一 1オクターブが12音で構成されるのならば、それら各12音には低い(周波数の小さい)順にA-B-C-D-E-F-G-H-I-J-K-L(イロハニホヘトチリヌルヲ)という符号をあててもよかったのではないか。
楽譜を五線譜ではなく六線譜にすれば、♯や♭を用いなくとも全12音を線上または線間に表記できるのではないか。
以上は、素人が感じる疑問。〈十二(等分)平均律〉から音律の歴史が始まっていたとすれば、ひょっとすれば上のようだったかもしれない。しかし、現在の音楽界を圧倒的に支配する〈十二平均律〉もまた、「歴史と伝統」を引き摺っているのだ。
----
二 「No.2638/「ドレミ…」の7音と白鍵・黒鍵」のつづき。
マックス·ウェーバー・音楽社会学(邦訳書1967)でM·ウェーバーは「『圏』状に上行または下行すると…」という表現を用いていたが、同著に付された「音楽用語集」によると、この「圏」はcircle, Zirkel の訳語であることが分かる。「円環」あるいは「周円」のことだ。
そして、「圏」はこう説明される。①「ある音を出発点として、上方または下方に向かい、決められた度数によって順次得られる諸音によって作られる圏をいう。… 諸音を得ることの外に、調の近親関係を見わたすための便利な図として利用される。」
また、「5度圏」はこう説明されている。②「或る音から上方・下方に完全5度音を次ぎ次ぎにとって行くことにより諸音を得る。これを図にしたのが5度圏である。出発点から十二番目の音は、例えばCから出発した場合His〔B♯—秋月〕の様な非常に近い音になる。平均律5度音の場合は十二番目は異名同音的に重なる。」
少し挿むと、②の最後部分が述べているのは、〈十二平均律〉だとちょうど1オクターブ上の2となって重なるが、(おそらくは)ピタゴラス音律においては重ならない(ピタゴラス・コンマぶんの誤差が生じる)、ということだと考えられる。
ともあれ、「5度圏(表)」は〈十二平均律〉についてのみ意味があったものではないこと、「5度」または「完全5度」等は〈十二平均律〉におけるそれら(例えば、十二平均律での<今で言うC-G>の間差)を元来は意味したのではなかったということ、が重要だ。
また、上の①に「諸音を得ることの外に…」とあるが、これは「5度圏」を含む「圏」の表・図の第一の目的が「諸音を得る」ことにあったことを示している。②もまた、「…諸音を得る」とだけ断じている。
従って、〈十二平均律〉を前提として、「5度圏(表)」を用いて五線譜冒頭の♯や♭の数によってある曲の「調」が分かる(加えて近親「調」が分かる)というのは、「5度圏(表)」の歴史的な本来の役割からすると些細なことだ。トニイホロやソレラミシを「覚える」だけでは空しい。You Tube上の例えば以下のサイトは、「5度圏(表)」の歴史的意味を理解していないと見られる。この人たちには「圏状の上行・下行」(あるいは「螺旋上の上行・下行の旋回」)という表現に当惑するのではないか。
「音大卒が教える」。「音大卒があなたのお困り助けます」。
----
以下の文献はピタゴラス音律に関して「音のらせん」という節をもち、「らせん上で3倍することを繰り返す」と題する図も付して、「圏状の上行・下行」あるいは秋月の表現だが「螺旋上の上行・下行の旋回」を、明確に説明している。
小方厚・音律と音階の科学(講談社ブルーバックス、2018)、p.45-46、p.59。
----
二 音の周波数が2倍、4倍、8倍、…になるとともに音の高さはちょうど1オクターブ、2オクターブ、3オクターブ、…高くなる。弾く弦の長さを1/2、1/4、1/8、…にするとともに、と言っても同じ。
このことに、人々は太古から気づいただろう。
----
では、1オクターブ内にどのように音を設定すればよいか。—オクターブだけ異なる「同じ」音では満足できず、「異なる」高さの音によって何らかの「旋律」を生みたい人々は、こう問うたに違いない。
そして、すみやかにつぎのことを知ったと思われる。
すなわち、一定のある音と異なり、かつ1オクターブ上(・下)の「同じ」音でもない音は、一定のある音を1とすれば、その1に3/2および2/3を掛けることによって得られる(2/3を掛けるとは3/2で割ると同じ)。
これは、弦の長さで言うと、ある音が出る弦の長さを2/3倍および3/2倍にするのと同じ(弦の長さと音の高さ(周波数の大きさ)は反比例する)。弦の長さを1/3および3倍にすると表現しても、本質は同じ。
