-⑦(256/243)=(16/9)÷(27/16)、⑦-⑧(9/8)=2÷(16/9)。
 最大の間差は9/8で、5箇所ある。残りの2箇所の②-③と⑥-⑦はいずれも(256/243)だ。
 N①1—<9/8>—②9/8—<256/243>—③32/27—<9/8>—④4/3—<9/8>—⑤3/2—<9/8>—⑥27/16—<256/243>—⑦16/9—<9/8>—⑧2。
 なお、9/8=W、256/243=h、と略記すると、間差の並びは、WhWWWhW。
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 P/ZZ-02について。各音を①〜⑧と表現する。
 間差。①-②(256/243)、②-③(32/27)÷(256/243)=(9/8)、③-④(4/3)÷(32/27)=(9/8)、④-⑤(9/8)、⑤-⑥(128/81)÷(3/2)=(256/243)、⑥-⑦(16/9)÷(128/81)=(9/8)、⑦-⑧2÷(16/9)=(9/8)。
 最大の間差は9/8で、5箇所ある。残りの2箇所の①-②と⑤-⑥はいずれも(256/243)だ。
 P①1—<256/243>—②256/243—<9/8>—③32/27—<9/8>—④4/3—<9/8>—⑤3/2—<256/243>—⑥128/81—<9/8>—⑦16/9—<9/8>—②2。
 なお、9/8=W、256/243=h、と略記すると、間差の並びは、hWWWhWW。
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  間差についての結論はいずれも、<最大の間差は5箇所ある9/8、残りの2箇所はいずれも(256/243)>だ。
 これまでの新しい音発見の方法は最大の間差を二分割することだったが、ここでは、最大の間差である同じ9/8の箇所が5つもある。
 この9/8を二分割することは、つぎのとおり、不可能ではない。
 これまでに用いてきた数値で9/8よりも小さいのは(256/243)だ。よって、(9/8)=(256/243)×γまたは(9/8)=γ×(256/243)となる「γ」の数値を求めれば、新しい音が得られる(ちなみに、γ=(2187/2048)=約1.0679だ)。
 しかし、五つある(9/8)のうちどの箇所を二分割するか、という重大な問題に直面せざるを得ない。
 そしてまた、ある(9/8)の箇所は二分割し、残りの(9/8)の箇所は二分割しないとすれば、常識的にはきわめて不均衡または無秩序な、一貫性・合理性のない音階になってしまうだろう。
 とすると、五箇所ある(9/8)の間差を全て二分割するしかない、と考えられる。
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  五箇所ある(9/8)の間差を全て二分割すれば、その結果はどうなるか?
 7音(8音)音階に新たに5音が加わって、「12音(13音)」音階が形成されるだろう
 「ドレミ…」7音音階というのは「主要」7音(8音)と「副次」5音との計12(13)音で1オクターブを構成するものだった。
 これに対して、上では、「主要」12音(13音)自体が1オクターブ内の「音階」を構成することになる。
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 五箇所ある(9/8)のうち1箇所、2箇所、または3箇所だけ選んで新しい音を一つ、二つまたは三つ加えて8音(9音)音階、9音(10音)音階または10音(11音)音階を作るようなことは不可能だと考えられる。
 「7音(8音)音階」はこれを生み出した方法を継続して新しい音を発見しようとすると、結局は「12音(13音)音階」になるしかない。「8音(9音)音階」や「9音(10音)音階」はできない。
 以上のことは、<「ドレミ…」はなぜ7音か>の一つの答えになっている、と考える。
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  なお、実際に、計算作業を行なっておこう。なお、乗じる数値に(256/243) とγの二種があり得る場合、つねに(256/243)を先に置くこととする。< >内は間差。

 (1) M①1—<256/243>—②256/243—<γ>—③9/8—<256/243>—④96/81—<γ>—⑤81/64—<256/243>—⑥4/3—<256/243>—⑦1024/729—<γ>—⑧3/2—<256/243>—⑨128/81—<γ>—⑩27/16—<256/243>—⑪16/9—<γ>—⑫243/128—<256/243>—⑬2。
 間差12箇所のうち、(256/243)が7箇所、γが5箇所。
 (2) ①1—<256/243>—②256/243—<γ>—③9/8—<256/243>—④32/27—<256/243>—⑤8192/6561—<γ>—⑥4/3—<256/243>—⑦1024/729—<γ>—⑧3/2—<256/243>—⑨128/81—<γ>—⑩27/16—<256/243>—⑪16/9—<256/243>—⑫4096/2187—<γ>—⑬2。
 間差12箇所のうち、(256/243)が7箇所、γが5箇所。
 (3) ①1—<256/243>—②256/243—<256/243>—③65536/59049—<γ>—④32/27—<256/243>—⑤8192/6561—<γ>—⑥4/3—<256/243>—⑦1024/729—<γ>—⑧3/2—<256/243>—⑨128/81—<256/243>—⑩32768/19683—<γ>—⑪16/9—<256/243>—⑫4096/2187—<γ>—⑬2。
 間差12箇所のうち、(256/243)が7箇所、γが5箇所。
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 これらの数値は、ピタゴラス音律や純正律のいずれかの1オクターブ12音の各数値と全てが同じではない。〈十二平均律〉とは、1、2以外は全て異なる。
 (256/243)=約1.0535、γ=(2187/2048)=約1.0679。ちなみに、〈十二平均律〉での「半音」=12√2=2の12乗根=約1.059463
 ——
 つづく。

2659/「ドレミ…」はなぜ7音なのか⑤。

  前回までに作り出す事のできた二種の「5音」音階とは、つぎだ。便宜的に、それぞれX、Zと称しておこう。
 X—①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16、⑥2。
 Z—①1、②32/27、③4/3、④3/2、⑤16/9、⑥2。
 間差の広い箇所に新しい音を設定する。5つある間差の数値は、つぎのとおり。
 X—①②9/8、②③32/27(=(4/3)÷(9/8))、③④9/8、④⑤9/8(=(27/16)÷(3/2))、⑤⑥32/27(=2÷(27/16))。
 最大は32/27で、2箇所ある。残りの3箇所は、9/8。
