ロシア「10月革命」100年が経過した。
ロシア革命に関する手頃な日本語文献はないものか、と考える。
昨年につぎの二著が新書版で刊行されたが、異なる意味で、問題がある。
広瀬隆・ロシア革命史入門(集英社インターナショナル、2017)。
これはおそらく評論家でも「左翼」によるもので、レーニンらが「反戦平和」のために革命をしたと冒頭に書いているのだから、笑ってしまった。イデオロギーは、あるいは反共産主義=保守反動という「刷り込み」は、恐ろしい。
池田嘉郎・ロシア革命-破局の8か月(岩波新書、2017)。
これには一度この欄で触れた。上と違ってアカデミズム界のもので、ロシア革命自体に関する強い「歪み」はないと思われる。しかし、いかんせん、この書が扱っているのは-よく見ると副題が示すように-ほとんど二月革命と十月革命のあいだで、二月革命・臨時政府樹立後の政府要職者等の人生が中心だ。
ロシア革命といえば先ずは想起するだろうボルシェヴィキによる「10月革命」を-その終期には議論があるだろうが-「内戦」または「戦時共産主義」以前についても概述してくれるものではないようだ。
詳細と思われる共産主義・ロシア史に関する邦訳書は、-江崎道朗はこれらを一瞥すらしないでコミンテルンや「共産主義」について2017年8月の新書を刊行したようだが-ある。
私でも、つぎの二著を所持する。それぞれの下掲は、原書。
アーチー・ブラウン/下斗米伸夫監訳・共産主義の興亡(中央公論新社、2012)。
=Archie Brown, The Rise and Fall of Communism (2010).
マーティン・メイリア/白須英子訳・ソヴィエトの悲劇-ロシアにおける社会主義の歴史-上・下(草思社、1997)。
=Martin Malia, Soviet Tragedy: A History of Socialism in Russia (1995)。
後者はリチャード・パイプスと同窓という著者によるもので、ネップ期の叙述も興味深い。
しかし、これらはタイトルにも見られるように、ソヴィエト共産主義の歴史をソ連の解体まで叙述するもので、広・狭義のいずれであれ、「10月革命」の経緯を概述することを主題にしていない。
リチャード・パイプスの意味での「ロシア革命」とネップ期を含む「ボルシェヴィキ体制下のロシア」については、同の二著があり、その簡潔版もあって-何度も記したように-その簡潔版の邦訳書はある。
リチャード・パイプス/西山克典訳・ロシア革命史(成文社、2000)。
=Richard Pipes, A Concise History of the Russian Revolution (1995).
他になくはない。よく読まれているのかも知れない一冊本に、つぎがある。
ロバート・サーヴィス/中島毅訳・ロシア革命1900-1927(岩波書店、2005)。
長くはない概説書だ。そして、この書によるロシア革命記述は、日本語版「ウィキペディア」の「ロシア革命」の項の基礎になっている(示される参考文献を見れば分かる)。
しかし、さすがに岩波書店が邦訳書として発行する本だ。レーニン・ロシア革命・共産主義についてなおも宥和的で甘い、と感じられる。そのようなものでないと、つまりひどくは日本共産党や日本の「左翼」に悪影響をもたらさないようなものでないと、岩波は出版しないのだろうと推察される。
古くは、つぎがあった。
菊地昌典・ロシア革命(中公新書、1967)。
岩波新書でもない中公新書にこんな内容のロシア革命本があったとは、日本に独特の時代性を感じさせる。
この本は、著者が日本共産党員なのかいわゆるトロツキストなのかという詮索はしないが、いずれにせよ、レーニンの「ロシア革命」を美しく讃えるものだ。その文体の熱情ぶりは、日本にもいずれ(民主主義革命-?)社会主義革命が起きるとの確信に満ちているようだ。そして、自分はその進歩的・積極的な方向に関与しているのだという陶酔感も。
上のうち優れていると思われるのは、リチャード・パイプスの簡潔版の本だ。
しかし、これの邦訳書でも二段組で本文408頁まであり、読み通すのは簡単ではない(なお、原書も計ほぼ同頁だ)。私自身も一日では読み終わっていない。
ロシア・ソ連史学界(アカデミズム)にはむろん多数の論文等があるのだろうが、ふつうの「しろうと」には細かすぎ、専門的すぎて、分かりにくい。
となると思いつくのが、イギリスの専門学者によるものだが、二月革命から1930年代の「大粛清」(the Great Purge)までの概述書である、つぎだ。第三版の原書で本文だけだと172頁。パイプスのものよりも短い。
Sheila Fitzpatrick, The Russian Revolution (Oxford, 2ed. 1994, 3rd. 2008, 4th. 2017).
