産経によると、一部マスコミで「安倍バッシング」が厳しくなっているようで、朝日新聞だけではなく毎日新聞等の名も挙がっていた。
このような結果にかりになればと予想していたとおり、朝日新聞はここぞとばかり<安倍退陣>の主張をして、世論を煽るだろう。「政治団体」なので、当然のことだ。
朝日7/31朝刊を見ると一面に星浩・編集委員の「民意読めぬ自民」との大きな見出しの文章。安倍首相続投もこの「民意」と「大きく隔たって」いて「対照的」らしい。
4面には、内容を読んでいないが、「「安倍不信任」そのもの」との大きな文字の見出し。7面には「国民の不信感噴出」とのこれまた大きなゴチ文字のもとで「左翼」・護憲派で知られる朝日好みの作家等・辻井喬等の座談会。39面には「格差軽視不満の渦」と再び大きなゴチ文字。
政治ビラ・アジビラのような大きな文字と大袈裟な記述・表現ぶりは朝日に珍しくはなく、いつものことだ。何よりもやはり社説がスゴい。若宮啓文が執筆しているか、少なくとも了解はしている筈だ。
社説のタイトルは「首相の続投・国民はあぜんとしている」。ここで「国民」という言葉を使われると困る。私には「朝日新聞記者のような一部の国民はあぜんとしている」のだろうと思われる。少なくとも私は「あぜんとして」いないので、このタイトルには違和感をもつし、厳密ではない。
制度的にみて、安倍晋三は衆院・参院の両院で内閣総理大臣として指名された。また、憲法上、両院の意思に合致がない場合は衆院の議決が優先するとされている(憲法67条)。参院選の結果が首相の地位を左右するとの法制度的根拠は全くない。
あとはすべて政治的な問題だ。やはり朝日社説は44だった橋本内閣、36だった宇野内閣の先例を持ち出しているが、たんなる先例の若干で、こういった数字が政治的慣行・ルールになっているわけではない。
安倍後継者がまだ固まっていないとかの理由付けもされているようだが、私見では、安倍首相が退陣する必要がない決定的な理由は、自民党は(朝日も同様と思うが前回言及の読売の見出しを利用すれば)「年金」・「格差」・「政治とカネ」を最大の又は主要な争点とする選挙に敗北したのであって、<安倍政治>・<安倍改革>が基本的な所で否定されたわけではない、ということだ。
「年金」問題の本質は公務員労働問題で安倍首相・同内閣の責任は殆ど形式的なものだ。実質的責任を問えば、民主党にだってとばっちりは向かう問題だ。
「政治とカネ」問題も安倍首相自身の問題ではない。むろん閣僚任命責任はあろうが、事務所経費問題自体がじつはさして本質的な問題ではない。
「格差」問題は、例えば四国で自民全敗の如く地方の疲弊が自民党離れを起こしていて小沢民主党に巧妙に衝かれたという面があるのはたしかだろうが、9ケ月ほどの安倍内閣の責任がどれほどあるだろうか。「小泉改革」の後始末をするのは安倍内閣の歴史的課題というのが先日言及した中西輝政氏の理解だった。少なくとも、安倍内閣自体の失政によるとは言えないだろう。それにそもそも、格差=不平等は一切いけないのか、という基本的問題もある(格差ゼロは一部特権エリートを除いてみんな平等に貧しい社会主義社会ではないか)。
大きな争点にならなかったこともあって、改憲路線あるいは<戦後体制からの脱却>という基本路線が今回の選挙によって国民に信任されなかった、ということはできない。憲法問題についていえば、9条護持を強く主張した日本共産党・社会民主党は逆に議席・得票率ともに減らした。繰り返せば<安倍政治>・<安倍改革>が否定されたわけでは全くない。
朝日新聞もディレンマを感じてはいるだろう。「年金」・「格差」・「政治とカネ」を争点として煽り立てて自民党の議席を大きく減らすことはできたのはよいが、じつはこれらは<安倍政治>・<安倍改革>の骨格とは関係がないのだ。「年金」・「格差」・「政治とカネ」にかかわる<イメージ>・<印象>によって安倍自民党を「大敗させる」ことに成功はしたが、本質的な所で、安倍首相に打撃を与えることはできていないのだ。
安倍首相個人の思いはむろんよく分からないが、<改革路線が否定されとは思わない>(あるいは<支持されていると思っている>)旨の発言は、上のような脈絡の中で理解されるべきだろう。
朝日社説は、「派閥全盛期の自民党を懐かしむわけではないが」としつつ、自民党内で安倍首相の責任を問い退陣を求める声が強くは出てきていないのを歯がゆく感じているようだ。
別の報道によれば、加藤紘一は勿論だが、谷垣禎一も続投に疑問を呈したようだ(但し、彼の発言もさほど厳しいものではない)。古賀誠、山崎拓、麻生太郎は続投支持・安倍首相信任で一致している。
自民党有力者もまた、加藤紘一のような口舌だけの徒・異端者を除いて、今回の敗戦の原因を安倍首相に大きく負わせることはできない、と判断しているものと思われる。そしてそれは、決して政治的なものではなく、客観的にも妥当なところではないか。
