秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

亜紀書房

2053/G・トノーニら・意識はいつ生まれるのか(2015)②。

 M・マシミーニ=G・トノーニ/花本知子訳・意識はいつ生まれるのか-脳の謎に挑む情報統合理論(亜紀書房、2015)。
 p.76~p.91には、「意識の事件ファイル」の「第一」から「第三レベル」の記述がある。ただちには理解不可能だが、「意識」の有無の判別について、三つの段階の問題がある、といった趣旨だろう。
 (1)第一。自発的とみられる「身動き」のあること。但し、「身動き」がなくとも、「意識」があることがある。
 ①脳「梗塞や出血」で「大脳皮質から脊髄へと伸びる、密集した線維が完全に切れて」いるのが、<ロックトイン症候群>の典型例。
 ②「脊髄から筋肉」への全ての「ニューロンと神経において、電気信号の発生がブロックされる」場合が、<筋萎縮性側索硬化症(ALS)>や<ギラン・バレー症候群>。
 ③「大脳皮質」中の運動関係部位の広い範囲が「外傷または血液循環の不全」で破壊されると、同様のことになる。
 これらの場合、「意識がある可能性がある」。
 (2)第二。外部からの指示に<正しく>反応すること。
 脳出血により前頭大脳皮質に広い損傷をした23歳女性はいったん「植物状態」と診断され、身動きは全くなかったが、「テニスをする」、「自宅内を歩く」を想像してとマイクで指令すると、「前運動野」のニューロンの動きが活発になった=「酸素消費量」が明確に増えた。2006年に公表。
 但し、このような変化がなくとも、「意識」があることがある。
 ①指令で使う「言語」が理解できない場合。失語症のこともある。
 ②「大変な心理的・身体的状態」のため、<実験>に参加する気になれない場合。
 ③ そもそも対応する「気力」が残っていない。
 「意識がある証拠があがらないからといって、意識がない証拠とすることはできない」。
 (3)第三。直接に脳内に入り込んで、信号・波動・微粒子の動きを調べて分析する。
 基本的な技術は、つぎの二つ。
 ①機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)・ポジトロン断想法(PET)-脳の代謝活動を測定する。
 ②脳波図(EEG)・脳磁図(MEG)-ニューロンの電気活動を記録する。
 いずれも、「意識の発生と完全に相関関係にあるニューロンの動き」の有無を特定する。
 しかし、ア/ニューロンの活動量・代謝レベルによっては結論が出ない。
 イ/「ニューロンのインパルスの同期」も、完全な指標を示さない。
 ・「人に意識がある証拠をとらえるのは、いうは易しで、実際はずっと難しい」。
 ・「他人の脳のなかに意識の光が灯っているか、消えているかは知りえない。そんなはずはないと思われるかもしれないが、本当にそうなのである」。-p.91の最後の一文。
 ***
 トニー・ジャット(Tony Judt)-1948年1月~2010年8月/満62歳で死去。
 この欄でかなり多く言及したこの人物は、上に出てくる<筋萎縮性側索硬化症(ALS)>(ゲーリック症)だったとされる。
 L・コワコフスキが2009年7月に逝去した直後の哀惜感溢れる追悼・回顧の文章(この欄で言及)は、その時点ではいっさい明かされていないが、この病状のもとで「意思表示」され、配偶者や同僚たちの助けで公にされたと見られる。

