秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

中田宏

1105/「保守」は橋下徹に「喝采を浴びせ」た(桑原聡)か?

 月刊正論(産経)編集長・桑原聡は、同5月号の末尾、「操舵室から」と題する編集長コラムの中で、「保守を自任する人々まで、……橋下氏に喝采を浴びせるが、」と書いたあとで、橋下徹を「きわめて危険な政治家」、「目的は日本解体そのものにある」と断じた。
 上にいう、「保守を自任する人々まで、…橋下氏に喝采を浴びせる」との認識は正確なものだろうか?
 「保守」派、あるいは「保守を自任する人々」のうち誰が明確に橋下徹に対して「喝采を浴びせて」いるのだろうか。
 橋下徹に関する論評類のすべてを見ることはむろんできないが、大阪市長戦後の産経新聞の昨年の11/28で、「保守」派だとふつうは思われているだろう産経新聞の政治部次長・石橋登は、「橋下氏は救世主なのか。それとも破壊王なのか」と、やや長い署名記事を結んでいた。喝采を浴びせてもいないし、「大衆迎合の危うさ」という見出しもあるほどで、少なくとも肯定的・積極的にのみ橋下徹を評価したわけではなかった。
 産経新聞を含む選挙前の報道の仕方自体、「保守」派らしき産経新聞も含めて、決して橋下徹に有利で好意的はものではなかった。「左翼」人士たちが大阪まで行って集会等を行い(それが逐一報道され)、週刊文春や週刊新潮が露骨な<反橋下>の記事を載せたことはよく知られている。関西の書店では、<反橋下>の本の方がはるかに多く目立つところに並べられていただろう。橋下徹自身の書物(堺屋太一との対談本を含む)の他には、彼を応援する<保守>派の書物などは一つもなかったのではないか。
 選挙・投票当日の朝の産経新聞の第一面には、対立候補・平松某の最後の演説の遠望写真のみが(写真としては)載っていた(有名な場所なので記事と照合するとどちらの陣営のものかが簡単に分かった)。橋下徹がリード、との予測を各紙がしていたにもかかわらず、だ。
 橋下徹市長の誕生後の産経新聞紙上でも、櫻井よしこ遠藤浩一櫻田淳らの、名うての?<保守>派論客も、橋下徹への明確な判断を避けていて(単純かつ性急に批判・非難する桑原聡よりはまだマシだが)、最近触れたように、佐々淳行が橋下徹への期待または「祈念」を語っていたのが、むしろ目立つくらいだ。
 いったいどこに、「橋下氏に喝采を浴びせる」「保守を自任する人々」がいるのか? 桑原聡は、虚偽を書いているのではないか。
 「保守」を自認している<西部邁・佐伯啓思グループ>が、佐伯啓思中島岳志藤井聡など、橋下徹を明示的に(桑原聡と同じく)厳しく批判していることは、この欄で言及したとおりだ。
 橋下徹を支持・応援している人々として挙げられうるのは、石原慎太郎堺屋太一のほか、特別顧問や政治塾の講師になったりしている、中田宏山田宏古賀茂明高橋洋一らだと思われ、必ずしも多くはない。
 こうした名前を記していて気づくのは、橋下徹を支持・応援しているのは、政治・行政の実務をしているか、その経験がある者ばかりだ、ということだ。
 反面ではこのことは、もっぱら<口舌の徒>であることを生業としている者たち、つまり、評論家や大学教授類で橋下徹支持を明確にしている者はほとんどいない、ということを意味している。
 <文章書き>だけの世界では、あるいは<文章書き>たちと接触している編集者たちの世界では(新潮45の編集長も含めて)、むしろ<反橋下>がモーデ(Mode、ムード)なのではないか。
 そのムードの中に「真正保守」の川瀬弘至・月刊正論編集部員もいるのだろう。
 そうした中で、産経新聞4/14の高木桂一のコラムなどによると、自民党の小泉進次郎は2/10に、橋下徹・維新の会に関して、「…新しい勢力がそこに刺激を与えてくれる。自民党にとってそれが危機感となって、自分たちを省みて『よくしなきゃいかん』という方向に行くならプラスじゃないですか」と答えたらしい。
 「デマゴーグ」とか「きわめて危険な政治家」と簡単に言い放つ「口舌の徒」の者たちに比べて、政治家らしく、冷静で、<大人>だ。

