資料・史料-2007.05.20「安倍内閣批判」朝日新聞社説
平成19年5月20日
//朝日新聞社説
価値観議連―「安倍応援団」の危うさ
安倍首相を支持する自民党の中堅・若手議員ら43人が「価値観外交を推進する議員の会」を発足させた。
会長には拉致議連などの活動を通じて首相と親しい古屋圭司氏、顧問には先輩格の中川昭一党政調会長が就いた。
メンバーには、いわゆる従軍慰安婦問題への旧日本軍の関与について、強制連行はなかったと主張する「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の顔ぶれがずらりと並ぶ。
97年にこの会が発足した当時は、中川氏が会長、古屋氏は副幹事長、首相は事務局長だった。新たに設立された価値観議連は、そうした首相の仲間たちが結集した「安倍応援団」である。
議員の有志が集って政策を練り、行動すること自体に異論はないが、この議連と首相との関係には首をかしげざるを得ない。
「価値観外交」とは耳慣れないが、趣意書によると、自由・民主・人権・法の支配という普遍的価値を高く掲げ、これを共有する国々や人々と連携していくのが目的だという。そもそもこれは首相の持論であり、それを後押ししようということだろう。
では、価値観を共有しない国はどこか。古屋氏は初会合でこう述べた。「首相の日中首脳会談には大きな成果があった。しかし一方では、軍事費増大など覇権拡張の疑念は払拭(ふっ・しょく)できない。中国は共通の価値観を持つ国ではない」
同じ会合で講演した中川政調会長もこう述べた。「中国は我々に一番近くて脅威の国だ。我々が中国の一つの省になることは絶対に避けないといけない」。
日中外交がようやく軌道に乗り始めているときに、何とも刺激的な中国警戒論ではないか。
古屋氏は「人権擁護法案、皇室典範、靖国参拝、国民投票法、民法772条(嫡出の推定)の問題はいずれも思想信条に直結する。同じ方向をめざす同志を糾合し、速やかに行動できるグループとして機能を果たしたい」とも述べた。
言い換えると、列挙したのは女系女帝の反対論など、とりわけ右派の熱心なテーマばかりだ。これがめざす「真の保守主義」なのだというが、「自由・民主・人権」というより、復古的な価値観に近いのではないか。
政権についた安倍氏が、靖国参拝や慰安婦問題での主張の修正を迫られたことに、右派は不満を募らせている。ならば「建前」しか語れない安倍氏に代わって、議連が「本音」を語り、右派の理念のエンジン役になろうということか。
議連には、首相の側近である下村博文官房副長官、山谷えり子首相補佐官が名を連ねた。彼らがわざわざ創設に加わったところに、首相と議連との距離の近さが表れている。
ことは外交である。あたかも首相に二つの口があるかのような印象を与えていては、世界の信用は得られまい。//
*ふたことコメント-2007年7月参院選前の朝日新聞による安倍内閣への集中批判・攻撃・皮肉の一つ。①中川昭一の「我々が中国の一つの省になることは絶対に避けないといけない」との発言にこの朝日新聞社説は「何とも刺激的な中国警戒論ではないか」と反応している。②人権擁護法案反対、皇室典範改正(女系女帝容認)反対、靖国参拝、改憲国民投票法、民法772条改正(嫡出の推定)反対を「右派の熱心なテーマ」と断じ、「復古的な価値観に近いのではないか」として、自らの「左派」性とその「価値観」の一端を暴露している。
古屋圭司
〇 刊行順ではないが、関岡英之・奪われる日本(講談社現代新書、2006.08)を全読了。反小泉「構造改革」(=米国の国益のための日本の国益の毀損・「日本的」伝統・よき慣行の否定)という主張において、基本的には同じ。
関岡・目覚める日本(PHP、2009.02)に書いてあったことだが、p.31-「『大きな政府』と『小さな政府』、どちらが絶対的に正しいのではなく、要はバランスの問題なのです」(p.31)。
関岡は「間接金融と直接金融」もどちららかが100%正しいのではなく「要はバランスの問題なのです」(p.39)、とも書く。
『大きな政府』と『小さな政府』は、あくまで資本主義市場経済を前提としての「自由原理主義」・「新自由主義」と「社会民主主義?」との対立とも見られるが、こんな簡単な概念のレベルで議論しても意味がない。単純に「自由原理主義」・「新自由主義」を批判しても、それだけでは意味がないと考えられる。関岡の言うとおり、「要はバランスの問題」なのだ。しかもそれは、経済政策(実質的には国政一般に等しいほどに範囲・影響力は大きい)の個々の論点ごとに議論されなければならない。
関岡・奪われる日本(講談社現代新書)でも強調されている一つは、日本のマスメディアのひどさ。
