秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

南出喜久治

0992/もはや解散・総選挙以外にない+渡部昇一の妄論。

 〇「もはや解散・総選挙以外にない」-遠藤浩一・産経新聞3/02正論欄。なお、この人は法学部出身。

 〇とりあえずごく簡単に書いておく-渡部昇一監修・日本は憲法で滅びる(総和社、2011.02)の「はじめに」を渡部昇一が書いていて、日本国憲法は「占領対策基本法」で憲法としては「無効」なので「無効宣言」をすべし、というこれまでもいろいろな所で書いてきている妄論を主張している(「憲法改正」反対論の一種。p.3)。

 たんなる渡部個人の著・論考ならまだよいが、「憲法」をタイトルに打った本の監修者の「はじめに」となると、座視できない。

 日本国憲法「無効」論については渡部昇一以外の者の詳論も読んで検討したことがある(今回は急いでいるのでかつてのエントリーへのリンク省略)。結論は、「無効論」に値せず(「無効」概念の誤用がある)かつ<憲法改正>または<自主憲法の新制定>を遅らせるだけの、議論の混乱を招くだけの妄論だ、ということだった。

 「無効宣言」すべしとする一部の論者に尋ねたいが、その宣言主体はいったいどの国家機関なのか(あるいはどのような手続を経てどの国家機関が行うのか)? 「国会」とする論者もあるようだが、渡部昇一は上の「はじめに」で、「その手続は意外と簡単」だなどと空論を述べ、「日本政府」がとにかく一度でも「無効宣言」すればよい、と説く(p.3、p.5)。

 そこで渡部昇一に一つだけ尋ねる。「日本政府」とはいったい何か。国会も含めて広く統治機構を「政府」と称する語法もあるが、現憲法(および大日本帝国憲法)の概念だと「内閣」をおそらく想定しているのだろう。そうでないと、漠然と「日本政府」と言うだけでは国家機関を特定したことにはならない。あるいは渡部は緻密に思考していないので、内閣を代表する内閣総理大臣を念頭に置いているのだろうか。その場合でも以下の論旨は同じ。

 しかして、渡部昇一のいう「日本政府」=「内閣」(または内閣総理大臣)は旧憲法上のものか、渡部昇一のいう日本国憲法=「占領対策基本法」上のものか??

 前者はすでに存在していない、と認識するのが(規範論としても現実論としても)妥当だろうと思われる。

 後者だとして、渡部昇一のいう日本国憲法=「占領対策基本法」にもとづく、かつそのもとで制定されてきた法律(「内閣法」)によっても構成されてきた内閣(または代表・内閣総理大臣)に、自らを生んだ日本国憲法=「占領対策基本法」を「無効」と判断し「宣言する」権限はあるのか??。自らの祖先を殺すようなもので、こういうことを平気で述べる著名な<保守>論客が存在すること自体が、悲痛な想いにさせる。

 「国会」を「無効宣言」の主体と考えても、同じことがいえる。衆議院と参議院から成る国会は日本国憲法のもとでの国家機関で、日本国憲法が生み出したものだ(旧憲法では構成も異なる「帝国議会」)。

 渡部昇一は、「日本政府」なのものの意味をより明確にするとともに(日本国憲法には前文を除き「政府」概念はない。旧憲法でも同じ)、その国家機関を「法的に」生み出した出所を明らかにされたい。

 占領下において、日本国憲法を上回る超憲法的な「権力」があり、諸施策が行われたことを否定はしない。現憲法が禁止する「検閲」はあったし、超憲法・超法規的に公職追放等もなされた。

 だが、そのようなことは、現在における日本国憲法「無効」論の根拠にはならない。

 不思議に思うのだが、渡部昇一の「はじめに」以外は未読だが、各執筆者のうち南出喜久治を除いて、その他の者は、例えば西尾幹二も(現憲法下の法制のもとでの)「法曹」資格ある稲田朋美も法学部出身の遠藤浩一も、監修者・渡部昇一の日本国憲法「無効」論・「無効宣言」すべし論に与しているのだろうか??

 一見新鮮なようでいてじつは無駄な議論だと、南出以外の者は感じていないのだろうか?

