秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

佐々木惣一

2041/江崎道朗2017年8月著の悲惨・無惨22。

 江崎道朗・コミンテルンの謀略と日本の敗戦(PHP新書、2017)。
 編集担当者はPHP研究所・川上達史。「助けて」いるのは、自分の<研究所>の一員らしい山内智恵子
 上の「著」での江崎の<図式>は、以下だと見られる。
 第一。<保守自由主義>を「右」と「左」の「全体主義」と対比される、<良き>ものとして設定する。換言すると、そのような<良き>ものに<保守自由主義>という語・概念を用いる。
 第一の重要な系。この<保守自由主義>に、途中から、<天皇を戴く>、<天皇を中心とする>という意味を含める。または、この概念と密接不可分のものとして<天皇…>という要素を用いる(なお、こうして「保守」かつ「自由」に「天皇」を連結させる語法は、決して一般的でない)。
 第二。<保守自由主義>は聖徳太子以降の日本の長い政治的伝統で、五箇条のご誓文-大日本帝国憲法-昭和天皇、はこれを継承したものとする。
 <保守自由主義>は重要なキー概念だが、上の二つによって説明される以外には、ほとんど何も語られない。ましてや厳密な定義は明確にされていない。
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 さて、江崎道朗による北一輝に関する叙述も、上の枠組み・図式の範囲内で行われている。
 第一に、北一輝と「天皇」との関係だ。江崎からすると、上の第一の図式からして、これは最大の関心事の一つに違いない。
 江崎の結論はこうだ(第三章)。
 「北一輝は皇室を嫌悪していた」。p.190の見出し。
 ではどのような論拠と説明によって、この結論を江崎は導いたのか。
 恐ろしいことに、江崎道朗は北一輝の書物(の大部分でもよい)を読んで、自らそう判断したのではない。つまりは、①他人の書物による(Aの書とする)。
 さらにその書物の部分は、②北一輝がBに語ったことを、Bが(何らかのかたちで)「伝えた」のをAが「紹介」している。その内容をもっぱら根拠にして、江崎道朗は(何と鋭くも!)上の結論を下している。
 Aは渡辺京二で、その書は同・北一輝(朝日1985、ちくま学芸文庫2007)。
 Bは、寺田稲次郎。
 この部分を、もう少し引用まじりで再現しよう。「」は江崎の地の文。『』は引用される渡辺の文。p.192。
 「渡辺京二氏は、こう指摘している。/
 北は…革命が天皇の発意と指揮のもとに行われることを明記した」が、これが「偽装的表現」なのは、「寺田稲次郎の伝える挿話によって決定的にあきらかである」。
 「北が天皇裕仁を」…と呼び、…と口走ったのは「まだ序の口」で、「中野正剛が北をシベリア提督に擬した話」を北に「寺田が伝えると、彼は色を変じて『天皇なんてウルサイ者のおる国じゃ役人はせんよ。…』と答えたという」。
 「またこれは伝聞であるが、寺田が確実な話として伝えているところでは、北は秘書に『何も彼も天皇の権利だ、大御宝だ、彼も是れも皆天皇帰一だってところへ持って行く。そうすると、天皇がデクノボーだということが判然とする。それからさ、ガラガラと崩れるのは』と語ったという」。
 以上は渡辺著の一部を江崎が用いた叙述だが、その内容は、「寺田稲次郎」が語った、または伝えたという<伝聞>話だ。
 これをもって、江崎道朗は、つぎの結論的文章を書く。p.193。
 二・二六事件の青年将校たちは皇室と国を思っていたが、「その理論的支柱の北一輝は、裏ではこんなことを考えていたのだ」。
 上の渡辺著からの引用的紹介を始める前には、すでにこう書いている。p.192。
 北一輝は「皇室尊崇の人ではなかった。むしろ、皇室を嫌悪し、皇室の廃止さえ願っていたふしがあるのだ」。
 そして、再記すれば、この部分の項見出しは、こうなる。