そして、1×(3/2)=3/2と、1÷(3/2)=2/3の二つの数値が得られる。このうち後者も1と2の間の数値になるように2倍すると(2倍してもオクターブは異なる「同じ」音だ)、3/2と4/3の二つの数値を得ることができる。
1と2を加えて小さい順に並べると、1、4/3、3/2、2。
オクターブだけ異なる「同じ」音に次いで得られた二つの音は一定の音(1、2)との関係での周波数比が簡潔であるために、一定の音ときわめてよく調和または協和するはずだ。
さて、音の「度」数表示は〈十二平均律〉の採用以前の古くから行われていたようで、池宮英才「音楽理論の基礎」マックス·ウェーバー・音楽社会学(1967)所収294頁は、ちょうど1オクターブだけ離れた音(2)を「8度」と呼び、「絶対協和音」とする。
かつ、上の3/2と4/3をそれぞれ「5度」、「4度」と呼び、この二つを「完全協和音」とする。また、両者をそれぞれ、「完全5度」、「完全4度」とも称している。
ここに見られるように、「完全5度」、「完全4度」とは〈十二平均律〉の場合にのみ語られる用語ではない。
----
〈十二平均律〉を前提とした音程の説明の中で「完全5度」や「完全4度」といった概念を用いている人々がどの程度自覚しているのかは疑わしいが、上の3/2と4/3の二つは、〈十二平均律〉における「(完全)5度」や「(完全)4度」の周波数比の値と異なる。
ピタゴラス音律および純正律において、オクターブだけが異なる音に次いで最初に設定されると考えてよいと思われる二つの音の周波数比の値は、3/2と4/3だ。どちらの音律でも同じ。
これに対して、〈十二平均律〉では、「完全5度」、「完全4度」の対1周波数比は、つぎのようになる。
「完全5度」=1.49830…、「完全4度」=1.33484…。
これらは「無理数」で、整数を使って分数化することができない。
対比させるために、少数を使ってピタゴラス音律や純正律での「完全5度」、「完全4度」をあらためて表記すると、つぎのとおり。
「完全5度」=1.5、「完全4度」=1.33333…。
---
〈十二平均律〉ではこうなるのは、この音律は、1オクターブを隣り合う各音の周波数比が全て同一になるように周波数比を「等分に分割」しているからだ。
いつか触れたように、Xを12乗すれば2となる数値が最小の単位(「一半音」の周波数比)になり、このXは「2の12乗根」のことだから、(この欄での表記はやや困難だが)「12√2」だ(1√2はいわゆる「ルート2」のこと)。
「12√2」=「2の12乗根」は、約1.059463。
これをここで勝手にたんに「α」と表記すると、「完全5度」、「完全4度」はそれぞれ、αの7乗、αの5乗であり、計算すると、上に掲記の少数付き数値になる。
そして、低い順に、αの0乗=1、αの5乗、αの7乗、αの12乗=2、という音の並びになる。
----
三 以上のかぎりで、ピタゴラス音律と純正律では、1、4/3、3/2、2という「音階」ができることになる。
「ドレミ…」を<7音音階>と言うとすれば、単純だが素朴な<3音音階>だ。
さらに新しい音を設定(発見)しようとして、ピタゴラス音律では3/2または3を乗除し続ける。純正律では5/4、6/5という簡潔な分数を見出し、これを全体に生かそうとする(「2と3」から「2、3と5」の世界へ)。
この二つの音律の歴史的前後関係については、前者の欠点を是正しようとして生まれたのが後者だと理解していた。この場合、ピタゴラス・コンマは最初からないものとされ、<今日にいうC-E-G>の和音の「美しさ」が追求される(但し、純正律では「シントニック・コンマ」※が生まれる等の問題が生じる)。
但し、両者はほぼ同時期に成立していた旨の説明もある。その場合、2、4、8または3ではない5という自然「倍音」が古くから着目されていたともされる。
また、今回に言及した池宮英才「音楽理論の基礎」音楽社会学所収も、3/2、4/3の設定・「発見」の叙述のあとで、すでに純正律も考慮したような叙述をしている。
※「シントニック・コンマ」。純正律における「大全音」と「小全音」の差で、(9/8)÷(10/9)=81/80。または、ピタゴラス音律での「長3度」と純正律での「長3度」の差で、(81/64)÷(80/64)=81/80。
----
さて、秋月瑛二は、素人的に考えて、つぎの2音を選ぼうとする。