朝日社説もまた参院選の結果だけでは安倍不信任にはならないことを理解しているようでもある。最後の文で、「続投するというなら、できるだけ早く衆院の解散・総選挙で」民意を問えと主張している。決定的なのは参院選ではなく衆院選であることを認めている文章ではなかろうか。
だが、しかし、朝日新聞は今後も執拗に安倍退陣に導く方向での記事を書き、紙面づくりをするに違いない。あくまで<反安倍・左翼政治団体>だからだ。
そのために、自民党内の安倍批判派・批判者の声を大きく取り上げ、逆に温和しい者に対して何故続投を容認するのかと批判し皮肉る記事を書くだろう。公明党批判も続けるだろう。
また、選挙前にすでに書いたように、世論調査を最大限に利用するだろう。<参院選で自民党が大敗したにもかかわらず安倍首相が退陣しない(続投する)のをどう思いますか>というアンケートをし、望むような結果を得て、<国民多数も辞任を要求>・<多数が続投を疑問視>といった大きな見出しをつけるだろう。
むろん、すでに表れているが、朝日に有利な<識者コメント>を今後も多用するに違いない。
これらは目に見えている。自民党が37でなくったって、与党が過半数割れをすれば=ともかくも自民党が<敗北>すれば、かかる<政略>が基本的<政治>方針だったことは明瞭だろう。
安倍首相は、当然に、朝日新聞に負けてはならない。安倍自身も含む捏造記事を書いて訂正も謝罪もしない朝日新聞に、自分の虚報で火をつけておいて虚報と判明するや別の論点にすり替え、米国で慰安婦決議問題が発生すればまさしく他人事の如く白々しい社説を書くような朝日新聞に(他にも多々あるが)、絶対に屈してはならない。
私は安倍首相をめぐる動向は、一面では、安倍晋三対朝日新聞の闘いだ、とも考えている。<戦後レジームの権化>・朝日新聞に負けてはならず、朝日新聞の策略に陥ることなく、逆に朝日の本質を全国民的に暴露しなければならない。
朝日の本質といえば、ついでに書いておくが、7/31朝刊社説はのもう一本は「小田実氏死去・市民参加の道を示した」だ。社説でもって、逝去を機に小田実程度の人物を肯定的に評価するとは、死者に失礼ながら、私は呆れる。
小田は反米・反ベトナム戦争の「市民」運動をしたようだが、1968年の(プラハの春後の)ソ連のチェコ侵攻に抗議したのか、中国のベトナム等への<侵略>に抗議したのか、北朝鮮の反人道的行為・核実験・ミサイル発射に<平和>主義者として抗議したのか。<戦後レジーム>の中で、なぜか「社会主義」国には論及せず、安全な所にいて、批判しても潰れそうにはない米国を口舌のみで罵っていただけではないのか。
もう一点。朝日7/31は2面の「ひと」欄で、当選した新人議員のうちとくに川田龍平のみを取り上げて紹介している。川田の「イデオロギー」にはもう立ち入らないが、<朝日好み>の議員が1人は増えたようだ。
川田龍平
じつは(と大袈裟に言うことでもないが)、小林よしのりのゴーマニズム宣言は旧・新を含めて、(古書もあるが)全部所持し、読んでいる(と思う)。内容の記憶はほとんど朧げになっているが、雰囲気・イメージの記憶は残っている。
そのスペシャル版もたぶん全て所持し、読んでいる。そのうち、新ゴーマニズム宣言スペシャル・脱正義論(幻冬舎、1996)は、小林が1994年に「HIV訴訟を支える会」の代表となり、弁護士等と運動の仕方等について軋轢を生じさせながら活動し、1996年03.29に加害企業と「和解」が成立して、彼の影響も受けて「支える会」会員となった者たちを含む若者(学生)たちに、<さぁ日常に戻ろう>と呼びかけたところ、「支える会」の支部等の「代表も事務局長も会計もすべて左翼系団体の同盟員というところもある。民青が仕切ってたりするところもあるらしい」(p.70)ことを知って愕然として原告患者青年の川田龍平に伝えたところ、彼は「知ってますよ」とニヤリと笑って答えた(p.78)、なんていうことが生々しく描写されていて、とても印象的だ(とても長い一つの文だ)。
「HIV訴訟を支える会」の実際がどうだったのかの知識はないが、純粋な善意で始まった「市民」運動も、いつの間にか政党等の「色のついた」(多くの場合は「左翼系」の)運動に変質していくことは、十分に考えられる。この本が描くように「支える会」を日本共産党・民青同盟系の者たちが実質支配したのだとかりにすれば、さすがに「大衆団体」を党・民青等近接団体の<下請け>化することに手慣れていて、巧いものだ。また、こうした訴訟の場合、手がける弁護士たち自体がとっくに日本共産党員又は同党シンパであることも十分にありうるだろう。
「政治」と何らかの関係のある問題についての、多数の「個」の純粋な「連帯」は、小林が正義感をもって当初想定したよりはやはり相当に困難なのが現実だろう。
その他、書き残しておきたいことが二つある。
