秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

松岡洋右

0993/日本の「保守」は生き延びられるか-中川八洋と渡部昇一。

 敗戦・占領に伴うGHQによる日本国憲法の実質的な「押しつけ」とその憲法が今日まで一文も改正されることなく効力をもち続けていることは、日本国家と日本国民にとって屈辱的なことで、改正または実質的には新憲法の(当然に自主的な)制定は国家と国民のの基本課題とすら言えるだろう。

 だが、物事の見方は多様で、上のような見方よりもはるかに巨視的に判断している者もいる。

 中川八洋・山本五十六の大罪―亡国の帝国海軍と太平洋戦争の真像(弓立社、2008)の「まえがき/昭和天皇のご無念」がそれだ。

 中川によると、今日の日本<滅亡>の危機の元凶は昭和前期の「狂気」にあり、「GHQ七年間」の占領に原因があるのではない。それどころか、「マクロに考察すれば、GHQ占領こそ、天皇制度の温存にしろ、自由経済にしろ、政党政治の回帰にしろ、日本の国家蘇生に裨益した」。「憲法第九条など有害なものも多いが」、それは「ミクロに観察」した場合のこととされる(上掲書p.5)。

 これには驚いた。だが、なるほど中川八洋は戦争の継続と被害の増大・日本の焦土化のあとに「共産革命」がありえたと判断している、つまり「共産主義者」たちは日本の徹底的な破壊のあとの「革命」=<社会主義日本>の樹立を狙っていたと理解しているので、それに比べれば、昭和天皇の「御聖断」による終戦と「自由主義」国・米国による実質的な単独占領は、そのような「共産革命」を防いだ、<よりまし>なことだった、と捉えられることになる。

 こういう見方は、決して荒唐無稽ではない、と思われる。たしかに種々の大きな課題・禍根をGHQ「占領」は残したが、ソ連の影響力のもとでの日本全体または日本の半分の「社会主義」国化、ソ連の「傀儡」国家化は、東欧や北朝鮮に実際に生じたように、まったくありえなかったわけではない、と考えられる。もしも、戦争がさらに継続され、ソ連が先に、あるいは米国とソ連がほぼ同時に日本国土に上陸していたならば…、戦慄する事態になっていただろう(国内にはそれに迎合し、ソ連を歓迎する「共産主義」勢力が存在した)。

 だが、中川八洋とて、「日本国憲法」が現在のままでよいとは考えていないだろう。

 中川八洋・民主党大不況(清流出版、2010)の基本的なコメントの第二のマクラのつもりで書き始めたが、すでに長くなった。

 方向を転換して、上掲書にさらに言及しよう。

 中川八洋は、次のようにも書いている。日独伊三国同盟締結という「大罪」を犯した松岡洋右らまで、「軍人でもなく戦死したわけでもないのに祀る」という「前代未聞の暴挙」を靖国神社は1978年に行った(p.6)。すでに言及したが、中川八洋によれば、大東亜戦争とは日本国内の「共産主義者」たちがコミンテルンらと結びついて、日本を大崩壊させ、のちに「共産」日本を樹立するための陰謀で、「国家反逆性」(p.6)をもつ。

 いつか述べたように、道徳的な「悪」とは言えない戦争と敗戦を出発点として考えたく、あの戦争にかかる開戦・敗戦の原因等々の詳細に立ち入って<復習>しようという関心はほとんどない。

 中川八洋の主張についても、論評する資格はない。ただ、ありうる、成り立ちうる議論で、そのうち触れるだろうように、中川のいう「民族派」の中にも、戦争の過程での「共産主義」勢力の関与・策略をきちんと指摘する論者も少なくない、とは感じている。

 だが、大東亜戦争=「(日本)国家反逆」という性格づけには、上の松岡ら靖国合祀批判も含めて、「民族派」あるいは<ナショナリスト保守>の多くの論者はおそらく納得できないだろう。

