秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

佐々木太郎

1348/日本共産党の「影響力工作」類型-佐々木太郎著。


 佐々木太郎・革命のインテリジェンス-ソ連の対外的「影響力」工作-(勁草書房、2016)の第4章は「仮説としてのソ連の『影響力行使者』の諸類型」というタイトルになっている。
 書名やこの表題に見られるようにソ連(・共産党)の対諸外国に対する「影響力」工作がテーマだが、相当程度に同様のことは自由主義(資本主義)諸国内にある共産党その他のコミュニズム政党の当該国内における「影響力」工作についても妥当する、と思われる。
 先だって江崎道朗論考に触れて、上の「諸類型」を挙げ、5つめの「デュープス」について江崎論考を引用して説明した。
 5つの類型とは、もともとはアメリカ・FBI元長官のE・フーバーによるもののようだが、①公然の党員、②非公然の党員、③「同伴者」、④「機会主義者」、⑤「デュープス(罪のない犠牲者)」をいう。
 これらの類型のうち、ほぼ意味が明らかな①と②(=AとB)以外について、E・フーバーを紹介・参照しての佐々木の説明を、さらに引用・紹介しておこう。その際、「影響力」工作・行使の主体として、日本共産党を想定した、引用・紹介になるかもしれない。
 C・「同伴者(Fellow Travelers)」
 フーバーによると、同伴者は「党員ではないが、ある期間において党の綱領を積極的に支持(同調)する」。「積極的に共産党に対して支援をおこなう非党員」のことだ。
 「シンパ」とは区別されるべきで、「シンパ」は「より消極的であり、特定の問題について党や党員に共感を示すが、積極的な支援をしたりしなかったりする」。同伴者よりも「より消極的あるいは限定的な支援をおこなう非党員」のことだ。
 佐々木は、この「同伴者」という語の経緯もふまえて、つぎのように定義する。
 「共産主義の大義や理想、あるいは共産党が示した特定の問題についての対応や解決策への強い共感から、共産党のための活動をする非共産党員」(p.104)。
トロツキーがこの語を使い始めたとされ、アーマンド・ハマー、アンドレ・ジッド、アインシュタイン、ロマン・ロラン、ハインリヒ・マン等々がその例とされるなど興味深いが、省略する。
 D・「機会主義者(Oppotunists)」
 同伴者と同じく非党員だが、同伴者と異なり、「共産主義や共産党の方針に対する共感から進んで同党のための仕事をする」のではない、また「デュープス」と異なり、「共産党のフロント組織が訴える普遍的な"正義" に対して共感を持つ」わけでもなく、「個人的な利益が増大する場合にのみ、共産党に接近する人々」のことをいう(p.111)。
 フーバーによると、「もし個人的に利益を得られるのであれば、意識的に党を支持し、代わりに支援や恩恵を受け取る」、「シニカルで利己的な」人々だ。
 再び佐々木の文章に戻ると、共産党はこの類型の人々に「強い警戒感」を持ちつつ、「戦略的な交際」を結ぶ。そして、<機会的>であっても、自らの力を行使して共産党の方針へと「世論や政策を誘導」するならば立派な「影響力行使者」の一類型になる。
 E・「デュープス」
 「騙されやすい人々」、つまり「カモ」で、フーバーは「罪もない犠牲者」(Innocent Victim)とも換言しつつ、「共産主義者の思想統制に知らず知らずのうちに従属して党の仕事をする個人」とも表現する、とされる。
 佐々木によれば、「明確な意思をもって共産党のための活動をする人々ではなく」、共産党という「政党やフロント組織が訴える普遍的な"正義" に対して情緒的な共感を抱き、知らず知らずのうちに共産党に利用されている人々」のことをいう。
 以上で引用・紹介を終える。
 すでに「デュープス」なるものについて触れたことがあるように、きわめて興味深い、有益な類型化だ。
 党員ではないが日本共産党(・候補)に選挙で投票している党員数の10倍以上の人々、日本共産党系の集会・デモに参加している人々、日本共産党の「フロント組織」・「大衆団体」または日本共産党系の「学会」・「研究者グループ」の構成員になっている人々…。これらの中に公然または非公然の党員も勿論いるだろうが、党員以外の者たちは、「同伴者」、「機会主義者」あるいは「デュープス」のいずれに該当するのだろうか。
 万々が一、この欄(あるいは佐々木・上掲著)に接することがあれば、自己分析してほしいものだ(「無意識」という「デュープス」概念の要素を充たさなくなるかもしれないが)。
 ところで、「機会主義者(Oppotunists)」のところで「個人的な利益」に言及があるが、「個人的利益」のために日本共産党に接近したり、ついには日本共産党員になったりする者が、とくに<(日本の人文・社会系の)学者・研究者>の中には少なからず存在するものと思われる。
 かつてこの欄で述べたことのある、<処世のための>あるいは<出世のための>「左翼」人士化、そして日本共産党の党員化だ。
 上掲の佐々木著には、また言及することがあるだろう。

