秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

2087/A・ダマシオ・デカルトの誤り(1994, 2005)④。

 アントニオ・R・ダマシオ/田中三彦訳・デカルトの誤り-情動・理性・人間の脳(ちくま学芸文庫、新訳2010・原版2000/原新版2005・原著1994)。
 =Antonio R. Damasio, Descartes' Error: Emotion, Reason and the Human Brain.
 第5章第2節以降の抜粋・一部引用等。引用は原則として邦訳書による。
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 第二部/第5章・説明を組み立てる〔Assembling an Explanation〕②。p.146-p.152。
 第2節・有機体、身体、脳。
 我々は、自分も、「一個の純身体〔body proper〕(『身体』と略す)と一つの神経システム(『脳』と略す)をもつ複雑な生ける有機体である」。
 「脳」は普通には「身体の一部」だが、本書での「身体」は、「有機体」から「神経組織(中枢神経系と末梢神経系)を除いたもの」を意味する。
 「有機体」は「一つの構造と無数の構成要素」をもつ。「一つの骨格構造」をもち、その「多数の部品」〔parts〕は「関節で連結され筋肉で動く」。「システム的に結合」する「多数の器官」ももつ。これは「外縁を形成する境界または膜」をもち、「おおむね皮膚」で成る。
 この「器官」、すなわち「血管〔blood vessels〕・頭・腹の中の器官〔chest and abdomen〕・皮膚」を、本書で「内臓」〔複数形viscera, 単数形viscus〕とも呼ぶ。「内臓」は普通には「脳」も含むが、ここでは除外される。
 有機体各部は「生物学的組織」〔biological tissues〕で、またこの組織は「細胞」で、構成される。
 各「細胞」は、「細胞骨格〔cytoskelton〕を作るための無数の分子、多数の器官とシステム(細胞核〔cell nuclei〕と多様な細胞器官)、境界」で構成される。
 「生きている細胞や身体器官を実際に見ると、その構造と機能の複雑さに圧倒される」。
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 第3節・有機体の状態〔state〕。
 「生ける有機体」は次々に「状態」を帯びつつ「絶え間なく変化」している。のちに「身体状態」や「心的状態」〔mind state〕を用いる。
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 第4節・身体と脳の相互作用-有機体の内部。
 「脳と身体は、これら両者をターゲットとする生化学的回路と神経回路〔biochemical and neural circuits〕によって、分割不可能なまでに統合されている」。
 この「相互結合」の「中心ルート」は二つ。①「感覚と運動の末梢神経」〔sensory and motor peripheral nerves〕。「身体各部から脳」、「脳から身体各部」へと「信号」を送る。②「血流」〔bloodstream〕。「ホルモン、神経伝達物質、調節物質といった化学的信号」を伝搬する。
 つぎの簡単な要約ですら、「脳と身体の関係性」の「複雑」さを示す。
 (1) 「身体のほとんど全ての部分、全ての筋肉、関節、内臓は、末梢神経を介して脳に信号を送る」。これら信号〔signals〕は「脊髄か脳幹のレベル」で脳に達する。そして、「いくつかの中継点」を通って「頭頂葉と島領域にある体性感覚皮質」〔somatosensory cortices in the parietal lobe and insular regions〕に入る。
 (2) 身体活動から生じる「化学物質は血流を介して脳に達し」、直接に又は「脳弓下器官」〔subfornical organ〕等の特殊部位を活性化して「脳の作用に影響を及ぼす」。
 (3) これと逆に、「脳は神経を介し、身体各部に働きかける」。仲介するのは「自律(内臓)神経系と筋骨格(随意)神経系」だ。前者への信号は「進化的に古い領域」=「扁桃体、帯状皮質、視床下部、脳幹」〔amygdala, cingulate, hypothalamus, brain stem〕で、後者への信号は「進化的には様々な時代の運動皮質と皮質下運動核」〔motor cortices, subcortical motor nuclei〕で発生する。