 しかしながら、奇異なことに、上掲書(中川八洋・山本五十六の大罪―亡国の帝国海軍と太平洋戦争の真像)のオビ(の表紙側)には、こんな言葉が印刷されている。

 「渡部昇一、大絶賛!! 大東亜戦争の真実が、帝国海軍についての初めての解剖的研究で、これほど迫真的に暴かれたことはかつてなかった。中川八洋氏のこの衝撃の新著は、現代史の超重要文献だ!」

 何と、渡部昇一は2008年刊の上掲書にこのような称賛・推薦の言葉を寄せている。個々の論点のすべてについて賛同するという趣旨ではなくとも基本的にまたは全体としては共感するからこそ、かかる称賛・推薦の言葉を書いた(または原文・素案を承認した)ものと思われる。のちに明確に「保守」ではない「民族派」と位置づける渡部昇一の称賛・推薦を受けた中川八洋もどうかと思うが、自分の名前がいろいろな所に出ればよいとでも考えたのか、渡部昇一の感覚もまた、異様に感じられる。

 渡部昇一の近年の日本歴史の何冊かの本は読む気はないが(購入の予定もない)、日支戦争・太平洋戦争(大東亜戦争)に対する見方・歴史観は、中川八洋と渡部昇一とは、まるで違う、むしろ真逆なのではないか。前回に書いたことと併せてみても、渡部昇一というのは、どうも信頼が置けない。そもそもきちんとゲラ刷りを概読でもしてから「大絶賛!!」の文章を書いたのか?。そうではない、いいかげんな人物だと思われる。こんな「保守」派論客が代表者の一人とされているようである<日本の保守>とは、いったい何か。「生き延びられる」未来はあるのだろうか。

-0005/「靖国問題」は存在しない方が望ましいのだが。

 仕事が後半も終了し、帰宅して夕食後に数時間寝てしまう。本格的な就寝時刻が心配だ。今日は久しぶりにないと思っていたら、覚醒後に2+2で計4冊が届いていた。
 昨日に続いて保阪正康にこだわって?みるが、文藝春秋9月号p.120の、講和条約までは戦闘中でそのさ中の東京裁判による処刑者は戦場の戦死者と同じ、と自ら紹介する松平某靖国神社宮司の見方への、占領軍の車にはねられて死んでも靖国に祀られるのか、「かなり倒錯した歴史観」だ、との批判は、妙な例示も含めて、「かなりエキセントリックな」言葉遣いによる批判だ。秦の言うとおり、「そういう考え方もある」。占領自体が広くは「戦争」政策の継続で、東京裁判もその一環だった、という見方が完全な誤りとは思えない。
 「処刑された人々」以外に松岡洋右等の病死者も祀っているのが問題になりそうだが、いわゆるA級戦犯として被告人とされたこと自体が戦いの被害者だと見ることによって、理由づけできなくはない(私見を述べているのではない)。保阪の大仰な現?宮司批判に首を傾げた。
 朝日新聞社が社説も含めて「首相靖国参拝」に反対している理由は(一貫しているとは限らない新聞社なので現在のそれとしか言いようがないが)、東京裁判を受諾するとした講和条約による主権回復こそが戦後日本の出発点だった、その東京裁判にもとづき処刑された「戦犯」たちを「祀る」神社に参拝するのは、東京裁判受諾という原点を揺るがすものだ、ということにあるようだ(0804社説等)。
 この「理屈」に関係させていうと、東京裁判受諾の意味が問題とされ、「裁判」でなく「諸判決」という読み方もあるが、私見によれば裁判があってこその判決、裁判の一環としての判決なので「裁判」と「判決」を厳格には区別できない。だが、「受諾」の対象に諸判決の「理由」の中に書かれてあるすべて事項・考え方を含ませるのは間違いで、指摘あるように(上雑誌p.325-6)、宣告された諸判決のうちとくに禁固刑判決を講和後もきちんと執行することを約束した(そしてその他の部分にもはや国としては異議申立てしないことも約した)だけのことで(それも関係国の了解を得て緩和できた。だから、賀屋大臣もその後誕生した)、具体的な事実関係の認定、正邪・善悪の判断まで永久に東京裁判判決に拘束されるいわれはない、と理解している。朝日新聞は東京裁判に対する自由な言論を自ら封殺しているのだ。
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