1335/日本共産党の「影響力工作」-江崎道朗・月刊正論5月号論考。

 月刊正論5月号(2016、産経新聞社)の江崎道朗「『反戦平和』の本質と『戦争法反対』『民共合作』の怖さ-共産主義の『影響力工作』は甘くない-」(p.100-105)は、最近の雑誌の日本共産党・共産主義特集の中では、おそらく最も優れたものだ。
 優れているか否かやその程度の基準は、<現在の>日本共産党を批判する、またはその活動を警戒する、<有効な>内容を(どの程度)もっているか、だ。
 江崎道朗論考の優れているところはまた、日本共産党と日本の「左翼」との関係、前者の後者に対する「影響力」を意識して書かれていることだ。
 日本共産党と朝日新聞の関係、あるいは日本共産党の主張と朝日新聞社説の論調との関係、日本共産党の主張と岩波・世界の論調との関係等々は、保守派側によってもっときちんと分析される必要がある、と考える。
 江崎論考はまた、佐々木太郎の新著を紹介するかたちで(本欄は、E・フーバー→佐々木太郎→江崎道朗というひ孫引きになるのだが)、「共産主義運動に関与する」人間類型の5種を示していることだ。「日本共産党」の活動との距離別人間類型でもあるだろう。すなわち、①公然党員、②非公然党員、③同伴者、④機会主義者、⑤デュープス(Dupes)。
 興味深いのは上の⑤で、これはもともとは「間抜け、騙されやすい人々」を意味するが、共産主義(共産党)との関係では「明確な意思をもって共産党のために活動する人々ではなく、ソ連やコミンテルンによって運営される政党やフロント組織が訴える普遍的な『正義』に対して情緒的な共感を抱き、知らず知らずのうちに共産党に利用されている人々」のことを指す(p.102)。
 この欄で<何となく左翼>という語を使ったことがあるが、これにかなり近く、かつ上の定義はまさに表現したい内容を伝えてくれている。日本共産党との関係に即して書き直すと、
 <明確な意思をもって日本共産党のために活動しているわけではないが、日本共産党や同党系の大衆団体が掲げる普遍的な『正義』に対して情緒的な共感を抱き、知らず知らずのうちに日本共産党に利用されている人々>だ。
 このような人々が、諸学界、大学、マスメディア、官公庁の世界等々にいかに多いことか。これこそが、日本を危殆に瀕せしめかねない<ふわっとした左翼的雰囲気>の原因になっている、と思える。
 主観的には人間・個人の尊厳と「自由」あるいは「平和」と「民主主義」のために言論し行動しているが(それが何故か反安倍内閣・反自民党になっているのだが)、客観的には日本共産党のいう日本の「民主主義」化のために、長期的には同党のいう「社会主義・共産主義の社会」実現に寄与する役割を果たしている人が、うようよといる。そのような人々は、何となく産経新聞を全く読まなかったり、保守系雑誌には目もくれなかったりする。
 長谷部恭男は上の②ではなくとも、⑤にとどまらず、上の③か④だろう。
 江崎道朗は吉永小百合と山田洋次は上の③「かもしれない」としているが、私は山田洋次については②ではないかという疑いをもっている。
 なお、上の理解の仕方にいう「日本共産党系の大衆団体」とは、例えば、民主主義科学者協会法律部会(民科・みんか)が典型的だ。この学会の会員の中には、これが日本共産党系であることも知らず(代々の理事長は日本共産党の(公然?、非公然?)党員であることも知らず)、日本共産党に客観的には利用されているという意識もない法学者・研究者もいるに違いない。
 ともかく、上の①~⑤のいずれに該当するか、という観点から、<左翼的な(リベラルな?)>人々(・団体)を理解し分析することは、有意味だと思われる。
 日本共産党のまわりでウロウロしている者たちを、気の毒だが、暴き出す必要がある。
 ところで、月刊正論5月号の背表紙(総力特集)には「共産主義者は眠らせない」で日本共産党という文字はなく、4本の論考のタイトルのうち「共産党」が一部にあるのは筆坂秀世のもののみで、実質的にはほとんど日本共産党を扱っていると思える江崎道朗のものにもない。
 産経新聞や月刊正論は、中国(・同共産党)をしばしば批判対象として取り上げているにもかかわらず、正面から「日本共産党」と対決することを怖れているのではないか 、という印象がある。
 上で書き忘れたが、日本共産党と日本国内「左翼」との関係のほかに、日本共産党と中国共産党との関係も重要な認識・理解の対象だ。この後者の点については(も)、産経新聞を読んでも、月刊正論を読んでもほとんど分からないだろう。
 日本共産党と日本国内「左翼」との関係、日本共産党と中国共産党との関係についても、今週後半に発売されるらしい、産経新聞政治部・日本共産党研究(産経新聞社)は十分に又は適切に論及しているだろうか?
 産経新聞社の書物は、<現在の>日本共産党を批判する、またはその活動を警戒する、<有効な>内容をもっているだろうか? 期待は大なのだが。
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