一年半前の2006年10月に書いたものだが、本欄にはまだ掲載していないようだ。時機遅れの感はあるが、前ゝ回と同様に多少は修正して載せておく。
録画した菅直人と安倍首相との国会質疑を観た。
安倍個人は河野談話や村山談話に否定的のはずで、私も前者は誤りかつ完全な失策、後者は不正確と考えるが、しかし首相としてこれらを批判・否定できないのもよくわかる。国家行政の継続性からすると、否定すればその意味・理由が問題となり場合によっては新たな別の談話が求められるからだ。たしかに、安倍は逃げていた印象はあるが、やむをえないと思う。民主党を代表してこそ菅直人もじくりじくりと「安倍いじめ」的・本音誘発的質問をしていたのだろうが、「満州国をどう思いますか?」との質問へと至ってはさすがに異様な感をもった。岸信介が同国にどうかかわっていたのかの詳細は知らないが、国会の質疑で何故そんなテーマが出てくるのか。国会で、通州事件をどう思うか、廬溝橋事件のきっかけは何か、南京で何人死んだか等々の「論戦」を民主党はするつもりなのか、馬鹿馬鹿しい。
そんな質問をした菅直人は民主党、少なくとも民主党執行部の「満州国をどう思うか」の回答を用意しているのだろうか。そもそも、民主党はその有力議員に限っても先の大戦にかかわる「歴史認識」を一致させているのか。社会党左派の生き残り(横路孝弘ら)と小沢一郎と菅と西村慎吾において共通の「歴史認識」があるとは思えない。
民主党の中では菅直人は印象の悪い方ではない。しかし、かつて北朝鮮による日本人拉致の主犯格だった辛光洙(シン・グァンス)が85年に韓国で拘束されたあと89年に「解放」を求める韓国大統領あて署名をして日本で取り調べる機会を奪い北朝鮮に帰国させた(かの国で英雄視させた)国会議員の一人は菅直人だった、という歴史的禍根を私は忘れてはいない。「土井たか子さんに頼まれて軽い気持ちで…」とか本人が言っていたのを聞いたことがあるが、釈明にも何にもなっていない。署名した者は他に村山富市、田英夫、淵上貞雄、江田五月、千葉景子等々の当時の社会党や社民連の議員たち。拉致問題の解明が遅れている原因であることに間違いない。この署名につき、97年10月に安倍晋三は官房副長官時代に「土井氏、菅氏はマヌケ」と正しく批判したのだった。
ところで、上で触れた菅直人質問が朝日新聞の情報と煽りを背景の一つにしていることは疑いえない。朝日新聞の若宮啓文は2006年9月25日のコラム欄に、安倍の著書(美しい日本)に出てこないこととして敢えて、(岸信介が)「日本の傀儡国家「満州国」の高官として力を振るったことも、東条内閣の商工相として太平洋戦争開戦の詔勅に署名したことも、戦後にA級戦犯の容疑で捕らえられ、巣鴨プリズンで3年の収監生活を送ったことも…」、と書いている(この3点のうち2点に菅直人質問は触れていた)。
「いまそれを蒸し返そうというのではない」と若宮自身が言いつつ敢えて書いた理由は何だろうか。安倍の祖父・岸信介を「悪人」に仕立て、その「悪人」さを認めようとしない(あるいは戦争に関する見解を明瞭に述べない)孫の安倍晋三を「批判してやろう」、「いじめてやろう」という魂胆は明らかでないか。かなり複雑な論法をとるのは朝日新聞の特徴なのだ。
だが、かかる魂胆はかなりの問題を含む。まず、岸が「戦後にA級戦犯の容疑で捕らえられ、巣鴨プリズンで3年の収監生活を送った」のはGHQによることで、かつ東京裁判で(起訴もされず)有罪判決を受けたわけでもないのに岸を「悪人」=非難ざるべき人物の如く描くのは、―GHQのA級戦犯容疑者選定や東京裁判自体の問題に立ち入らないが―朝日新聞がGHQ政策べったり、東京裁判全面支持(屈服)を前提としているからであり、一般的通用力を持たない。
また、一般論として、万が一祖父が「悪人」又は「犯罪者」だったとしても、敢えてそれを孫に語らせる・認めさせようとするのは「人権」侵害になりうることくらいは若宮とて解るだろう(北朝鮮ならは別だが祖父の罪が孫に及ぶはずもない)。若宮啓文は類似のことを岸・安倍について試みているのだ。朝日新聞・若宮啓文は心の中に「後ろめたく」感じるところはないのか、真っ当な人間ならば。
