天皇・皇室による宮中での祭祀のための費用(および伊勢の神宮等の特定の神社への幣帛等のための費用若しくは幣帛料そのもの)は現行法令上は皇族の<私的>行為・活動のための「内廷費」から支出されている。これはいかにも奇妙であり、憲法上の<政教分離>原則と辻褄を合わせるための<大ウソ>ではないか、というのが当初に抱いた問題関心だった。
政教分離に関する重要な最高裁判決がいくつかあり、関係下級審判決も出ていることは知っているが、判決例には立ち入らない。
私がもったような問題関心は、しかし、当然だろうが誰かがすでに似たようなことを指摘しているもので、少なくとも一部の学識者によって共有されている。
八木公生・天皇と日本の近代・下-「教育勅語」の思想(講談社現代新書、2001)は<天皇と日本の近代>二冊の最後の部分で(p.324~7)、天皇・祭祀・憲法の関連に言及して、締め括っている。論理展開(とくに敗戦前の状態の記述)を詳述することを得ないが、こんなふうに指摘する。
<「政教分離の原則」のもとで「天皇の祭祀を宗教活動とみなして」憲法条項上の明記を排除したのは「明治国家に内在したあやまち」を逆の意味で繰り返している。「祭祀と宗教の混同」が、換言すれば、「祭祀行為」を「一定の教義の承認という意味での信仰」と見なす過ちがある。>
そして、八木公生は実質的には憲法改正問題に、次のように論及する。
<「日本国」のありようは「天皇の祭祀行為」を憲法に「いかに規定するか、あるいは逆に規定しないか」にかかっている。すなわち、「現憲法第一条の、さらにその前提として」、「天皇の祭祀行為」を「日本国」とのかかわりで「いかに規定するか」(いわば「憲法第0条」をどう表現するか)という「一点」に、「現在のわたしたちの課題がある」。>
なかなか鋭い指摘だ。また、惜しくも故人となった坂本多加雄は<天皇制度>に関する大著ももっているが、亡くなる1年半ほど前の月刊ヴォイス2001年5月号(PHP)(憲法特集)にこんなことを書いていた。以下はごく簡単な要約。
<九条・「平和主義」問題もあるが、「より立ち入った理論的検討が必要」なのは、「天皇とそれに関する国家の儀礼」をどう位置づけるか、さらに「国民主権」との関係をどう理解するか、にある。/「皇室行事は、天皇が天皇であることの証明」であり、とすれば天皇を「象徴」とする日本国の国民にとっても、それは「たんなる天皇家の私的行事ではないはず」で、「何らかの公的な意味づけが必要」だろう。/「国民主権」をフランス的に解釈する必要はないし、「君主」の存在と「国民主権」が矛盾なく並立している国は多数ある。/日本の「一般の国民」は「天皇のもとで議会政治が興隆した日本の近代史に対応」して今日の「天皇制度」を支持しつつ「議会政治」も支持しているだろう。/「生硬な政教分離や国民主権の観念」に振り回されることなく、「日本の歴史と国民の常識に即」して、考察する必要がある。>(坂本多加雄・同選集Ⅱ(藤原書店、2005.10)p.55~59に所収のものを参照した。他にもこの問題を論じた坂本の論稿はあると予想されるが未読。)
坂本は上で「天皇とそれに関する国家の儀礼」と表現しているが、これがほぼ<天皇の祭祀行為>を意味していることは明らかだ。そして、それの<政教分離>や<国民主権>との関係を「日本の歴史と国民の常識」に即して議論すべきだ旨を説いている。
もっとも、天皇に許容された行為を現憲法が列挙する「国事行為」に限定し、あとはすべて天皇が一個人・一人間として行う行為又は<趣味>的な行為等の<私的行為>と考えている、マルクス主義者らしき憲法学者(浦部法穂)もいることはすでに触れた。
また、別の論者(歴史研究者)は日本共産党系の出版物で、さすがに(本音では)<天皇制>廃止をめざす論者らしきことを述べている。別の回に委ねる。
憲法一条
古いが読売新聞9月5日25面-「8月末、米紙の中国人助手が懲役3年を宣告され、シンガポ-ル紙の香港駐在記者にも懲役5年の判決が下された」。