 Z—①②32/27、②③9/8(=(4/3)÷(32/27)、③④9/8、④⑤32/27(=(16/9)÷(3/2))、⑤⑥9/8(=2÷(16/9))。
 最大は32/27で、2箇所ある。残りの3箇所は、9/8。
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  この最大の(間差が広い=周波数比が最も大きい)32/27を二つの部分に分割しよう。Xでは、②③の間と、⑤⑥の間。Zでは、①②の間と④⑤の間。
 そうすると、32/27は2箇所にあるので、新しい音が二つ増える。そして、既存の5音に加えて、計7音になるはずだ。
 分割方法は無限にあり得るが、つぎの三つの方法を合理的なものとして選択できる、と考えられる。
 まず、すでに9/8という数値を利用していることを参照して、32/27を9/8と残余の部分に分ける方法が考えられる。こも場合は、厳密には二つに分かれる。
 第一に、9/8を先に置き、(9/8)×α=32/27とする。この場合のα=256/243であることが容易に計算できる。
 第二に、9/8を後ろに置き、(256/243)×(9/8)=32/27とする。
 既存の音(の数値)にこれら二つの数値のいずれを乗じるかを決めておく必要があるので、上の第一と第二は区別しなければならない。
 これら以外に第三に、32/27の「中間値」で二つに分割することが考えられる。この「中間値」はもちろん「16/27」ではなく、32/27と64/27の「中間値」である48/27でもない。
 正解は、<2乗すれば32/27となる数値>、すなわち<(32/27)の2乗根>だ。後述もするように、この数値を「β」と称することにする。これを分数表示することはできないし、「無理数」なので、小数化すると無限に数字がつづく。
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  上の三つの方法の順序で、二分割作業を、以下に行なう。結果として計「7音」を得ることができる。その場合の「7音」音階を、便宜的にそれぞれ、XX、ZZと表記しよう。
 第一のXX関連。元の②③、⑤⑥の各間差が、32/27だ。
 (1) 9/8(②)×(9/8)=81/64。なお、(81/64)×(256/243)=4/3で、元の③の数値となる。
 (2) (27/16)(⑤)×(9/8)=(243/128)。なお、(243/128)×(256/243)=2で、元の⑥に戻る。
 以上で、元の「5音」以外に、新しく、(81/64)と(243/128)の二つの数値が得られた。
 元のXの「5音」にこれらを加えて挿入し、小さい(周波数比の小さい)順に改めて並べ直すと、つぎのようになる。
 XXの01
 ①1、②9/8、③81/64、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦243/128、⑧2。
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 次いで、第一のZZ関連。元の①②、④⑤の各間差が、32/27だ。
 (1) 1(①)×(9/8)=(9/8)。なお、(9/8)×(256/243)=32/27で、元の②の数値となる。
 (2) 3/2(④)×(9/8)=(27/16)。なお、(27/16)×(256/243)=(16/9)で、元の⑤に戻る。
 以上で、元の「5音」以外に、新しく、(9/8)と(27/16)の二つの数値が得られた。
 元のZの「5音」にこれらを加えて挿入し、小さい(周波数比の小さい)順に改めて並べ直すと、つぎのようになる。
 ZZの01
 ①1、②9/8、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦16/9、⑧2。
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  次に、(256/243)を先に乗じる、第二の方法を採用する。
 第二のXX関連。元の②③、⑤⑥の各間差が、32/27だ。
 (1) (9/8)(②)×(256/243)=(32/27)。なお、(32/27)×(9/8)=4/3で、元の③の数値となる。
 (2) (27/16)(⑤)×(256/243)=(16/9)。なお、(16/9)×(9/8)=2で、元の⑥に戻る。
 以上で、元の「5音」以外に、新しく、(32/27)と(16/9)の二つの数値が得られた。
 Xの元の「5音」にこれらを加えて挿入し、小さい(周波数比の小さい)順に改めて並べ直すと、つぎのようになる。
 XXの02
 ①1、②9/8、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦16/9、⑧2。
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 次いで、第二のZZ関連。元の①②、④⑤の各間差が、32/27だ。
 (1) 1(①)×(256/243)=(256/243)。なお、(256/243)×(9/8)=(32/27)で、元の②の数値となる。
 (2) (3/2)(④)×(256/243)=(128/81)。なお、(128/81)×(9/8)=16/9で、元の⑤に戻る。
 以上で、元の「5音」以外に、新しく、(256/243)と(128/81)の二つの数値が得られた。
 Zの元の「5音」にこれらを加えて挿入し、小さい(周波数比の小さい)順に改めて並べ直すと、つぎのようになる。
 ZZの02
 ①1、②256/243、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥128/81、⑦16/9、⑧2。
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  第三の方法は、32/27を、「2乗すれば(32/27)になる数値」で分割する。この「(32/27)の2乗根」を、「β」と簡称する。この方法による場合は、間差の32/27を構成する大小のどちらの数値からβでの乗除を行っても、結果は異ならない。
 なお、この「β」=「(32/27)の2乗根」は1.088662…なので、「9/8」(1.125)よりも小さい。
 第三のXX関連。元の②③、⑤⑥の各間差が32/27だ。
 (1) (9/8)×β=(9/8)β。なお、(9/8)β×β=(4/3)。
 (2) (27/16)×β=(27/16)β。なお、(27/16)β×β=2。
 以上で、元の「5音」とは異なる、新しい、(9/8)β、(27/16)βを得られた。
 Xの元の「5音」にこれらを加えて挿入し、小さい(周波数比の小さい)順に改めて並べ直すと、つぎのようになる。
 XXの03
 ①1、②9/8、③(9/8)β=約1.225、④4/3、⑤3/2、⑥27/16、⑦(27/16)β=約1.838、⑧2。
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 次いで、第三のZZ関連。元の①②、④⑤の各間差が32/27だ。
