秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

田中正明

0582/板倉由明は田中正明を全否定したわけではない。西尾幹二・GHQ焚書図書開封(徳間)を半分読了。

 前回のつづき又は補足-田中正明の『松井石根大将の陣中日記』を批判した板倉由明は1999年に逝去し、遺作として、そして研究の集大成として同年12月に『本当はこうだった南京事件』(日本図書刊行会)を出版した。
 だが、その著の中には田中正明を批判した『歴史と人物』誌上の論文を収録せず、かつその名を巻末の「主な著作・評論」のリストにすら記載していない。
 小林よしのりもある程度のことは書いているが(パール真論)、推察するに、自分の学問的研究(田中正明の著の批判)が朝日新聞と本多勝一に「政治的に」利用されてしまったことへの後悔又は本多勝一等に対する憤懣があったからではないだろうか。
 小林によると「改竄の事実を指摘した板倉由明でさえ、田中正明の全ての言説を信用できないと言っていたわけではない」(p.212)。
 大部数を誇る全国紙を使って自分たちの考えと異なる史実を指摘し主張している本を<抹殺>しようとしたのだから、朝日新聞とは怖ろしい新聞(社)だ。
 だが、小林よしのりによると、「学界・マスコミ」では今だに「軍国日本を糾弾する論文を書けば、論壇の寵児になれる」体制が続いている(p.213)。そして、中島岳志の「パール判決書をねじ曲げたペテン本」が出る事態に至る。そしてこの本は、朝日新聞と毎日新聞から「賞」まで与えられた。怖ろしい、怖ろしい。
 有名な江藤淳・閉ざされた言語空間-占領軍の検閲と戦後日本(文藝春秋、1989)と櫻井よしこ・「眞相箱」の呪縛を解く(小学館文庫、2002)は所持しながらも意識的に未読で、<最後に>残しておこうというくらいの気持ちだった。
 だが、被占領期のGHQの言論統制について、西尾幹二・GHQ焚書図書開封(徳間書店、2008.06)を半分くらい読んでしまった。購入して目を通していたらいつのまにか…、という感じ。
 この西尾幹二の本を読んでも思うが、先の大戦、日本の対中戦争や対米(・対英)戦争に関する正確な事実の把握(とそれにもとづく評価)は、数十年先には、遅くとも50年先にはきっと、現在のそれとは異なっているだろう(と信じたい)。
 松井石根とは-知っている人に書く必要もないが-東京裁判多数意見によりA級戦犯として死刑となった者のうち、ただ一人、<侵略戦争の共同謀議>によってではなく南京「大虐殺」の責任者として処刑された人物だ。南京「大虐殺」が幻又は虚妄であったなら、紛れもなく、この松井石根は、無実の罪で、冤罪によって、死んだ(=殺された)ことになる。もともと「裁判」などではなく<戦争の続きの>一つの<政治ショー>だった、と言ってしまえばそれまでなのだが。
 アメリカの公文書を使っている西尾幹二とは別に、中西輝政らもソ連共産党・コミンテルン関係の文書を使って、かつての共産主義者の<謀略>ぶりを明らかにしている。
 毛沢東・中国共産党の戦前の文書はどの程度残っているだろうか。残っていれば、いずれ公表され、分析・解明されるだろう。
 いずれにせよ、中国や(GHQや)日本の戦後「左翼」の日本<軍国主義>批判という<歴史認識>を決定的なもの又は大勢は揺るがないものと理解する必要は全くない。まだ、早すぎる。それが事実的基礎を大きく損なったものであることが判明し、現在とは大きく異なる<歴史観>でもって日本の過去をみつめることができる日(私の死後でもよい)の来ることを期待し、信じたいものだ。

