秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

平野丈夫

2503/平野丈夫・何のための脳?-AI時代の行動選択と神経科学(2019年)より。

   <身分か才能か>、、<家柄(一族・世襲)か個人か>、<生まれか育ちか>、<遺伝か生育環境か>という興味深い重要な基本問題がある。
 平野丈夫・何のための脳?—AI時代の行動選択と神経科学(京都大学学術出版会、2019)。
 この中に、「生まれと育ち、経験による脳のプログラムの書き換え」という見出し(表題)の項がある。p.59〜。関心を惹いた部分を抜粋的に引用する。
 ・「外部からの刺激に応じて適切な行動選択を行う脳・神経系はどのように形成される」のかについて、「遺伝的に決定される過程と、動物が育つ時の外部からの刺激または経験に依存した過程の両者が関与することがわかっている」。
 ・「網膜の神経細胞が視床へ軸索を伸ばす過程は、遺伝的要因により定まっている」。
 ・「一方で、大脳皮質のニューロンの各種の刺激に対する応答性は、幼児期の体験によって変わる」。
 ・「このように、神経回路形成において感覚入力が重要な役割を担う時期は幼弱期に限定され、この時期は臨界期と呼ばれる。臨界期の存在は視覚情報処理に限られない。言語習得等にも臨界期がある」。
 「神経回路の形成には、遺伝的にプログラム化された過程と、外部からの刺激または入力に応じた神経回路の自己組織化過程が関与する。
 神経回路の自己組織化は入力に応じた神経機能調節であるが、情報処理過程が刺激依存的に持続的に変化する現象であり、学習の一タイプと見なせる。」
 以上、至極あたり前のことが叙述されているようでもある。遺伝的に定まった過程と「幼児期」にすでに臨界を迎える過程とがある。
 前者は生命の端緒のときか出生以前の間かという疑問も出てくるが、たぶん前者なのだろう(但し、その場合でも一定の時間的経過を要するのだろうと素人は考える)。
 また、個々人にとって後発的に出現する視覚神経系等の「個性」が「遺伝」によるのか「幼児期」の体験等によるのかは、実際には判別できないだろう。もっとも、いろいろな点で「親に似る」(あるいは祖父母に似る)ことがある、つまり「遺伝」している、ということを、我々は<経験的に>知ってはいる。もちろん。「全て」ではない。子どもは両親の(半分ずつの?)「コピー」ではない。
 なお、上の叙述の実例として「鳥類」と「ネコ」が使われている。上のことはヒトまたはホモ・サピエンスだけの特質では全くない(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類は全て、大脳・間脳・中脳・小脳・延髄を有する。神経系もだろう。平野丈夫・自己とは何なのか? 2021年、p.31参照)。
 --------
  西尾幹二は「自然科学の力とどう戦うか」が「現代の最大の問題で、根本的にあるテーマ」だと発言し、対談者の岩田温も「無味乾燥な『科学』」という表現を用いている。月刊WiLL2019年4月号。p,223, p225。
 こんな<ねごと>を言っていたのでは、現代における「思想家」にも「哲学者」にも、全くなれないだろう。
 ヒト・人間も(当然に「日本人」も)また生物であり、それとしての「本性」を持つということから出発することのできない者は、今日では、「思想」や「哲学」を語る資格は完全にないと考えられる。
 --------
  上に最初に引用した平野丈夫の一文は「外部からの刺激に応じて適切な行動選択を行う…」と始まる。
 問題は「<適切な>行動選択」とは何か、どうやって決めるのか、だ。
 むろん平野も、困難さを承認し、それを前提としている。
 だが、上の著の「はじめに」にあるつぎのような文章を読むと、ヒト・人間を含む生物科学は(脳科学も脳神経科学も)、人間に関する、そして人間が形成する社会(・国家)に関する「思想」や「哲学」の基礎に置かれるべきものであるように感じられる。
 「動物の系統発生を考慮すると、脳・神経系のはたらきは動物が最適な行動をとるための情報伝達・処理・統合にあると考えられる。
 それでは、最適な行動とはどのようなものであろうか?
 それは個体の生存状況改善と子孫の繁栄に最も寄与する行動だと思う。
 なぜなら、現存動物種は進化過程における自然選択に耐えて生き残ってきたからである。
 しかし、ある生物個体が良好な状態であることと、その子孫・集団または種が繁栄することとは必ずしも両立しない。
 また、どのくらいの時間単位での利得と損失を考慮するかによっても、最適な行動は異なる。
 個体、グループまたは種にとって何が最適かは、実は正解のない難問である。
 ヒトを含む動物は各々の脳を使い、様々な戦略と行動の選択を行うことによって、個体の生存と血族または種の繁栄を図ってきた。」
 --------
  緒言中の一般論的叙述だが、含蓄はかなり深い。
 「最適な行動」=「個体の生存状況改善と子孫の繁栄に最も寄与する行動」と言い換えても、後者が何かは「正解のない難問」だ。
 第一に、各個体と「子孫・集団または種」、あるいは「個体、グループまたは種」のいずれについて考えるかによって異なり、第二に、どのくらいの時間単位での「最適」性を想定するかによっても異なる。
 個体の「生存状況改善」と子孫の「繁栄」と言っても、具体的状況での判断はきわめて困難だ。
 それでも、大まかで基本的な思考・考察の出発点、視点または道筋は提示されているだろう。
 何のために生活しているのか? 何のために学問・研究をするのか?、何のために文筆活動をするのか?、何のために種々の仕事をするのか?。
 最低限または基礎的には<個体の生存>(食って生きていくこと)だったとして、それ以外に優先されるのはどのような集団の利益か。家族か一族か、帰属する団体・個別組織か、その団体・組織が属する「業界」か、それとも(アホだと思うが)「出身大学・学部」の利益・名誉か、あるいは「日本」・「国益」か、ヒトという「種」か、等々。
 生命・生存の他に、いかなる経済的または(名誉感覚を含む)精神的利益に「価値」を認めるのか。複数の「価値」が衝突する場合にはいずれを最優先にするのか。
 せいぜい1-2年先までを想定するのか、20年、50年、100年先までを時間の射程に含めるのか。
 自分自身(個体)の生存と自分自身の世俗的「名誉」にだけ関心を持つ者には、このような複雑で高次の問題は生じない。
 なお、上での表現を使うと、「最適な行動」の「選択」をする、複数の「選択可能性」の中から一つを選ぶ、これが可能である状態または力が「自由」であり、その基礎にあるのが「意思の自由」または「自由意思」だと考えられる。そのさらに基底には、脳内の「情報伝達・処理・統合」の過程があるのだけれども。

