兵庫県議会・文書問題調査特別委員会(百条委員会)が2025年3月4日にとりまとめた調査報告書のうち、「Ⅳ 公益通報者保護にかかる調査の内容と結果について」のみの全文掲載の二回め。体裁・様式は全く同じではないが、内容はそのまま。
出所—兵庫県議会ホームページ。
————
「Ⅳ 公益通報者保護にかかる調査の内容と結果について
1 委員会としての判断
ア 認められる事実
————
以上、前回
以下の見出しはつぎのとおり。
1 委員会としての判断
イ 事実に対する評価
1 公益通報者保護法違反について
(1) 外部公益通報
(2) 体制整備義務違反
2 行政として取るべき対応
(1) 初動対応
(2) 調査方法の問題点
(3) 齋藤知事の対応
(4) 公益通報者保護法に対する齋藤知事や幹部の関わり方について
(5) 文書問題の対応について
(6) 情報漏洩
(7) まとめ
2 提言」
—————
以下、全文掲載。
「イ 事実に対する評価
1 公益通報者保護法違反について
(1) 外部公益通報
元県民局長は、議員、マスコミ、警察の特定の者に文書を配布している。 齋藤知事は真実相当性が認められないと再三説明をしているが、真実相当性は公益通報に当たるか否かとは関係がなく、保護要件にとどまる。
元県民局長の公用メール及び公用パソコンに保存された資料に基づき、クーデターや転覆といった言葉が並んでいたことや、元県民局長作成の人事案や知事を貶める資料があったことなどをもって、文書配布は不正な目的の行為に当たり、公益通報ではないと判断したという証言がある。しかし、当該文書入手(3 月 20 日)、協議時点(3 月 21 日)ではまだ公用メール及び公用パソコンの調査は行われておらず、当該文書の内容から不正な目的が明らかでない限り、公益通報ではないとの判断は調査後に行われるべきものであり通報時ではない。仮に公用メール及び公用パソコンの調査も含めて3月 22 日に作成者の特定を開始したことの正当性を主張するのであれば、公益通報者保護法に基づく指針に定められた「通報者探索防止措置」は事実上意味がなくなり、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関がとってよい行為とは考えられない。さらに「通報者探索防止措置」を認識せず行われた調査の中で、公用 PC の中の情報から非違行為を認定し懲戒処分にしたことは、違法収集証拠排除法則の法理に反するものであり、告発者潰しを行う材料にしたことは非常に不適切であると考える。
なお、人事当局は特別弁護士に相談の上、不正の目的があったと判断したことはないと証言しており、県として不正の目的があったと公に認めていない。また、複数の参考人は、「専ら」公益を図る目的の通報と認められる必要はなく、交渉を有利に進めようとする目的や事業者に対する反感などの目的が併存しているというだけでは、「不正の目的」であるとは言えず、不正目的の認定は慎重に行う必要があるとしている。
「通報対象事実」については、少なくとも阪神・オリックス優勝パレードにかかる信用金庫からのキックバックについて背任罪の可能性があり、通報対象事実が含まれている。なお、刑法の背任行為として刑事告発され県警に受理されている。
以上のことからすると、今回の調査では、元県民局長が齋藤県政に不満を持っていた事情はうかがえるものの、元県民局長は今回の文書作成については後輩職員のためを思い行ったと主張しており、人事課調査による判断と同様に、不正な目的であったと断言できる事情はないと考える。
よって、元県民局長の文書は公益通報者保護法上の外部公益通報に当たる可能性が高い。
(2) 体制整備義務違反
公益通報者保護制度を所管する消費者庁は、公益通報者保護法に基づく指針第4の2(1)不利益な取扱いの防止に関する措置及び(2)範囲外共有等の防止に関する措置は内部通報した場合に限定せずに、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も公益通報者を保護する体制の整備が求められるとしている。他方、今回の文書の場合には、通報の探索が例外的に許容されるのではないかという参考人の意見もあった。
しかし、上記のとおり、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関としては、公益通報者保護法に基づく指針を原則通り遵守すべきと考えられる。
文書内容の事実確認よりも通報者の特定を優先した調査や3月 27 日の記者会見での文書作成者を公にしたこと、元県民局長のプライバシー情報の漏洩などは、公益通報者保護法に基づく指針第4の2(2)「範囲外共有等の防止に関する措置」を怠った対応であり、現在も違法状態が継続している可能性がある。
