月刊正論編集代表として民主党政権を歓迎または支持していたわけではないが、一方で自民党について、こう書いていた。
「かりに解散総選挙が行われ、自民党が政権を奪回したとしても、賞味期限の過ぎたこの政党にも、わが国を元気にする知恵も力もないように思える」(月刊正論2011年4月号p.326)。
「かりに解散総選挙となって、自民党が返り咲いたとしても、賞味期限の切れたこの政党にも多くを期待できない」(産経新聞2011年3月1日付)。
この<政治感覚>について、当時に批判的にコメントした。
→No.0995「月刊正論編集長・桑原聡の政治感覚とは」(2011/03/07)。
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現時点で「後づけ的」に振り返ると、解散総選挙を経て「賞味期限の切れた」はずの自民党を中心とする安倍晋三内閣が誕生し(2012年12月)、2020年9月までの長期政権となった。
「わが国を元気にする知恵も力もなかった」か、「多くを期待できない」ものだったかは評価が分かれるとしても、編集代表が桑原でなくなった月刊正論は<安倍晋三内閣>をほとんど全面的に支持・擁護する雑誌に変わった。
表面的にのみ言うと、桑原の「政治感覚」は奇妙だった、間違っていた、ということになるだろう。それに、自民党について「賞味期限の切れた」政党とわざわざ明記しておくことの意味をどう理解していたのか、も怪しい。もともと桑原に「政治評論家」的言明をする資格があったのかどうか自体も、疑問だった。
もっとも、2025年参議院議員選挙等を経てみると、桑原の指摘は当たっていた、と言えなくもない。10年以上後のことを予見したのだ、とこの人が強弁するとすれば。
別のテーマになるが、自民党は手っ取り早く「国会議員」になりたい人物が相対的に最も多く集まる政党であり、また、「総裁」(かつ首相)が誰であるかによって、その政策の基本(少なくとも強調する政策方針)が変わる政党でもある。日本の「政党」、戦後の日本「政党」史を過度に真面目に理解すると、実態を見損なう怖れなしとしないだろう。
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二 桑原聡は、編集代表として最後に(退任号に)、つぎの言葉を遺した。
「天皇陛下を戴くわが国の在りようを何よりも尊いと感じ、これを守り続けていきたいという気持ちにブレはない」(月刊正論2013年11月号)。
なぜこの一文が出てきたかを想像すると、直前に「保守のみなさん、……おおらかに共闘しましょうよ」と書いたからかもしれない。
そう書いた自分もまた当然に<保守>なのですよ、と確認しておきたかったのだろう、とも思われる。
なお、上の文章等は、数年後に私が別の論脈で引用し、コメントしている。
→No.1542「『自由と反共産主義』者の三相・三面・三層の闘い①」(2017/05/14)。
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産経新聞社退職後に桑原聡が行なっていることの一部を知ると、この人は本当に(=心から)上のように「天皇陛下を戴くわが国の在りようを何よりも尊いと感じ、これを守り続けていきたいという気持ち」を持っているのか、疑問が生じる。
まず、現時点のネット情報として上がっていないようだが、桑原聡は産経新聞社退職後、早稲田大学(のたぶん学部で)「村上春樹」について(非常勤講師として)講義していた。別の大学で「村上春樹」を講じていたとの情報もある。
詳細な探索をするつもりはないので「いいかげん」であることを認めるが、つぎに、最近は「モンテーニュ」の<随想録>についてどこかに連載しているらしい。
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さて、「天皇陛下を戴くわが国の在りようを何よりも尊いと感じる」と明記した桑原聡と、「村上春樹」や「モンテーニュ」に、とくに前者に、関心をもち講義をしたり文章を書く桑原聡は、同じ人物なのか、という感想を覚える。
「天皇陛下を戴く国の在りよう」への愛着と、「村上春樹」に対する愛着または関心は、印象としては、なかなか共存し難いのではないだろうか。
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そこで、つぎの言葉を使いたくなる。「ビジネス保守」。
桑原聡の「天皇」にかかわる上の前者の言葉は、産経新聞社の社員で月刊正論という雑誌の編集代表をしている、という自己が所属する組織、その中で割り当てられた立場・「肩書き」を意識したもので、私人・個人としての言葉では全くなく、<ビジネス保守>としての言葉でないだろうか。
つまり、「仕事(・業務)として」、「生業の一環として」発しているのではないか。ここでの「保守」は、むろん「産経新聞社的・保守」のことだが、「保守」概念に立ち入らない。
「帰属組織」や体外的「肩書き」によって自己のイメージを自ら形成していく、というのは、珍しくはない。その「自己の」主張や見解についても同じだ。
そのような制約が付いた「組織人」の言葉を「真面目に」受け取る必要はない、という教訓は、当たり前のことながら。またささやかながら得られるだろう。桑原聡だけではなく、もちろん、全ての新聞・雑種・テレビ放送局等の「組織」に属している者の主張・見解について言える。
「ビジネス保守」という言葉は、桑原聡に関連して、すでに以下で使った。
→No.2637/「月刊正論(産経新聞社)と皇室」(2023/06/03)。
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補 桑原聡の出身大学・学部を知りたい、と書いた2018年の文章をより正確に引用しておく(→No.1825/2018.07.08.)。
「『(狭義の)文学・哲学・外国語』関係学部出身者こそが、戦後日本を奇妙なものにしてきて、きちんとした政策論・制度論をできにくくし、<精神論・観念論>的な議論を横溢させてきたように感じられる。
もちろん、総体的かつ相対的な話として書いている。
渡部昇一、加地伸行、小川榮太郎、江崎道朗、花田凱紀、長谷川三千子。全て、歴史以外の文学部出身だろう(外国語学部を含める)。桑原聡を含む月刊正論の代々編集代表者、月刊WiLLの編集者の出身学部を知りたいものだ。…
上に限らない。例えば、以下の者たちは、東京大学仏文学科出身だ。大江健三郎、鹿島茂、内田樹。…」
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