〇松本健一・三島由紀夫と司馬遼太郎―美しい日本をめぐる激突(2010.10、新潮社)を全読了。計237頁。

 司馬遼太郎につき、その(「思想」と言わないでおくが)考え方・歴史観等にいっそうの関心を覚える。「思想」嫌いで、従って反マルクス主義者・反「左翼」教条主義者でもあったはずだが、司馬遼太郎が<天皇>をこれほどに(松本が指摘するように)避けていたとは気づかなかった。それも、1970年の三島由紀夫の死(正確にはたぶん死に方)によって、その後の司馬の作風(?)に大きな影響が生じたとは、例えば<軍神>乃木希典に対する消極的評価もこれに関係しているとは、松本を信頼するかぎりで、はなはだ興味深い。
 〇三島由紀夫の自決直後に、司馬遼太郎の「街道をゆく」の連載が始まっている。朝日新聞本紙に連載することなどはその<主義>からして朝日側も嫌がり、まだ融通のきく媒体だからこそ<週刊朝日>が選ばれた、と何となく感じてきたが、三島由紀夫(の死が発した「思想」)と対抗するためにも、司馬はあえて<左翼>の週刊朝日を選んだのかもしれない、とも思ったりする。この点には、松本健一は言及していない。

 〇その週刊朝日だが、最近は(ますます?)精彩を欠くようだ。

 最近二号の表紙を見てみると、12/03号では最も大きな文字で「紳士服AOKIの怪経営」。12/10号の最大文字は「酒井法子独占インタビュー」。

 朝日の好きな筈の<政治>ものが表紙の最大の見出しになっていない。

 もっとも、<政治>ものを取り上げていないわけではないようで、12/03号にはかなり小さい文字で「裏切りの15カ月/民主党はどこで間違えたのか」とあり、12/10号にはこれまた小さく「…対北朝鮮日本の『迎撃力』」・「…仙石官房長官が狙う『前原擁立』構想」とある。

 昨年2009年に民主党が総選挙で勝利した直後には、この週刊誌は表紙に<民主党革命!>と大書した。

 同じ週刊誌が「裏切りの15カ月/民主党はどこで間違えたのか」を同じように表紙に大書しないのは、その<政治性>=<左翼性>によると考える以外にない。
 一般週刊誌のごとく見られるために現在の民主党に批判的な記事も掲載せざるをえないのだろうが、さすがに民主党支持政治団体である朝日新聞社系出版物としては、「裏切りの15カ月/民主党はどこで間違えたのか」と大書するのを躊躇したのだろう。

 そもそもが、このタイトルは、間違ってもいる。「民主党はどこで間違えたのか」などと問うのは無駄で、<民主党は最初から間違えていた>のだ。鳩山由紀夫が選挙前に月刊ヴォイスに寄せた論文(?)の内容を読んでも、そのことは明らかだった。

 もっとも、編集長・山口一臣は民主党・政府による<非核三原則の見直し(緩和)>の方向に苦言を呈しているのだから、この「政治活動家」編集長によって編まれる週刊誌がまともな内容になるはずはない。朝日ジャーナルはなく月刊・論座もなく、週刊朝日はいつまで発刊され続けるのだろう。