一 今回(2025年7月)の参議院議員選挙用の自由民主党の「公約」を見ていると、「憲法改正の条文イメージ」として、つぎの4項目を記している。
「①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消・地方公共団体、④教育充実」。
長らく「現行憲法の自主的改正」を党是としてきた政党がこの体たらくだと、現行憲法はすでに80年近く改正されていないが、2047年まで、つまり施行から100年間、一度も改正されることなく通用してしまうのではないか。ちなみに、大日本帝国憲法の施行期間は(1945-1889で)56年または(1947-1889で)58年だった。
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二 「公約2025」以外の自民党文書をより正確に確認する必要があることは認める。だが、つぎのように指摘して差し支えない、と考えられる。
上の項目記載を「条文イメージ」と称するのは間違っている。どんな「条文」の「イメージ」も出てこないからだ。また、この「公約」に限らず、どの項目についても、自由民主党は「案」であれ「条文づくり」を行なっていない。
かつて二度にわたって全体にわたる「改正憲法草案」を自民党は発表した。しかし、九条二項の削除を前提として「国防軍」、「自衛軍」を設置する旨のそれらにあった条項は、安倍晋三内閣による、九条二項存置を前提とする「九条の二」(または九条三項追加)による<自衛隊明記>案によって、実質的に放棄された、と言ってよい。
しかもまた、すでに長く経過した<自衛隊明記>の「条文」案が全く提示されていないのだから、ほとんど話にならない。
日本会議系の「日本政策センター」の伊藤哲夫らによる<自衛隊明記>案を安倍晋三が採用したのだとすると、同センター・伊藤哲夫の果たした役割は(現九条二項に手をつけさせなくなるという意味で)犯罪的だ(+犯罪的だった)。歴史的にそう断罪されるだろう。
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安倍晋三が突然に<自衛隊明記>案を発表したのは2017年の憲法記念日だった。そのビデオ・メール(挨拶)を受けた櫻井よしこらの憲法改正集会の最後では、櫻井よしこは<緊急事態条項を!>と叫んで拳を上げていた。
ということは、櫻井は安倍の<自衛隊明記>論をその日まで知らなかった、ということになる。
もちろん、彼女(と代表をしている憲法改正運動団体)は、その日以降は<自衛隊明記>改正案を第一に掲げるように<変転>したのだったが。
「①自衛隊の明記」案の問題性ついては、この欄にすでに何度も触れたので、繰り返さない
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上の②と④の適否は、具体的な「条文案」を手がかりにしてこそ議論できるもので、「条文案」を示していない(又は示すことができない)のは無責任だ。
「緊急事態対応」にせよ「教育充実」にせよ、現憲法を改正しなければできないことと、現行の法律(を含む法令)を改正する、又は新たに制定することによってできることもある。
この区別を意識することなく、どうして「憲法改正」を語ることができるのか。例えば一定の緊急事態に(当面)法律と同等の効力をもつ政令を内閣は制定できる、としたいならば憲法改正による新条項が必要だ。だが、現行法律の改正等で「緊急事態対応」を配慮することができる事項もある。
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三 上の③は、ひどい。
自民党には法曹資格をもつ国会議員等もいるはずだが、「合区解消」を憲法改正の主題の一つにするようでは、まともに党内議論はなされていないのだろう。なお「・地方公共団体」との追記があるのは意味不明だ。
現憲法は、「地方公共団体」という語を用いているが、都道府県と市町村の二層制を前提とするとはどこにも書いていない(但し、現在の(法律上の)東京都の「特別区」部分以外は、現憲法施行当時の「二層制」をやはり採用しているというのが最高裁判例のようだ)。
重要なのは、各「都道府県」の設置と各名称は、現行法律にもとづいている、ということだ。法律により、又は法律が定める手続により、これらを変更することができる、ということだ。
国会議員選挙の際の島根県・鳥取県、高知県・徳島県の各「合区」は地方自治法(法律)でもない公職選挙法(法律)が定めたことだ。よって、その趣旨の公職選挙法の関係条項を改めれば、元に戻して「合区解消」することは不可能では全くない。
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憲法に「合区解消」を明記する? いったいどういう条文になるのだろうか。