 (4) 「脳」はまた、血流中の「化学物質」、とくに「ホルモン、伝達物質、調整物質」の生産や生産指示をして「身体に働きかける」。
 実際にはこれら諸項よりもっと複雑で、「脳」の若干「部分」は、「脳部位からの信号」も受け取る。
 「脳-身体の緊密な協力関係」で構成される「有機体」は、一個のそれとして「環境〔environment〕全体と相互作用する」。しかし、「自発的、外的反応」ではない「内的反応」も行い、後者のいくつかは「視覚的、聴覚的、体性感覚的、等々のイメージ」を形成する。これが「心の基盤〔basis for mind〕ではないか」と私は考える。
 ***
 第5節・行動と心〔behavior and mind〕。
 「脳のない有機体」すら「自発的に」または「環境中の刺激に反応」して活動=「行動」する。これには、①「見えない」もの=例は「内部器官の収縮」、②「観察」できるもの=例は「筋肉の引きつり、手足の伸張」、③「環境に向けられた」もの=例は「這う、歩く、物をもつ」がある。
 これらは全て、自発的であれ反作用的であれ、「脳からの指令〔commands〕」による。
 だが、「脳に起因する活動」のほとんどは「反射作用」を一例とする「単純な反応」であり、「熟考」〔deliberation〕によるのではない。
 有機体の複雑化により「脳に起因する活動」は「中間的なプロセス」を必要とするようになり、「刺激」ニューロンと「反応」ニューロンの間に他ニューロンが介在し、「様々な並行回路」が形成された。
 こうした「複雑な脳」をもつ有機体が「必然的に心をもった」のではない。そのためには、つぎの「本質的要件」の充足が必要だ。すなわち、「内的にイメージを提示し、『思考』〔thought〕と呼ばれるプロセスの中でそれらのイメージを順序よく配列する能力」。イメージには「視覚的」のみならず、「音」、「嗅覚的」等もある。
 「行動する有機体」の全てが「心」・「心的現象」〔minds, mental phenomena〕をもつのではない。これは全てが「認知作用や認知的プロセス」をもつのではない、と同義だ。「行動と認知作用」の両者をもつ有機体」、「知的な行動」をもち「心」をもたない有機体もあるが、「心を有し」つつ「行動」をもたない有機体は一個たりとも存在しない。
 私見では、「心をもつ」とは、つぎのような「神経的表象〔neural representations〕を有機体が形成すること」を意味する。すなわち、「イメージ〔images〕になり得る、思考と称されるプロセスの中で操作し得る、かつ、将来を予測させ、それに従って計画させ、次の動作を選択することで最終的に行動に影響を及ぼすことのできる神経的表象」。
 このプロセスに「神経生物学〔neurobiology〕の中心」がある。つまり、「学習によってニューロン回路に生じた生物学的変化からなる神経的表象が我々の中でイメージに変わるプロセス」=「ニューロン回路(細胞体、樹状突起、軸索、シナプス〔cell bodies, dendrites, axons, synapses〕)の中の不可視のミクロ構造〔microstructural〕の変化が一つの神経的表象になり、次いでそれが我々が自分のものとして経験するイメージになるプロセス」。
 大まかに言って、「脳の全般的機能」は①脳以外の「身体」で「進行していること」、②「有機体を取り巻く環境」を、「熟知」〔be well informed〕していなければならない。この「熟知」によって、有機体と環境の間の「適切かつ生存可能な適応」が達成される。
 「進化的視点」からは、「身体」がなければ「脳」は存在しなかった。ちなみに、「身体も行動も」あるが「脳や心」のない「単純な有機体」、身体内の「大腸菌のような多くの幸福なバクテリア」の数は、人間よりもはるかに多い。
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 第6節以降につづける。

2086/A・ダマシオ・デカルトの誤り(1994, 2005)③。

 アントニオ・R・ダマシオ/田中三彦訳・デカルトの誤り-情動・理性・人間の脳(ちくま学芸文庫、新訳2010・原版2000/原新版2005・原著1994)。
 =Antonio R. Damasio, Descartes' Error: Emotion, Reason and the Human Brain.