2 行政として取るべき対応
(1) 初動対応
3月 21 日の協議時点で齋藤知事及び参加者は当該文書を誹謗中傷の文書であると認識しており、公益通報の議論はなかったという証言があることから、初動対応において公益通報に関する認識はなかったと考えられる。そのため、3月 22 日には作成者の特定のために元県民局長らの公用メールの調査等に着手し、3月 25 日に作成者を元県民局長と特定、3月 27 日には知事が記者会見で本人が認めていなかったにもかかわらず、事実無根だと認めているような発言のほかにも「公務員失格」と通報者を侮辱するような発言をしている。
しかし、当該文書の内容は、本委員会でも一定の事実認定ができており、全くの事実無根とは言えないため、齋藤知事らは公益通報に該当しうるかもしれないという前提に立ち、作成者の特定を行う前に、まずは当該文書の内容を調査すべきであった。
また、3月 27 日の記者会見で県民局長の職を解き、通報者を公表したことは、告発者潰しと捉えられかねない不適切な対応であった。同日に元県民局長から告発文にある内容を精査してから対応して欲しいと片山氏に要請があったが、この時点から内部公益通報としての手続が必要であった。
さらに言えば、齋藤知事らは当事者である自分たちだけで当該文書が公益通報に該当するか否かを判断するべきではなかった。法令を遵守することは当然のことながら、それが、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関がとる立場であると言える。
また、参考人によると、公益通報事案については、受付、調査、是正措置等の対応全てを通じ、不利益取扱、範囲外共有、通報者探索が禁止され、これに違反すると体制整備義務違反状態となるため、調査結果が判明する前にこれらの扱いをすることは原則として許されないし、調査結果が判明し、たとえ通報者の指摘する事実関係が認められなかったとしても、これらの扱いをすることが許されない場合があり得るとしている。加えて、告発の対象となった権力者が通報者探しを指示する場合、あるいはそれを承認する場合、その者の責任も厳しく問われるとの参考人意見もある。
さらに、本年2月 18 日の衆議院総務委員会で政府参考人は、「法定指針の1号通報の対応体制において、事実に関係する者の公益通報対応業務に関与させない措置を求めているが、一般論として外部から不正行為について指摘された事業者は、自らが行う調査、是正に当たり、事実に関係する者を関与させないことなど、適切な対応が取ることが望ましい」と答弁している。 初動対応時の調査は、当事者である齋藤知事の指示の下、同じく当事者である片山氏が中心となって行っているが、調査は当事者が関与せずに行うべきであったと考えられる。通常であれば、このような案件の調査は人事課や各部総務課が調査を実施することになるが、利害関係者中心で調査を行うのは不適切である。これは内部公益通報時だけでなく、外部への公益通報の際にも同様である。今回のような知事及び県幹部が当事者である場合は、告発文に記載のあった当事者が調査に関わることのないよう利益相反を排除し、独立性を担保するためにも県以外の第三者に調査を委ねるべきであった。そのことが調査の過程及び結果の客観性・公平性・信頼性を高めることになる。県当局は後日、第三者委員会を設置することとしたが、本来は元県民局長の処分前に設置し、もし処分をするのであればその調査結果に基づいて処分を行うべきだったと考えられる。
加えて、参考人によると、真実相当性の要件は、通報者の通報時点における状況から判断することや通報者の供述内容は、調査主体への信頼感により影響を受けるため誰が調査するのかが重要としている。元県民局長は、県当局の調査に対し、文書の内容を誰から聞いたかについて、単なるうわさ話と話しているが、元県民局長の立場からすれば、文書に記載されている当事者が調査に関わっている限り、情報提供者を守るために真実を話せなかったと考えられる。
以上のように、県の一連の文書問題に対する初動対応は、県民の不信感を招く不当なものであったと考える。
(2) 調査方法の問題点
当該文書の作成者の特定はすべきではなかったという判断である。その上で、作成者特定に当たっての今回の調査方法には、今後の県政の信頼回復のために考慮しておく必要がある幾つかの問題点があったと考える。
公用メールの調査について、公用パソコンは県から貸与されたものであり、業務以外の使用は禁じられているものの、そのメール内容の調査はその必要性や方法について慎重に検討を行った上で行うべきである。地裁レベルだが判例でも社内メールの調査が無条件に認められているわけではない。当委員会の調査では、メール調査に当たってのルール及び実施の記録がないことが判明している。これではメール調査を恣意的に実施でき、適正な調査であったかの事後の検証もできないと言わざるを得ない。