すると、<5音音階>を簡単に作ることができる。<7音音階>までもう少し、あと2つだ。
——
つづく。
楽譜を五線譜ではなく六線譜にすれば、♯や♭を用いなくとも全12音を線上または線間に表記できるのではないか。
以上は、素人が感じる疑問。〈十二(等分)平均律〉から音律の歴史が始まっていたとすれば、ひょっとすれば上のようだったかもしれない。しかし、現在の音楽界を圧倒的に支配する〈十二平均律〉もまた、「歴史と伝統」を引き摺っているのだ。
----
二 「No.2638/「ドレミ…」の7音と白鍵・黒鍵」のつづき。
マックス·ウェーバー・音楽社会学(邦訳書1967)でM·ウェーバーは「『圏』状に上行または下行すると…」という表現を用いていたが、同著に付された「音楽用語集」によると、この「圏」はcircle, Zirkel の訳語であることが分かる。「円環」あるいは「周円」のことだ。
そして、「圏」はこう説明される。①「ある音を出発点として、上方または下方に向かい、決められた度数によって順次得られる諸音によって作られる圏をいう。… 諸音を得ることの外に、調の近親関係を見わたすための便利な図として利用される。」
また、「5度圏」はこう説明されている。②「或る音から上方・下方に完全5度音を次ぎ次ぎにとって行くことにより諸音を得る。これを図にしたのが5度圏である。出発点から十二番目の音は、例えばCから出発した場合His〔B♯—秋月〕の様な非常に近い音になる。平均律5度音の場合は十二番目は異名同音的に重なる。」
少し挿むと、②の最後部分が述べているのは、〈十二平均律〉だとちょうど1オクターブ上の2となって重なるが、(おそらくは)ピタゴラス音律においては重ならない(ピタゴラス・コンマぶんの誤差が生じる)、ということだと考えられる。
ともあれ、「5度圏(表)」は〈十二平均律〉についてのみ意味があったものではないこと、「5度」または「完全5度」等は〈十二平均律〉におけるそれら(例えば、十二平均律での<今で言うC-G>の間差)を元来は意味したのではなかったということ、が重要だ。
また、上の①に「諸音を得ることの外に…」とあるが、これは「5度圏」を含む「圏」の表・図の第一の目的が「諸音を得る」ことにあったことを示している。②もまた、「…諸音を得る」とだけ断じている。
従って、〈十二平均律〉を前提として、「5度圏(表)」を用いて五線譜冒頭の♯や♭の数によってある曲の「調」が分かる(加えて近親「調」が分かる)というのは、「5度圏(表)」の歴史的な本来の役割からすると些細なことだ。トニイホロやソレラミシを「覚える」だけでは空しい。You Tube上の例えば以下のサイトは、「5度圏(表)」の歴史的意味を理解していないと見られる。この人たちには「圏状の上行・下行」(あるいは「螺旋上の上行・下行の旋回」)という表現に当惑するのではないか。
「音大卒が教える」。「音大卒があなたのお困り助けます」。
----
以下の文献はピタゴラス音律に関して「音のらせん」という節をもち、「らせん上で3倍することを繰り返す」と題する図も付して、「圏状の上行・下行」あるいは秋月の表現だが「螺旋上の上行・下行の旋回」を、明確に説明している。
小方厚・音律と音階の科学(講談社ブルーバックス、2018)、p.45-46、p.59。
----
二 音の周波数が2倍、4倍、8倍、…になるとともに音の高さはちょうど1オクターブ、2オクターブ、3オクターブ、…高くなる。弾く弦の長さを1/2、1/4、1/8、…にするとともに、と言っても同じ。
このことに、人々は太古から気づいただろう。
----
では、1オクターブ内にどのように音を設定すればよいか。—オクターブだけ異なる「同じ」音では満足できず、「異なる」高さの音によって何らかの「旋律」を生みたい人々は、こう問うたに違いない。
そして、すみやかにつぎのことを知ったと思われる。
すなわち、一定のある音と異なり、かつ1オクターブ上(・下)の「同じ」音でもない音は、一定のある音を1とすれば、その1に3/2および2/3を掛けることによって得られる(2/3を掛けるとは3/2で割ると同じ)。
これは、弦の長さで言うと、ある音が出る弦の長さを2/3倍および3/2倍にするのと同じ(弦の長さと音の高さ(周波数の大きさ)は反比例する)。弦の長さを1/3および3倍にすると表現しても、本質は同じ。
