(株)文藝春秋の月刊諸君!が6月号(5月初旬発売)で廃刊になることが決まったようだ。
前回・前々回に言及した櫻田淳論考は諸君!4月号のもの。
2月号を買って竹内洋の連載ものにあらためて興味をもち、数号を古書で買い求めた(従って文藝春秋の利益になっていない)のは諸君!だった。それ以前の諸君!は昨年初めくらいまではほぼ毎号新規購入して読んでいたが、昨年途中からどうもおかしいと思い始めた。
記憶するかぎりでは、①「左翼」・保阪正康の連載を延々と続けさせている、②皇室問題につき<興味>を優先させる(対立を煽り立てるような)編集をしていると感じた、③文藝春秋本誌(月刊文藝春秋)もそうだが、田母神俊雄論文問題につき、完全に<傍観者>の位置に立った。
文藝春秋本誌では「左翼」・保阪正康の「秋篠宮が天皇になる日」とやらの論考が最大の売りであるかの如き編集・宣伝をしていた(そんなこともあって昨年末以降、文藝春秋本誌も購入していない)。
諸君!は最近部数が落ちていたらしい。昨年平均は6万数千部に落ちた、という。これが多いか少ないかは判断がつきかねるが、自分自身が昨年途中から定期的購入者でなくなったのだから、同様の人が少なからずいても不思議ではない。
西尾幹二は何かの雑誌上で、左傾化(・朝日新聞化?)する「文藝春秋」を批判・分析する文章を書いていた。
廃刊の理由は様々あるだろうし、(株)文藝春秋の経営的判断・分析の正確な内容は分からない。
ただ、他の「保守」系月刊誌(論壇誌)とは異なり、上記の如く、<左にもウィングを拡げようとした>ように感じられることが本来の読者層をある程度は失ったのは確かだと思われる。
田母神俊雄論文をバッシングするか擁護するか、この雑誌と(株)文藝春秋は、明確な立場を表明できなかったのだ。また、諸君!に限っての記憶によると、「左翼」・保阪正康の論考(連載ものでなかったかもしれない)が大変よかった旨の読者投稿をあえて掲載したこともあった。そうした編集方針が部数減につながったのだとすると(その可能性は十分にある-講談社・月刊現代の廃刊の原因の一つも(こちらの場合はより明瞭な)「左傾化」だと思う)、「編集人」・内田博人の責任は少なくないだろう。「左傾化」又は「大衆迎合」化に舵を切りつつ、中西輝政、西尾幹二(あるいは4月号では長谷川三千子)あたりで巻頭を飾ってもらえば「保守」層は離れないだろうと判断していたとすれば(仮定形をとらざるをえないが)、読者を馬鹿にしていたとしか言いようがないものと思われる。
40年続いた雑誌が休刊という名前の廃刊。保阪正康の名を見る機会が減るのは嬉しいが、竹内洋らの優れた、連載ものの論考・文章はどうなるのだろう。6月号で無理にでも終焉させるのだろうが、その点は残念なことだ。
内田博人
過去に書いたことの繰り返しがほとんどになるが、保阪正康について。
保阪は首相の靖国参拝反対論者だ。朝日新聞の昨年8/26に登場してその旨を述べ、<靖国神社には「旧体制の歴史観」、超国家主義思想が温存され露出しているので参拝は「こうした歴史観を追認することになる」>と理由づけた。そして、この朝日上の一文を<「無機質なファシズム体制」が今年〔今から見ると昨年〕8月に宿っていたとは思われたくない、「ひたすらそう叫びたい」>との(趣旨不明の)情緒的表現で終えていた。
また、保阪は文藝春秋の昨年9月号にも原稿を書いて、<講和条約までは戦闘中でそのさ中の東京裁判による処刑者は戦場の戦死者と同じ、と自らが紹介している松平永芳靖国神社宮司の見方を、占領軍の車にはねられて死んでも靖国に祀られるのか、「かなり倒錯した歴史観」だ>、と「かなり エキセントリックな」言葉遣いで批判していた。
10/02に書いたように、今年の諸君!11月号(10月初旬発売)の一文はひどいものだった。呆れてほとんど引用しなかったのだが、いま少しは詳しく紹介してみよう。
まずタイトルが「『安倍政権の歴史観』ここが間違っていた」で、「安倍政権の歴史観」なるものを俎上に上げて批判しようとする。そして、逐一の長い引用は避けるが、例えばつぎのような文章・表現で安倍内閣または安倍首相を批判していた。
①「丁寧に論じれば論じるほど、安倍首相が社会的現実や歴史的事実の一面しか見ていないことを世間に知らしめてしまったのだ。/とくに歴史観や歴史認識で、それが露骨にあらわれていた。」(p.58)
②「このような言葉の軽さは、安倍首相が社会的現実や歴史的事実を俯瞰する目をもっていないことを示している。そうした歴史を語るときの言葉の軽さが、国民に信頼されないという結果につながったのだ。」(p.59)