今回の調査の中で行われた私用スマートフォンの内容確認は任意だったが、作成に関与したと疑われた人物の私物スマートフォンのLINEのやり取りを確認したことが証言と資料から確認されている。これは職員の人権への配慮を欠いた調査であり、しかも、その人物は結果的に当該文書作成に関わっていなかった。このような調査を人事当局が行う可能性があるということは、職員の萎縮、ひいては県政運営への信頼低下を招くものと言わざるを得ない。
(3) 齋藤知事の対応
3月 27 日の記者会見では、齋藤知事は調査の対象者を特定したり、処分を予告すること、さらには「うそ八百」「元県民局長は認めている」と発言した。片山氏や人事当局は、「これから調査する」という認識で齋藤知事とも話をしたつもりであったため、その発言に驚いた。この時点においては当該文書の存在は広く知られておらず、実害も生じておらず、人事当局が予定していたとおりの人事異動の発表にとどめておくべきであった。今回の文書問題が大きく取り上げられることになったのは、この記者会見によることが大きいことを踏まえると、このような部下の進言や意見に真摯に耳を傾ける姿勢が必要であったと考えられる。
なお、そのことは第三者による調査の進言、公益通報の結果を待ってから処分を行うことの進言に対する態度についても言える。
(4) 公益通報者保護法に対する齋藤知事や幹部の関わり方について
公益通報者保護法が目指すのは、徹底して不正行為を告発する人々を守り、社会の正義と透明性を維持することが目的であり、兵庫県としては立法趣旨を踏まえ、まずは公益通報に該当する可能性がないかを慎重に検討すべきであったが、初動対応時の齋藤知事や幹部は公益通報の認識がなかったと証言しており、公の立場として大きく思慮に欠ける点があったと言える。
また、齋藤知事は証人尋問や記者会見で何度も法的に問題ないことを主張しているが、行政機関は法律に違反しなければいいのではなく、法律の趣旨を尊重したうえで遵守する姿勢を示すことが重要である。
(5) 文書問題の対応について
この度の兵庫県の対応が全国から注目される中、組織の長や幹部の不正を告発すると、権力者が当事者にも関わらず自ら告発内容を否定し、更に通報者を探して公表し、懲戒等の不利益処分等で通報者が潰される事例として受け止められかねない状況にある。そのことが公益通報の抑制につながらないか危惧される。公益通報者保護法に違反しているかどうか見解が分かれるとはいえ、「組織の長その他幹部からの独立性の確保」や「利益相反の排除」といった原則にのっとった対応が必要であったと考える。
また、元県民局長の処分には、退職保留決裁が終わる前に、退職保留が本人に通知されたことも問題がある。
(6) 情報漏洩
県の個人情報保護管理の総括保護管理者である井ノ本氏は証言を拒否しているが、同氏が元県民局長のプライバシー情報を複数の議員に見せていることが聞き取り調査によって明らかになっている。当該文書の価値を貶めようとする発言を行っていた証言も得られており、「告発者潰し」があったと言われかねない状況がうかがえる。この行為は地方公務員法の守秘義務違反、さらには県における個人情報管理の問題である。告発者である元県民局長をおとしめることによって、当該文書の信頼性を毀損しようとしたこともうかがわれ、地方公務員法違反を否定できる要素は皆無に等しいと考える。この漏洩問題はその背景や関係者等を明らかにしなければならない問題と考える。
(7) まとめ
以上のように、一連の県の文書問題への対応には看過できない問題があったと言わざるを得ない。
また、井ノ本氏による元県民局長のプライバシー情報の漏洩問題は、公益通報者保護法に反する問題にとどまらず、県組織としてのガバナンス、マネジメントが適正に行われているのかという疑問を抱く。この問題への対応に関しては、元県民局長への処分と比較し、あまりにも大きく異なっている。
2 提言
法令を遵守するだけでなく、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関が、公益通報の認識を欠き、また、後になって公益通報に該当しないから問題ないと主張して通報したことを非違行為として認定し懲戒処分にまで至ったことは大変遺憾であり、県当局は責任の重さを痛感すべきである。
今後は、県行政・県組織の不正行為や違法行為に関する告発に対しては、常に公益通報の可能性を念頭に対応することが求められ、知事を含めた幹部が公益通報者保護法に対する理解を深める機会を定期的に設けることが不可欠である。体制整備に関しては、指針第4に掲げる内部公益通報対応体制の整備は当然のことながら、外部公益通報に対応できる体制づくりを進める必要がある。
