秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

近衛上奏文

1448/天皇譲位問題-「観念保守」をめぐって、つづき②のA。

 仲正昌樹・松本清張の現実と虚構(ビジネス社・2006)の第9章は「天皇制の謎をめぐって-〔略〕」で、その中のp.226-7に、次の文章がある。/改行は原文にはない。
 「『国家と個人』の関係が危機に瀕するとき、その危機を克服すべく全体主義が登場する素地が醸成される。/
 マルクス主義的な傾向の左の全体主義は、国民国家の作られた "伝統" を破壊して、プロレタリアート独裁の革命政権を作ろうとする。/
 右の全体主義は、"伝統” を純化することによって強化しようとする。」
 現在の日本の「観念保守」派は、「 ”伝統" を純化すること」を意図していないだろうか。
 あるいは、<純化した伝統>なる「観念」を、ことさらに主張してはいないだろうか。
 つぎに、1945年2月のいわゆる<近衛上奏文>には、以下の表現がある。近衛文麿の認識を全面的に肯定するのではないが、存在しうるものだとは思える。
 「軍部内一部の者」を「取巻く一部官僚及び民間有志」、「之を右翼と云うも可、左翼と云うも可なり、所謂右翼は国体の衣を着けたる共産主義者なり」。
 「国体の衣をつけたる共産主義者」も存在しうる、ということを、現在の日本の「観念保守」論者たちは、意識しているだろうか。
 さらには、引用を省略してしまうが、1937年に刊行された文部省編纂<国体(國体)の本義>に書かれていることは、相当に櫻井よしこ等が最近に述べていることとよく似ており、部分的には酷似するところがある。両者の間に関係はないのだろうか。ここでの<国体>観を全体として否定するつもりはないものの、「観念」論、歴史の「事実」に反した日本史理解が多分にあると見られる。
 櫻井よしこも渡部昇一も、この書物の名前と内容に直接には言及していない。知らないのだろうか。知ったうえでのこととすれば、あるいは参考にしている、影響を受けているとすれば、その論述方法は、もしかすると、いささか卑怯ではないのだろうか。
 正確に確認はしないが(その関心、傾注の努力が惜しいと思っている)、4人のうち八木秀次以外(つまり、渡部昇一、平川祐弘、櫻井よしこ)は、日本の「国体」について言及し、「国体」の維持の主張を、その<天皇>観とともに披瀝していたと思われる。
 はたして、彼らのいう「国体」とは何か。日本に固有・独特の歴史・伝統があるだろうことを、むろん否定しているのではない。

