日本評論社刊のマルクス主義法学講座第五巻を古書で入手したが、この巻はたまたま最終配本号で発行は1980年8月だ。
6/10に書いたように第一回配本の第一巻刊行は1976年6月だった。4年余りを経て、全8巻が刊行されたことになる。
この講座ものが日本共産党員学者を中心に執筆されていると見られることはすでに記した。
1976年頃は同党は<70年代の遅くない時期に民主連合政府を>というスローガンを掲げていて、衆院に限ると1967年・5→1969年・14→1972年・38と三倍近くの増を二回繰り返していたから、かりに二倍ずつの増加としても、あと二回の総選挙で→76→152になることになり、日本社会党との連立政権(両党で過半数制覇)も夢ではない雰囲気がいっときはあった。だが、衆院議席数は1976年に16と下がり、1979年に39と盛り返したものの、100にはとても届かず、民主連合政府の<夢>も幻となった。
参院も1971年・10→1974年・20と倍増していたが、その勢いは続かず、1977年には16と後退した。
余計なことを書いているが、このマルクス主義講座が刊行された1976年には日本共産党系マルクス主義者には現実的<夢>がまだあった。近いうちに自らが党員である又は強く支持する日本共産党が参加する政権生まれるという希望をもっていただろう。しかし、全巻が揃った1980年には客観的にはその<夢>が現実化するのはきわめて困難なことが明らかになっていたはずだ。
それでも、ともあれ、マルクス主義法学講座なる大系ものが出版されたというだけでも、現在とは異なる1970年代後半の<雰囲気>の一端は感じ取るべきだろう。どのような想いで、執筆者たちは講座完結の日を迎えたのだろう(その後、この種の「マルクス主義法学」講座ものは出ていない。この語を題に使った本も極めて稀だろう)。
編集委員一同は末尾の「講座の完結にあたって」で、「この講座を出発点とし、あるいはこれをふみ台として、若い優秀なマルクス主義法学研究者が多数育ってくれれば、これに過ぐる幸いはない」と書いているが、はたして、80年代以降に全く新しいマルクス主義法学研究者たちの養成・成長があったのかどうか。むろんよくは知らないが、現在(表向きは隠していても)マルクス主義的な法学研究者である者は、ほとんどが70年代末までにはマルクス主義の<洗礼>を受けていたようにも思える。
但し、マルクス主義法学研究者の指導を受けた者の多くは積極的なマルクス主義者にならずともマルクス主義を異端視あるいは嫌悪しない<容共的>研究者になっただろうことは想像に難くない。
上の末尾の言葉の中には、出版社としての日本評論社への謝辞もあり、社長の小林昭一、「担当」の林克行(現在、社長)、山本雄の三名の名を挙げている。かかる講座を企画・出版することは、それなりの<思い入れ>がないとできないだろう。この三名の名も記憶にとどめたい。
さて、第五巻は<ブルジョア法の基礎理論>が全体テーマで、執筆者・担当部分は次のとおりだ。()は所属。6/10に既に記した者については省略した。
<渡辺洋三(東京大)-「はしがき」・「第一章・総論」・「第二章・財産制度―その理論史的検討」・「第四章第二節・家族/現代家族法理論の課題三」
本間重紀(静岡大)-「第三章・現代財産権論」
江守五夫(千葉大)-「第四章第一節・家族/近代市民婚姻法の構造」
黒木三郎(早稲田大)-「第四章第二節・家族/現代家族法理論の課題一・二・四」
長谷川正安(名古屋大)-「第五章-基本的人権」・「第六章第一節・議会主義と権力分立/近代憲法の組織原理」
森正(名古屋市立女子短大)-「第六章第二節・議会主義と権力分立/議会主義」
今井証三(日本福祉大)-「第六章第三節・議会主義と権力分立/権力分立」
下山瑛二(東京都立大)-「第七章・行政権」>
以上で目につくのは、編集委員でもある渡辺洋三(東京大学社会科学研究所)と長谷川正安(名古屋大学法学部)が、重要な部分をかつ分量的にも長く執筆していることだ。
それぞれ岩波新書を複数書いているこの二人が、この当時および1980年代くらいまでの、日本共産党系マルクス主義法学者のリーダー格だったと推測できなくもない。
本間重紀
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