あわせて、告発の調査に当事者は関与しないこと、通報者探索及び範囲外共有等は行わないことの明確化が必要である。今後、受付段階、調査段階、是正措置等において、告発者の不利益処分が行われていないか、第三者による常設の検証機関の設置が必要である。知事、副知事をはじめ組織の長は、就任に当たり、公益通報者保護法及び個人情報保護法に関する研修を受講するなどして、法の趣旨や責務を改めて認識することが重要である。
なお、有益な公益通報が守られるよう、公益通報に当たっては個人のプライバシーへの配慮や公益通報の濫用を防ぐことなど、職員にも公益通報者保護法の理解を深めることが重要である。
また、不正調査等で必要な場合も想定されるため、メール調査そのものを否定はしないが、その判断基準の整備及び調査実施記録の作成・保存を確実に行うべきである。そのことによって、今回のような疑念を持たれるメール調査を防ぐとともに、事後的な検証が可能となる。職員の私用スマートフォン等の調査についても、今後一切行わないよう県当局として宣言する必要がある。
さらに、綱紀委員会の運営は当事者が関わることのないよう、一定のルールを設けるべきである。 井ノ本氏による元県民局長のプライバシー情報の漏洩については、現在、第三者(弁護士)による調査が進められているが、調査結果は速やかに公表するとともに、県として刑事告発も含めた厳正な対応を早急に求める。
なお、一連の県の対応は、公益通報者保護法に違反している可能性が高いと考えられることから、県自らの対応として公益通報者保護法の法定指針で定める「不利益な取扱い、範囲外共有や通報者の探索が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。」や「不利益な取扱い、範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分、その他適切な措置をとる。」という規定に基づいた措置を行う必要があると考える。
最後に、齋藤知事は周囲の進言や意見に真摯に耳を傾ける姿勢を持つ必要があり、県職員が上層部へ必要な進言を行うことを躊躇しない組織風土を醸成するとともに、兵庫県のリーダーとして共感やいたわりの姿勢を持ち、透明性のある兵庫県政の確立に努めるべきである。」
—————
出所—兵庫県議会ホームページ。
————
「Ⅳ 公益通報者保護にかかる調査の内容と結果について
1 委員会としての判断
ア 認められる事実
————
以上、前回
以下の見出しはつぎのとおり。
1 委員会としての判断
イ 事実に対する評価
1 公益通報者保護法違反について
(1) 外部公益通報
(2) 体制整備義務違反
2 行政として取るべき対応
(1) 初動対応
(2) 調査方法の問題点
(3) 齋藤知事の対応
(4) 公益通報者保護法に対する齋藤知事や幹部の関わり方について
(5) 文書問題の対応について
(6) 情報漏洩
(7) まとめ
2 提言」
—————
以下、全文掲載。
「イ 事実に対する評価
1 公益通報者保護法違反について
(1) 外部公益通報
元県民局長は、議員、マスコミ、警察の特定の者に文書を配布している。 齋藤知事は真実相当性が認められないと再三説明をしているが、真実相当性は公益通報に当たるか否かとは関係がなく、保護要件にとどまる。
元県民局長の公用メール及び公用パソコンに保存された資料に基づき、クーデターや転覆といった言葉が並んでいたことや、元県民局長作成の人事案や知事を貶める資料があったことなどをもって、文書配布は不正な目的の行為に当たり、公益通報ではないと判断したという証言がある。しかし、当該文書入手(3 月 20 日)、協議時点(3 月 21 日)ではまだ公用メール及び公用パソコンの調査は行われておらず、当該文書の内容から不正な目的が明らかでない限り、公益通報ではないとの判断は調査後に行われるべきものであり通報時ではない。仮に公用メール及び公用パソコンの調査も含めて3月 22 日に作成者の特定を開始したことの正当性を主張するのであれば、公益通報者保護法に基づく指針に定められた「通報者探索防止措置」は事実上意味がなくなり、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関がとってよい行為とは考えられない。さらに「通報者探索防止措置」を認識せず行われた調査の中で、公用 PC の中の情報から非違行為を認定し懲戒処分にしたことは、違法収集証拠排除法則の法理に反するものであり、告発者潰しを行う材料にしたことは非常に不適切であると考える。