そして、1×(3/2)=3/2と、1÷(3/2)=2/3の二つの数値が得られる。このうち後者も1と2の間の数値になるように2倍すると(2倍してもオクターブは異なる「同じ」音だ)、3/2と4/3の二つの数値を得ることができる。
1と2を加えて小さい順に並べると、1、4/3、3/2、2。
オクターブだけ異なる「同じ」音に次いで得られた二つの音は一定の音(1、2)との関係での周波数比が簡潔であるために、一定の音ときわめてよく調和または協和するはずだ。
さて、音の「度」数表示は〈十二平均律〉の採用以前の古くから行われていたようで、池宮英才「音楽理論の基礎」マックス·ウェーバー・音楽社会学(1967)所収294頁は、ちょうど1オクターブだけ離れた音(2)を「8度」と呼び、「絶対協和音」とする。
かつ、上の3/2と4/3をそれぞれ「5度」、「4度」と呼び、この二つを「完全協和音」とする。また、両者をそれぞれ、「完全5度」、「完全4度」とも称している。
ここに見られるように、「完全5度」、「完全4度」とは〈十二平均律〉の場合にのみ語られる用語ではない。
----
〈十二平均律〉を前提とした音程の説明の中で「完全5度」や「完全4度」といった概念を用いている人々がどの程度自覚しているのかは疑わしいが、上の3/2と4/3の二つは、〈十二平均律〉における「(完全)5度」や「(完全)4度」の周波数比の値と異なる。
ピタゴラス音律および純正律において、オクターブだけが異なる音に次いで最初に設定されると考えてよいと思われる二つの音の周波数比の値は、3/2と4/3だ。どちらの音律でも同じ。
これに対して、〈十二平均律〉では、「完全5度」、「完全4度」の対1周波数比は、つぎのようになる。
「完全5度」=1.49830…、「完全4度」=1.33484…。
これらは「無理数」で、整数を使って分数化することができない。
対比させるために、少数を使ってピタゴラス音律や純正律での「完全5度」、「完全4度」をあらためて表記すると、つぎのとおり。
「完全5度」=1.5、「完全4度」=1.33333…。
---
〈十二平均律〉ではこうなるのは、この音律は、1オクターブを隣り合う各音の周波数比が全て同一になるように周波数比を「等分に分割」しているからだ。
いつか触れたように、Xを12乗すれば2となる数値が最小の単位(「一半音」の周波数比)になり、このXは「2の12乗根」のことだから、(この欄での表記はやや困難だが)「12√2」だ(1√2はいわゆる「ルート2」のこと)。
「12√2」=「2の12乗根」は、約1.059463。
これをここで勝手にたんに「α」と表記すると、「完全5度」、「完全4度」はそれぞれ、αの7乗、αの5乗であり、計算すると、上に掲記の少数付き数値になる。
そして、低い順に、αの0乗=1、αの5乗、αの7乗、αの12乗=2、という音の並びになる。
----
三 以上のかぎりで、ピタゴラス音律と純正律では、1、4/3、3/2、2という「音階」ができることになる。
「ドレミ…」を<7音音階>と言うとすれば、単純だが素朴な<3音音階>だ。
さらに新しい音を設定(発見)しようとして、ピタゴラス音律では3/2または3を乗除し続ける。純正律では5/4、6/5という簡潔な分数を見出し、これを全体に生かそうとする(「2と3」から「2、3と5」の世界へ)。
この二つの音律の歴史的前後関係については、前者の欠点を是正しようとして生まれたのが後者だと理解していた。この場合、ピタゴラス・コンマは最初からないものとされ、<今日にいうC-E-G>の和音の「美しさ」が追求される(但し、純正律では「シントニック・コンマ」※が生まれる等の問題が生じる)。
但し、両者はほぼ同時期に成立していた旨の説明もある。その場合、2、4、8または3ではない5という自然「倍音」が古くから着目されていたともされる。
また、今回に言及した池宮英才「音楽理論の基礎」音楽社会学所収も、3/2、4/3の設定・「発見」の叙述のあとで、すでに純正律も考慮したような叙述をしている。
※「シントニック・コンマ」。純正律における「大全音」と「小全音」の差で、(9/8)÷(10/9)=81/80。または、ピタゴラス音律での「長3度」と純正律での「長3度」の差で、(81/64)÷(80/64)=81/80。
----
さて、秋月瑛二は、素人的に考えて、つぎの2音を選ぼうとする。
すると、<5音音階>を簡単に作ることができる。<7音音階>までもう少し、あと2つだ。
——
つづく。