西尾幹二「トヨタ・バッシングの教訓」同・日本をここまで壊したのは誰か(草思社、2010)(初出、月刊ボイス2010年5月号)は、主として、日本の経済人批判。
 西尾によると(p.55-56)、米国の「トヨタ・バッシング」にかかわる責任は新社長・豊田章男にはなく、元社長・会長、2002以降の初代日経連会長でもあった奥田碩にある。
 西尾は言う。奥田碩は「朝日新聞が『地球市民』という言葉をはやらせたように、永年にわたり『地球企業』などと歯の浮くような甘い概念を撒き散らして、トヨタ社内だけでなく日本社会にも相応に害毒を流していた」。
 そして、奥田には「『マッカーサー鎖国』に全身どっぷりひたっているくせに、自分だけは地球規模で開かれた国際人の指導者であるかのように思いなした自己錯覚」があり、それこそが今回の「自社損傷の破局」の真因だ。
 奥田碩はその著書等で、EUの市場統合を理想として、「国や地域」にとらわれず「東アジアの連携を強化」しつつ自力で(明治維新・戦後改革に次ぐ)「第三の開国」をする必要を説いた、という(p.52-53)。
 他に、「グローバル企業」キャノン社長・前経団連会長)の御手洗富士夫や、ゼロックス会長・小林陽太郎、日本IBMの北城恪太郎も俎上に乗せられている。
 上の後二者は、中華人民共和国を日米と大差のない<ふつう>の国と見なし、同国の反発を気にして、日本の首相の靖国参拝に反対した、という(p.38-39)。
 日本の戦後の学界(・大学関係者)、文筆家(・評論家)に「左翼」=<戦後の体制派>が多いことはよく知られたこと。これらを朝日新聞や岩波書店は支えており、ある面ではリードすらしている。日本の戦後のマスメディアの主流=体制派も「左翼」。
 以上のほか、最近何で読んだのだったか、<日本の行政官僚>もまた、進歩的・合理的な志向の「左翼」、少なくとも<何となく左翼>が多いようだ。その<売国>性は、外務省官僚については、つとに指摘されてきた。
 行政官僚も日本国憲法とその下での戦後の基本的な法律等を勉強して官僚になっているのだから、日本国憲法と民法・刑法等々の「価値観」を自然に身につけていることは想像に難くない。
 立ち入らないが基本的に同じことは司法官僚、ここでは「裁判官」についても言えると思われる。日本国憲法と民法(家族法を含む)・刑法・訴訟法等々の「価値観」を身につけた優等生である彼らが、少なくとも<何となく左翼>にならないはずがない。
 自民党に所属した宮沢喜一・河野洋平等を西尾幹二は<日本を壊した>者として挙げているが、谷垣禎一・現総裁は宮沢派を継承した党内<リベラル>派で、田母神俊雄<更迭>を何ら批判しないでむしろ田母神に苦言を呈した石原伸晃や、<日本国憲法のどこが悪いんだ!>と発言していた後藤田正純が目立っているようでは(他に河野の子息も中では目立っている)、自民党も少なくとも半分は「左翼」なのかもしれない(「左翼」の理解の仕方にもよる)。
 そして、経済人、あるいは財界人。この人たちも中国市場を重視し、<グローバル(企業)>化を目指しているぎりで、国籍を失った、ナショナリズムに批判的な、「左翼」となり果てているようだ。
 何度も書いてきて厭きもするが、日本はどうなるのだろう。企業のトップにある者たちも、会社の利益のために中国を堂々と批判できないようでは<自由経済>体制は守れるのか。かりに企業のトップにある者たちの多くも民主党に投票するのだとすれば、ゾッとする想像になる。
 西尾幹二は言う。-「経済が牙を持たない限り」=「経済が国家の権力意思を示す政治の表現にならない限り」、経済自身の維持を困難にする「隘路」に追い込まれる。このことに気づかないのが「経済は経済だけで自立していて勝手に翼を広げられると思っている人々」、奥田碩、御手洗富士夫、小林陽太郎、北城恪太郎らの「現代日本の経済人」だ(p.63)。