秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

東大寺大仏

0868/産経新聞上での東大寺大仏-渡部裕明とついでに佐伯啓思。

 産経新聞4/17で、論説副委員長・渡部裕明は「『遷都』に学ぶ国家のあり方」とのタイトルのもとで書く。
 奈良の大仏=「東大寺大仏」は当時の「人々の努力の結晶」で、その意義は大きさではなく「人々の喜捨によって造られた点」にある。この大仏は「国民の心を一つにさせた」。

 その他、飛鳥京から平城京への「遷都」の背景・理由等にも言及があるが、論説副委員長が書くにしては、あまりに教科書的・通説的すぎるのではないだろうか。大仏建立の目的等についても、あまりに表面的で、史料実証主義の弊はないだろうか。

 どうもこの論説副委員長は、反マルクス主義を明確にし、旧日本社会党や社民党の<九条(護憲)教>への皮肉等にも満ちている、井沢元彦逆説の日本史(小学館)のシリーズを一冊も読んでいないようだ。文科省の検定済み教科書を範とすることだけが産経新聞の社是ではないだろう。

 井沢元彦の本を手元に置く面倒は避ける。
 以下は、たぶん井沢元彦が書いていたことではなく私の個人的感想にすぎないが、東大寺大仏のような巨大な建造物は、なるほど当時の庶民の努力と技術の結晶でもあるのだろうが、<日本人本来の美意識>からはズレているような気がする。

 上へ上へと(天により近く)伸びるような、教会の高い尖塔が欧州のとくにゴチック建築物に見られる。だが、日本の宗教は、高さや巨大さによる威容を示して、人々を屈従させる(と言って悪ければ、信仰へと導く)ような態度をとってきたのだろうか。

 仏教ではなく神道の場合、典型的には伊勢神宮がそうだが、ご正殿は素朴で決して大きくはない。さらには、寺院では<本尊>にほぼあたると思われるカミの依り代は、正殿(・本殿)の中に隠されていて参拝者の目には触れない。さらには、その正殿と参拝者の間には閉じられた門(と玉垣)があって、正殿すらをも見ないままで、参拝者は柏手を打つのだ。

 伊勢神宮を想定したが、他の神社でも、おおむね拝殿と正殿(・本殿)は別にあって(建築物の構造上、一体化している場合等もある)、本殿の中は見えないか、見えても決して大きくはない丸い鏡などを遠くから望むことができるだけだ。

 神道(神社神道)は、決して威張らず、目立とうともしないカミを中心に置いているのではないか、と素人ながら感じている。

 寺院でも、本尊の形の大きさは必ずしも如来・観音・菩薩等の<偉さ>や<価値>とは無関係だとされているのではないか、と思われる。小さな木彫にすぎないご本尊(の物体化したもの・徴表)が本堂の中央に置かれているのは、しばしば目にすることだ。

 そうした経験および観点からすると、私自身は東大寺大仏の巨大さには違和感を覚える。そして、なぜこんな巨大なものを造ったか(造らせたか)という、当時の為政者側の特有の事情にむしろ関心をもつ。

 したがって、渡部裕明のように単純素朴に書くことはできないし、単純素朴にお説拝聴というわけにはいかない。

 産経新聞4/19佐伯啓思のコラム「平城遷都1300年に思う」も最後に東大寺大仏に言及している。天皇の政治的位置づけの変遷または時代的類似性にコラム全体の主眼があるが、あまり面白くはない。「巨大大仏」と今日の「巨大高層ビル」を対比させるあたりもやや苦しそうだ。

 だが、「大仏はいまでも鎮座しているが、それは巨大な観光資源になってしまっている」、という感覚は、東大寺大仏を見て<国家と国民の関係>を考え直そう(大仏の建設・再建には国民が積極的に?協力した)という趣旨を述べている渡部裕明の感覚よりは、相当にまともだ、と思う。

0826/長部日出雄・「君が代」肯定論(小学館101新書)の一感想。

 長部日出雄・「君が代」肯定論(小学館101新書、2009)はずっと前に、概略は読んだ。タイトルはテーマではなく(あるいは一つにすぎず)、「世界に誇れる日本美ベストテン」として、伊勢神宮・出雲大社・古事記・法隆寺五重塔・東大寺大仏・明治神宮・「羅生門」・「釈迦十大弟子」・「お伽草紙」・「君が代」を挙げて、それぞれにつき叙述する。
 書物の趣旨・内容に大きな不満はないし、むしろ肯定的に読まれるべきだろう。
 しかし、気になることもある。
 第一。伊勢神宮を語るのに、カント→カントの墓のあるカリーニングラードで成育した建築家ブルーノ・タウト、という外国人二人からなぜ始めるのだろう。
 出雲大社を語るのに、ラフカディオ・カーンという外国人の経歴からなぜ始めるのだろう。
 古事記を語るのに、外国人作家C・S・ルイスの作品からなぜ書き始めるのだろう。
 東大寺大仏に関する叙述はなぜ、マックス・ウェーバーから始まるのだろう。
 文章の書き方の趣味・作法の一つと言われれば、そうだというしかないかもしれないけれども。
 第二。かつて何であったか忘れたが、長部日出雄の文章の内容に感心・共感するともに、「左翼臭」を感じたこともあった。
 長部が伊勢神宮を初めて訪れたのは「なんと還暦をすぎてから」らしい(p.24)。「敗戦直後」の「いちばん多感な少年期」のために、「皇国史観アレルギー」が「骨髄まで徹して」、伊勢神宮を含む高校の修学旅行への参加を拒否し、「以後もずっとそこを敬して遠ざける人生」だった、という(同上)。
 同書の著者経歴欄によると、長部日出雄(1934~)は大学中退後、「週刊誌記者、フリーライター」を経て「作家」活動に入っている。
 「皇国史観アレルギー」が「骨髄まで徹して」、伊勢神宮を「敬して遠ざけ」てきたのが正確にいつまでなのかは分からないが、中高年になっても、少なくとも「還暦」の頃までは、上のような心情・態度だったと推察される。「還暦をすぎて」、「生まれて初めて鳥居をくぐって、…一回りしたとたんに、いっぺんに宗旨変えし」た、と書いている(p.24)。
 伊勢神宮のもつ不思議な力については共感する。
 だが、気になるのは、とくに「週刊誌記者、フリーライター」の時代に、「皇国史観アレルギー」を抱きつつ、いかほど<進歩的>・<左翼的>な文章を書いてきたのだろう、ということだ。そして、読者にいかほど<進歩的>・<左翼的>な影響を与えてきたのだろう、ということだ。そのような文章を、今では<自責>とでも称しうるような感覚で振り返っているのだろうか。
 他人の、しかも「作家」様の人生経路を、とやかく言う資格はないかもしれないけれども。

ギャラリー
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