2500/平野丈夫・意識.自我.心の神経科学(2021年)。

 平野丈夫・自己とは何なのか?—意識・自我・心についての神経科学的考察(幻冬舎、2021.12)、より。
 一 意識
 かつて、秋月がこの欄で意識がないこと(深い睡眠や全身麻酔中の状態)は「死んで」いるのと同じ旨を書いたことがあるが、これも「意識」の語法による。また、のちに「深い睡眠や全身麻酔中の状態」で「意識」がなく、神経細胞(ニューロン)がかりに動いていなくともグリア細胞等々が「生存」を支えていることを知った。以下、上の著書に入る。
 ----
 意識には少なくとも三つの意味がある。
 A/一般的イメージより広く、「単純かつ機械的に」「型にはまった脳・神経系のはたらき」を示す。目覚めている・寝ている・昏睡中等々で一括して「覚醒」。
 B/「ある事物に注意が向いてそのことに気づいている」こと。
 「感覚」はあるが「無意識」のこともある。「無意識」の情報にも身体は反射的応答をし、行動選択にも影響を与える。
 C/「自己の状態を観察・内省して思考する」こと。デカルトの「我思う」。最も高次で「心の本体」に近い。
 --------
 二 意識A。
 ある基準では、I/刺激しなくとも覚醒(①意識清明・②場所や他者不明・③氏名・生年月日不明)、II/刺激すると覚醒(開眼が①呼びかけ・②揺さぶる・③痛み刺激)、Ⅲ/刺激しても覚醒しない(だが「生きている」)に大別する。
 別の基準では、1/開眼、II/言語音声反応、Ⅲ/運動反応、に着目する。
 --------
 三 意識B。
 「意識」・「無意識」の対比はほぼこの意味。「外界からの刺激による感覚入力のほとんど」を我々は「知覚」しない。感覚(受容)と知覚はレベルが異なる。
 あること・あるものを「気づく」=「知覚する」と、その対象には「特有の主観的体験」が伴う。「生々しい主観的体験」は「クオリア(質感)」と呼ばれ、「意識に上がってくる」。
 「気づき」=「知覚」が「特定の神経細胞集団の発動」によるのは確かだ。しかし、「主観的クオリア」の発生態様は「ハード・プログラム」だ。
 --------
 四 感覚と知覚
 感覚(感覚刺激)には、視覚、聴覚、平衡感覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚(触覚・温度感覚)などがある。*秋月—「六感」・「第六感」とは?
 これらを「感覚器」で受容するが、「一部」しか気づかない、つまり「知覚」しない。にもかかわらず、私たちは、一部の「感覚入力情報」に「自動的に反射応答」する。体温・血圧・心拍の変化等の「自律神経系の応答」は知覚しないことが多い。
 --------
 五 視覚(感覚から知覚への例)
 ①網膜→②視床→③大脳皮質・一次視覚野→④大脳皮質・側頭葉高次視覚野。
 01・光の受容—光受容細胞(錐体と杆体—「網膜」にある)
 02・双極細胞(「網膜」にある)
 03・神経節細胞(「網膜」にある)
  いずれも「複数」の情報を伝える。各間を媒介するのは「シナプス」。
 04・視床(大脳皮質内側)内の外側膝状体。03が長い「軸索」を伸ばして04の神経細胞(ニューロン)に「シナプス結合」する=「投射」する。
 05・後部大脳皮質(=後頭葉)内の一次視覚野。これの神経細胞(ニューロン)は、視野内の「円状の明暗には全く応答せず」、「特定の視野位置の特定の傾きの線に応答する」。
 06・多数の視覚関連大脳皮質領域の高次視覚野。「形」(顔・複雑な形の図形等)の知覚は側頭葉内の視覚関連皮質部位だが、「場所」の情報はここでは欠落する。
 xx この過程の「どこか」(05-06?)で、知覚対象の「事物・概念」が「選択」されている。「各感覚情報処理系とは異なる脳部位が知覚対象を選別している可能性もある」。
 ——
ギャラリー
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2679/神仏混淆の残存—岡山県真庭市・木山寺。
  • 2564/O.ファイジズ・NEP/新経済政策④。
  • 2546/A.アプルボーム著(2017)-ウクライナのHolodomor③。