「現在の都道府県の二つ以上を合わせた選挙区を設けてはならない」。
こんな条文を憲法上に作れない。「現在の都道府県」というのは、現行の法律を見ないと分からず、現行憲法をどう読んでも47都道府県は明らかにならない。
「選挙区」とは何かも、現憲法上から明確にならない。
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この「合区解消」案が憲法改正の一問題として出てきたという報道をだいぶ前に知ったとき、自民党は「狂って」いるのではないか、法曹資格をもつ国会議員は、さらには大学法学部出身の国会議員は何を考えているのか、と感じたものだ。
上に挙げた4つの県の選出議員・関係議員の「顔を立てて」、きっと自分の国会議員たる地位に関係がない問題については何も異論を挟まなかったのだろう。
しかし、「最高法規」たる憲法改正の対象事項について、これほどに鈍感であってよいのか。
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四 憲法を現実の変遷にも対応して<より合理的な>内容のものにすることは、国民全体の、とりわけ「発議」権者(とされている)国会の構成員の重要な責務だろう。
現憲法97条の「精神的」(説教的?)規定の内容には問題がある、とこの欄で指摘したことはある。
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より具体的な論点として、以下がある、と近年に考えた。
第一。内閣(内閣総理大臣ではない)の一存だけによる(天皇への助言手続は必要だが)<衆議院解散>権の否認。これは本来は現憲法の「解釈」問題だと考えられる。だが、これまでの「憲法慣行」と「司法実務」から見て、憲法改正が必要のようだ。
第二。長と議会の二元制、長と議会議員の住民による「(直接)選挙」制、の二つを、現憲法は<全国一律に>、つまり全ての「地方公共団体」について要求している。200人の村から東京都まで。これを、もう少し柔軟に法律によって(極論すれば各「条例」でということになるが?)定めることができるように改める。
なお、<道州制>は、道州の長と(道州議会設置を前提として)道州議会議員の「公選」制を採用するかぎりは、現憲法に違反せず、法律レベルの改正で採用可能だと考えられる。これらを採用しない場合は、憲法改正が必要になりそうだ。
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「①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消・地方公共団体、④教育充実」。
長らく「現行憲法の自主的改正」を党是としてきた政党がこの体たらくだと、現行憲法はすでに80年近く改正されていないが、2047年まで、つまり施行から100年間、一度も改正されることなく通用してしまうのではないか。ちなみに、大日本帝国憲法の施行期間は(1945-1889で)56年または(1947-1889で)58年だった。
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二 「公約2025」以外の自民党文書をより正確に確認する必要があることは認める。だが、つぎのように指摘して差し支えない、と考えられる。
上の項目記載を「条文イメージ」と称するのは間違っている。どんな「条文」の「イメージ」も出てこないからだ。また、この「公約」に限らず、どの項目についても、自由民主党は「案」であれ「条文づくり」を行なっていない。
かつて二度にわたって全体にわたる「改正憲法草案」を自民党は発表した。しかし、九条二項の削除を前提として「国防軍」、「自衛軍」を設置する旨のそれらにあった条項は、安倍晋三内閣による、九条二項存置を前提とする「九条の二」(または九条三項追加)による<自衛隊明記>案によって、実質的に放棄された、と言ってよい。
しかもまた、すでに長く経過した<自衛隊明記>の「条文」案が全く提示されていないのだから、ほとんど話にならない。
日本会議系の「日本政策センター」の伊藤哲夫らによる<自衛隊明記>案を安倍晋三が採用したのだとすると、同センター・伊藤哲夫の果たした役割は(現九条二項に手をつけさせなくなるという意味で)犯罪的だ(+犯罪的だった)。歴史的にそう断罪されるだろう。
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安倍晋三が突然に<自衛隊明記>案を発表したのは2017年の憲法記念日だった。そのビデオ・メール(挨拶)を受けた櫻井よしこらの憲法改正集会の最後では、櫻井よしこは<緊急事態条項を!>と叫んで拳を上げていた。
ということは、櫻井は安倍の<自衛隊明記>論をその日まで知らなかった、ということになる。