 (1) 1(①)×β=β。なお、β×β=(32/27)。
 (2) (3/2)×β=(3/2)β。なお、(3/2)β×β=(16/9)。
 以上で、元の「5音」とは異なる、新しい、βと(3/2)βを得られた。
Z の元の「5音」にこれらを挿入し、小さい(周波数比の小さい)順に改めて並べ直すと、つぎのようになる。
 ZZの03
 ①1、②β、③32/27、④4/3、⑤3/2、⑥(3/2)β、⑦16/9、⑧2。
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  これで、最初のXとZの「5音」音階を基礎にして、計6種の「7音」音階を、秋月瑛二なりに作り出すことができた。
 種々の数字・数値が登場しているが、振り返って、重要な数字・数値を挙げると、つぎのとおりだ。
 第一に、4/3と3/2。この二つは古代人もすみやかに気づいた、核となる数字だっただろう。当初はあるいは(3と1/3ではなく)3/2と2/3だったかもしれない。後者の2/3は容易に4/3に転化した。
 第二に、(3/2)÷(4/3)で得られる、9/8という数字。
 私は<ピタゴラス音律での全音>が(9/8)で<ピタゴラス音律での半音>が(256/243)であることをすでに知っているので、(9/8)から出発すればピタゴラス音律での音階と似たものができるだろうと想定はしていた。
 しかし、9/8とは上記のとおり<(2/3)と(3/2)>という原初的二音の間差(周波数比)なのであり、この数字は論理的には必ずピタゴラス音律につながるものではないように思われる。
 第三に、「5音」設定終了の段階で生じた、相互の音の間差のうち最大の間差(周波数比)を示す、「32/27」という数字。
 第四に、(32/27)を二分割する場合に登場した、(32/27)÷(9/8)の結果としての、256/243という数字。
 最後に、(32/27)から生じる、「(32/27)の2乗根」=「β」。
 これらの数字・数値を組み合わせて、六種の「7音」音階ができたわけだ。ピタゴラス音律での計算方法である、3または3/2を乗じつづけて、かつ2の自乗数で除する(「シャープ系」の場合)ようなことをしなかった。
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  正確には、6種ではない。それぞれの音階を、①数値、②1=ド=Cとした場合の十二平均律での近い数値の音(ドレミ)の順に、並べてみよう。第三の方法による場合は除く。
 ①XX01—1、9/8、81/64、4/3、3/2、27/16、243/128、2。
   —ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド
 ②ZZ01—1、9/8、32/27、4/3、3/2、27/16、16/9、2。
   —ド、レ、ミ♭、ファ、ソ、ラ、シ♭、ド
 ③XX02—1、9/8、32/27、4/3、3/2、27/16、16/9、2。
   —ド、レ、ミ♭、ファ、ソ、ラ、シ♭、ド
  これは②と同じ。「移調」すると、ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラになる。これの並び方を—「移調」することなく—変更すると、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドにもなる。
 ④ZZ02—1、256/243、32/27、4/3、3/2、128/81、16/9、2。
    —ド、レ♭、ミ♭、ファ、ソ、ラ♭、シ♭、ド
  これは、ラ♭がドになるよう「移調」して全体を並べると、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド、レ、ミになる。さらにこれの並び方を変更すると、ド〜ドにも、ラ〜ラにもなる。
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 以下は参考として再び付記。
 ⑤XX03—1、9/8、(9/8)×β、4/3、3/2、27/16、(27/16)×β、2。 
 ⑥ZZ03—1、β、32/27、4/3、3/2、(3/2)×β、16/9、2。
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  検討作業がこれで終わったのではない。
 つぎの問題は、これまでの発想や検討作業の過程を継続して、「8音」音階や「9音」音階を作ることはできないのか、できないとすればそれは何故か、だ。
 <「ドレミ…」はなぜ7音なのか。
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2654/「ドレミ…」はなぜ7音なのか④。

 以下の一部ずつだけを読んだ。衝撃的に面白そうだ。
 ①小泉文夫・日本の音—世界のなかの日本音楽(平凡社文庫、1977)。
 ②小泉文夫・歌謡曲の構造(平凡社文庫、1996)。
 小泉文夫、1927〜1983。元東京芸術大学教授(民族音楽)。
 日本の音楽・音階についてこの欄に既に記述したことは、書き直しが必要になりそうだ。
 →「2635/<平均律>はなぜ1オクターブ12音なのか②」で、日本の古歌も「西洋音楽」の楽譜で表記され得ることは「西洋音楽」の「広さ・深さを感じさせる」と書いたが、「西洋音楽」を高く評価しすぎかもしれない。
 また、→「2652/私の音楽ライブラリー④」で1963年の「恋のバカンス」は「画期的だった」と(むろん主旋律だけでなく前奏・伴奏を含めての)素人的印象を語ったが、これも単純だったかもしれない。
 すでにこの項の「③」で「律音階」に触れており、今回も「民謡音階」に言及するが、日本の伝統的音階が叙述の主対象ではない。このテーマは、別途、上の小泉文夫著等をふまえて扱いたい。
 このテーマは、「日本音楽」とは何か、「日本民族」とは何か、「日本とは何か」という大きな問題に関連しそうだ。「日本語の成立」過程に関する問題とも、少しは類似性がある。
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  さて、この項の<「ドレミ…」はなぜ7音なのか>は「西洋音楽」での1オクターブ12音をふまえた「ドレミ…」の7音構造の背景に関心をもつものだ。
 1オクターブ内での4/3と3/2の「発見」による1、4/3、3/2(、2)の3音構造の成立に続く9/8と27/16の設定による「5音」音階の成立まで、私ならばどのようにして音階を作るか、を叙述してきた。
 だが、このように迂回しつつ、「西洋」の「ドレミ…」の音階が7音(最後のドを含めて8音)で構成されざるを得なかったことを、「証明」することができる可能性がある、という見通しをもっている。
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  「5音」からさらに数を増やすことを急がず、立ち止まってみよう。