 「北一輝は皇室を嫌悪していた」。p.190。
 ***
 何とまぁ。こういう類の論証、叙述の仕方をすると、どんな結論も、どんな判断も、することができるのではないか??
 江崎道朗(の図式)にとって都合がよければ、どんな間接的「伝聞」話であっても、書物の中に活字となっていればよいのだろう。
 第二は、北一輝は<保守自由主義>者ではなく「全体主義」者だとすると、「右」と「左」のいずれなのか。
 江崎道朗は陸軍統制派は「社会主義」的だった旨の叙述のあと、皇道派青年将校を「指導」したとされる北一輝について、こんな一文を挿んでいる。p.191-2。
 「このような時代環境の中で、あたかもレーニンの世界戦略に呼応するがごとく、社会主義による国家革新と打倒イギリス帝国という対外構想を掲げて日本の青年たちを魅了していったのが北一輝なのである」。
 そのあとで江崎は、北一輝は「コミンテルンのスパイだった」という「事実は確認できない」とする。
 このあたりではまだ、「右」か「左」の「全体主義」への分類?は出てこない。但し、北一輝は「レーニンの世界戦略」に対応していたのだとすると、北一輝は少なくとも客観的には<左>だった、というニュアンスもある(なお、立ち入らないが、レーニンの死は1922年、二・二六事件は1936年)。
 しかし、だいぶ離れた箇所(第五章)で、江崎道朗は、つぎのように述べつつ、つぎのように断定している。p.
 「戦前の日本には、『保守自由主義』ともいうべき思想の持ち主と、『右翼全体主義』ともいうべき思想の持ち主がいた」。
 福沢諭吉、吉野作造、佐々木惣一、美濃部達吉らは、前者に入る。
 一方、「上杉慎吉、高度国防国家をめざした陸軍(とりわけ統制派)の人々、さらに北一輝など」は後者の「『右翼全体主義』に区分されよう」。
 江崎によれば陸軍統制派も皇道派もともに「右翼全体主義」となるのだが、これは第三章の叙述とは少しはニュアンスがちがう。それはともかく、では「左翼全体主義」との関連はどうなっているのか。
 江崎道朗は、つぎのように叙述して、まとめて?いる。p.274。
 ・戦前のいわゆる「右翼」とは「右翼全体主義」者のことだ。しかし、その中には、「コミンテルンにシンパシーを感じる『左翼全体主義者=共産主義者』や、一皮むけば真っ赤な偽装右翼も多数紛れ込んでいたから、なお状況が複雑となる」。
 ・『右翼全体主義者』と『左翼全体主義者』が結びついて(というより、『右翼全体主義者』の動きに『左翼全体主義者』がつけ込んで)、大政翼賛会などをつくり、大日本帝国憲法体制を破壊した」。
 ***
 あれれ? こうなると、「右翼全体主義」と「左翼全体主義」の明瞭な区別はつかない。
 戦後のかつての民社党の言っていた「左右両翼の全体主義」にはまだ実体らしきものがあったように思われる。
 しかし、戦前・戦中の日本では、江崎道朗によると、両者は「紛れ込んで」いたり、「結びついて」(というよりは「つけ込んで」)いたりしており、明瞭には区別できない。要するに、彼においては、たぶん<保守自由主義>対<(左右の)全体主義>という二項対立の図式で、戦前がイメージされているのだろう。
 上のことは、<保守自由主義>を「右」と「左」の両側から脅かす「全体主義」という江崎道朗の(基本的な!)図式が成り立ち難く、限界がある、ということを示している、と考えられる。
 いつたん設定した<図式>にあてはめるために、江崎は主観的には苦労して?いるのだ。
 では、そもそも<保守自由主義>とは何か。ここで(なぜか重要な要素として)聖徳太子が登場してくる。そして、6世紀から19世紀までの「日本の政治的伝統」には、いっさいの言及がない。回を改める。
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 読書メモ/茂木健一郎・脳とクオリア(1997)本文計313頁までを、9月12日(木)(2019年)に全読了。