 そのように一致しているとは思えない主張を、監修者たる資格で渡部昇一はよくも堂々と書けたものだと思う。

 このような者が、<保守>の代表的な論者とされているのかと思うと、日本の将来に、やはり暗澹たる思いがする。かかる妄論が一冊の初めに堂々と主張されているようでは、「九条の会」参集者も、渡部昇一のいう「憲法を食い物にする敗戦利得者」=現在の日本の憲法学者(憲法研究者)のほとんども、せせら嗤って、何ら痛痒を感じないだろう。

 百地章、西修、稲田朋美、ついでに八木秀次らは、渡部昇一という名前に怯む?ことなく、日本国憲法「無効」論・「無効宣言」すべし論を批判すべきだ。こんな「はじめに」をもつ、<憲法>をテーマとするがごとき書物が<保守>派によって刊行されてよいのか? 百地、西、八木に学者としての「良心」はあるのか?

 以上述べたことは、個別の各論考にかかわるものではない。

 これまでこの欄でほとんど渡部昇一の本・主張を採り上げなかったのは、渡部が日本国憲法「無効」論にだらしもなく影響をうけていることが明瞭だったからでもある。誰か、勇気のある者は、退場勧告をつき突けた方が(日本の将来のためにも)よい。

0104/日本国憲法無効論はどう扱われてきたか(たぶん、その1)。

 日本国憲法無効論があるのを知り、この議論がどの程度の影響力をもっているかに関心を持ってネットで探していたら、「南出文庫」という文書ファイル名、「忘れられたもう一つの「憲法調査会」」というタイトルの文書に行き当たった。
 渡部昇一との共著がある南出喜久治の文章かと思われ、また1997年5月以降で国会両院に憲法調査会が設立される前に執筆されているようだが、いずれも確定的ではない(なお、「現行憲法破棄!、山河死守!、自主防衛体制確立!」と表紙にある「民族戦線社」のHP内に収載の文書のようだ)。
 この文書によると、こうだ。
 昭和31年の憲法調査会法にもとづき内閣に設置された「憲法調査会」は国会議員30名、学識経験者20名の計50名の委員で構成され、調査審議し、昭和39年7月3日に本文約二百頁、付属書約四千三百頁、総字数約百万字にのぼる「憲法調査報告書」を完成させて報告した。「ところが、…この報告書には、致命的な欠陥と誤魔化しがあった。それは、当時、現行憲法の制定経過の評価において、根強い「現行憲法無効論」があったにもかかわらず、無効論の学者を一切排除し、有効論の学者のみをもって憲法調査会が構成され、しかも、有効論と無効論の両論を公正に併記し、それぞれ反論の機会を与えるという公平さを全く欠いた内容となっていたからである」。/「この報告書では、当時の無効論をどのように扱ったかと言えば、僅か半頁、しかも実質には約百字で紹介されたに過ぎない。…百万字の報告書のうちのたった百字。一万分の一である。そして、報告書曰わく「調査会においては憲法無効論はとるべきでないとするのが委員全員の一致した見解であった」としている。誰一人無効論を唱える者を委員に入れずして、「委員全員の一致した見解」とは誠に恐れ入った話である」。
 上の報告書など読んだこともないが、これで当時の、すなわち1960年代前半の「雰囲気」はほぼ分かる。
 ちなみにこの文書の執筆者(南出?)は、次のようにも書く。
 「殆どの憲法学者というのは「現行憲法解釈学者」であって、これで飯を食っている御仁である。そのため、現行憲法が無効ではないかという議論がなされてくると、今まで、現行憲法の絶対無謬性を唱えてきた「現行憲法真理教」の教義が揺らぎ、今まで嘘を教えたと学生や大衆から非難され、オマンマが食べられなくなるからである。無効論に説得力がないと思うのであれば、堂々と議論して論破すればよいではないか。しかし、それは死んでもできない。なぜなら、無効論には明確な法的根拠と充分な説得力があるので、これと議論すれば必ず負けるからである」。
 現行憲法を有効視しないと「オマンマが食べられなくなる」というのはその通りかもしれない。だが、「無効論には明確な法的根拠と充分な説得力があるので、これと議論すれば必ず負けるからである」という部分には疑問符をつけておきたい。
 私は憲法学者(研究者)でも何でもないが、知的好奇心は旺盛なつもりなので、小山常実・憲法無効論とは何か(展転社、2006)も買って少し読んでみた。
 南出と渡部の共著は所持しつつ未読なので、南出の無効論と小山の無効論が全く同じなのか、どう違うかはまだ知らないが、少なくとも小山の上の本には、私でも「突っ込める」ところがいく点もある。上の言葉を借りれば、「明確な法的根拠と充分な説得力」があるとは必ずしも思えない。
 詳細はここでは省くとして、つぎには、すでに2005年に(内閣に設置ではない、1960年代のとは異なる、新しい)国会両院の憲法調査会がこれまた長い報告書をすでに出しているようなので、そこで「日本国憲法無効論」がどう扱われているかを(むろんすべて本来の仕事の範囲外のことなので、時間を見つけて)調べてみよう。
 なお、多数意見が誤っており、少数意見が「正しい」こともありうる。だが、そこでの「正しさ」とはいったい何なのだろう。こうした憲法・法学的分野では、総合的に観てより合理的・論理的で、より説得的なものがより「正しい」意見なのだろう。従って、全ての人間(日本国民全員)を納得させるような「(絶対的に)正しい」見解というのはそもそも存在しないのだと思われる。というような、余計なことが頭に浮かんだ。