なお、人事当局は特別弁護士に相談の上、不正の目的があったと判断したことはないと証言しており、県として不正の目的があったと公に認めていない。また、複数の参考人は、「専ら」公益を図る目的の通報と認められる必要はなく、交渉を有利に進めようとする目的や事業者に対する反感などの目的が併存しているというだけでは、「不正の目的」であるとは言えず、不正目的の認定は慎重に行う必要があるとしている。
「通報対象事実」については、少なくとも阪神・オリックス優勝パレードにかかる信用金庫からのキックバックについて背任罪の可能性があり、通報対象事実が含まれている。なお、刑法の背任行為として刑事告発され県警に受理されている。
以上のことからすると、今回の調査では、元県民局長が齋藤県政に不満を持っていた事情はうかがえるものの、元県民局長は今回の文書作成については後輩職員のためを思い行ったと主張しており、人事課調査による判断と同様に、不正な目的であったと断言できる事情はないと考える。
よって、元県民局長の文書は公益通報者保護法上の外部公益通報に当たる可能性が高い。
(2) 体制整備義務違反
公益通報者保護制度を所管する消費者庁は、公益通報者保護法に基づく指針第4の2(1)不利益な取扱いの防止に関する措置及び(2)範囲外共有等の防止に関する措置は内部通報した場合に限定せずに、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も公益通報者を保護する体制の整備が求められるとしている。他方、今回の文書の場合には、通報の探索が例外的に許容されるのではないかという参考人の意見もあった。
しかし、上記のとおり、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関としては、公益通報者保護法に基づく指針を原則通り遵守すべきと考えられる。
文書内容の事実確認よりも通報者の特定を優先した調査や3月 27 日の記者会見での文書作成者を公にしたこと、元県民局長のプライバシー情報の漏洩などは、公益通報者保護法に基づく指針第4の2(2)「範囲外共有等の防止に関する措置」を怠った対応であり、現在も違法状態が継続している可能性がある。
2 行政として取るべき対応
(1) 初動対応
3月 21 日の協議時点で齋藤知事及び参加者は当該文書を誹謗中傷の文書であると認識しており、公益通報の議論はなかったという証言があることから、初動対応において公益通報に関する認識はなかったと考えられる。そのため、3月 22 日には作成者の特定のために元県民局長らの公用メールの調査等に着手し、3月 25 日に作成者を元県民局長と特定、3月 27 日には知事が記者会見で本人が認めていなかったにもかかわらず、事実無根だと認めているような発言のほかにも「公務員失格」と通報者を侮辱するような発言をしている。
しかし、当該文書の内容は、本委員会でも一定の事実認定ができており、全くの事実無根とは言えないため、齋藤知事らは公益通報に該当しうるかもしれないという前提に立ち、作成者の特定を行う前に、まずは当該文書の内容を調査すべきであった。
また、3月 27 日の記者会見で県民局長の職を解き、通報者を公表したことは、告発者潰しと捉えられかねない不適切な対応であった。同日に元県民局長から告発文にある内容を精査してから対応して欲しいと片山氏に要請があったが、この時点から内部公益通報としての手続が必要であった。
さらに言えば、齋藤知事らは当事者である自分たちだけで当該文書が公益通報に該当するか否かを判断するべきではなかった。法令を遵守することは当然のことながら、それが、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関がとる立場であると言える。
また、参考人によると、公益通報事案については、受付、調査、是正措置等の対応全てを通じ、不利益取扱、範囲外共有、通報者探索が禁止され、これに違反すると体制整備義務違反状態となるため、調査結果が判明する前にこれらの扱いをすることは原則として許されないし、調査結果が判明し、たとえ通報者の指摘する事実関係が認められなかったとしても、これらの扱いをすることが許されない場合があり得るとしている。加えて、告発の対象となった権力者が通報者探しを指示する場合、あるいはそれを承認する場合、その者の責任も厳しく問われるとの参考人意見もある。
