〇原子力損害賠償法〔原子力損害の賠償に関する法律〕3条第一項は、次のように定める。
「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない」。
ここでいう「原子力事業者」とは原子炉等規制法〔核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律〕23条・23条の2・13条第一項・43条の4第一項・44条第一項・51条の2第一項・52条第一項のいずれかの「許可」を受けた者をいうので(同法2条第三項)、福島第一原発等の事故にかかる事業者は東京電力となる。
さて、この規定は、損害賠償につき一般的・原則的な過失責任主義を採っていない(=無過失責任主義を採る)ことを明らかにしている、とされる。但し、完全な無過失・結果責任を要求しているわけでもなく、上記のとおり、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」は免責されるものと定めている。
かねて不思議に思ってきたのは、この規定の解釈が政治・行政界でまともに議論されたことはなく、マスメディアにおいて話題にされたこともほとんどないと見られることだ。
むしろ、おそらくは上にいう免責される場合にはあたらないことを当然に前提として、早々に、原子力損害賠償法自体にもとづく「原子力損害賠償紛争審査会」が発足し、議論を始めている。
上の免責規定には該当しない、すなわち、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたもの」ではない、ということを内閣も各政党も、そしてマスメディアも十分に納得したうえで、損害賠償に関する細かな議論は進めてほしかったものだ。
たぶん4月中の毎日新聞だっただろう、与謝野馨が上の免責条項に該当するので東電は免責される旨を言ったら、枝野幸男がそんな解釈には法律改正が必要ですよ(=今の法律のままだと東電は免責されない)と反論した、というような記事を読んだ。見出しになってもおらず、記事本文中の一部だったが、じつに基本的・根本的な問題に触れていたのだ。
結論としてはどちらでもよい、と言えば語弊はあるし、最終的な決定権者は裁判所なのだが、政府として、上の法律の重要な関係条項をどのように解釈して損害賠償関係事務を遂行していくかは、きちんと明確にして国民(・マスコミ)に対して公表しておくべきだっただろう。
ひょっとすれば、それはなされていたのかもしれない。そうだとすると、この点について重要な報道対象としなかった日本のマスメディアは、いったいいかなる「法的」感覚をもっているのかと、恐怖に近いほどの感想をもたざるをえない。
東京電力を擁護する意図はないが、「異常に巨大な天災地変」による損害か否かは、議論するに足りる論点だったと思われる。
また、この法律の裏付けをもって被害者が権利として要求(請求)できる損害賠償(金銭による償いの一つ)と、東電や国等が<見舞金>的に行う、被災者=弱者救済という目的も含めての、政策的な金銭給付とは、論理的にはきちんと区別されなければならない。
これらは、「法的」議論のイロハなのではないか?
こうしたことが曖昧にされたまま?何となく事態が進行するのは、<法的秩序感覚>を不快な方向に動揺させる。
〇産経新聞7/30付社説は、以下のことを述べている。
菅直人内閣の「エネルギー・環境会議」が「原発への依存度を下げていく」ことを目指し、2050年までに原発を減らす工程表を作る方針を打ち出したが、「そもそも、首相は本来あるべき手続きを無視している。エネルギー政策は『エネルギー政策基本法』に基づき策定され、変更する場合、エネルギー基本計画を変えなければならない。策定者は経済産業相と決まっている。だが、首相は原発を推進してきた経産省の影響力排除を狙い、国家戦略室による見直しにこだわっている。その結果が今回の中間整理である」。
菅直人とその内閣が<法律を誠実に執行>しているのか疑問を呈したところだが、阿比留瑠比の産経新聞7/30付「日曜日に書く/順法精神見あたらぬ菅首相」とともに、産経新聞だけは(?)、「本来あるべき手続」等の表現でもって、菅直人・同内閣の政治・行政スタイルの異様さを指摘し始めた(?)ようだ。
上の産経社説が指摘している例は、<法律を誠実に執行>していないどころか、明らかに<違法な法令執行>をしているのではないか。左であれ右であれ、(現行の)法律に従っていない内閣・行政権は、それだけで厳しく糾弾・指弾されるべきではないのか??