0642/大石眞・憲法講義Ⅰ(有斐閣、2004)-日本国憲法はなぜ有効か。

 一 激しい議論にはかりになっていなくとも、日本国憲法の制定過程との関連で、①この現憲法は「無効」か有効か、②有効だとして、旧憲法(明治憲法・大日本帝国憲法)との関係で現憲法は「改正」憲法か「新」憲法か、という基本問題がある。
 憲法学者はほとんどこの論点に立ち入らないか、<八月革命説>(→「新」憲法説)を前提として簡単に説明しているだけかと思っていた。
 喜ばしい驚きだが、現在は京都大学(法)教授の大石眞・憲法講義Ⅰ(有斐閣、2004)は、「憲法制定史上の諸問題」という項目を設け(p.42-)、まず、現憲法制定は「占領管理体制の下におけるいわば強いられた『憲法革命』」で、それは(1946.02の)マッカーサー草案提示後の憲法草案起草過程にも議会での審議過程についても言えるとする。そして、「憲法自律性の原則(芦部信喜)」は「むしろ破られたとみるのが正当な見方であろう」と書く(p.42)。
 その上で、現憲法無効論と有効論とがあり、後者にはさらに次の4つがあるという。
 ①(明治憲法改正)「無限界論」-佐々木惣一。
 ②八月革命説(主権転換がすでにあったとする)-宮沢俊義。
 ③段階的主権顕現説(議会での審議過程で国民主権が次第に確立したとする)-佐藤幸治。
 ④法定追認説(主権回復時=平和条約発効日を基準に、現憲法の適用・履行によって完全に効力をもったとする)-長尾龍一。
 大石眞は最後の④説に立つ。
 二 大石は現憲法無効論については、1.(明治憲法改正限界論を前提にして)この限界を超え、無効というが、<瑕疵>あることと<無効>とは異なる(瑕疵があってもただちに無効とはならない(民法にもみられる取り消しうべき瑕疵と無効の瑕疵との区別)、2.今日までの法令・制度を「すべて無にしてしまう」という実際上の難点がある、として採用しない。
 現憲法無効論の論拠は明治憲法改正限界論だけではない(被占領下で改正・新制定できるのかという論点もある)。また、今日までの法令等を「すべて無にしてしまう」という正確な意味での<無効論>ではない<無効論>もある(「無効」という語の誤用としか考えられない)ので、上の実際的批判は、この不正確な<無効論>にはあてはまらない。
 だが、結論自体は、妥当なところだろう。
 つぎの<有効説>の論拠は、私見では、①説でよいのではないか。何と言っても、昭和天皇が議会に諮詢し、天皇の名で「改正」を公布している、という実態は、「改正説」に有利であり、かつ、明治憲法期に憲法改正限界論(例えば「主権」変更はできない)が通説だったとしても1946年ではそのような考え方は学界・政治界そして天皇陛下自身において放棄されていた、と理解できるのではなかろうか。枢密院への諮詢等という明治憲法下での慣行をなおも維持した手続を経て現憲法は作られたのだ。できるかぎり日本人の頭と手で現憲法が作られたという外観・印象を与えたかったGHQの意図に応えてしまうことにはなるが、この説が最も無難だと思える(改正の諮詢自体が、そして議会の審議自体が日本側の自由意思でなかったことは明らかだが…)。
 <八月革命説>を大石は(私も)採らない。
 大石は、この説には、①「ポツダム宣言の文言やバーンズ回答をめぐる問題」、②「国家主権なき『国民主権』論は虚妄ではないか」、③「ラジカルな国際優位一元論は不当」、④「非民主的機関」、つまり「枢密院や貴族院」の関与やこれらによる修正をどう見るか、などの問題がある、という。
 丸山真男も依拠していた宮沢俊義の<八月革命説>は成り立たないのではないか。  そういう否定的見解がきちんと書かれてあるだけでも意味がある。「法定追認説」なるものには分からない点もあるので、長尾龍一の文章を直接に読んで、なおも検討する。

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