秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

行政法規

2653/池田信夫のブログ030-03。

 (つづき)
 ——
 第三。「内閣法制局が重複や矛盾をきらうので、ひとつのことを多くの法律で補完的に規定し、法律がスパゲティ化している」。
 「必要なのは法律をモジュール化して個々の法律で完結させ、重複や矛盾を許して国会が組み替え…」。
 ----
 現在(2023年8月1日時点)に有効なものとして「e-Gov 法令」に登載されているのは、一つの名称(表題)をもつ一本ずつを数えて、法律2120政令2288府省令4161、計8569。
 他に、政令としての効力を今でももつ「勅令」71、国家公安委員会・公正取引委員会、海上保安庁等々の「規則」433。これら504を加えると、総計・9074。上の政府サイトによる。
 およそ10000本(1万本)と理解して、大きな間違いではない。
 これらの中には「民法」、「刑法」、「民事訴訟法」、「刑事訴訟法」、「商法」、「会社法」等々も含まれている。したがって、全てではないが、「ほとんど」、おそらくは95パーセント以上が、「行政諸法」だろう。
 なお、以上には、地方公共団体の「条例」と「規則」は含まれていない。47都道府県・全市町村の「条例」等の総数は旧自治省の総務省が把握しているかもしれないが、公表・情報提供されているのかどうか。
 地方公共団体のこれらは、<ほぼ全て>が「行政」関連だと考えられる。地方公共団体は、「民法」や「刑法」、各「訴訟法」の特別規定(特則)を定める権能を有しない。
 政令や府省令は上位の1本の法律のもとに体系化できるはずだが、一つの法律の下に政令が1つだけ、府省令が1つだけでは通常はないだろう。「府令」とは、内閣総理大臣に策定権限がある「内閣府令」のことをいう。
 ----
 「行政法規」である法律に限っても、諸法律が錯綜していることは顕著なことだ。池田信夫の言う「スパゲティ化」の正確な意味は不明だが。
 有名なのは都市計画法分野で、「都市計画法」という法律は一般的に「建築基準法」と連結している。同法にいう「都市計画」の内容や策定手続の特則定める、「都市計画法」から見れば「特別法」にあたる「都市再生特別措置法」、「文化財保護法」、「明日香特別措置法(略称)」等々もある。同じく「都市計画法」から見れば「特別法」にあたるが、同法にいう「都市計画事業」に関して定める「土地区画整理法」、「都市再開発法」等々がある。
 これらを概観するのは、ほとんど不可能だ。一冊の書物が必要になる。安本典夫・都市法概説第三版(2017)参照。
 都市計画法という名前の法律は国土交通省(旧建設省)所管で、関係諸法令に詳しい職員がいるはずだ。それでも関連諸条項の全てを知っているはずはない。まして関連「通達」類を熟知しているはずがない。
 全「行政」諸法に詳しいのは法律(内閣提出のもの)と政令を事前に「審査」する内閣法制局の職員だろうが、担当する分野が区分されており、また長期にわたって担当するのでもない。
 したがって、日本の<行政諸法>・「行政法規」の内容の全体に関する知識をもつ者は、かりに全てについて「ある程度」であっても、日本の中に誰一人存在しない。
 ----
 分かりにくいのは確かだが、「重複」は別としても、「矛盾」があれば問題で、その矛盾は発生が防止され、あるいは事後に是正・解消される必要があるのではないだろうか。
 「法治主義」ではなく「法の支配」原理に立つと池田信夫が理解するアメリカやイギリスで、法律または法令間の「矛盾」は公然と承認されているのだろうか。一般論としては、なかなか想定し難い。
 もっとも、イギリスでは三国(国?、イングランド・ウェールズ・スコットランド)ごとに議会があり、アメリカには各州法があるので、連邦法とそれらの間、または諸州法相互の間に「差異」が存在するのはむしろ自然で、適用法令の発見自体が司法部(・判例)に委ねられるのかもしれない。
 ドイツ、フランスのこともよく知らないが、日本では、「矛盾」が正面から承認されることはないと思われる。
 しかし、何らかの特殊な事案が発止して、「矛盾」が明らかになることはあるだろう。但し、その場合、とりあえずは、適用条項の「選択」・「発見」の問題として処理される可能性が高い。
 「矛盾」しているか否かがときに重要な法的問題になるのは、国の法律(+法令)と、「法律の範囲内」でのみ制定可能な(憲法94 条参照)地方公共団体の「条例」との間の関係だ。独自に土地利用や建築を規制しようとする条例と都市計画法・建築基準法等との関係など。
 一般論としては「矛盾」は許容されず、法律に違反する条例は、違法・無効だ。だが、「違反」しているか否かの判断が必ずしも容易ではない。「地方自治の本旨」(憲法92条)に反する法律の方が違憲で無効だ、という議論を始めると、ますますそうなる。
 ------
 池田信夫の問題関心は、「法治主義」と「法の支配」の違い、<レガシーシステム>からの脱却、<モジュラー>化しての弾力的?運用、「最終的判断は司法に委ねる法の支配への移行」にあるのだろう。
 したがって、今回に以上で書いたことも、そうした関心に対応していないことは十分に承知している。
 ——
  いつか書こうと思っていたのは、「法学」という学問分野の特性だ。経済学と異なり、諸「文学」とも異なる。
 法令類の有効性を前提とした<法解釈学>の場合、「真実」の発見が目的なのではない。「正しい」・「正しくない」という議論も、厳密には成り立ち難い。法的主張、法学説それぞれの間での決定的な「差異」は、裁判所、とくに最高裁判所の判決によって支持されているか否かだ。
 「正しい」解釈が最高裁判例になっているのではない。逆に、最高裁判所の判例になっている法学説こそが「正しい」という語法を使うことは(きっと反対が多いだろうが)不可能ではない。
 では、最高裁判例とは何か? 科学の意味での「真実」ではない。社会管理のために立法者が定めた基準類を具体的事案に適用するために必要な「約束事」を、立法者の判断を超えて示したもの、とでも言えようか。
 裁判所、とくに最高裁判所の判決という「指針」、「手がかり」のあること、これは<法(解釈)学>の、経済学等々とのあいだの決定的な違いだ、と考えられる。
 ——