本日読売3面-「自由主義社会の『有害』なサイトを遮断し、検索語句を制限しているほか、膨大な数のサイバ-警察が…不穏な動きを検索、追跡しているという」、「公安当局は今月6日から8日にかけて、…320以上の違法サイトとネットコラムを閉鎖、1万5000の『有害』情報を削除した」。
いずれも中華人民共和国に関する報道だ。
かかる中国の現在を日本の1960年~1964年あたりの時期に相応していると「直感」したのが、あの「大評論家」・立花隆だった。2~5歳に北京にいたとはいえ、荒唐無稽・抱腹絶倒等々と表現できるスゴい分析だ。
立花は、小泉に対して、中・韓へのひざまずいての「ドイツ」式謝罪も要求する(同・滅びゆく国家p.204等、2006)。杜撰にも中・韓の区別もしていないが、戦後補償・「謝罪」に関する日独比較の基本文献をこの人は読んでいないのでないか。
この人は、皇室問題では愛子様、女系・女性天皇を支持する(p.112~)。執筆時期から見て宥恕の余地はあるが、しかし、皇太子夫妻が第二・第三子を望まれるなら「高度生殖医療技術の利用に正々堂々と踏み切るべきだ」、「不妊治療に踏み切れば、対外受精で…妊娠することはほとんど約束されている」とほとんど知人夫妻にでも言うがごとく「助言」するに至っては、どこかおかしいと私は感じた。
上のように活字で明記してしまう感覚は国家・国民統合の「象徴」に対する敬意の欠落の表れで、さらにおそらくは天皇・皇室という「非合理」なものを「国民の総意」で廃止したいというのが彼の本音だろうと推測される。
立花は教育基本法の改正にも憲法の改正にも反対の旨を明言している。
勝手に推測するに、「戦後民主主義」のもとで立花(橘隆志)は十分に「成功した」、今のままでよい、という「保守的」気分があるのでないか。現教育基本法の条文を抜き出してこれで何故いけないのかと問う姿勢からは、(中国には存在しない)表現の自由、「個人主義」、反体制的風潮の存在の容認といった「戦後」の恩恵を彼は十分に受けたと感じていることを示しているように思う。
本日読売3面-「自由主義社会の『有害』なサイトを遮断し、検索語句を制限しているほか、膨大な数のサイバ-警察が…不穏な動きを検索、追跡しているという」、「公安当局は今月6日から8日にかけて、…320以上の違法サイトとネットコラムを閉鎖、1万5000の『有害』情報を削除した」。
いずれも中華人民共和国に関する報道だ。
かかる中国の現在を日本の1960年~1964年あたりの時期に相応していると「直感」したのが、あの「大評論家」・立花隆だった。2~5歳に北京にいたとはいえ、荒唐無稽・抱腹絶倒等々と表現できるスゴい分析だ。
立花は、小泉に対して、中・韓へのひざまずいての「ドイツ」式謝罪も要求する(同・滅びゆく国家p.204等、2006)。杜撰にも中・韓の区別もしていないが、戦後補償・「謝罪」に関する日独比較の基本文献をこの人は読んでいないのでないか。
この人は、皇室問題では愛子様、女系・女性天皇を支持する(p.112~)。執筆時期から見て宥恕の余地はあるが、しかし、皇太子夫妻が第二・第三子を望まれるなら「高度生殖医療技術の利用に正々堂々と踏み切るべきだ」、「不妊治療に踏み切れば、対外受精で…妊娠することはほとんど約束されている」とほとんど知人夫妻にでも言うがごとく「助言」するに至っては、どこかおかしいと私は感じた。
上のように活字で明記してしまう感覚は国家・国民統合の「象徴」に対する敬意の欠落の表れで、さらにおそらくは天皇・皇室という「非合理」なものを「国民の総意」で廃止したいというのが彼の本音だろうと推測される。
立花は教育基本法の改正にも憲法の改正にも反対の旨を明言している。
勝手に推測するに、「戦後民主主義」のもとで立花(橘隆志)は十分に「成功した」、今のままでよい、という「保守的」気分があるのでないか。現教育基本法の条文を抜き出してこれで何故いけないのかと問う姿勢からは、(中国には存在しない)表現の自由、「個人主義」、反体制的風潮の存在の容認といった「戦後」の恩恵を彼は十分に受けたと感じていることを示しているように思う。
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