朝日新聞の7/18社説「政府の役割―年金解決に市場の知恵を」を読んで、奇異な思いに駆られた。
第一に、今頃何を寝ぼけたことを言っているのか、ということだ。
「社会の中で政府が果たす役割を、根本的に考え直す必要があるのではないか」。
→今更言われなくとも19世紀以降、いろいろな人(傑出した者は「思想家」とも言われる)が、日本人も含めて発言し、議論してきたことだ。今頃になって発見した<大論点>だというつもりだろうか。こんな文章を大新聞の社説で読むとは想像もしていなかった。
「今回あらためて明らかになったことは、市場の失敗を正すはずの政府もまた大失敗をする、ということだ。」
→これまた今更指摘されなくとも常識的なことではないか。「市場の失敗を正す」ことのできない政府が、(社会主義国のように)自ら経済運営を<計画>的に行おうとすれば大失敗することもまた常識的なことではないか。大新聞の社説が今頃何を言っているのだろう。
上の文章の前の、「19世紀から20世紀にかけてできた社会保障制度の発想は「市場の失敗を政府が是正する」というものだ。資本主義経済は暴力的で、競争に負けた人々の生活を破壊する。政府は市場経済の外側にあって市場経済という巨象が暴れないよう外からオリをつくる、という発想だ」は、少しは議論する余地があり、逆に、こんなに簡単にまとめてもらっては困る、と思われる。
というのは、「資本主義経済は暴力的で、競争に負けた人々の生活を破壊する」と理解の仕方はまさしく(資本主義社会を憎悪した)マルクス主義のそれであり、また(今世紀の意味での)社会民主主義やひょっとして一部はケインズ主義もこう理解する傾向があるが、「資本主義経済」を無条件・無前提に「暴力的で、競争に負けた人々の生活を破壊する」と表現するのは、「暴力的」・「競争に負けた」・「生活を破壊」の各意味の問題にもなるが、誤りだと思われる。大新聞の社説が、こんな一般化した叙述をしてよいのか。
「「政府は市場よりもすぐれた能力や善い意図を持っている、あるいは持つべきだ」という20世紀の発想から抜け出さなければならないのではないか。」
→これまた、朝日新聞様に指摘されなくとも常識的なことではないか。ひょっとして朝日新聞様は今までは、典型的には社会主義理論・マルクス主義のように、「政府は市場よりもすぐれた能力や善い意図を持っている、あるいは持つべきだ」と理解してきたのだろうか。だとすれば、あまりに幼稚で、かつあまりにも怖ろしい。
そのあとに示されている、「大企業中心の経済」から自由な個人や中小企業がグローバルに活躍できる」「市場経済」へという時代認識が適切かどうかは、私には的確に判断できない。但し、少なくともこうは簡単に言えないのではなかろうか。
それに、この朝日新聞社説子は「大企業」という言葉で厳密には何を意味させているつもりだろうか。日本共産党がしょっちゅう使って批判しているいる「大企業に奉仕する…」とか「大企業中心の…」とかの意味が不鮮明なのと同様の曖昧さを感じる。
第二に、自らのこの主張を、朝日新聞も含まれる(同社が市場に参加している)新聞業界にもきちんと適用せよ、ということだ。
例えば、第一に、<記者クラブ制度>は情報収集への新規参入を拒んで、一部マスメディアの寡占体制化・特権化に寄与しているのではないか。
朝日社説は「官僚や「有識者」に丸投げせず、オープンな市場の知恵をもっと信頼する。それが21世紀に市場と国家の役割を仕切り直すうえで必要ではないか。市場とは結局、私たち自身のことなのだから」と結ぶ。
「オープンな市場の知恵をもっと信頼する」ということと、<記者クラブ制度>は矛盾しないのか。
第二に、「オープンな市場の知恵をもっと信頼する」価格設定が新聞紙についてはできているのか。朝日に限らないが、いくつかの大新聞の定期購読価格が同じというのは、<自由な市場>を信頼すれば、異常な事態ではないのか。この社説の書き手は自らが属する新聞業界も視野に入れているのだろうか。
第三に、定価販売のみを許す、いわゆる<再販制度(再販売価格維持制度)>は、「オープンな市場の知恵をもっと信頼する」という主張と矛盾していないのか。
新聞に特殊性が全くないとは言わないが、この社説の書き手は自らが属する新聞業界も視野に入れて主張しているのだろうか。
自らの属する業界のことはケロッと忘れて何やら主張しているのだとすれば、<エラそうなことを言うな!>と言ってやりたい。
補足しておけば、この社説は経済学部出身の記者が書いたものではなく、若宮啓文もそのようだが、法学部出身者が書いたのではなかろうか。そうでないと、こんな幼稚で、かつ一部は簡潔すぎる社説はできない、と思う。
また、法学部出身者であっても、上級官僚や良質企業の幹部候補生社員はとくにそうだと思うが、入省・入社してから経済学もかなり勉強するはずで、「社会の中で政府が果たす役割を、根本的に考え直す必要があるのではないか。」などという幼稚な文章は、20歳代でも恥ずかしくて書けないのではないか。
私はこの7/18社説「政府の役割―年金解決に市場の知恵を」を書いた朝日新聞記者を嘲笑する。
資本主義経済
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