 前回に9/8と27/16を新たに加えたが、それは1×(9/8)と(3/2)×(9/8)の計算結果の採用による。1-(4/3)、(3/2)-2、といういずれも4/3または3対4という広い間差(周波数比)の間に、「小さい」方の数値に9/8を乗じたものだった。
 だが、4/3および2という「大きい」方の数値から9/8だけ小さい数値を計算することによっても、新しい二つの数値が得られるはずだ。次もように、それぞれの「大きい」数値に8/9を掛けることでよい。
 (4/3)×(8/9)=32/27。2×(8/9)=16/9。
 これら二つを1、4/3、3/2、2という「3音」構造に挿入して小さい順に並べると、以下のようになる。
 Z①1、②32/27、③4/3、④3/2、⑤16/9、⑥2。
 これは、前回に記した「5音」(最後を含めて6音)音階の数値と異なっている。前回に記したのは、つぎだった。
 X①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16、⑥2。
 このX は、前回に記したように、今日の〈十二平均律〉の場合に近い音を選んで1=ドとして表現すると、「ド・レ・ファ・ソ・ラ・ド」だ。そして、伝統的音階のうち雅楽に使われる「律音階」にきわめて類似している。
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  上のを、今日の〈十二平均律〉の場合に近い音を選んで1=ドとして表現し直すと、つぎのようになる。
 「ド・ミ♭・ファ・ソ・シ♭・ド」。Xの②と⑤よりもこのZの②と⑤の方が数値が大きいこと(かつその割合は同じだろうこと)は、設定の仕方からして当然のことだ。
 念のための確認すると、つぎのとおり。
 Z②(32/27)÷X②(9/8)=256/243。(=ミ♭とレの間差)
 Z⑤(16/9)÷X⑤(27/16)=256/243。(=シ♭とラの間差)
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  ところで、興味深いことだが、Zの5音(6音)音階の「ド・ミ♭・ファ・ソ・シ♭・ド」=「C-E♭-F-G-B♭」は、日本の伝統的音階のうち、「民謡音階」に相当する、と見られる。
 日本の伝統的音階として四つを挙げること、そして各音階をどう説明するかには、あるいは一致がないのかもしれない。
 ここでは、ネット上で前回に触れた「律音階」とともに「民謡音階」についても以上の叙述と同じ説明をしているサイトを挙げ、その説明を一部抜粋引用しておく。冒頭で記した小泉文夫の著も結局は同様なのだが(というより、小泉の説の影響を受けているように見られるが)、今回は小泉著には直接には触れない。
 →「文化デジタルライブラリー」
 民謡音階—「わらべ歌や物売りの声、日本民謡の中でよく使われている…」。「楽譜の通り、…『ド—♭ミ—ファ—ソ—♭シ—ド』で構成されます」。
 律音階—「『律』という言葉は、中国から入ってきました」。「楽譜の通り、…『ド—レ—ファ—ソ—ラ—ド』で構成されます」。
 →「メリー先生の音楽準備室」
 「民謡音階の構成音は、ド、ミ♭、ファ、ソ、シ♭の5音。わらべ歌や日本の民謡の多くで、この音階が使われています。」
 「律音階で使われている5つの音は、ド、レ、ファ、ソ、ラです。中国から伝来した音楽の基本的な音階で、雅楽にも用いられています。」
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 さらに追記すると、「ド・ミ♭・ファ・ソ・シ♭・ド」=「C-E♭-F-G-B♭-C」をド→その下のラ、C→その下のAへとそのまま「移調」すると、つぎのようになり、「♭」記号は消える。
 「ラ・ド・レ・ミ・ソ・ラ」=「A-C-D-E-G-A」
 「ラ」を主音とする、今日にいう7音(8音)の<短調音階>のうち、「ファ」と「シ」が欠けている。
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  こうして、二種の「5音」音階を作ることができた。
 次回に、「7音」音階に接近してみよう。

2648/「ドレミ…」はなぜ7音なのか③。

 伊東乾には笑われそうだが、「音階あそび」を続けよう。
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  1オクターブの間に、どのように諸音を設定するか。
 基音を1、その1オクターブ上を2とすると、1と2の間にどのような周波数比の音を選定するか。
 これを、1オクターブ12音とか<ドレミ…>の7音音階とかの知識なく行なえばどのようなことになるだろうか。
 もっとも、1オクターブ12音以外に、なぜ「音階」(または「調」)というものが必要になったのか、「調」の長調と短調への二分はどういう意味で自然で合理的なものなのかは、じつは根本的な所ではまだ納得し得ていないのだが。
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 前回に記したように、3/2、4/3の二つの数値が容易に得られて、1・4/3・3/2・2の3音(最後を含めて4音)音階が得られる。
 一定の弦の長さを1/2にして周波数(振動数)を2倍にすると1オクターブ高い音になる。これを古代の人々が知ったならば、つぎに行なったのは、その一定の弦の長さを1/3または2/3にすることだっただろう。すると、周波数比は3倍、3/2倍になる。そして、1と2の間に、3/2と4/3の数値が得られる。
 なお、弦の長さを3/2倍、2倍、3倍…と長くしていくのは実際には必ずしも容易ではないだろうが、一定の長さの弦の下に支点となる「こま」を置くことによって、周波数(振動数)を3倍、3/2倍等にすることがきる。そのような原理の「モノコード」という器具は、—日本列島にはなかったようだが—紀元前のギリシアではすでに用いられていたと言われる。
 この3/2と4/3の設定までは、結果としてピタゴラス音律や純正律と同じ。
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  ①1、②4/3、③3/2、④2。
 これらの間差は、①-②が4/3、①-③が3/2、①-④が②。
 そして興味深いことに、またはしごく当然に、②-④は3/2(2÷(4/3)=6/4=3/2)で、③-④は4/3(2÷(3/2)=4/3)だ。
 あと一つ、明らかになる数字がある。9/8だ。
 すなわち、(3/2)÷(4/3)=9/8。②-③が9/8だ(③-②は8/9)。
 この9/8を「素人」は利用しようと考える。
 上の4つの音の間の3つの間隔のうち広いのは、①-②と③-④の、いずれも4/3だ。
 この4/3を二つに分割しよう。その際に容易に思いつくのは、①の9/8倍、③の9/8倍の音を設定して、上の二つの間隔をいずれも二つに分割することだ。
 得られる数値は、1×9/8=9/8と、(3/2)×(9/8)=27/16。
 この二つを新たに挿入して、低い(周波数比の小さい)順に並べると、つぎのようになる。