関岡によると、2005年総選挙の際に朝日新聞は小泉礼賛の社説を書き、アメリカの年次改革要望書の検証・報道をすることなく<郵政民営化>反対議員たちを「族議員」・「守旧派」扱いしたらしい(p.52)。城内実、古屋圭司、衛藤晟一、古川禎久、平沼赳夫、小泉龍司ら。
2007年参院選前の安倍晋三内閣に対する態度とは大違いだ。
朝日新聞(の論説委員たち)は、<構造改革>の経緯と内容をどれほど分かっていたのだろうか。ある程度は理解していながら、日本政府が対米関係で苦しみ、かつある程度は米国政府の要求が通っていったことを、肯定的に(問題視しないで)理解していた可能性もありそうだ。日本政府が苦しむ、日本社会が変化していく、「日本的」なものを失ってゆくことを心底では無意識にせよ、歓迎していたのかもしれない。彼ら朝日新聞は、<自虐>意識の、日本が責められて喜ぶタイプの論説委員たちで成り立っていると思えるからだ。
<構造改革>の少なくとも影の面を当時にきちんと批判しておかないで、今頃になって<派遣切り>を問題視したりするのは<偽善>だ。それにしても、関岡によって、あらためて、日本のマスメディアのレベルの低さを思い知らされた感もある。外国(米国)資本の保険会社等の広告費によって、現今の新聞・テレビ等々は経済的に潤ってもいるのだ。
関岡・奪われる日本には「皇室の伝統をまもれ」と一括されている二つの文章もある。女系天皇否定、元宮様の皇籍復帰を主張する珍しくもない短い文だが、「そもそも総理大臣の臣は臣下の臣である」(p.176)との何気ない文が気を惹いた。
たしかに「臣」とは主人(日本の場合、究極的には「天皇」)に使える従僕というのが元来の意味だ。はろけき遠くの昔に始まった律令制上の「大臣」という言葉が現日本国憲法でもなお用いられている。
「大臣」という言葉が「君主」=「天皇」をこそ前提としているとすれば、民主主義・「国民主権」や「平等」原則は現憲法の天皇制度条項に上回るとか、後者は前者らに適合的に解釈されなければならぬとか主張している、天皇制度廃止・解体論の「左翼」憲法学者たちは、辻村みよ子や浦部法穂も含めて、まずは、「大臣」という用語を使わないように憲法改正を提言すべきではないか。
〇佐伯啓思・現代日本のリベラリズム(講談社、1996)は三月中に全読了。もっとも、この本は数年前にすでにかなり読み終えていた可能性がある。
いわゆる「価値観議連」の古屋圭司会長は、こう述べた。「首相の日中首脳会談には大きな成果があった。しかし一方では、軍事費増大など覇権拡張の疑念は払拭できない。中国は共通の価値観を持つ国ではない」。
また、同議連の会合で講演した中川昭一・自民党政調会長はこう述べた。「中国は我々に一番近くて脅威の国だ。我々が中国の一つの省になることは絶対に避けないといけない」。
これらに全く問題はない、と私は思う。
しかし、朝日社説は、上の二つの発言を紹介したのち、こう書く。「日中外交がようやく軌道に乗り始めているときに、何とも刺激的な中国警戒論ではないか。」
まず第一に、上の発言内容に問題はなく、これを「何とも刺激的な中国警戒論」として批判し、封印しようとするのは、中国に対しては正しいことも言うな、言いたいことも言うなに等しい。こうした姿勢は、かつて中国の文革時代に朝日新聞社自身が採ったものだった。今でも当時の朝日の中国関係報道記事の歪み(媚中・屈中姿勢)を批判する声は大きい。だが、基本的な部分では朝日は依然として変わっていないのだろう。
中国の軍事費増強に懸念を示してどこがいけないのか。従ってまた、「一番近くて脅威の国」との感じ方は決して異常ではなく、日本が「中国の一つの省になる」のを絶対に避けるべきとの発言は至極当然のことだ。
第二に、朝日社説には、「日中外交がようやく軌道に乗り始めているとき」だからいけない、とのニュアンスがある。
何を寝ぼけているのだろう。私は、「日中外交が軌道に乗る」ということは、中国が共産党支配の国であるかぎのたぶんありえないことだと考えている。「日中外交が軌道に乗る」ということの意味の問題でもあろうが、近隣国家としての儀礼的なつきあいはあるだろうし、それを続けるべきだとしても、真に友好的な「外交」が、共産党支配の中国との間で成立する筈がない。
中国もまた本音では、私と同じように考えている筈だ。
「社会主義」中国と真に仲良くできると朝日は考えているとすれば、まだ幼児の如く、「社会主義」国の怖さ、共産党の怖さを知らない。積極的に「社会主義」中国と真に仲良くすべきだと考えているとすれば、それは中国の言いなりになれと主張しているのと等しく、かつ、いまだに「社会主義」幻想を捨てていないマルクス主義(毛沢東主義?)者の如き発想だ、と思う。
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