さらに、本年2月 18 日の衆議院総務委員会で政府参考人は、「法定指針の1号通報の対応体制において、事実に関係する者の公益通報対応業務に関与させない措置を求めているが、一般論として外部から不正行為について指摘された事業者は、自らが行う調査、是正に当たり、事実に関係する者を関与させないことなど、適切な対応が取ることが望ましい」と答弁している。 初動対応時の調査は、当事者である齋藤知事の指示の下、同じく当事者である片山氏が中心となって行っているが、調査は当事者が関与せずに行うべきであったと考えられる。通常であれば、このような案件の調査は人事課や各部総務課が調査を実施することになるが、利害関係者中心で調査を行うのは不適切である。これは内部公益通報時だけでなく、外部への公益通報の際にも同様である。今回のような知事及び県幹部が当事者である場合は、告発文に記載のあった当事者が調査に関わることのないよう利益相反を排除し、独立性を担保するためにも県以外の第三者に調査を委ねるべきであった。そのことが調査の過程及び結果の客観性・公平性・信頼性を高めることになる。県当局は後日、第三者委員会を設置することとしたが、本来は元県民局長の処分前に設置し、もし処分をするのであればその調査結果に基づいて処分を行うべきだったと考えられる。
加えて、参考人によると、真実相当性の要件は、通報者の通報時点における状況から判断することや通報者の供述内容は、調査主体への信頼感により影響を受けるため誰が調査するのかが重要としている。元県民局長は、県当局の調査に対し、文書の内容を誰から聞いたかについて、単なるうわさ話と話しているが、元県民局長の立場からすれば、文書に記載されている当事者が調査に関わっている限り、情報提供者を守るために真実を話せなかったと考えられる。
以上のように、県の一連の文書問題に対する初動対応は、県民の不信感を招く不当なものであったと考える。
(2) 調査方法の問題点
当該文書の作成者の特定はすべきではなかったという判断である。その上で、作成者特定に当たっての今回の調査方法には、今後の県政の信頼回復のために考慮しておく必要がある幾つかの問題点があったと考える。
公用メールの調査について、公用パソコンは県から貸与されたものであり、業務以外の使用は禁じられているものの、そのメール内容の調査はその必要性や方法について慎重に検討を行った上で行うべきである。地裁レベルだが判例でも社内メールの調査が無条件に認められているわけではない。当委員会の調査では、メール調査に当たってのルール及び実施の記録がないことが判明している。これではメール調査を恣意的に実施でき、適正な調査であったかの事後の検証もできないと言わざるを得ない。
今回の調査の中で行われた私用スマートフォンの内容確認は任意だったが、作成に関与したと疑われた人物の私物スマートフォンのLINEのやり取りを確認したことが証言と資料から確認されている。これは職員の人権への配慮を欠いた調査であり、しかも、その人物は結果的に当該文書作成に関わっていなかった。このような調査を人事当局が行う可能性があるということは、職員の萎縮、ひいては県政運営への信頼低下を招くものと言わざるを得ない。
(3) 齋藤知事の対応
3月 27 日の記者会見では、齋藤知事は調査の対象者を特定したり、処分を予告すること、さらには「うそ八百」「元県民局長は認めている」と発言した。片山氏や人事当局は、「これから調査する」という認識で齋藤知事とも話をしたつもりであったため、その発言に驚いた。この時点においては当該文書の存在は広く知られておらず、実害も生じておらず、人事当局が予定していたとおりの人事異動の発表にとどめておくべきであった。今回の文書問題が大きく取り上げられることになったのは、この記者会見によることが大きいことを踏まえると、このような部下の進言や意見に真摯に耳を傾ける姿勢が必要であったと考えられる。
なお、そのことは第三者による調査の進言、公益通報の結果を待ってから処分を行うことの進言に対する態度についても言える。
(4) 公益通報者保護法に対する齋藤知事や幹部の関わり方について
公益通報者保護法が目指すのは、徹底して不正行為を告発する人々を守り、社会の正義と透明性を維持することが目的であり、兵庫県としては立法趣旨を踏まえ、まずは公益通報に該当する可能性がないかを慎重に検討すべきであったが、初動対応時の齋藤知事や幹部は公益通報の認識がなかったと証言しており、公の立場として大きく思慮に欠ける点があったと言える。
また、齋藤知事は証人尋問や記者会見で何度も法的に問題ないことを主張しているが、行政機関は法律に違反しなければいいのではなく、法律の趣旨を尊重したうえで遵守する姿勢を示すことが重要である。
(5) 文書問題の対応について
この度の兵庫県の対応が全国から注目される中、組織の長や幹部の不正を告発すると、権力者が当事者にも関わらず自ら告発内容を否定し、更に通報者を探して公表し、懲戒等の不利益処分等で通報者が潰される事例として受け止められかねない状況にある。そのことが公益通報の抑制につながらないか危惧される。公益通報者保護法に違反しているかどうか見解が分かれるとはいえ、「組織の長その他幹部からの独立性の確保」や「利益相反の排除」といった原則にのっとった対応が必要であったと考える。