1067/大阪の自民党は嘆き、自らを嗤え-大阪ダブル選挙。

 〇大阪市・大阪府の選挙については<維新(の会)対反維新>または<既成政党対維新>という対立軸も示された。
 そのとおりではあるだろうが、正確には「自民・民主(・共産)という全国的政党」対「維新の会」という二年ほど前にできた地域政党(ローカル・パーティ)との対立だった。
 前者の複数の政党の支持票をまとめるだけで、十分に「維新」などという地域政党に勝てるはずだった。しかもなお、維新の会の側に対しては、「バカ新潮・文春」(11/27夜の橋下の表現)による代表・橋下に対する<陰湿な>個人攻撃まであって、これがボディ・プローのように利いて、橋下(市)と松井(府)がたやすく勝てるとは思えなかった。日本共産党は<反独裁>批判を正面に掲げ、結果的・機能的にはそれと同調する「左翼」の佐高信・中島岳志等々による橋下徹攻撃もあったのだ。
 選挙日の前までに、中田宏・政治家の殺し方(幻冬舎、2011)を半分程度は読んでいたこともあり、橋下徹の政治生命もひょっとすれば危ういのではないかとすら危惧した。
 月刊WiLL1月号(2011.11、ワック)は「週刊誌の病理」との特集?を組んで、中田宏の文章とともに宮崎学「橋下前大阪府知事の出自を暴く異常」を掲載したのだったが(p.278~)、広告・発売が選挙の前日では、ほとんど投票行動に影響はないものと思われた。
 それよりもとっくに前に、月刊新潮45(新潮社)12月号は「続・『最も危険な政治家』橋下徹研究」という「特集」を組んで、橋下批判の第二弾を撃ち、この特集名を表紙にも大きく載せていたのだ。