 ①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16、⑥2。
 これで、5音音階(最後を含めて6音音階)を作ることができた。
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  ところで、面白いことにここで気づく。
 先入観が交じるのを避けるために「ABC…」とか「ドレミ…」という表現を避けてきているのだが、上の5音(6音)音階は、①1を「ド」として今日的に(〈十二平均律〉の場合の数値に近いものを選んで)表示し直すと、こうなる。
 ド・レ・ファ・ソ・ラ(・ド)。=C-D-F-G-A(-C)。
 これは、日本の伝統的音階の一つとされる<律>音階(・旋律)と同じだ。この「律」音階は「雅楽」の音階ともされ、日本固有というよりも、大陸中国の影響を受けた音階だとも言われている。
 余計ながら、現在の天皇の即位の礼をかつてテレビで見ていて、古式の「雅楽」の旋律や、たなびく(漢字が記された)幟によって、「和」風というよりも「漢」風を私は感じた。先日のG7サミットでも宮島で「雅楽」が演奏されていたが、「雅楽」というのは、平安時代の「みやび」とも室町時代の「わび・さび」とも少し違うような気が、私にはする。日本のとくに天皇家または「朝廷」に継承されてきた音楽ではないだろうか。
 さらに進むと、上の5音(6音)音階は、日本国歌・君が代の音階でもあるようだ。
 〈十二平均律〉の影響をすでに受けた叙述になるのだが、上の「ド·レ·ファ·ソ·ラ·ド」(C-D-F-G-A-C)は、「一全音」ずつ上げると(=ここでは各音に9/8を掛けると)、♯や♭を使うことなく、同じ周波数比関係を維持したまま「レ·ミ·ソ·ラ·ド·レ」と表現し直すことができる(D-E-G-A-C-D)。「レ」が「主音」になる。
 私が中学生時代の音楽の教科書には、この「レ·ミ·ソ…」は「日本音階」(または「和音階」)での<長調>だと記述されていた。「ミ·ファ·ラ·シ·レ·ミ」が<短調>だった。
 「君が代」の旋律の「レドレミソミレ…」は、まさに日本音階の<長調>であり、近年に知った言葉によると、「雅楽」の音階である「律」音階(旋律)そのものだと思われる(但し、上行ではなく下行の場合は「レ·シ·ラ·ソ…」と「ド」が「シ」に変わる「理屈」は私にはよく分からない)。
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  ともあれ、9/8を利用して、5音(6音)音階ができた。数の上では、あと二つで、「ドレミ…」と同じ7音(8音)音階になる。
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2632/<平均律>はなぜ1オクターブ12音なのか。

  音の高さは音波の1秒間の振動数(周波数、frequency)によって表現され、周波数が大きくなると高くなる。周波数の単位はヘルツだ(Hz、学者のHeinrich Hertz の名に由来する)。
 そして、一定の何らかの音(基音と称しておく)の周波数を2倍、4倍、8倍にすると基音の高さのそれぞれ1オクターブ上、2オクターブ上、3オクターブ上の高さの音になり、基音の周波数を2分の1、4分の1、8分の1にすると基音の高さのそれぞれ1オクターブ下、2オクターブ下、3オクターブ下の高さの音になることが知られている。
 88鍵のピアノを想定すると、鍵盤部分の中央やや右にあるA(C=ドとすると、ラ)の鍵盤の音の周波数は440.000Hzだとされる(世界的な取り決めがあるようだ。但し、ソロでピアノ、ヴァイオリン等を演奏する場合にこれを厳密に守る必要はなく、ある程度は「好み」によるだろう)。
 88鍵だと8個のAを弾くことができ、440HzのAは5番めの高さでA4とも記載される(A0が最初)。その1、2、3オクターブ上のA5、A6、A7の周波数はそれぞれ、880Hz、1760Hz、3520Hz、1、2、3オクターブ下のA3、A2、A1の周波数はそれぞれ、220Hz、110Hz、55Hzだ。
 楽器がピアノでなくとも一般に、一定の何らかのの音(基音)とその1オクターブ上の音または下の音の間の1オクターブの間に、基音の周波数と2または1/2の乗数関係のない周波数をもつ別の音を配置して、一連の異なる音から成る何らかの音階を設定することができる。
 現在に圧倒的に多く採用されているのは、一定の基準を使って12の音を設定し、周波数の小さい順に配置するものだ。
 理屈上はどの音からでもよいが、かりにAから始めるとA,A#(B♭),B,C,C#(D♭),D,D#(E♭),E,F,F#(G♭),G,G#(A♭)の12音だ。なお、A#とB♭、D#とE♭等は現在では異名同音だが歴史的には別の音(異名異音)とされたことがある。また、ドイツでは今でも上の場合でのB♭をB、BをHと称することがある。
 問題は、なぜ12音(両端の音を含めると13音)なのかだ。
 また、付随して、上の#や♭の付かない音と付く音(A#やE♭等)の表記方法にも表れているが、ピアノでの12音はなぜ、白鍵で弾く7音と黒鍵で弾く5音に区別されているのか、も疑問だ。この付随問題も鍵盤楽器を用いたピタゴラス音律の確立過程に原因があると推測しているが、以下ではこの問題には全く触れない。
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  現在の1オクターブ12音階は、ギリシア古代のピタゴラス(ピタゴラス音律)に由来すると説明されることが多い。そして、遅くともバッハ(Bach)の時代には確立されていたようだ。
 バッハに「平均律クラヴィーア曲集/第1巻・第2巻」があるが、12音全てを主音とする長調と短調の曲(12×2=24)が2セットある(計48曲)。
 長調と短調の区別がすでに18世紀前半に成立していたようであることも興味深いが、そもそも12の音の区別が前提とされていることが重要だ。
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  バッハの時代に1オクターブ12音階がすでに確立され、ピタゴラス音律が基盤となっていたとしても、それらでもって現在の12音階と12音の設定の方法ないし基準を説明し切ることはできない。
 なぜなら、現在の「音楽」を圧倒的に支配している12音設定方法は<十二平均律>と言われるものであるところ、バッハの時代に<十二平均律>が現在のように圧倒的に採用されていたかは疑わしいからだ。
 上の<平均律クラヴィーア曲集>にしても、ドイツ語ではWohltemperierte Klavier (英語ではWell-tempered 〜)で、正確には<十分に(適正に)調律された〜>を意味し(Klavier はピアノ等の鍵盤楽器のこと)、「平均律〜」とするのがかりに誤訳でないとしても、現在にいう「(十二)平均律」を採用していることを意味してはいないと考えられる。
 また、現在の<十二平均律>の圧倒的採用までに、<ピタゴラス音律>、これの欠点を除去しようとした<純正律>その他の音律・音階が使われていたことが知られている。モーツァルト(Mozart)は広い意味での<純正律>の一つでもって自らのピアノ曲を弾いていた、と言われてもいる。