1345/資料・史料-近衛上奏文/1945.02.14(2)。

 近衛上奏文 昭和20年2月14日 (2)
--------------
 〔09〕
 かくの如き形勢より推して考うるに、「ソ」連は、やがて日本の内政に干渉し来る危険十分ありと存ぜられ侯。(即ち共産党の公認、「ドゴール」政府、「バドリオ」政府に要求せし如く、共産主義者の入閣、治安維持法及び、防共協定の廃止等)
 〔10〕
 翻って国内を見るに、共産革命達成のあらゆる条件、日々具備せられ行く観有之侯。
 即ち生活の窮乏、労働者の発言の増大、英米に対する敵慨心昂揚の反面たる親「ソ」気分、軍部内一味の革新運動、之に便乗する所謂新官僚の運動及びこれを背後より操りつつある左翼分子の暗躍等に御座侯。
 右の内特に憂慮すべきは、軍部内一味の革新運動に御座候。
 〔11〕
 少壮軍人の多数は、我国体と共産主義は両立するものなりと信じ居るものの如く、軍部内革新論の基調も亦ここにありと存侯。
 皇族方の中にも、 此の主張に耳を傾けられるる方あり、と仄聞致し侯。
 職業軍人の大部分は、中流以下の家庭出身者にして、其の多くは共産主義主張を受け入れ易き境遇にあり、又彼等は軍隊教育に於て、国体観念だけは徹底的に叩き込まれ居るを以て、共産分子は国体と共産主義の両立論を以て、 彼等を引きずらんとしつつあるものに御座侯。
 抑々満洲事変、支那事変を起し、これを拡大して遂に大東亜戦争にまで導き来れるは、是ら軍部内の意識的計画なりしこと、今や明瞭なりと存侯。
 満洲事変当時、彼等が事変の目的は国内革新にありと公言せるは、有名なる事実に御座侯。
 支那事変当時も、「事変永引くがよろしく、事変解決せば国内革新はできなくなる」と公言せしは、此の一味の中心的人物に御座侯。
 〔12〕
 是ら軍部内一部の者の革新論の狙いは、必ずしも、共産革命に非ずとするも、これを取巻く一部官僚及び民間有志(之を右翼と云うも可、左翼と云うも可なり、所謂右翼は国体の衣を着けたる共産主義者なり)は、 意識的に共産革命にまで引ずらんとする意図を包蔵し居り、無智単純なる軍人、之に躍らされたりと見て大過なしと存侯。
 此の事は過去十年間、軍部、官僚、右翼、左翼の多方面に亘り交友を有せし不肖が、最近静かに反省して到違したる結論にして、此の結論の鏡にかけて、過去十年間の動きを照らし見る時、そこに思い当る節々頗る多きを、感ずる次第に御座侯。
 不肖は、此の間三度まで組閣の大命を拝したるが、国内の相剋摩擦を避けんがため、出来得るだけ是ら革新論者の主張を容れて挙国一体の実を挙げんと焦慮せる結果、彼等の主張の背後に潜める意図を十分看取する能わざりしは、全く不明の致す所にして、何とも申訳無之、深く責任を感ずる次第に御座侯。
 〔13〕
 昨今戦局の危急を告ぐると共に、一億玉砕を叫ぶ声、次第に勢を加えつつありと存侯。
 かかる主張をなす者は所謂右翼者流なるも、背後より之を煽動しつつあるは、之によりて国内を混乱に陥れ、遂に革命の目釣を達せんとする共産主義分子なりと睨み居り候。
 一方に於て徹底的米英撃滅を唱う反面、親「ソ」的空気は次第に濃厚になりつつある様に御座侯。
 軍部の一部はいかなる犠牲を払いても「ソ」連と手を握るべしとさえ論ずる者もあり、又延安との提携を考え居る者もありとのごとに御座侯。
 以上の如く、国の内外を通じ、共産革命に進むべき凡ゆる好条件が日一日と成長しつつあり、今後戦局益々不利ともならばこの形勢は急速に進展致すべくと存侯。
 〔14〕
 戦局の前途につき、何か一縷でも打開の望みありと云うならば、格別なれど、敗戦必至の前提の下に論ずれば、勝利の見込なき戦争を之れ以上継続するは、全く共産党の手に乗るものと存侯。
 随って国体護持の立場よりすれば、一日も速に戦争終結の方途を講ずべきものなりと確信致し侯。
 〔15〕
 戦争終結に対する最大の障害は、満洲事変以来今日の事態にまで時局を推進し来りし軍部内のかの一味の存在なりと存候。
 彼等は已に戦争遂行の自信を失い居るも、今迄の面目上、飽くまで抵抗致すべき者と存ぜられ侯。
 もしこの一味を一掃せずして、早急に戦争終結の手を打つ時は、右翼左翼の民間有志、此の一味と対応して国内に一大波乱を惹起し、所期の目的を達成し難き恐れ有り侯。
 従って、戦争を終結せんとすれば、先ず其の前提として、此の一味の一掃が肝要に御座侯。
 此の一味さえ一掃せらるれば、便乗の官僚並びに右翼左翼の民間分子も影を潜むべく候。
 蓋し彼等は未だ大なる勢力を結成し居らず、軍部を利用して野望を達せんとするものに他ならざるが故に、其の本を絶てば、枝葉は自ら枯るるものとなりと存侯。
 〔16〕
 尚、これは少々希望的観測かは知れず侯えども、もし是ら一味が一掃せらるる時は、軍部の相貌は一変し、米英及び重慶の空気は緩和するに非ざるか。
 元来米英及び重慶の目標は、日本軍閥の打倒にありと申し居るも、軍部の性格が変り、その政策が改らぱ、彼等としても戦争の継続につき考慮する様になりはせずやと思われ侯。
 〔17〕
 それは兎も角として、此の一味を一掃し、軍部の建て直しを実行することは、共産革命より日本を救う前提、先決条件と存すれば、非常の御勇断をこそ願わしく奉り存侯。
 以上。
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 以上