0096/渡部昇一は日本国憲法改正に反対している!

 渡部昇一(1930-)という人は不思議な人だ。つい前回、2001年の本では、日本国憲法の三大原則を守ってより良くする改正を、と発言していた、と書いた。
 月刊WiLL(ワック)の2007年6月号の彼の戦後史連載講座5回目は日本国憲法を扱っているが、そのタイトルは「新憲法は「占領政策基本法」だ」で、次のように書く(p.239)。
 「日本国憲法は条約憲法で、ふつうの憲法ではない…。正確に言えば、占領政策基本法でしょう」。/「日本政府は独立回復時に日本国憲法を失効とし、…ふつうの憲法の制定か、明治憲法の改正をしなければならなかった。日本国憲法をずるずると崇め、またそれを改正していくということをすべきではないのです」。
 渡部氏は最近、南出喜久治という人との共著・日本国憲法無効論(ビジネス社、2007.04)を刊行している(私は未読)。この南出の影響を受けたのか、上で語られているのは、明らかに日本国憲法改正反対論だ。十分に丁寧には説明していないが、有効な憲法ではなく占領政策基本法にすぎないのだから、それを改正しても憲法改正にはならない、「日本国憲法」が有効な憲法とのウソを更に上塗りすることになる、という趣旨だろう。
 渡部昇一という人は「保守派」の著名な論客だが、対談する、又は一緒に仕事をする人の考え方の影響を受けやすいのだろうか。今頃は改憲の主張を頻繁にしている方がむしろ自然に思えるのに、何と、日本国憲法無効論の影響をうけて(であろう)、2001年の本とは逆に、改憲に反対しているのだ。2001年の本以外にも彼は、現憲法9条2項の改正を主張する等の論稿・発言をこれまで頻繁に公にしてきたのではなかったのか。
 考え方が変わる、ということはありうる。だが、70歳を過ぎて基本的な問題に関する考えを変えるとは珍しい。また、改憲に反対とは、そのかぎりで、渡部昇一という人は大江健三郎や佐高信と同意見であることを意味する。客観的には、大江や佐高、そして朝日新聞等々を喜ばせる主張を、彼は月刊WiLL誌上で行っているのだ。
 西尾幹二等と比べれば、軽い(噛みごたえの少ない)文章を書く人という印象はあったが、渡部はもはや、かなりの程度、信用できない人のグループに入りそうだ。
 ところで、渡部は、「すべての根元はこの〔八月革命説を唱えた〕宮沢俊義東大名誉教授とその門下生です。病的な平和論者に芦部信喜東京大学教授、樋口陽一名誉教授がいます」と書き、「百地章さんや西修さん」は「まっとうな憲法学者」だとする(p.243、p.244)。
 渡部がじっくりと各氏の(論文は勿論)教科書類を読んだとは思えないのだが、とくに前半は、はたして、どなたから得た情報又は知識だろうか(なお、上半分のうち、宮沢、芦部両氏は故人の筈で、肩書きに一貫性がない。これは、潮匡人・憲法九条は諸悪の根源p.252-3を参照したからではないか、と推測する)。

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