シェイラ・フィツパトリク・ロシア革命(第3版2008,第4版2017)。索引を含めて、p.224まで。
しかし、2017年の第4版ではなくとも、この書には邦訳書が(なぜか)存在しない。
ロシア革命に関する手頃な日本語文献はないものか、と考える。
昨年につぎの二著が新書版で刊行されたが、異なる意味で、問題がある。
広瀬隆・ロシア革命史入門(集英社インターナショナル、2017)。
これはおそらく評論家でも「左翼」によるもので、レーニンらが「反戦平和」のために革命をしたと冒頭に書いているのだから、笑ってしまった。イデオロギーは、あるいは反共産主義=保守反動という「刷り込み」は、恐ろしい。
池田嘉郎・ロシア革命-破局の8か月(岩波新書、2017)。
これには一度この欄で触れた。上と違ってアカデミズム界のもので、ロシア革命自体に関する強い「歪み」はないと思われる。しかし、いかんせん、この書が扱っているのは-よく見ると副題が示すように-ほとんど二月革命と十月革命のあいだで、二月革命・臨時政府樹立後の政府要職者等の人生が中心だ。
ロシア革命といえば先ずは想起するだろうボルシェヴィキによる「10月革命」を-その終期には議論があるだろうが-「内戦」または「戦時共産主義」以前についても概述してくれるものではないようだ。
詳細と思われる共産主義・ロシア史に関する邦訳書は、-江崎道朗はこれらを一瞥すらしないでコミンテルンや「共産主義」について2017年8月の新書を刊行したようだが-ある。
私でも、つぎの二著を所持する。それぞれの下掲は、原書。
アーチー・ブラウン/下斗米伸夫監訳・共産主義の興亡(中央公論新社、2012)。
=Archie Brown, The Rise and Fall of Communism (2010).
マーティン・メイリア/白須英子訳・ソヴィエトの悲劇-ロシアにおける社会主義の歴史-上・下(草思社、1997)。
=Martin Malia, Soviet Tragedy: A History of Socialism in Russia (1995)。
後者はリチャード・パイプスと同窓という著者によるもので、ネップ期の叙述も興味深い。
しかし、これらはタイトルにも見られるように、ソヴィエト共産主義の歴史をソ連の解体まで叙述するもので、広・狭義のいずれであれ、「10月革命」の経緯を概述することを主題にしていない。
リチャード・パイプスの意味での「ロシア革命」とネップ期を含む「ボルシェヴィキ体制下のロシア」については、同の二著があり、その簡潔版もあって-何度も記したように-その簡潔版の邦訳書はある。
リチャード・パイプス/西山克典訳・ロシア革命史(成文社、2000)。
=Richard Pipes, A Concise History of the Russian Revolution (1995).
他になくはない。よく読まれているのかも知れない一冊本に、つぎがある。
ロバート・サーヴィス/中島毅訳・ロシア革命1900-1927(岩波書店、2005)。
長くはない概説書だ。そして、この書によるロシア革命記述は、日本語版「ウィキペディア」の「ロシア革命」の項の基礎になっている(示される参考文献を見れば分かる)。
しかし、さすがに岩波書店が邦訳書として発行する本だ。レーニン・ロシア革命・共産主義についてなおも宥和的で甘い、と感じられる。そのようなものでないと、つまりひどくは日本共産党や日本の「左翼」に悪影響をもたらさないようなものでないと、岩波は出版しないのだろうと推察される。
古くは、つぎがあった。
菊地昌典・ロシア革命(中公新書、1967)。
岩波新書でもない中公新書にこんな内容のロシア革命本があったとは、日本に独特の時代性を感じさせる。
この本は、著者が日本共産党員なのかいわゆるトロツキストなのかという詮索はしないが、いずれにせよ、レーニンの「ロシア革命」を美しく讃えるものだ。その文体の熱情ぶりは、日本にもいずれ(民主主義革命-?)社会主義革命が起きるとの確信に満ちているようだ。そして、自分はその進歩的・積極的な方向に関与しているのだという陶酔感も。
上のうち優れていると思われるのは、リチャード・パイプスの簡潔版の本だ。
しかし、これの邦訳書でも二段組で本文408頁まであり、読み通すのは簡単ではない(なお、原書も計ほぼ同頁だ)。私自身も一日では読み終わっていない。
ロシア・ソ連史学界(アカデミズム)にはむろん多数の論文等があるのだろうが、ふつうの「しろうと」には細かすぎ、専門的すぎて、分かりにくい。
となると思いつくのが、イギリスの専門学者によるものだが、二月革命から1930年代の「大粛清」(the Great Purge)までの概述書である、つぎだ。第三版の原書で本文だけだと172頁。パイプスのものよりも短い。
Sheila Fitzpatrick, The Russian Revolution (Oxford, 2ed. 1994, 3rd. 2008, 4th. 2017).
シェイラ・フィツパトリク・ロシア革命(第3版2008,第4版2017)。索引を含めて、p.224まで。
しかし、2017年の第4版ではなくとも、この書には邦訳書が(なぜか)存在しない。