1.「あとがきにかえて」に、「もっと腹が立つのは佐高信ら、『絶対の正義』と薬害エイズが世間に認定された後に近寄ってきて自分の言い分にこれを利用しようとするハイエナみたいな言論人だ」とある(p.256)。
なるほど、佐高信は、自分たちの「運動」に利用しようとして小林又は「支える会」にも接近してきたのだ。
佐高信は、巧妙に隠しているものの「週刊金曜日」共同編集人でテレビ・コメンテイターをしている石坂啓もそうだと思うが、決して<評論家>ではなく、<(社会)運動家>だ。「ハイエナみたい」と表現されているのも、ずばり適切で、よく分かる。
「週刊金曜日」編集人たちは、選挙に候補者を立てないから政治資金規正法上の「政治団体」ではないだけで、昨秋に反皇室演劇つきの集会を行うなど実態は「政治団体」に他ならず、「週刊金曜日」はその機関誌だと思われる。
2.川田龍平は7月参院選に東京選挙区から立候補するらしい。日本共産党・民青そのものには加入しなかったようだが、訴訟等の運動の中で「左翼的」活動家に成長したのだろう。
小林の上の本の中に、「支える会」の若者の間でカール・ヴォルフレンの本がよく読まれているという話が挿入されていたが、彼の日本・権力構造の謎(上・下)(早川書房、2000)は日本の国家・社会を欧米的観点から「異常視」する、偏見に満ちた本で、なるほど(反発がありうる)モロの共産党・民青の本よりは、外国人が書いた(客観的ふうの)日本の「権力構造」批判の本として、読者を「反体制」化・「左翼」化するのに役立ったに違いない。
そのスペシャル版もたぶん全て所持し、読んでいる。そのうち、新ゴーマニズム宣言スペシャル・脱正義論(幻冬舎、1996)は、小林が1994年に「HIV訴訟を支える会」の代表となり、弁護士等と運動の仕方等について軋轢を生じさせながら活動し、1996年03.29に加害企業と「和解」が成立して、彼の影響も受けて「支える会」会員となった者たちを含む若者(学生)たちに、<さぁ日常に戻ろう>と呼びかけたところ、「支える会」の支部等の「代表も事務局長も会計もすべて左翼系団体の同盟員というところもある。民青が仕切ってたりするところもあるらしい」(p.70)ことを知って愕然として原告患者青年の川田龍平に伝えたところ、彼は「知ってますよ」とニヤリと笑って答えた(p.78)、なんていうことが生々しく描写されていて、とても印象的だ(とても長い一つの文だ)。
「HIV訴訟を支える会」の実際がどうだったのかの知識はないが、純粋な善意で始まった「市民」運動も、いつの間にか政党等の「色のついた」(多くの場合は「左翼系」の)運動に変質していくことは、十分に考えられる。この本が描くように「支える会」を日本共産党・民青同盟系の者たちが実質支配したのだとかりにすれば、さすがに「大衆団体」を党・民青等近接団体の<下請け>化することに手慣れていて、巧いものだ。また、こうした訴訟の場合、手がける弁護士たち自体がとっくに日本共産党員又は同党シンパであることも十分にありうるだろう。
「政治」と何らかの関係のある問題についての、多数の「個」の純粋な「連帯」は、小林が正義感をもって当初想定したよりはやはり相当に困難なのが現実だろう。
その他、書き残しておきたいことが二つある。
1.「あとがきにかえて」に、「もっと腹が立つのは佐高信ら、『絶対の正義』と薬害エイズが世間に認定された後に近寄ってきて自分の言い分にこれを利用しようとするハイエナみたいな言論人だ」とある(p.256)。
なるほど、佐高信は、自分たちの「運動」に利用しようとして小林又は「支える会」にも接近してきたのだ。
佐高信は、巧妙に隠しているものの「週刊金曜日」共同編集人でテレビ・コメンテイターをしている石坂啓もそうだと思うが、決して<評論家>ではなく、<(社会)運動家>だ。「ハイエナみたい」と表現されているのも、ずばり適切で、よく分かる。
「週刊金曜日」編集人たちは、選挙に候補者を立てないから政治資金規正法上の「政治団体」ではないだけで、昨秋に反皇室演劇つきの集会を行うなど実態は「政治団体」に他ならず、「週刊金曜日」はその機関誌だと思われる。
2.川田龍平は7月参院選に東京選挙区から立候補するらしい。日本共産党・民青そのものには加入しなかったようだが、訴訟等の運動の中で「左翼的」活動家に成長したのだろう。
小林の上の本の中に、「支える会」の若者の間でカール・ヴォルフレンの本がよく読まれているという話が挿入されていたが、彼の日本・権力構造の謎(上・下)(早川書房、2000)は日本の国家・社会を欧米的観点から「異常視」する、偏見に満ちた本で、なるほど(反発がありうる)モロの共産党・民青の本よりは、外国人が書いた(客観的ふうの)日本の「権力構造」批判の本として、読者を「反体制」化・「左翼」化するのに役立ったに違いない。
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