1344/資料・史料-近衛上奏文/1945.02.14(1)。

 いわゆる<近衛上奏文>は秦郁彦も重きを置いておらず、「陰謀史観」を示す一つとして取り扱われている。
 しかし、数十年後には、異なる評価がなされることもありうるのではないか。
 もちろん、近衛文麿自身に変化がありえただろうことを意識しなければならないと思われる。
 以下、読みやすくするために、一文ごとに改行した。
 また、本来の改行場所との間の一段落を、山口富永・近衛上奏文と皇道派-告発・コミンテルンの戦争責任-(2010、国民新聞社)所収の資料を参考にして、〔01〕、〔02〕のような頭書を付した。
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 近衛上奏文 昭和20年2月14日 (1)
 〔01〕
 敗戦は遺憾ながら最早必至なりと存侯。
 以下此の前提の下に申述べ侯、
 敗戦は我国体の瑕瑾たるべきも、英米の輿論は今日までのところ、国体の変更とまでは進み居らず、(勿論一部には過激論あり、又将来いかに変化するやは測知し難し)随て、敗戦だけならば、国体上はさまで憂うる要なしと存ず。
 国体護持の建前より最も憂うべきは、敗戦よりも、敗戦に伴うて起ることあるべき共産革命に御座侯。
 〔02〕
 つらつら思うに、我国内外の情勢は、今や共産革命に向って急速に進行しつつありと存侯。
 即ち国外に於ては、「ソ」連の異常なる進出に御座侯。
 我国民は「ソ」連の意図は的確に把握し居らず、 かの一九三五年人民戦線戦術、即ち二段革命戦術採用以来、殊に最近「コミンテルン」解散以来、赤化の危険を軽視する傾向顕著なるが、これは皮相且つ安易なる見方と存侯。
 「ソ」連は究極に於て世界赤化政策を捨てざるは、最近欧州諸国に対する露骨なる策動により明瞭となりつつある次第に御座侯。
 〔03〕
 ソ連は欧州に於て其の局辺諸国には「ソヴィエート」的政権を、爾余の諸国には少くとも親「ソ」容共政権を樹立せんとし、着々其の工作を進め、現に大部分成功を見つつある現状に有之侯。
 〔04〕
 「ユーゴー」の「チトー」政権は、その最も典型的な具体表現に御座侯。
 波蘭〔ポーランド〕に対しては、 予め「ソ」連内に準備せる波蘭愛国者連盟を中心に新政権を樹立し、在英亡命政権を問題とせず押切申し侯が、羅馬尼〔ルーマニア〕、勃牙利〔ブルガリア〕、芬蘭〔フィンランド〕に対する休戦条件を見るに、内政不干渉の原則に立ちつつ「ヒットラー」支持団体の解散を要求し、実際上「ソヴィエート」政権に非ざれば、存在し得ざる如く強要致し侯。
 〔05〕
  「イラン」に対しては、石油利権の要求に応ぜざるの故を以て、内閣総辞職を強要致し侯。
 端西〔スウェーデン〕が「ソ」連との国交開始を提議せるに対し、ソ連は端西政権を以て、親枢軸的なりとて一蹴し、之がため外相の辞職を余儀なくせしめ侯。
 〔06〕
 占頷下の仏蘭西〔フランス〕、白耳義〔ベルギー〕、和蘭〔オランダ〕に於ては、対独戦に利用せる武装蜂起団と政府との間に深刻なる斗争が続けられ、且つ是ら諸国は、何れも政治的危機に見舞われつつあり。
 而して是ら武装団を指導しつつあるものは、主として共産系に御座侯。
 独逸〔ドイツ〕に対しては波蘭に於けると同じく已に準備せる自由ドイツ委員会を中心に、新政権を樹立せんとする意図なるべく、これは英米に取り今日頭痛の種なりと存ぜられ侯。
 〔07〕
 「ソ」連はかくの如く、欧州諸国に対し、表面は内政不干渉の足場を取るも、事実に於ては、極度の内政干渉をなし、国内政治を親「ソ」的方向に引きずらんと致し居り候。
 〔08〕
 「ソ」連の此の意図は東亜に対しても亦同様にして、現に延安には「モスコー」より来れる岡野〔野坂参三〕を中心に、日本解放連盟組織せられ、朝鮮独立同盟、朝鮮義勇軍、台湾先鋒隊等と連絡、日本に呼びかけ居り候。
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 <つづく>
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