2318/E. Forsthoff・ドイツ行政法I·総論(1973)—目次・試訳①。

 Ernst Forsthoff, Lehrbuch des Verwaltungsrechts,Erster Band, Allgemeiner Teil, 10., neubearbeitete Auflage(C.H.Beck, München, 1973)。
 上のドイツ語著、エルンスト·フォルストホフ・行政法教科書第一巻・総論、第10版・改訂版(1973年)の、目次部分だけの試訳。丸数字は試訳者において挿入。
 **
 目次
 略語一覧
 第一部/行政法の本質的性格と歴史。
 --------
  第一章・行政—特性と画定。
   第一節—①定義の問題、②行政と法、③形成するものとしての行政、④司法との区別、⑤憲法と行政法、⑥法律制定〔立法〕との関係、⑦憲法上の補助作用、⑧外交〔外務行政〕。
   第二節—①行政に対する法治国家的拘束、②その諸段階、③行政行為の自己確定性〔公定力〕、④行政の一体性、⑤行政と統治、⑥統治作用の概念。
 --------
  第二章・近年の行政の歴史の画期。
   第一節—①主題の限定、②行政と近代国家、③嚮導的行政の構造、④身分制議会による授権、⑤ラント法上の主権性、⑥財産秩序への拡張、⑦自然法による行政の正当化、⑧土地所有権の優先(dominium eminens)、⑨職業官僚制度、⑩その市民法的特徴、⑪規律する法源の欠如、⑫合議制的官庁の編成、⑬官房司法(Kammerjustiz)、⑭司法と行政の分離の開始、⑮国庫概念)。
   第二節—①専門部署と国家省庁の発生、②それらの構造、③合議制原則の制限、④諸官庁の編成、⑤司法の独立化)。
   第三節—①法律による行政の原理、②意義と意味、③自由の保障と権利の理性化、④個人的権利の前国家性はないこと、⑤財産秩序の構成、⑥行政に対するラント法上の影響。
   第四節—①世紀半ば以降の変遷、②給付主体としての行政、③行政諸団体の社会的構造の変化、④行政と政党制度、⑤官吏法。
 --------
  第三章・行政法学の歴史。
   ①18世紀の警察国家でのその欠陥、②市民的法治国家の生成、③Von Mohl の意義、④国家と社会の二元論、⑤Lorenz von Stein、⑥行政学、⑦その利用と限界、⑧法的概念への体系的志向、⑨最初の文献、⑩Otto Mayer、⑪その体系、⑫法的諸制度、⑬実証主義の基盤に接近し難いこと、⑭特別権力関係、⑮総論部分、⑯Laband による批判、⑰行政法的実務の学問的意味。
 --------
  第四章・近代行政の構造について。
   第一節—①市民的法治国家と財産秩序、②第一次大戦に伴う変化、③ワイマール憲法、④社会秩序の侵害の形成、⑤体系的関係の欠如。
   第二節—①かかる侵害の原則的意味、②形成的行政、③それの法との関係、③実証主義に到達し難いこと、④自然法からの逸脱、⑤法原則、⑥形成的行政の二つの形式、⑦「商品経済活動」、⑧その行政性、⑨権利保護の特殊性。
   第三節—①行政と技術、②行政における専門家。
   追記—三権分立内部での行政の重み。
 --------
  第五章・行政の自由と拘束。
   第一節—①行政と法規(Rechtssatz)、②裁量概念の問題、③不確定法概念、④裁量と法の解釈、⑤価値概念、⑥裁量概念の定義、⑦行政法規範の特殊性、⑧行政法的実務。
   第二節—①差違化の必要性、②官庁の行為義務の前提に関する決定、③経験上の価値概念の変遷、④社会観の影響。
   第三節—①裁量活動の事後審査、②裁量による自己拘束、③随意と恣意、④裁量の瑕疵の類型、⑤自由な形成領域における法的瑕疵。
   第四節—①覊束された行政、②行政の融通性。
 --------
  第六章・司法と行政。
   第一節—①司法と行政の関係一般・両部門の自立性、②これらの機能の関係、③職務支援(Amtshilfe)、④増大する職務支援、⑤国家行為の相互承認、⑥構成要件的機能、⑦確定する機能、⑧曖昧な瑕疵ある行為についての拘束力のなさ。
   第二節—①法的争訟の許容性、②裁判所構成法第13条、③州議会への授権、④欧州共同体民事訴訟法第4条、⑤欧州共同体裁判所構成法第4条、⑥行政訴訟法第179条、⑦国庫理論の影響、⑧その克服、⑨公法と私法の区別、⑩従属と協働、⑪ライヒ裁判所の判決、⑫行政裁判所の権限、⑬公権力に対する請願訴訟の排除、⑭混合した法関係、⑮一体の判決の原則、⑯手続の停止、⑰前審による決定。