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  「美しい」かどうか、「より美しい」のはどれかは主観的な判断基準で、その代わりに「調和している」という基準を用いるとすると、少なくとも一定範囲ではまたは一定の諸音の関係では、現在の<平均律>よりも<ピタゴラス音律>や<純正律>等の方が「調和性が高い」、と私は思っている。なお、この調和性も主観的基準だが、一定の音との周波数比の簡潔さはある程度は客観的に判断できそうだ。また、1または2オクターブだけちょうど異なる音を「同じ」と感じる「聴感覚」も、主観的だとは言える。
 詳論は避けて、①C、②E、③F、④G、⑤1オクターブ上のC(に近い音=C’)の周波数比が基音C=1との関係でどうなるかを、結論だけ以下に示す。下4桁まで。ピ音律=ピタゴラス音律。
 ピ音律—1,81/64=1.2656,4/3=1.3333,3/2=1.5,2.0273*
 純正律—1,5/4=1.25,4/3=1.3333,3/2=1.5,2
 平均律—1,1.2599,1.3348,1.4983,2
 (* この余剰分を「ピタゴラス・コンマ」と言い、これを除去してちょうど2になるよう各音の設定の一部を修正したものをピタゴラス音律と言うこともある。この余剰の数値にも議論はある。)
 ピタゴラス音律、純正律では、各12音の全てを分数表示することができる。
 平均律では、できない。隣り合う12の各音(および最後の音と次の1オクターブの最初の音)の周波数比を完全に「同一」にするのが平均律の最大の目的だからだ(その周波数比は2の12乗根で、約1.0595になる)。
 この点は重要だが別論として、C-F,C-Gの周波数比は上記のとおり、ピタゴラス音律と純正律ではそれぞれ4/3,3/2で、これら2音は「よく調和する」と言える。周波数比がより簡潔な数字で表現されていれば、調和性が高いと言うことができる。
 純正律ではさらに、C-Eが5/4で、この2音はよく調和する。この純正律では、C-E-Gの3音は4-5-6という簡潔な周波数比となる(このC-E-Gとは「ドミソの和音」だ)。
 現在に(ジャズでもJ-popでも坂本龍一でも)圧倒的に採用されている<十二平均律>での離れた2音の関係は、少なくともC-F,C-Gについては、調和性が他者に比べて低い(あり得る表現によれば「美しくない」、「濁っている」)。C-F は1.3348、C-G は1.4983という複雑な数値であり、かつこれらには「約」がつく(小数表示は尽きることがない)のだ。
 十二平均律の長所・利点、有用性を私が認めないわけではない。記していないが、純正律には(ピタゴラス音律よりも)大きな欠点があると思われる。
 ここで注目したいのは、その<十二平均律>であっても、ピタゴラス音律・純正律等のこれまでに開発され工夫された音律または音階設定と全く同じく、1オクターブは12音(+1で13音)で構成されることが維持されている、ということだ。
 <平均律>には利点、実用的有用性(とくに転調の可能性)があるのだが、それだけならば、12ではなく、<10平均律>でも、<15平均律>でもよいのではないか。実際に「53平均律」で作られた曲や、現在に通常の半音関係をさらに半分にしたいわば四半音階を使った曲があると何かで読んだことがある(聴いたことはない)。
 <12平均律>が現在の音楽をほぼ支配しているのは、ピタゴラス音律以降の(西洋)音楽の歴史・伝統を継承しているからだ、とは容易に言える(それが明治期に日本に輸入され、日本の音楽界も支配した)。だが、加えて、ピタゴラスもまた重視したのかもしれない「12」という数字に魔力・魅力があったからだろう、と私は素人ながら想定している。
 本当にピタゴラスだったとすれば、そのピタゴラスはなぜ、1とほぼ2の範囲内に収まる数値を見つけるために、1に3/2をつぎつぎと乗じていく回数を「12」回で終え、2.0273…で満足したのだろうか。
 ①3/2→②9/4÷2→③27/8÷2→…→⑫=3の12乗/2の18乗=約2.0273
 「12」という数字に特別の意味を感じ取ったことも、重要な理由の一つだったのではないか。
 音楽は、いろいろな意味で、なおも面白い。
 …
  池田信夫ブログマガジン2023年4月3日号に、池田麻美という人が「私の音楽ライブラリー」欄で、「戦場のメリー・クリスマス」を取り上げて、意味不明のことを書いている。
 「坂本龍一氏が死去しました。最近では、…人も多いかもしれませんが、最盛期はこの映画音楽のころでしょう。その後は音楽が頭でっかちになってつまらない。」
 最後の一文は私には意味不明だ。この人が毎週取り上げているような音楽こそが、特定の音楽分野を嗜好する「頭でっかち」さを感じさせる。この人は、音楽全般を、「平均律」や「純正律」等々を、優れた日本の「演歌」類を知っているのだろうか。坂本龍一もまた用いただろう楽譜はなぜ「五線譜」で、「六線譜」等ではないのか、と疑問に思ったことはあるのだろうか。
 ——

2389/音・音楽・音響⑦。

  この項の前回に、<ピタゴラス音律>の場合の、1オクターブ間の各音階の周波数の比を以下のように記した。C〜(1オクターブ上の)Cの各音階の周波数比だ。
 これが、①一本の長さの弦あるいは竹筒のようなものを2倍、…、1/2倍、…にすると音の高さ(周波数)が1/2倍、…、2倍、…となって、同じ(と感じる)音が重なり合うという「発見」と、②上の長さを1.5倍=3/2倍、または2/3倍=0.66666…倍(その2倍は1.333333…=4/3倍)にすることを試して生じた音を加えた高さ(周波数)を重要な基礎にしているらしい、ということも書いた。
 先走れば、基音を一度として、②の前者は今日では<完全五度>、後者は<完全四度>と一般に称されている。Cに対するGとFだ(ドレミを使うと、ドに対するソとファ)。
 その下に、<純正律>とされる場合の、音階ごとの同様の比を示す。
 ・ピタゴラス音律
 1、9/8、81/64、4/3、3/2、27/16、243/128、2。
 ・純正律
 1、9/8、5/4、4/3、3/2、5/3、15/8、2。
 一見して分かるように、①ピタゴラス音律に比べて、出てくる整数の数が小さい。最大でも15で、前者には243、128、81、64、27、16が出てくる。
 数字の単純さ、その意味での「美しさ」は純正律の方が上回る。
 ②ピタゴラス音律と純正律とで、同じ比になっている音階がある。
 基音の2倍の2は当然として、3/2、4/3、9/8の3者だ。基音をCとすると、G、F、Dの三つだ。ドに対していうと、ソ、ファ、レの三つとなる。
 今日、現代における<完全五度>と<完全四度>の基音対比周波数は、上の二つの音律においては、同じで変わらない。
 --------
  同じく前回に、こう記した。
 「なぜ、1オクターブを12で(再来する元の音階を含めると13だが、間の音階は12)で区切るのか。そう問われて、誰も『正しく』は回答できないのではないか。