録画した菅直人と安倍首相との国会質疑を観た。
安倍個人は河野談話や村山談話に否定的のはずで、私も前者は誤りかつ完全な失策、後者は不正確と考えるが、しかし首相としてこれらを批判・否定できないのもよくわかる。国家行政の継続性からすると、否定すればその意味・理由が問題となり場合によっては新たな別の談話が求められるからだ。たしかに、安倍は逃げていた印象はあるが、やむをえないと思う。民主党を代表してこそ菅直人もじくりじくりと「安倍いじめ」的・本音誘発的質問をしていたのだろうが、「満州国をどう思いますか?」との質問へと至ってはさすがに異様な感をもった。岸信介が同国にどうかかわっていたのかの詳細は知らないが、国会の質疑で何故そんなテーマが出てくるのか。国会で、通州事件をどう思うか、廬溝橋事件のきっかけは何か、南京で何人死んだか等々の「論戦」を民主党はするつもりなのか、馬鹿馬鹿しい。
そんな質問をした菅直人は民主党、少なくとも民主党執行部の「満州国をどう思うか」の回答を用意しているのだろうか。そもそも、民主党はその有力議員に限っても先の大戦にかかわる「歴史認識」を一致させているのか。社会党左派の生き残り(横路孝弘ら)と小沢一郎と菅と西村慎吾において共通の「歴史認識」があるとは思えない。
民主党の中では菅直人は印象の悪い方ではない。しかし、かつて北朝鮮による日本人拉致の主犯格だった辛光洙(シン・グァンス)が85年に韓国で拘束されたあと89年に「解放」を求める韓国大統領あて署名をして日本で取り調べる機会を奪い北朝鮮に帰国させた(かの国で英雄視させた)国会議員の一人は菅直人だった、という歴史的禍根を私は忘れてはいない。「土井たか子さんに頼まれて軽い気持ちで…」とか本人が言っていたのを聞いたことがあるが、釈明にも何にもなっていない。署名した者は他に村山富市、田英夫、淵上貞雄、江田五月、千葉景子等々の当時の社会党や社民連の議員たち。拉致問題の解明が遅れている原因であることに間違いない。この署名につき、97年10月に安倍晋三は官房副長官時代に「土井氏、菅氏はマヌケ」と正しく批判したのだった。
ところで、上で触れた菅直人質問が朝日新聞の情報と煽りを背景の一つにしていることは疑いえない。朝日新聞の若宮啓文は2006年9月25日のコラム欄に、安倍の著書(美しい日本)に出てこないこととして敢えて、(岸信介が)「日本の傀儡国家「満州国」の高官として力を振るったことも、東条内閣の商工相として太平洋戦争開戦の詔勅に署名したことも、戦後にA級戦犯の容疑で捕らえられ、巣鴨プリズンで3年の収監生活を送ったことも…」、と書いている(この3点のうち2点に菅直人質問は触れていた)。
「いまそれを蒸し返そうというのではない」と若宮自身が言いつつ敢えて書いた理由は何だろうか。安倍の祖父・岸信介を「悪人」に仕立て、その「悪人」さを認めようとしない(あるいは戦争に関する見解を明瞭に述べない)孫の安倍晋三を「批判してやろう」、「いじめてやろう」という魂胆は明らかでないか。かなり複雑な論法をとるのは朝日新聞の特徴なのだ。
だが、かかる魂胆はかなりの問題を含む。まず、岸が「戦後にA級戦犯の容疑で捕らえられ、巣鴨プリズンで3年の収監生活を送った」のはGHQによることで、かつ東京裁判で(起訴もされず)有罪判決を受けたわけでもないのに岸を「悪人」=非難ざるべき人物の如く描くのは、―GHQのA級戦犯容疑者選定や東京裁判自体の問題に立ち入らないが―朝日新聞がGHQ政策べったり、東京裁判全面支持(屈服)を前提としているからであり、一般的通用力を持たない。
また、一般論として、万が一祖父が「悪人」又は「犯罪者」だったとしても、敢えてそれを孫に語らせる・認めさせようとするのは「人権」侵害になりうることくらいは若宮とて解るだろう(北朝鮮ならは別だが祖父の罪が孫に及ぶはずもない)。若宮啓文は類似のことを岸・安倍について試みているのだ。朝日新聞・若宮啓文は心の中に「後ろめたく」感じるところはないのか、真っ当な人間ならば。