   第三節—①権能の維持・権能争議、②行政権能、③判例における差違。
 --------
 **
 以降の部の表題等は、つぎのとおり。
 第二部/行政法規とその適用。
 第三部/行政作用の理論。
 第四部/国家賠償制度。
 第五部/給付主体としての行政。
 第六部/官庁と行政組織の法。
 第七部/地方自治行政の法。
 付記。
 人名索引・事項索引。
ギャラリー
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2564/O.ファイジズ・NEP/新経済政策④。
  • 2546/A.アプルボーム著(2017)-ウクライナのHolodomor③。
  • 2488/R・パイプスの自伝(2003年)④。
  • 2422/F.フュレ、うそ・熱情・幻想(英訳2014)④。
  • 2400/L·コワコフスキ・Modernity—第一章④。
  • 2385/L・コワコフスキ「退屈について」(1999)②。
  • 2354/音・音楽・音響⑤—ロシアの歌「つる(Zhuravli)」。
  • 2333/Orlando Figes·人民の悲劇(1996)・第16章第1節③。
  • 2333/Orlando Figes·人民の悲劇(1996)・第16章第1節③。
  • 2320/レフとスヴェトラーナ27—第7章③。
  • 2317/J. Brahms, Hungarian Dances,No.4。
  • 2317/J. Brahms, Hungarian Dances,No.4。
  • 2309/Itzhak Perlman plays ‘A Jewish Mother’.
  • 2309/Itzhak Perlman plays ‘A Jewish Mother’.
  • 2305/レフとスヴェトラーナ24—第6章④。
  • 2305/レフとスヴェトラーナ24—第6章④。
  • 2293/レフとスヴェトラーナ18—第5章①。
  • 2293/レフとスヴェトラーナ18—第5章①。
  • 2286/辻井伸行・EXILE ATSUSHI 「それでも、生きてゆく」。
  • 2286/辻井伸行・EXILE ATSUSHI 「それでも、生きてゆく」。
  • 2283/レフとスヴェトラーナ・序言(Orlando Figes 著)。
  • 2283/レフとスヴェトラーナ・序言(Orlando Figes 著)。
  • 2277/「わたし」とは何か(10)。
  • 2230/L・コワコフスキ著第一巻第6章②・第2節①。
  • 2222/L・Engelstein, Russia in Flames(2018)第6部第2章第1節。
  • 2222/L・Engelstein, Russia in Flames(2018)第6部第2章第1節。
  • 2203/レフとスヴェトラーナ12-第3章④。
  • 2203/レフとスヴェトラーナ12-第3章④。
  • 2179/R・パイプス・ロシア革命第12章第1節。
  • 2152/新谷尚紀・神様に秘められた日本史の謎(2015)と櫻井よしこ。
  • 2152/新谷尚紀・神様に秘められた日本史の謎(2015)と櫻井よしこ。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2136/京都の神社-所功・京都の三大祭(1996)。
  • 2136/京都の神社-所功・京都の三大祭(1996)。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2101/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史10。
  • 2101/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史10。
  • 2098/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史08。
  • 2098/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史08。
  • 2098/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史08。
アーカイブ
記事検索
カテゴリー