 それに、ピアノに特有のことだが、なぜ全て白鍵ではなく5つだけ黒鍵なのか、なぜEF間、BC間だけ半音なのか、という素朴な疑問も湧く」。
 こう書いてしまったが、素人頭であれこれと思い浮かべていると、つぎの「仮説」が生まれた。
 ほんの少しは「音楽理論」に関する書物を捲ったり、文章を読んでみたが、上のような簡単または幼稚な好奇心・知識欲に応えてくれているものを発見できない。
 ①基音とその2倍音を含めて、8音で1オクターブを構成するのは、古来からのほとんど絶対的な要請だった。
 「オクターブ」(octave)という言葉自体、「十月(October)」もそうであるように(8を基礎に、ある理由で2を足した)、「8」を語源としている。 8本足の「タコ」は、英語でOctopus という。
 ②なぜか。「8」を「美しい」と感じたか否かは不明だが、上のように、基音に対する<五度上>・<四度上>は重要な音階(音程)だった。
 合わせてすでに4つになるが、間隔が空きすぎていると感じた?(基音をCとすると)CとFの間、Gと上のCの間に、高さの比が同程度になるように(かつ分かりやすいように)2音ずつを加えた。
 そうすると、現在と同じ<1オクターブ8音構造>(但し、いわゆる白鍵部分のみ)ができ上がる。
 --------
  というような空想はできるのだが、しかし、<1オクターブ8音構造>は今日まで維持されつづけているとしても、<完全五度>と<完全四度>をも含めて、現代で一般的な<十二平均律>では、基音に対する周波数比は維持されていない。
 換言すると、例えばCに対してGは3/2ではなく、Fは4/3ではない。
 <十二平均律>の特徴は、各音階間の周波数比が同一であることだ。
 正確にいえば、旧来の上の二つですでに、(Cを基音とすると)EとFの間とBと上のCの間は、他の音階間とは違って(現在にいう)「半音」になっているので、それら以外のCD間、DE間、FG間、GA間、AB間を二つに分ける上の「半音」に似た「半音」を作ることが前提になっている。
 そうすると、全体は+5で13音になり(上のCを省くと12)、この13音の間の各音の高さ(周波数)の比が、全て同一であるのが、<十二平均律>の特徴だ。そして、旧来の二つでは原則として不可能な、転調や移調が簡単に可能になる。
 --------
  その<十二平均律>での周波数比はどうなっているのか。
 1オクターブ上(例えば上のC)の数字が2であることは絶対の不動であるので、全く同じ数字の比を12回反復すれば1→2となる、その数字を「計算」すればよいことになる。これは、「数学」の問題だ。
 答えは、<2の12乗根>、2の右肩に乗数として1/12を記述した数となる。
 それは、分かりやすい分数にならず、小数点以下6桁までで、1.059463…になる。正確には、これ以下の数字もずっとつづく。
 1を起点として大まかに言えば、1.06ずつ乗していけば、C#、D、D#と少しずつ高くなって、12回めには2になる、ということだ。
 注目してよいのは、旧来の二つの音律ではいずれでも(Cを基音として)、F=1.333…=4/3、G=1.5=3/2だったが、<平均律>ではこうはならない、ということだ。
 すなわち、下5桁までに限定して、<完全四度>=1.33484。4/3に近いが、やや高い、
 <完全五度>=1.49831。3/2に近いが、やや低い。
 だが、このように厳密には旧来の高さ(周波数)は維持されていないが、現在にいう<完全五度>、<完全四度>にほぼあたるものを、音発生道具の長さに着目して、例えば60cm のものだと90cm(3/2)に変えたり、80cm(4/3)に変えたりして試行錯誤しながら、古代の人々が、これら二つにほぼ該当するものをすでに「発見」していた、ということなのだろう。
 そこから、<1オクターブ8音構造>や今日でいう半音を含めての1オクターブ内12音(両端の1つを含めて13)という音階構成も生まれてきた。
 ということは、現在に標準的な<平均律>もまた、音とその響きに関する人間の感覚についての古代からの蓄積を基礎にしている、ということだろう。
 <ピタゴラス音律>が本当にピタゴラスによるものかは知らないが(西欧ではおそらくそのように言われ、書かれてきた)、言うまでもなく紀元前の哲学者とされる人で、その影響は数千年後まで残っていることになる。
 以上、社会、とくに日本社会の変動とは何ら関係のない、趣味的な「好奇心」・個人的な関心が主題の記述だ。なおも続ける。
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 Amazon music HD 等に遅れをとっていたApple Music は、「ロスレス」(Lossless)という、大部分は「ハイレゾ」(Hi-Rez)音質の音楽を6月から配信し始めた。上の「」は行政的または法的概念・術語ではなく、事業者やその団体(全てが加入しているのでもない)が作っている用語。
 「音響」も表題の一つにしているように、音質・音の「解像度」にも秋月瑛二は個人的な関心をもっている。ヒト・人間の聴感覚には大きな違いはないらしいようであることは、すこぶる面白い。

2354/音・音楽・音響⑤—ロシアの歌「つる(Zhuravli)」。

  No.2317/2021.03.20にピアノ(88鍵)の鍵盤ごとの音の高さをHz単位で記しているが、有力または定説とみられる情報に従っている。
 絶対音階でのAはA0が27.5であるのを除いて(A1〜A7は)全て整数だが、これはAだからで、他の音はこんなに単純ではない。最高音のCは約4186Hz=4.186kHzだが、正確には端数がつく。
 A4=440Hzで、これが「音叉」の音の高さだと思われる。
 もっとも、ピアノ調律師はこれよりも少し高めに設定することがある、と何かで読んだことがある。また、交響楽団等々によって一定していない、ともいう。
 音には高さだけではなく、強さ(大きさ)や「音色」もあるから高さだけが重要であるのではないが、A4が周波数440Hzと決められているならば、周波数計を使って厳密に設定すればよいのではないか、と素人は考える。音は高さだけではないが、そうすると調律師という職業は要らなくなるだろうか。
 そうはいかないのが、ヒト・人間の感覚・感性に関係する音楽のむつかしい、または微妙なところだろう。
 ところでピアノ(またはバイオリン等)の一台(一本)だけならばどのようにでも?設定すればよいが、多数の楽器で演奏する場合、事前の音程の調整は決定的に重要だろう。リハーサル(Rehearsal)とは、きっと、まずはこのためにあるのだろう。
 余計な追記。ピアノではA0〜A7以上の音域があり、その他の楽器も高い音・低い音さまざまのものがあるのに、なぜ楽譜には、ト音記号のものとへ音記号のものしかないのか。合唱曲用のソプラノとテノールでは(アルトとバスも)同じ高さを示す楽譜を使っているのは奇妙で、女声と男声では、一オクターブ程度の差が本当はあるのではないか。あるいは、オーケストラの全ての楽器について、同じ高さまたは同じ基本音階を示す楽譜が用いられているのか?