③「『政治とカネ』や『年金問題』、さらに『都市と地方の格差』といった生活に直結する問題だけで敗れたというより、安倍首相のもっている歴史認識、それにもとづいての言語感覚そのものが国民の信頼を勝ち〔ママ〕得なかったと分析する論の方が説得力を持っている。」(p.60)
④「つまり、安倍首相の言説はきわめてご都合主義の論であり、歴史的事実の側面だけをつぎはぎしただけの、あまりにも軽い歴史認識ということになってしまう。」(p.61)
⑤「安倍首相の片面しか見ない、いわば都合の悪い事実には目をつぶる、あるいは自らが酔う言語を口にし、それを他者に押しつけるという性格は、…」(p.61)
⑥「安倍首相は、現代社会の首相としての資質に欠けていただけでなく、その歴史認識そのものが歪みを伴っていたのである。にもかかわらず首相になれたところに、現代日本社会が内包しているブラックホールがある」(p.61~62)
⑦「だが安倍首相のように、常にある一面だけしか見つめず、そこからしか論を引き出せないとするなら、せめて…などといった大仰なスローガンを口走るべきではない。」(p.62)。
⑧「安倍首相には非礼な言い方」だが、「独裁者的な独りよがりの体質、そして反時代な言語感覚が世間にには受け容れられないことを証拠だてたという意味で、日本社会はある健全さを示したというのが、私の実感」だ。(p.62)
上の⑧は最末尾の文章で、7月参院選の自民党敗北を喜んでいることを示している。
さて、第一に、上の③は7月参院選・自民党敗北の原因分析だが、こんな分析をしていた新聞・論壇・評論家はいた(あった)のだろうか。そもそも「安倍首相の歴史認識(>それにもとづく言語感覚)」は、どの程度、選挙の争点になっていた、というのか。
保阪は、自分が得意とする<歴史認識>・<歴史的事実>の分野で議論をしたいという目的のためにのみ、不得意な社保庁・年金問題、経済的「格差」問題等を避けて、上の③のようなことを言っているにすぎないのではないか。
この人にかかると、「歴史」を語る又は「歴史」に関連する行動をするおそらくすべての首相が、小泉もそうだったように、<歴史認識>不十分・不正確とかの理由で批判されるのだろう。そんな自信をもてるほど、自分は<現実・将来を見据えての歴史的知識・歴史認識をもっている>と、保阪は鼻高々に言えるのだろうか。
第二に、上以外に保阪が言っているアレコレも全然説得力がないのは何故だろうか。
「社会的現実や歴史的事実の一面しか見ていない」、「社会的現実や歴史的事実を俯瞰する目をもっていない」、「きわめてご都合主義の論」・「歴史的事実の側面だけをつぎはぎしただけの、あまりにも軽い歴史認識」、「片面しか見ない、いわば都合の悪い事実には目をつぶる、あるいは自らが酔う言語を口にし、それを他者に押しつける」、「歴史認識そのものが歪みを伴っていた」、「常にある一面だけしか見つめず、そこからしか論を引き出せない」、「独裁者的な独りよがりの体質、そして反時代な言語感覚」。これらは当時の現役首相に向けられたものだが、言葉だけが浮いている感じがあり、少なくとも私の腑には全く落ちない。
何故だろうと考えるに、要するに説明が足りない、あるいは、具体的・実証的な根拠・理由を説得的に示すことができていないからだ。
例えば、詳細に論じるのは阿呆らしいので簡潔にするが、④の前には「戦後レジームからの脱却」という語を問題にする部分がある。だが、この言葉・概念の意味について<保守派>に一致がないだろうことは認めるとしても、保阪は特定の意味に理解して、自分が批判しやすいように対象を措定しておいてから「ご都合主義」等と批判する、という論理を採用している。
これ以外の部分にはまるで又はほとんど、理由・根拠の提示が欠けている。少なくとも私には、いかなる理由・根拠が示されているとも読めない。
この人は一定の結論を予めもって、歴史家又は歴史評論家らしくもなく、実証的・具体的・詳細な事実の提示を省略したまま、<政治評論家>ぶった文章を書いている。
ついでながら、批判対象が安倍首相(当時)でなかったら、つまり、歴史・政治等に関する学者・研究者・評論家個人を批判する原稿であれば、保阪はこんな一面的で、実証性を欠く、杜撰な文章を書いただろうか。安倍が反論などしてこないだろうことに甘えて、適当に、感情混じりで、字数を埋めたとしか思えない。