阿比留瑠比の文章の中に出てくる片山虎之助(たちあがれ日本)の発言を探してみたりしたのだが、長くなったので、次回以降に委ねる。
与謝野馨
書き記していなかったが(意識的にではない)、先週(2/17~)に、週刊新潮1/31号の野口悠紀夫の4頁分の文章(「日本経済の『円安バブル』は崩壊した」)を読んだことをきっかけにして同・戦後日本経済史(新潮選書、2008)の「はじめに」と最終章の「第9章・未来に向けて」を読んだ。この人の『一九四〇年体制』は旧・新版ともに当然に所持していて、基本的な趣旨は記憶している。
適当に一部引用する。1.野口は上の週刊新潮誌上でいわく-<戦時期の要請から支配的になった「アンチ市場主義」が現在まで続いている。…「90年代以降の日本経済では、口先だけの『改革』は叫ばれたものの、金融緩和と円安政策に依存して本当の改革を怠った」>。
<市場主義>の徹底への「改革」の必要性を説いている。
産経の2/21の記事によると、自民党の園田博之・小坂憲次・与謝野馨らの<財政再建派>の「勉強会」の後、園田は、「行き過ぎた市場原理主義に注意する必要がある」と述べたとか。
「行き過ぎた」という形容は既に否定的評価を含んでいるし「原理主義」という言い方もそのような気配がなきにしもあらずだ。それはともかく、はて、どこまで、どの程度「市場」に委ねて国家介入・関与を避けるべきなのか。グローバリゼーションへの適合と国益保持との間の調整点はどこに。 自民党議員等の主張している「改革」とはそもそもこの問題をどう考えているものなのか(安倍前首相も主張していたが)。
具体的には例えば、関西国際空港(株)への外資の出資規制の是非は? はてはて。分かりにくい。
同じく産経の2/21の正論欄で屋山太郎は外資規制は国土交通省等官僚の「天下り」温存策だとして反対論。同じ日の別の記事に元通産審議官・坂本吉弘が登場して、本質は<国益・公共の利益>をどう守るかだとして賛成論。はてはてはて(野口悠紀夫の議論だと、反対論になるのだろうか)?。
元に戻って、2.野口は同・戦後日本経済史の本文を次の文章で終えている-「しかし、…古い制度や思想との摩擦は、さらに大きくなるだろう。われわれは、長い混迷の時代を覚悟しなければならない」。
最近とくに感じる憂鬱感、鬱陶しさをさらに増幅させる内容の文章だ(野口が悪いわけではないが)。憂色は濃い。日本と日本人についての多少は明るい展望をしっかりと感じつつ、老化し、死んでいきたいものだ。
適当に一部引用する。1.野口は上の週刊新潮誌上でいわく-<戦時期の要請から支配的になった「アンチ市場主義」が現在まで続いている。…「90年代以降の日本経済では、口先だけの『改革』は叫ばれたものの、金融緩和と円安政策に依存して本当の改革を怠った」>。
<市場主義>の徹底への「改革」の必要性を説いている。
産経の2/21の記事によると、自民党の園田博之・小坂憲次・与謝野馨らの<財政再建派>の「勉強会」の後、園田は、「行き過ぎた市場原理主義に注意する必要がある」と述べたとか。
「行き過ぎた」という形容は既に否定的評価を含んでいるし「原理主義」という言い方もそのような気配がなきにしもあらずだ。それはともかく、はて、どこまで、どの程度「市場」に委ねて国家介入・関与を避けるべきなのか。グローバリゼーションへの適合と国益保持との間の調整点はどこに。 自民党議員等の主張している「改革」とはそもそもこの問題をどう考えているものなのか(安倍前首相も主張していたが)。
具体的には例えば、関西国際空港(株)への外資の出資規制の是非は? はてはて。分かりにくい。
同じく産経の2/21の正論欄で屋山太郎は外資規制は国土交通省等官僚の「天下り」温存策だとして反対論。同じ日の別の記事に元通産審議官・坂本吉弘が登場して、本質は<国益・公共の利益>をどう守るかだとして賛成論。はてはてはて(野口悠紀夫の議論だと、反対論になるのだろうか)?。
元に戻って、2.野口は同・戦後日本経済史の本文を次の文章で終えている-「しかし、…古い制度や思想との摩擦は、さらに大きくなるだろう。われわれは、長い混迷の時代を覚悟しなければならない」。
最近とくに感じる憂鬱感、鬱陶しさをさらに増幅させる内容の文章だ(野口が悪いわけではないが)。憂色は濃い。日本と日本人についての多少は明るい展望をしっかりと感じつつ、老化し、死んでいきたいものだ。
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