産経新聞7月8日付「産経抄」は<日本の無防備なまでの寛容さ?共産党躍進の不思議>というタイトルらしい。その中で、つぎのように書く。
 「共産党は昨年7月の参院選でも改選3議席を6議席へと倍増させており、じわりと、だが確実に勢力を伸長させている。民進党が、自民党批判の受け皿にも政権交代の選択肢にもなれずにいる体たらくなので、その分存在感を増しているのだろう。/
 ただ、こうした日本の現状は、世界的には稀有な事例らしい。歴史資料収集家の福冨健一氏の著書『共産主義の誤謬』によると、先進国で共産党が躍進しているのは日本だけで、欧米では消えつつあるという。米国や英国、ドイツ、イタリアなどでは共産党は国政の場に議席を持っていない。」
 なんとまぁ、無邪気なものだ。
 共産党をめぐる「日本の現状は、世界的には稀有な」こと、「先進国で共産党が躍進しているのは日本だけで、欧米では消えつつあるという」ことをこの産経抄子さまは知らなかったようなのだ。
 今年になってからのフランス大統領選挙で、共産党候補の名は出ていたか?、ついでに社会党候補はどうだったか? 社共連立の社会党大統領だったのは1980年代のミッテランだったが、その後、フランス共産党が与党の大統領はもちろん皆無だ。
 ドイツやイギリスの国政・地方選挙に関する報道を見ても、「共産党」が存在しないか、政党要件に適合している容共産主義政党・政治団体がある程度活動しているくらいしかないのことは分かるだろう。ドイツには、「左翼党」(Die Linke)という政党はあり、「社会主義的左翼(Sozialistische Linke)」と称する分派?もあるらしい。少なくとも前者は、とくに旧東独地域で議席も持つ。
 天下の大新聞、産経新聞の「産経抄」子さまが、上の程度なのだから、他の産経新聞社の者たち、月刊正論編集部の菅原慎太郎らの共産主義・共産党に関する知識・認識の乏しさも理解できる。
 これまで何もコメントしていない、産経新聞政治部・日本共産党研究(産経新聞、2016.06)もヒドイもので、これでよく「研究」と名乗れたものだと思った。
 この本で面白かったのは、地方自治体の職員・議員(、ひょっとして部・課といった機構そのもの?)に対する「赤旗」拡大の実態くらいだった。このレベルで、日本では大手新聞社が<共産党研究>と掲げる書物を刊行できる。
 これが日本の容共産主義性の強さ、反共産主義性の弱さの実態だ。
 ところで、冒頭の「産経抄」は、知ってはいたが、福冨健一・共産主義の誤謬(2017)を宣伝するために敢えて上のように書いたのだろうか。そうだとすると、いろいろな宣伝方法があるものだ、と思う。
 しかし、この福冨健・共産主義の誤謬(2017)を私も入手して一瞥しているはずなのだが、私にとって新しい又は有益な情報を与える部分はたぶんなかったと思う。そうでなければ、何がしかの記憶に残っている。
 いずれにせよ、日本で本格的なまとまった共産主義研究書、日本共産党の(人文・社会科学的かつ総合的な)研究書はない。
 容易に新書(せいぜい二冊・上下本)くらいで邦訳出版されてもよさそうな、リチャード・パイプス・共産主義の歴史は、別のタイトルで目立たないように翻訳されている。
 Leszek Kolakowski の Marxism に関する大著の邦訳書もない。しつこく書いているが、この人のこの著だけではない。訳されてよいような共産主義・共産党(レーニンを当然に含む)批判的分析書は、かなり多く日本には、日本語になっては、入ってきていない。焦らないで、じっくりと紹介していく。
 そのような<文化>の一翼を担っているのが、産経新聞社だ。