 第5章第1節の抜粋・一部引用等。引用は原則として邦訳書による。
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 第二部/第5章・説明を組み立てる〔Assembling an Explanation〕①。p.142-146。
 第1節・ミステリアスな連携(alliance)。
  第一部(1-4章)で、①推論・意思決定にかかる後天性障害患者は「つねに脳システムの一群が損傷」している、②その「システム」は「一見意外な一群の神経心理学的プロセスに完全に依存」している、を確認した。
 ①これらの「プロセスを相互に結びつけている」ものは何か。②それらの「プロセス」を「神経システムと結びつけている」ものは何か。以下がその「暫定的な答え」だ。
 第一。一定の社会的環境で生起する「個人的問題」に関する「決断」は、a「広い基盤に根ざした知識〔knowlege〕」とbその上で機能する「推論の戦略〔reasoning sterategies〕」の両者を必要とする。
 aは「物、人、外界の状況」に関する「事実」を含む。但し、「決断」は「生存」問題と分離できないがゆえに、「有機体〔そのヒトの身体〕全体の調節に関する事実とメカニズム」をも含む。
 bは、「目標、行動オプション、将来結果の予測、多様な時間スケールでの目標実現のための計画」を中心に展開する。
 第二。「情動と感情のプロセスは、生体調節機構のための神経機構の要の部分」だ。「生体調節の中核は恒常性の制御、欲求、本能〔drives, instincts〕で構成されているから」だ。
 第三。a=「知識」は「脳の一領域」にではなく、相互に「離れた複数の脳領域に位置する多数のシステム」に依存する。「知識の大部分」は「脳の一部位でのイメージ」ではなくて「複数の部位でのイメージ」として想起される。「たぶん、多様な部位での活動の相対的同時性が、ばらばらな心の部品を一つにまとめあげている」。
 第四。b=「推論の戦略」の展開には、aが散在し部分化しているゆえに、「無数の事実に関する表象が、かなり長時間(最低でも数秒間)広範な並列的表示の中で動的に保たれている」ことが必要だ。換言すると、「推論」で用いる①「特定の物体や行動や関連シェーマのイメージ」や②「言葉」に翻訳するための「言葉のイイメージ」は、「ピントが合う」だけではなく「心の中で動的に保持されている〔held active in mind〕」必要がある。
 複雑なこの「プロセス」のミステリアスさの理由は、「問題の性質」や「脳のデザイン」等による。「不確実性」をもつ「個人的社会的決断」は直接間接に「生存に影響を与え」るからこそ、「決断」は、「有機体」の外部かつ内部の「広範な知識」を必要とする。その「知識」を空間的に分離して「維持」・「想起」するので、「注意やワークングメモリ」も必要だ。
「神経システム」が「歴然と重複している」のは、「進化的に都合がよかったから」だろう。「基本的な生体調節が個人的社会的行動の指針に必要不可欠のものだった」とすると、「自然選択において優勢だったとみえる脳のデザイン」が①「推論や意志決定を担当するサブシステム」や②「生体調節にかかわるサブシステム」の二つと「密接に連動」しているものになった。この両者が「生存」に関係していたのだ。
  以下では、上記の妥当性を検証し、仮説を提示する。必要不可欠だと考える「いくつかの問題」に絞る。
 この5章は既述の「事実」と6章以降で示す「解釈」の「架け橋」だ。目的の第一は、これから用いる諸概念(「有機体、身体、脳、行動、心、状態(organism, body, brain, behavior, mind, stste)」等)を検討すること。また、「知識」は「本質的に部分化され」かつ「イメージに依存」することを強調しつつ、「知識の神経的基盤〔neural basis〕」を論じること。
 第二は、「神経の発達」に関する「私見」を述べること。
  繰り返すが、以下で示すのは、「同意されている事実のカタログではなく、制約のない探究」だ。「私が考えている仮説と経験的検証であって、確実性を主張することではない」。
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 つづける。
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