また、元県民局長の処分には、退職保留決裁が終わる前に、退職保留が本人に通知されたことも問題がある。
(6) 情報漏洩
県の個人情報保護管理の総括保護管理者である井ノ本氏は証言を拒否しているが、同氏が元県民局長のプライバシー情報を複数の議員に見せていることが聞き取り調査によって明らかになっている。当該文書の価値を貶めようとする発言を行っていた証言も得られており、「告発者潰し」があったと言われかねない状況がうかがえる。この行為は地方公務員法の守秘義務違反、さらには県における個人情報管理の問題である。告発者である元県民局長をおとしめることによって、当該文書の信頼性を毀損しようとしたこともうかがわれ、地方公務員法違反を否定できる要素は皆無に等しいと考える。この漏洩問題はその背景や関係者等を明らかにしなければならない問題と考える。
(7) まとめ
以上のように、一連の県の文書問題への対応には看過できない問題があったと言わざるを得ない。
また、井ノ本氏による元県民局長のプライバシー情報の漏洩問題は、公益通報者保護法に反する問題にとどまらず、県組織としてのガバナンス、マネジメントが適正に行われているのかという疑問を抱く。この問題への対応に関しては、元県民局長への処分と比較し、あまりにも大きく異なっている。
2 提言
法令を遵守するだけでなく、法令の趣旨を尊重して社会に規範を示すべき行政機関が、公益通報の認識を欠き、また、後になって公益通報に該当しないから問題ないと主張して通報したことを非違行為として認定し懲戒処分にまで至ったことは大変遺憾であり、県当局は責任の重さを痛感すべきである。
今後は、県行政・県組織の不正行為や違法行為に関する告発に対しては、常に公益通報の可能性を念頭に対応することが求められ、知事を含めた幹部が公益通報者保護法に対する理解を深める機会を定期的に設けることが不可欠である。体制整備に関しては、指針第4に掲げる内部公益通報対応体制の整備は当然のことながら、外部公益通報に対応できる体制づくりを進める必要がある。
あわせて、告発の調査に当事者は関与しないこと、通報者探索及び範囲外共有等は行わないことの明確化が必要である。今後、受付段階、調査段階、是正措置等において、告発者の不利益処分が行われていないか、第三者による常設の検証機関の設置が必要である。知事、副知事をはじめ組織の長は、就任に当たり、公益通報者保護法及び個人情報保護法に関する研修を受講するなどして、法の趣旨や責務を改めて認識することが重要である。
なお、有益な公益通報が守られるよう、公益通報に当たっては個人のプライバシーへの配慮や公益通報の濫用を防ぐことなど、職員にも公益通報者保護法の理解を深めることが重要である。
また、不正調査等で必要な場合も想定されるため、メール調査そのものを否定はしないが、その判断基準の整備及び調査実施記録の作成・保存を確実に行うべきである。そのことによって、今回のような疑念を持たれるメール調査を防ぐとともに、事後的な検証が可能となる。職員の私用スマートフォン等の調査についても、今後一切行わないよう県当局として宣言する必要がある。
さらに、綱紀委員会の運営は当事者が関わることのないよう、一定のルールを設けるべきである。 井ノ本氏による元県民局長のプライバシー情報の漏洩については、現在、第三者(弁護士)による調査が進められているが、調査結果は速やかに公表するとともに、県として刑事告発も含めた厳正な対応を早急に求める。
なお、一連の県の対応は、公益通報者保護法に違反している可能性が高いと考えられることから、県自らの対応として公益通報者保護法の法定指針で定める「不利益な取扱い、範囲外共有や通報者の探索が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。」や「不利益な取扱い、範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分、その他適切な措置をとる。」という規定に基づいた措置を行う必要があると考える。
最後に、齋藤知事は周囲の進言や意見に真摯に耳を傾ける姿勢を持つ必要があり、県職員が上層部へ必要な進言を行うことを躊躇しない組織風土を醸成するとともに、兵庫県のリーダーとして共感やいたわりの姿勢を持ち、透明性のある兵庫県政の確立に努めるべきである。」
—————



























