  • 2488/R・パイプスの自伝(2003年)④。
  • 2422/F.フュレ、うそ・熱情・幻想(英訳2014)④。
  • 2400/L·コワコフスキ・Modernity—第一章④。
  • 2385/L・コワコフスキ「退屈について」(1999)②。
  • 2354/音・音楽・音響⑤—ロシアの歌「つる(Zhuravli)」。
  • 2333/Orlando Figes·人民の悲劇(1996)・第16章第1節③。
  • 2333/Orlando Figes·人民の悲劇(1996)・第16章第1節③。
  • 2320/レフとスヴェトラーナ27—第7章③。
  • 2317/J. Brahms, Hungarian Dances,No.4。
  • 2317/J. Brahms, Hungarian Dances,No.4。
  • 2309/Itzhak Perlman plays ‘A Jewish Mother’.
  • 2309/Itzhak Perlman plays ‘A Jewish Mother’.
  • 2305/レフとスヴェトラーナ24—第6章④。
  • 2305/レフとスヴェトラーナ24—第6章④。
  • 2293/レフとスヴェトラーナ18—第5章①。
  • 2293/レフとスヴェトラーナ18—第5章①。
  • 2286/辻井伸行・EXILE ATSUSHI 「それでも、生きてゆく」。
  • 2286/辻井伸行・EXILE ATSUSHI 「それでも、生きてゆく」。
  • 2283/レフとスヴェトラーナ・序言(Orlando Figes 著)。
  • 2283/レフとスヴェトラーナ・序言(Orlando Figes 著)。
  • 2277/「わたし」とは何か(10)。
  • 2230/L・コワコフスキ著第一巻第6章②・第2節①。
  • 2222/L・Engelstein, Russia in Flames(2018)第6部第2章第1節。
  • 2222/L・Engelstein, Russia in Flames(2018)第6部第2章第1節。
  • 2203/レフとスヴェトラーナ12-第3章④。
  • 2203/レフとスヴェトラーナ12-第3章④。
  • 2179/R・パイプス・ロシア革命第12章第1節。
  • 2152/新谷尚紀・神様に秘められた日本史の謎(2015)と櫻井よしこ。
  • 2152/新谷尚紀・神様に秘められた日本史の謎(2015)と櫻井よしこ。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2151/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史15①。
  • 2136/京都の神社-所功・京都の三大祭(1996)。
  • 2136/京都の神社-所功・京都の三大祭(1996)。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2118/宝篋印塔・浅井氏三代の墓。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2102/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史11①。
  • 2101/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史10。
  • 2101/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史10。
  • 2098/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史08。
  • 2098/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史08。
  • 2098/日本会議・「右翼」と日本・天皇の歴史08。
アーカイブ
記事検索
カテゴリー