一 月刊正論9月号(産経新聞社)p.108~は、潮匡人と石波茂(前防衛相)の対談。
その中で潮匡人は、「私も、最近の『WiLL』を代表格とするマスコミの煽情的な皇室バッシングに疑問を感じております…」と語る(p.110)。
録画していた日テレ/読売系の日曜午後の番組を一昨日視てみると、ゲストの所功も同旨を述べていた。司会者の一人・辛坊治郎も<こうして騒ぐこと自体が「敵」(左翼)を喜ばせるのではないか>旨を示唆していた。
おそらくは月刊WiLLに始まる特定皇族等への<攻撃>について、私のような感想を持つ人たちは決してごく一部ではないように思われる。
上の番組に出ていた、話題の仕掛け人でもある月刊WiLL編集長・花田紀凱の発言内容の一部は、「左翼」と同じですらある。また、雅子皇太子妃殿下が「公務」欠席中にどこで何をしていたかは<ちゃんとウラを取っている>という言い方などはジャーナリズム界で生きている者の感覚丸出しで、皇族の一人に対する多少の畏敬の念も感じられない。ジャーナリストやその出身の大学教授らは一般的庶民レベルと比べて、皇室・皇族に対する取材対象感覚・対等者感覚が強いようだ、ということは最近の諸君!7月号(文藝春秋)の特集でも感じたことだった。
あまり話さなかったが、「憲法改正」の限界の問題に言及するなど、宮崎哲弥は問題をよく理解しているようだ。田嶋陽子は相変わらずバカをさらけ出しているが、<皇族にも人権を>と主張しつつ、国民の「総意」によって天皇制度は廃止できる旨を言っていた。<皇族にも人権を>→天皇制度解体、という<左翼>教条言説をちゃんと語っているから面白い。
所功が憲法解釈としては通説又は多数説と見られる、憲法改正(天皇条項の削除)によって天皇制度の廃止は可能との説を支持していなかった(又は明瞭には肯定しなかった)ことも印象に残った。また、所功は限定的な女系天皇容認論者なので、その方向での皇室典範改正に期待する旨を述べていたことも印象に残る(番組ではほとんど議論されなかったが)。
私は今のところ、限定的な旧皇族の皇族化(明確な「皇統」としての位置づけ)を考えているが(個人的にどう考えようと力にならないのだが)、その範囲について、別の機会に書こう(竹田恒泰は入らない)。
二 ところで上の潮匡人・石波茂の対談によると、石波は渡部昇一に月刊WiLL誌上で「国賊」とかと非難された(叱られた)らしい。渡部昇一の文章を読む気は失せているので知らなかった。
石波が対談中で語るところによれば、A級戦犯靖国合祀には反対で、A級戦犯を合祀した靖国神社には参拝しない、という考えらしい。潮匡人はこれを批判しているが。
軍事(防衛)オタクとか言われているらしい人物ですらこうなのだから、自民党の国会議員の多数派の雰囲気が判ってしまう。
だが、石波茂の言動には奇妙なところがある。石波は「毎年八月一五日に、地元の護国神社への参拝を欠かしたことは一度もない」と明言している(p.111)。
かりにA級戦犯の出身県でなければ「地元の護国神社」にA級戦犯は祀られていないだろうが、しかし、B・C級戦犯は(靖国神社とともに)「地元の護国神社」の祭神ともなって祀られているのではないか。そして、A級戦犯もB・C級戦犯も、<東京裁判>等(中国での裁判もあった)の諸判決によって犯罪者とされたのではないか。
石波茂は(その厳密な意味はともかく)<東京裁判は受け容れるべきだ>と主張しているとすれば(p.113)、その法的根拠や手続が正当な「裁判」と言えるかがやはり疑わしい(しかし受け容れるべき?)判決によってB・C級戦犯とされた人々を祀る「地元の護国神社」に参拝するということは、その主張・見解と矛盾する行為にはならないのだろうか。
要するに、靖国神社と護国神社を石波茂のように明確に分別できるのか、という疑問だ。
三 西尾幹二の国家と謝罪(徳間書店、2007)で記憶に残るのは(今手元に置かないで書く)、八木秀次・岡崎久彦等々の多数の評論家等を西尾は批判しているが、櫻井よしこは批判の俎上に乗せていない(むしろ肯定的に評価している)、ということだ。
ネット情報によると、櫻井よしこが理事長となっている国家基本問題研究所(副理事長は田久保忠衛)の理事・評議員の中に、西尾幹二も八木秀次も(岡崎久彦も)入っていない(中西輝政は理事)。上に言及した潮匡人は評議員・企画委員とされている。理事の中にはあの稲田朋美(自民党国会議員・弁護士)もいる(城内実も松原仁も理事)。
何よりも、八木秀次と西尾幹二を除外している点に好感をもつ(この二人の多数の仕事等、とくに西尾幹二のそれらを全面否定するつもりは全くないが。なお、「思想家」佐伯啓思は名前を出さない)。反北朝鮮・反中国の明瞭な人々(その活動実績のある人々)が中心になっているようでもある。相対的にマシな<保守派>の団体として、この辺りに期待してみようか。
正論
産経7/14の佐伯啓思の「正論」によれば、「本来は、今回の参院選の中心的な争点は、安倍政権が推し進めている「戦後レジームの見直し」にあった。具体的には、すでに着手した教育行政の見直しや、イラク、北朝鮮をめぐる日本の対応、そして憲法改正にあった」。「当然のことながら、「宙に浮いた年金」は、…参院選の行方を左右するテーマではありえない」。しかし、「「宙に浮いた年金」の争点化によって、憲法改正をふくむ「戦後レジームの見直し」という真の論争点が隠蔽(いんぺい)されてしまうのは「代表者によって国の根本問題を論議する」という参議院の理念からしても問題がある」。
そのとおり。だが、氏は次のようにも言う。「自己責任や市場主義による成長優先政策か、社会の共同生活の枠組みの安定か、という対立がある。「年金」不安はそのことを背景としている。しかし、与党も野党も問題の設定に失敗してしまった」。
後者の対立又は争点は多くの人びとには全く又は殆ど意識されていないのではないか。あるいは、国民もマスコミもほとんど「社会の共同生活の枠組みの安定」を選択しているかの如くだ。政党がかかる争点を掲げ、かつ前者を主張し後者を軽視すれば必ずや惨敗するように見える。
その意味で、佐伯啓思は、紙幅の制限の中で、やや難解な論点に言及してしまった感もある。
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