月刊正論4月号(産経新聞社)で編集長・桑原聡いわく-「…民主党内閣が、憲政史上最低最悪の内閣であることは多くの国民が感じているところだろうが、かりに解散総選挙が行われ、自民党が政権を奪回したとしても、賞味期限の過ぎたこの政党にも、わが国を元気にする知恵も力もないように思える」(p.326)。
同誌の宣伝紹介記事(産経3/01付)で同じく桑原聡いわく-「国民の大半が期待しているのは、この党〔民主党〕が一日も早く政権の座から降りてくれることだけだ。しかし、かりに解散総選挙となって、自民党が返り咲いたとしても、賞味期限の過ぎたこの政党にも多くを期待できない」。
産経新聞社内の出世コースを歩んでいるのかもしれないこの桑原聡のこのような<政治的>判断を基準にして、産経新聞全体は別としても、当面の月刊正論は編集されていくものと見られる。
はたして、かかる立場を編集長が明記することはよいことなのかどうか。それよりも、その<政治的>判断は適切なものなのかどうか。
2009年総選挙前に、自民党はダメだ、(よくは分からないが、新しい)民主党は期待できそうだ、というムードを煽ったのは朝日新聞を含む大手メディアだった。櫻井よしこすら、自民党に対して冷たかった(民主党内閣成立後も<期待と不安が相半ばする>旨を書いていた)。
現時点で、自民党を「賞味期限の過ぎた政党」と断定して叙述するこの桑原聡のような、大(?)雑誌、しかも<保守系>とされる雑誌の姿勢は、どのような政治的効果をもたらすだけだろうか。
2009年に自民党離れが生じ、かりに民主党に投票しなくとも<保守派>国民の中に<棄権(無投票)>行動がある程度は生じたと推測されるように、上のような断定は、反民主党(同党政権)の見解をもった国民に対して、自民党にも投票せず、<棄権(無投票)>するという行動を誘発する方向に機能するだろう。そしてそれは、民主党に有利に働くだろう。
かりに現在のような政党状況のままで解散・総選挙が行われた場合、そのような投票行動は、日本を<良い>方向に導くのだろうか? 民主党の延命を助けるだけではないのか。
それに、上のような断定は、<右>からの自民党は「第二民主党」、「民主党と同根同類のリベラル」という批判と共鳴しているとももに、<左>からの、例えば日本共産党(・社民党)のいう、民主党(内閣)は<第二自民党(内閣)>だ、という批判とも共振している。
桑原聡は、上のように、その主張は、日本共産党(・社民党)のそれとも共通することを、いかほど意識しているのだろうか。代表的<保守系>雑誌が、こんな感覚の編集長に率いられているのだから、内容に奇妙な部分が出てくるのもやむをえないだろう。
月刊正論4月号のウリは「保守論客50人が提言~これが日本再生の救国内閣だ!」で、屋山太郎のような「保主論客」とは思えぬ者を含む人々に、それぞれが構想する内閣の布陣(構成)を語らせている。
まじめによく考えられており、かつ現実味がなくはないと感じられる「構想」もあるが、雑誌の全体としていえば、<お遊び>の類だ。保守的論者による保守派政治家・評論家類の「人気投票」のような観もある(一部には文章を書かせているが、じっくりと読みたいものがあるものの、1.5頁~2頁に過ぎず、短か過ぎる)。
八木秀次は「公務員制度改革担当相」に屋山太郎をあてる。筆坂秀世は法務大臣に長谷部恭男(東京大学教授)、「領土問題担当相」に志位和夫(日本共産党委員長)をあてる。野口健は外務大臣に岡本行夫、防衛大臣に前原誠司、環境大臣にC・W・ニコルをあてる。河添恵子は首相に出井伸行、官房長官に辛坊治郎をあてる。……。
重ねて桑原聡はこの雑誌の最後でこう書く-「筆坂秀世氏が領土問題担当大臣に志位和夫氏を指名しているが、現在の国難は、これぐらいの大胆さがないと乗り越えられないのではないか。いかがだろうか」(p.326)。「賞味期限の過ぎた」自民党(中心)内閣よりも、志位和夫を閣僚の一人とする<救国>内閣の方が、桑原には「よりまし」であるらしい。
現実的実現可能性はさておくとしても、この桑原聡は正気で、「いかがだろうか」などと暢気に訊いているのだろうか。
(少なくとも日本の)ジャーナリズム・ジャーナリストの類は(マスメディア一般がそうだが)、総じては、または基本的には、国家・社会・国民を「正」・「善」・「美徳」の方向に導こうなどという気構えはなく、そもそもが何が「正」・「善」・「美徳」かなどという思考をめぐらしもせず(価値相対主義・一種のニヒリズムに陥るとこうなる)、何が<話題になるか>、何が<面白いか(興味を惹くか)>、そして何が<相対的によく(多く)売れるか(儲かるか)>を基準にして雑誌等を編集しているように見える。
例えば「適切さ」はもちろん現実の実現可能性よりも、<面白い>かどうか、<話題になる>かどうか、が基準になっているように見える。
産経新聞社の新(?)編集長のもとでの月刊正論も(いい論考も少なくないのに)、そのような弊を免れていないようだ。