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  <Yoasobi(よあそび)>、<Ado(アド)>のいくつかの歌・曲をYouTube で(見つつ)聴いた。曲名やら歌手名やら分からないのが、いつの頃からか多くなった。
 とりあえずこの二人(二組)について、嫌いだ、受けつけられない、ということは全くない。私にはテンポがやや早すぎ、リズム打ちもやや落ち着かないけれども。
 だが、とくに感じるのは、<Ado(アド)>という若い女性の声質と歌唱力だ。テレビによく出ているらしい下手な女の子グループよよりも、数段、いやはるかに声質がよくて、上手いだろう。
 (ところで、この人たちの歌と詩を聴いていると、全く余計ながら、西尾幹二は150年前に生きているのがふさわしい人物だ、と思えてくるのだが。)
 You Tube で(見つつ)聴いたといえば、Nataliya Gudziy がカバーしている<防人の詩>(原曲・さだまさし)はすこぶる印象的だった。
 私の世代だと、いや私に限れば、やはり小椋佳の、広くは知られていないいくつかの曲になお惹かれるところもある。比較的最近に知ったまたは意識した小椋佳の(よい)歌・曲に、つぎの二つがある。
 ①冬木立(初出1978年、小椋佳/作詞・作曲)。
 ②忍ぶ草(初出1978年、同上)。 
 確認してみると、何とYouTube上に二つともあった(すごい)。
 ---------
  バイオリンのIzhark Perlman のCDでユダヤ民謡を知ったあと、それに関してあれこれとYouTube を検索していたときだと思うが(それ以外に考えられない)、ロシア民謡とされるつぎの歌・曲を知った。
 Dmitri Hvorostovsky という人が歌っていた。まず感じたのは、歌・曲自体ではなく、この人の歌唱力のすごさだった。バリトンで、このクラスの音量と力強さ、口腔内・体内での響きをもって歌っている人は、日本のテレビでは見聞きしたことがない。バリトンのプロ歌手にはいるのかもしれないが。
 次いで、歌・曲自体に惹き込まれた。私好みの(よく聞けば単純素朴な旋律の)いい曲だ。
 先走って書けば、観たYou Tube上のタイトルは、つぎだ。
 Marvellous: Listen to the most popular Russian song for the last 45 years -Cranes.
 ロシア民謡とされ、上の末尾がタイトルで、(The)Cranes〔鶴、つる〕という。ロシア原語では、<Zhuravli>。
 ロシア語は分からないが、字幕で出てくる英語によると、これは主には戦死者を偲ぶ歌だ。
 やはり(?)、短調ミ始まりだ。
 いろいろと情報を探ってみた。種々考えさせられ、感じるところもある。第二次大戦の勝者・ロシア(ソ連)の<民謡>となっている曲であり、ロシア人の「愛国」の歌だろうからだ。
 しかし、戦死者だけではなく、あるいは戦争と関係なく、母国・祖国に生まれて死んでいった、全ての人々を思い出している(そして自分もいつか死ぬよ、と彼らに告げている)歌だと理解することは不可能ではない。
 二通り以上の英語字幕を見たことがあり、別情報では英語の「定訳」もあるというが、上記のYouTube 欄上に出ている英語字幕から、歌らしくなるように?訳してみよう。試訳であり、私訳。
  +++
 「血なまぐさい平原から帰って来なかった、
  兵士たちは、故郷の土に横たわっていない。
  白いつるに変わったのだと、私はときに思う。
  あの遠い時空からやって来て、つるたちは飛び、私は声を聞く。
  あまりにもたびたびで、とても悲しそうだからか、
  私はふと立ち止まって、静かに天空を見上げる。
  ***
  疲れたつるたちが、群れをなして飛ぶ。
  霧の中を、空の端へと飛んでいく。  
  その列の中に、小さな隙き間がある。
  たぶん、あの隙き間は、私のために空いている。
  その日がいつか来るだろう。あのような群れに入って、
  私は、同じ青灰色の霞の中を飛び、
  鳥のように、天空から語りかけるだろう。
  地上に残る全ての人々に対して。
  ***
  血なまぐさい平原から帰って来なかった、
  兵士たちは、故郷の土に横たわっていない。
  白いつるに変わったのだと、私はときに思う。」
 --------
  さて、この曲には特定の作曲者・作詞者がいるらしい。
 D. Hvorostovsky だけが歌っているのでもない。ロシア民謡と言っても、さほど古いものではなく、1968年頃に作られたようだ。
 これらの詳細は省略するが、一点だけ、書き記しておく必要がある。
 この「つる」というのは、広島の平和祈念公園にある「原爆の子の像」の<折り鶴>と関係がある、という情報がある。たしか英語の情報だ。
 再確認しないで書くと、たぶん広島を訪れた作者(作詞者・作曲者)が、<折り鶴>を織りながら死んでいった少女(2歳で被曝、12歳で発症、13歳で死亡)の話を聞くか、またはそれをもとにすでに築造されていた「像」の下の折鶴を見てからその物語を知って、inspire されて(つまりinspiration を得て)<つる>を用いる歌・曲を作った、というのだ。
 まんざら虚報とは思えないが、そんな話は日本では聞いたことがないし、そもそも上の「つる」というロシアの歌自体が、ほとんど全く知られていないだろう。
 ——
 D. Hvorostovsky 。この人自身、50歳代でもう亡くなっている。1962〜2017。


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