秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

大宅壮一

0941/「戦後」とは何か③-遠藤浩一著の3。

 1963年(昭和38年)に、「文学座」分裂事件が起こり、これには三島由紀夫福田恆存も関係している。この事件は、<親中・媚中>の「左翼」で、のちに大江健三郎のそれの次の年に日本の文化勲章受賞を拒否した杉村春子が主人公のようで、「政治」と文芸(・新劇)との関係あるいは<進歩的文化人>なるものの所為を知る上でも興味深い。1963年とは、東京五輪の前年になる。
 遠藤浩一・福田恆存と三島由紀夫(下)(2010、麗澤大学出版会)p.214-によると、福田恆存はこの1963年から翌年にかけて、「日本近代史論」を月刊文藝春秋に連載したらしい。この論考は現在刊行中の福田恆存評論集(麗澤大学出版会)には収載されていないようだ。

 遠藤によると、福田論考の内容は、次のようだ(「」はもともとの福田恆存の文章の引用部分)。

 明治以降の「近代化」は「壁なし社会」形成という成果はあるが、「大壁、小壁が存在しなくなったのではなく」、「透明な部分が多く」なりかつ「在り場所が不規則に」なっただけのこと。悪法も無視することで「存在を透明に」して「あたかも無きがごとき錯覚」を与えうる。特に戦後の日本は一九四六年製の胡乱な憲法によって拘束されているが、その歪みに対する疑念は拭われていない(「悪法は法に非ず」が安直に実現され日常化されている)。

 また、日本の国際化は国際的視野が広がったのでは必ずしもなく、「国家という大城壁が崩れ去」り「透明になり見えにくくなったという意味」にすぎない。

 さらに、大衆化現象の進展・マイメディアの発達による都市化の急速化で大都市・農村を問わず「彼等の欲望を強烈に刺激し、その欲求不満を掻立てる」ようになった。そして自然科学の進歩や技術革新により、日本人は「悪夢の中」に「他方では限り無く美しい薔薇色の夢の中」に包まれて、「自由を束縛する壁」や「危険を守ってくれる壁」の存在が「全く解らなくなっている」。

 以上だが、なかなかに含意に富む。

 <透明化>とは近年ではよい意味で使うことが多いが、ここでは存在するのに見えなくすること(見えなくなること)の意味だ。

 ①日本国憲法制定過程・手続に大げさには「悪」があったとしても、見ても見ぬふりをする(気づいていても知らないふりをする)心性にほとんどの日本人が陥っていたのではないだろうか。また、過程・手続にのみならず内容自体にも奇妙なところがあることを意識していた者も少なくなかっただろうが、あえて言挙げする者の方が少なかったのだろう(だからこそ憲法改正は現実化しなかった)

 ②1963-64年の時点にすでに福田恆存はマスメディア等が日本人の「欲望を強烈に刺激し、その欲求不満を掻立てる」現象を指摘している。大宅壮一がテレビによる<一億総白痴化>を語ったのは1957年くらいらしい。だが、経済成長に伴う、とくにマスメディアを通じた<消費「欲望」肥大化>・<「物質的」豊かさの追求>に対する批判的なコメントとしては、1963年頃でも早いと言えるだろう。

 ③「壁」が見えなくなっているとの指摘は、「国家」意識の減退・縮小や規律・秩序の弱体化・崩壊を意味しているようだ。

 そして驚くべきことに、上の①~③のような、福田恆存が1963年頃に含意させていたような事柄は、今日、2010年でも、基本的には何ら変わっていないのではないか。

 遠藤浩一も言うとおり、<「戦後」はまだ続いている>。

 「悪法を改めることもせず、その解釈拡大(無視)によってしのぎ続ける日本人。『国家という大城壁』を崩壊に任せたままの日本人。欲望の充足だけが政治の課題だと信じ込んでいる日本人。自らを守るものを見失ったままの日本人。何も変わっていない」(p.216)。

0637/竹内洋・学問の下流化(2008)、猪瀬直樹・作家の誕生(2007)、サピオの小林よしのり「天皇論」。

 〇12/16に竹内洋・学問の下流化(中央公論新社、2008)を全読了。気が向いたらいつか言及する。「下流化」とは「大衆社会の中での…ポピュリズム化」を言い、「ういてしまう学問のオタク化」に対する概念のようだ(p.13)。どちらに対しても憂いていると思われるが。
 〇途中まで読んでいたことに気づいた猪瀬直樹・作家の誕生(朝日新書、2007(古書))を、やはり一気に全読了。かなり前に太宰治や三島由紀夫らごとの著書(著作集2~4など)を読んでいたので、多分に重なっている感もある。
 この人は東京都副知事をしているようだが元来は政治・法律系ではなく文学・文芸系の素養の人だろう。道路公団民営化の議論もきちんとした基礎的「理論」があったとは思えない。もっとも、経済・政治(・行政)・法律、いずれの学者・専門家も、役立つ「理論」をいかほど提供したかはきわめて疑わしい。
 この本のp.120によると、大宅壮一は1955年(55歳のとき)にこう書いた。
 「平和主義などというものは、誰でもほしがるチョコレートみたいなもので『思想』でもなんでもない」。
 <日本の知識人は「デパートの食堂の前に立たされた子供」で、つぎつぎと輸入される舶来思想のどれを身に纏ったらよいか迷い、帽子の如くあれこれと被っては悩んでいる。外国の最新のカタログに眼を通していないと安心できない。……>
 次は、大宅壮一に好意的な猪瀬自身の言葉。
 「日本の近代は輸入思想の堆積物にあふれ、その断面の縞模様…〔には〕知識人の死骸が貝殻のように詰まっている。流行思想に帰依し自己喪失に陥る現象は、今後もずっとつづくのだろう。思想が帽子…〔ならば〕責任はともなわないのだから」(p.121)。
 〇サピオ・新年合併特別号(小学館、2008.12)。「輸入思想」によって「自己喪失」に陥ってはいないようである小林よしのり・ゴーマニズム宣言スペシャルは「天皇論」を開始している。
 p.71-元日の「午前5時30分、天皇は皇居内の神殿の前庭にお出ましになり、地面に敷いた畳にお座りになって、伊勢神宮をはじめ、四方の天神地祇、神武天皇陵、昭和天皇陵、ならびにいくつかの神社を遙拝される」。これが一年で最初の「宮中行事」。
 ほとんど毎号買ってきたが、当面は講読を欠かせそうにない。

ギャラリー
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  • 2293/レフとスヴェトラーナ18—第5章①。
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  • 2283/レフとスヴェトラーナ・序言(Orlando Figes 著)。
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