0566/小林よしのり・パール真論(小学館)を100頁余読む-中島岳志は学者としてまだ生きていけるか。

 一 中島岳志-北海道大学「公共政策大学院」(正式には「公共政策学教育部・公共政策学連携研究部」)准教授。インド語(ヒンドゥー語?)ができ、専門は「南アジア地域研究」とされているので(北海道大学HPによる)、元来、歴史の専門家ではないし、まして日本の近現代史の専門家ではない。だが、同・パール判事―東京裁判批判と絶対平和主義(白水社、2007)なるものを著して、戦争・(占領期・)東京裁判という<左右>激突が予想される分野に足を踏み入れてしまった。
 想像・憶測にすぎないが、日本近現代史・東京裁判についての先行研究業績のない者が一躍こういう本を書いて登場するとは、よほどの感情・情緒―あるいは特定の「イデオロギー」―に支えられているのだと思われる。そして、それは、東京裁判のパール判決書(反対意見書)を<保守派>(<右派>)に利用されてはいけない、という感情・情緒又は「思い込み」ではないか。
 二 中島の上の本に関する牛村圭・小林よしのりの批判的反応、西部邁の小林よしのりに分があることを認めつつ中島を一部擁護し(一部の)<保守>をも問題にする論はすでに知っていたが、小林よしのり・パール真論(ゴーマニズム宣言スペシャル)(小学館、2008.06)のp.108までを読んで、上のように感じた。
 p.108までのうち、計42頁は漫画ではなく普通の文章(論述)で、一気に読んだわけではない(但し、パール・「平和の宣言」(小学館、2008.02)の小林よしのり「復刊にあたって」はすでに読んだことがあった-上掲書p.101-108に再録)。
 三 内容を詳細に紹介するわけにもいかない。細かな論点の紹介もしない。以下、いくつかのメモ。
 ①パール意見書等のパール文献をきちんと読むことなく(と思われる)中島岳志の上掲書を読み、その影響を受けて、中島著を肯定的に評価した者の(小林よしのり作成の)氏名リストがp.137-8にあるが、記憶に留めておきたい著名?人は次のとおり。
 井上章一長田渚左加藤陽子(日本史、東京大学)、佐高信〔これは当然だろう〕、堤堯(月刊Willの常連、なるほど)、長崎暢子(龍谷大学)、西部邁原武史明治学院大学、やはり)、御厨貴(東京大学)、山内昌之(東京大学)。
 西部邁も元東京大学だとすると、東京大学関係者が多いのが目立つ(原武史も出身は東京大学のはず)。東京大学所属者は書評執筆を依頼されることが多いのかもしれないが、やや異様ではないか(中島岳志自身は大阪外語大→京都大学大学院)。東京大学の社会・人文系は<左翼>傾向が強いと、あくまで断片的印象ながら感じていたが、幾分か、さらにその印象が強まった(なお、最近この欄で御厨貴の本の一部を紹介したが、<保守派>と認識した上でとり上げたわけでは全くない。後半で内容的に異なることも述べた)。
 ②中島岳志の上掲著は相当に問題の多い、欠陥の多い本だと思うが(小林よしのりの批判的論述は詳細で徹底的だ)、朝日新聞社・大仏次郎論壇賞と毎日新聞社・アジア太平洋賞を受賞したとか(p.27)。唖然とする。朝日・毎日の両「左翼」新聞社だから当然と見れなくはないが、しかし、授賞するためには関係専門家等による<推薦>、少なくとも一つの候補化があったはずで、やはり、日本近現代史(学)、政治史(学)の現在の有力な何人かが支持をしたものと見られる。<怖ろしい>ことだ。
 古代史(とくに邪馬台国・卑弥呼論)について、安本美典説を無視し続けている歴史学アカデミズムというものの驚くべき<怖ろしさ>も感じたことはある。小林よしのりとともに、「『デモクラシー』の土台が『デマゴギー』となっているこの日本社会が実に不愉快である!」(p.54)と言いたい。
 憲法学の樋口陽一らも学生や日本国民に<デマ>を撒いている<デマゴーグ>だ。すでに言及してはいるが、別にさらに何回か取り上げる予定。
 ③何故自分はヒトとして生まれたのか、何故日本人として、男(又は女)として、今の時代に生まれ生きているのか。これらを理屈で考えても無意味で、人智を超えた不合理なもの、合理的には説明できないことは間違いなくある。何故自然現象による災害に特定の者が遭遇しなければならないのか、何故犯罪や事故に偶々巻き込まれたのか、等々、本人も家族(遺族)も「理性」で納得できないことはあるに違いない。少し種類は違うが、何故日本には<天皇>という地位・人物がある(いる)のか、という問いも、かなり似たようなところがある。人為的なものに違いはないが、その歴史性・伝統性を考えると、もはや<理屈>うんぬんではないのではないか。
 というような、議論しても解答は出ないような問題はあると思うが、しかし、日本語(場合によっては原語)の文章の読解力や解釈、論理展開の厳密さ、文献・資料の適切な選択等々によって、どちらが、あるいは誰が最も適切な又は合理的な理解又は主張をしているか、を判断できる問題はある。パール判決書(反対意見書)の理解の仕方もそのような問題で、現在は数の上では少数派なのかもしれないが、おそらく、勝負は小林よしのりの勝ちだ。
 問題は左か右か、イデオロギーの当否ではない。まさに、小林よしのりの言うように「国語力」の問題であり、<「権威主義」と「デマゴギー」の問題>なのだ(p.64)。
 ④中島岳志に人間としての良心があるなら、「嘘と歪曲と誤謬だらけのおのれの罪を全て認め、きちんと謝罪して、ただちに偽造本の回収」(p.93)をすべきものと思われる。
 しかし、朝日新聞・毎日新聞に「可愛がられ」る<薄らサヨク>の世界からはたぶん脱することはできず(p.94参照)、西部邁との対談で近代日本の「しっかりとした保守主義者」は「一人は西部さんで、もう一人は福田恆存」などと発言したりしながら(p.87)、大江健三郎樋口陽一のように<日本人ではない何者か>になってゆく可能性がある。中島岳志の専門分野からして、東京裁判に関する次回作があるというわけでもなさそうなのに、気の毒なことだ。まだ若いのに(1975年生)、今後も関係学界で生きていけるだろうか。

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