 にもかかわらず、維新の会の橋下と松井は、結果としては文句なしの<大勝>だった。一週間前の各新聞社の予測からの印象を上回る、十分な差がついた。

 マスコミ、とくに新潮社については別の回に触れる。
 〇この結果は既成政党に衝撃を与えているとされる。上に述べたようなことからして当然だろう。
 日本共産党の票が大阪市内で10万票あったとすると(府知事選挙での共産党候補得票数は約12万)、そして社民党その他の他の政党の票も加えて除くと、自民党と民主党の支持者からは40万票ほどしか平松某に流れていない。一方、橋下徹(維新)は75万票を獲得した。自民と民主がかりに同じ程度だとすると、20万、20万に対して、橋下(維新)は75万なのだ。
 地方自治体の首長選挙であることを強調して、衝撃・影響力を薄めたいかのごとき発言をしている民主党幹部もある。自民党幹部の中にもいるかもしれない。
 だが、すでに選挙前に書いたことだが、この選挙結果によって最も深刻な影響を受けたのは自民党だと見なすべきだ。
 自民党府連は市・府議団による<反橋下>方針をそのまま承認した。結果としては自民党の本部(中央)もまた、これを容認した、と理解して差し支えないだろう。
 実際にも、小泉進次郎を大阪には送らなかったようだが、片山さつき佐藤ゆかりという自民党の二大マドンナ?は大阪へ行って、反橋下(平松ら支持)の演説を行なっている。
 産経新聞11/28の表現・文章構成を一部引用しつつ述べれば、「深刻さでは自民党の方が〔民主党よりも〕上だろう」。
 なぜならば、「国政で〔民主党と〕対決しながら反維新の会で〔大阪では〕手を結んだバツの悪さがある」。
 このあと産経の記事には、「市長選では共産党とも共闘した。これでは国会での応酬を茶番劇だと言われても仕方がない」、とつづく。
 市長選での日本共産党との「共闘」は、<共産党があとから勝手に乗ってきただけ>と言い逃れることができるかもしれない。しかし、紛れもなく言い逃れできず、説得力ある説明ができないと思われるのは、市・府のいずれにおいても、<なぜ民主党と手を組んだのか?>だ。
 11/29に自民党中央の石原伸晃(幹事長)は大阪で、「維新の会との距離感」について、「自民党出身が多いことから『維新は保守の陣営。シンパシーもある』と秋波を送った」とされる(産経ニュース)。
 「維新は保守の陣営」などと選挙が終わってから、かつ選挙で自党推薦候補がダブルで敗れてから、よくぞ言えたものだ。
 むろん、実質的な責任は、石原伸晃(・谷垣禎一)よりも、自民党の大阪府連、そして大阪市議団・府議団に、より大きいのだろう。
 自民党中央の幹部はもちろんだが、深刻に受けとめて反省すべきなのは、<反橋下>・<反維新>を選択・判断した同党の大阪府連、大阪市議団・府議団だろう。
 上記の元横浜市長による中田宏・政治家の殺し方(幻冬舎)には、地方議会の議員たちは党派は違っても(首長対議会という二元構造からくる)「仲間意識」があり、「市議会は相乗り=オール与党議会が一番楽なの」だ等の指摘がある(p.55-60)。
 こうした事情に、国会議員の大多数は「小選挙区」または「一人区」から一人だけ当選するのに対して、政令市の市議会や府議会の議員は複数者当選の選挙区から選出される、ということが加わる。
 すでに同旨は書いたことだが、とくに大阪市について言えば、民主党らの議員とともに平松某市長の与党議員であり続けたい、与党議員としてうまく棲み分けたい、というのが自民党大阪市議団の本音であったかに見える。
 与党議員であってこそ、支持者からの要望・要求を(市長に直接にではなくとも)局長以下の行政公務員に「伝えて」、支持者に感謝され、次期選挙での再選を期待することができる…。
 このような至極幼稚な(政策理念のほとんどない)意識のもとで、じつに安易に平松某支持=反橋下を選択したのではなかっただろうか。これで天下の?大阪市の議会議員とは、情けないものだ。
 自民党支持者・有権者の方が賢明に判断していた、とも言える。新聞・テレビ等によりデータは同一ではないが、自民党支持者のおおむね50%が、(平松某らの)<反維新>候補ではなく、橋下・松井という<維新>候補に投票したようだ。そうした票の少なくとも一部には、日本共産党までが支持している候補に投票したくはない、という者もいたに違いない。
 もはや遅いかもしれない。大阪の自民党は、かりに<維新の会>がそれなりに適切な候補を出し続ければ、大阪市議会でも府議会でもそして国政選挙でも、<維新の会>に負け続けるのではないか。
 それだけの痛みをもって、大阪の自民党は今回の選挙の「総括」をするだろうか?
 繰り返しておくが、全国ニュースでは、自民党が民主党政権を終わらせるために来年前半にでも衆議院解散・総選挙を目指す、という報道がなされているときに、同じ自民党の大阪では、民主党と闘いもせず、同じ候補を担ぐとはいったいどうしたことか?
 他に候補がいなかったわけではない。自党で候補を擁立できないならば、(少なくとも相対的にはマシな候補として)橋下徹・松井一郎がいたと思われるのに、なぜ後者を支持・推薦できなかったのか?。最悪でも(公明党と同じように)自主投票という苦渋の?選択もあり得た。
 大阪の自民党は大いに嘆くべきだ。その愚かな判断を自らで嗤うべきだ

 もちろん民主主義=多数者の判断=「正義・善」などという単純な考え方を前提にしてはいない。民主主義が誤った結果をもたらすことはありうる。
 だが、大阪の自民党の判断が「現実の力」にはつながらなかったことは間違いのないことだ。政治的にはやはり「敗北」だ。
 なお、こうした大阪の自民党の態度を捉えて、(谷垣)自民党と民主党は<同根同類>だなどという櫻井よしこの認識に同調しているわけでは全くない。
 外国人地方参政権付与を求めているようである民団(韓国系)の集会に、(民主党や公明党等とは異なり)自民党は挨拶をする国会議員を一人も送っていない。この点だけでも、民主党と自民党は「同根同類」だとは言えない。そのような違いがあるはずなのに、そうした「政策」・「理念」よりも、大阪の地方議会議員は<保身>を優先した、ということをきちんと記録しておきたい。

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