この保阪正康は諸君!に毎号昭和史に関する連載をしているようなのだが、新聞広告によると、現在発売中の諸君!では、それとは別の原稿をまた書いているらしい(「昭和天皇、秘められし『言語空間』」)。
佐藤優、竹内洋、秦郁彦ら、読みたい人々の文章が多々あるようだ。しかし、保阪正康の文を掲載しているという一点で、諸君!2月号(文藝春秋、発行人・内田博人)を購入することを逡巡している(タダなら喜んで頂くが)。
追記-アクセス数は12/27の木曜日に累計19万を超えた。14日間で10000余増えたことになる。
だが、その先頭又は中核のはずの上杉隆の論稿は「朝日崩れ」を叙述したものでも論じたものでもない。朝日のあくまで一端・一側面に言及があるだけだし、最後の文に見られるように、朝日新聞に限らない新聞(社)一般を問題にしているところも多い。他の企画?も含めて、上の<「朝日崩れ」が止まらない>というタイトルは羊頭狗肉だ。
サピオ11/14号(小学館)の特集<大新聞の「余命」>の方がはるかによい。
上の中のp.18~19で塩澤和宏はこう書いている。
今年4月に、新聞への「信頼度」調査で朝日が読売・日経に次ぐ第三位との「実態が明らかに」なって朝日の「一部役員・幹部に衝撃が走った」。「60代や70代以上など、朝日が勝っている世代もあるが、働き盛り世代では『惨敗状態』…」。/朝日新聞社の「出版本部はこの9年間で営業収入が半減。07年度は10億円を超える赤字が見込まれる。/…秋山耿太郎社長は7月…『06年度の営業収入は13年ぶりに4000億円を割った。3年後には新聞事業が赤字になってしまう』などと危機を訴えた。」
出版本部には朝日新書も含まれるのだろうか。同新書の人気のなさ、精彩のなさ(と私は感じている)を見ると、上のような状態の一端は分かる。そして、塩澤は、こう締め括る。
「前政権への『安倍叩き』でも常軌を逸していた朝日新聞。その『劣化』は、止まる気配がない」。
こちらの方には、諸君!の中によりもまともな指摘がある。
いつぞや諸君!11月号の保阪正康論稿を「ひどい」とこの欄で書き、同誌編集人の名も記したが、諸君!12月号は「読者諸君」という読者の声欄に、11月号の保阪論稿の「多角的な分析は断然光っていて、ご意見は実に的を射ている」等と述べる一意見又は感想文をとくに掲載している。
諸君!中の韓国・北朝鮮・中国に関する記事や座談会はのちに文春新書としてまとめられて発売されたりして、文藝春秋に利益をもたらしている筈だが、そうした記事や座談会の論調と<戦後民主主義>者の範疇に入ると私は評価している保阪正康の議論とは基調が異なっている。
保阪正康が安倍前総理を罵倒する論文を載せ、それを支持する<投書>もとくに載せるとは、諸君!(編集人・内田博人)のスタンスはいったい奈辺にあるのだろうか。文藝春秋の「オピニオン」は分裂し、漂流しているのではないか(やや<左・リベラル>辺りの月刊現代(講談社)に近くなるのだろうか)。
というわけで、近年諸君!は毎号購入し目を通してきたのだが、しばらくは見合わせることにしている。
雑誌・諸君!11月号に載っていたからこそ読んだのだが、保阪正康「『安倍政権の歴史観』ここが間違っていた」はヒドい。内容は、週刊金曜日に掲載されても不思議でないものだ。
7月参院選の結果につき、安倍の「歴史認識、それにもとづいての言語感覚そのもの」が否定されたと「分析する論の方が説得力をもっている」、と保阪は「分析」する。こういう議論は初めて読んだ。
きっと保阪は、個人的には詳細かつ真っ当と思っている立派な「歴史認識」をお持ちなのだろう。朝日新聞から文藝春秋まで舞台を広く活躍しておられるようである、この日本史(とくに昭和時代)関係<文筆芸者>は(本当の「芸者」さんには失礼になった。詫びる)、今後の政界のことには一言も触れず、この論稿では安倍前首相を悪しざまに罵っている。表現は一見穏やかでも、罵詈雑言に近い。「独裁的な独りよがりの体質」、「反時代的な言語感覚」-この2つは最後の4行の中に出てくる。
言論は自由だが、文藝春秋・諸君!編集部(編集人・内田博人)は、なぜこんな人のこんな文を載せるのか?
同号の八木秀次「艱難辛苦の福田時代が、日本の保守を本物にする」は、なるほどといく度か肯んじつつ、読み終えた。
同号の中西輝政よりは先に言及した彼の月刊WiLLの方が面白く、優れていると感じた。もとより、福田康夫や多くの自民党議員に対する批判・皮肉・疑問はそのとおりで、反対するつもりは全くないが。
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