もちろん、彼女(と代表をしている憲法改正運動団体)は、その日以降は<自衛隊明記>改正案を第一に掲げるように<変転>したのだったが。
「①自衛隊の明記」案の問題性ついては、この欄にすでに何度も触れたので、繰り返さない
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上の②と④の適否は、具体的な「条文案」を手がかりにしてこそ議論できるもので、「条文案」を示していない(又は示すことができない)のは無責任だ。
「緊急事態対応」にせよ「教育充実」にせよ、現憲法を改正しなければできないことと、現行の法律(を含む法令)を改正する、又は新たに制定することによってできることもある。
この区別を意識することなく、どうして「憲法改正」を語ることができるのか。例えば一定の緊急事態に(当面)法律と同等の効力をもつ政令を内閣は制定できる、としたいならば憲法改正による新条項が必要だ。だが、現行法律の改正等で「緊急事態対応」を配慮することができる事項もある。
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三 上の③は、ひどい。
自民党には法曹資格をもつ国会議員等もいるはずだが、「合区解消」を憲法改正の主題の一つにするようでは、まともに党内議論はなされていないのだろう。なお「・地方公共団体」との追記があるのは意味不明だ。
現憲法は、「地方公共団体」という語を用いているが、都道府県と市町村の二層制を前提とするとはどこにも書いていない(但し、現在の(法律上の)東京都の「特別区」部分以外は、現憲法施行当時の「二層制」をやはり採用しているというのが最高裁判例のようだ)。
重要なのは、各「都道府県」の設置と各名称は、現行法律にもとづいている、ということだ。法律により、又は法律が定める手続により、これらを変更することができる、ということだ。
国会議員選挙の際の島根県・鳥取県、高知県・徳島県の各「合区」は地方自治法(法律)でもない公職選挙法(法律)が定めたことだ。よって、その趣旨の公職選挙法の関係条項を改めれば、元に戻して「合区解消」することは不可能では全くない。
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憲法に「合区解消」を明記する? いったいどういう条文になるのだろうか。
「現在の都道府県の二つ以上を合わせた選挙区を設けてはならない」。
こんな条文を憲法上に作れない。「現在の都道府県」というのは、現行の法律を見ないと分からず、現行憲法をどう読んでも47都道府県は明らかにならない。
「選挙区」とは何かも、現憲法上から明確にならない。
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この「合区解消」案が憲法改正の一問題として出てきたという報道をだいぶ前に知ったとき、自民党は「狂って」いるのではないか、法曹資格をもつ国会議員は、さらには大学法学部出身の国会議員は何を考えているのか、と感じたものだ。
上に挙げた4つの県の選出議員・関係議員の「顔を立てて」、きっと自分の国会議員たる地位に関係がない問題については何も異論を挟まなかったのだろう。
しかし、「最高法規」たる憲法改正の対象事項について、これほどに鈍感であってよいのか。
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四 憲法を現実の変遷にも対応して<より合理的な>内容のものにすることは、国民全体の、とりわけ「発議」権者(とされている)国会の構成員の重要な責務だろう。
現憲法97条の「精神的」(説教的?)規定の内容には問題がある、とこの欄で指摘したことはある。
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より具体的な論点として、以下がある、と近年に考えた。
第一。内閣(内閣総理大臣ではない)の一存だけによる(天皇への助言手続は必要だが)<衆議院解散>権の否認。これは本来は現憲法の「解釈」問題だと考えられる。だが、これまでの「憲法慣行」と「司法実務」から見て、憲法改正が必要のようだ。
第二。長と議会の二元制、長と議会議員の住民による「(直接)選挙」制、の二つを、現憲法は<全国一律に>、つまり全ての「地方公共団体」について要求している。200人の村から東京都まで。これを、もう少し柔軟に法律によって(極論すれば各「条例」でということになるが?)定めることができるように改める。
なお、<道州制>は、道州の長と(道州議会設置を前提として)道州議会議員の「公選」制を採用するかぎりは、現憲法に違反せず、法律レベルの改正で採用可能だと考えられる。これらを採用しない場合は、憲法改正が必要になりそうだ。
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