2051/G・トノーニら・意識はいつ生まれるのか(2015)①。

 M・マシミーニ=G・トノーニ/花本知子訳・意識はいつ生まれるのか-脳の謎に挑む情報統合理論(亜紀書房、2015)。
 せっかく全読了しているので、記憶喪失にならない前に、少しでもメモしておこう。
  「意識はいつ生まれるのか」というよりも、「意識」とは何か。
 「意識」とは何かというよりも、「意識」の有無はどう判断するのか。
 より分かりやすく言うと、どのような状態が「有り」なのか。
 「意識」というのは、関連学界でも定義できない、きちんとした定義が存在していないらしい。
 「文科」系人間でもこの語はよく使うが、人体との関係で「意識」とは何のことか。
 専門的な説明よりも、皮膚感覚で分かりやすいのは、つぎの例だ。
 ①外科手術等のために麻酔を受けて昏睡している間、「意識」はない。「生きて」はいる。
 ②睡眠中の深い睡眠(ノンレム睡眠)のとき、「意識」はない。「生きて」はいる。
 特段の前提的議論をすることなく、著者たちは、上のことを疑いないこととしているようだ。生物神経学、脳科学等において一致しているようでもある。
 ということは、第一に、「意識」の有無と「生と死」は一致しない。
 第二に、「生きて」いても「意識」がないこともある。
 この第二点は言葉の用法として当然のことかもしれない。しかし、「意識」を喪失している間に「生きて」いる状態にあることの感知・証明可能性の問題とともに、「意識」喪失のあとで「生」の世界に回復する場合と「死」の世界へと移行する場合の二つがある、という明確な事実をも関連して含んでいる。
 上の二例でいうと、①麻酔による昏睡から回復・覚醒することが想定されていても、手術失敗・麻酔ミス等により、「死」に至ることもある。
 ②深い睡眠から目覚めることが通常だとしても、何らかの(外部者による又は突然の疾患による)突然の「死」もあり得る。
 これらにおいて、「死」の瞬間に<覚醒>、または意識回復がわずかでもあるのかはよく分からない。しかし、きっとないのだろう。
 さらにまた、上のような例で、とくに睡眠の例で分かるのは、「意識」の有無は、○か×、+1か-1の択一ではなく、いわば+1と-1の間で0を跨いでしまった瞬間がその有無の境界であって、同様に、昏睡から「死」へは連続的な移行過程があるのだろう、ということだ。
 無知の「文科」系人間がこのように書けるだけでも、上の著を読んだ意味があるかもしれない。
  すでに登場している、デカルト、松果体、スパコン、小脳・脳半球奥の「基底核」、ニューロン・シナプス等々をとりあえず飛ばして、第三章の一部、p.55-p.76の範囲から、気を惹いた部分を要約的に抜粋する。
 (1)全身麻酔。
 ・全身麻酔で外科手術中に、昏睡のはずの患者が「意識」を回復することが1000人につき1人の割合で生じている。但し、「意識」が回復したことを患者が伝える手段がないことが多い。
 ・全身麻酔=昏睡中は「自力呼吸」ができず、ポンプにより助ける必要がある。
 ・全身麻酔は効いている間の記憶を喪失させる副作用があるので、記憶がないからと言って、意識ないし「苦痛」がその途中になかったことにはならない。
 (2)脳死。
 ・かつては、「脳幹」に異常が発生し「昏睡」状態になると、自発呼吸・心臓が停止し、「死」に至る。
 新部位/大脳皮質や視床の損傷のみならず、旧部位/脳幹の損傷により、「昏睡」が生じる。
 ・昏睡→「死」を救ったのが(心臓を停止させない)人工呼吸器。昏睡→心臓の停止→「死」という判定だっったところ、「死の判定が心臓から脳に移された」。
 ・心臓・心拍と肺臓・呼吸は人工的にかつほぼ無期限に保つことができる。
 ・心拍と呼吸の停止ではなく「脳幹を含む脳全体の不可逆的な機能停止」をもって「死」とする。
 「脊髄より上部の全ての機能と反射の停止」を確認する。「頭部は機能していない」=「脊髄より上の神経系が完全に破壊されている」。機能していない頭部をもつ身体に「機械の力で血と酸素を行き渡らせている」。
 (3)「意識」と「覚醒」。
 ・昏睡→「脳死」か、昏睡→意識回復か。ここには多様な可能性がある。
 ・「覚醒」=「目覚め」は、「脳幹が十分な機能を取り戻す」こと。「脳幹」中の「延髄」は「主として、心拍と呼吸を保つ」。「脳幹」中の「橋」と「中脳」には、「覚醒すべきか眠るへきかを決めている」とくに重要なニューロンが含まれている。
 ・「覚醒」=意識回復、ではない。「脳幹のニューロンが活動し始め、目が開いても、意識がまったく回復しないことがある」。p.70。
 ・「意識」回復のためには、「脳幹」の上の新部位/<視床と大脳皮質>も機能する必要がある。
 (4)「植物状態」等。
 ・<植物状態>の定義は、「脳幹」の機能が回復しても「視床-皮質系」の機能が戻らず、「覚醒」はあるが「意識」がなく、「なにかが見えることなく目が開いた状態」だ。
 ・この状態は、「回復する可能性はあり、明らかに脳死と異なる」。「昏睡」とも違って「目を覚ましている」。「生きているのだ!」。p.72。
 ・上の<植物状態>とも違い、「目を開き、自分とまわりの世界を知覚して意識を完全に取り戻す」が、「全身が麻痺したまま」の患者もいる。「神経の損傷」のため、「麻痺が解けることはない」。
 ・<ロックトイン(閉じ込め)症候群>は上の場合の一つで、多くのこの患者は「まぶたを開け、目を上下に動かす能力」を回復し、「目」のサインで、「意識」があること、そしてある程度の意思を、伝達することができる。
 ・だが、この症候群の患者の中には、目を動かす力を失い、「意識が十全にある」のに、それを伝達できない者もいる。実際の数は分からない。
 ・<植物状態>と<ロックトイン(閉じ込め)症候群>の間に、<最小限意識状態>という、2002年に認知された中間状態がある。「植物状態であることが明らかである患者と違い、長い年月が経過したあとでも、意識を十全に取り戻すことがある」。
 意識がある状態を本人が伝えられないで外部でそれを感知できないため,「意識がない植物状態であるとの誤診を受けている可能性がある」。この問題は、「現在の神経医学において、臨床上、そして倫理上、最も深刻」だ。
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 (つづける。)
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