一 前々回(→①・No.2663)に、上原の「結論的叙述」は西洋音楽の五線譜ではなく「12段の枡形のような図」で示されていると書いたが、より正確な描写はつぎのとおり。
長方形(枡形)が12個積み上げられている。接する箇所を一つの線とすると、下に何もない線(一番下の1個めの長方形の下部の線)から上に何もない線(一番上の12個めの長方形の上部の線)まで、13の横線がある。長方形の中にではなく、それらの線上の6箇所に「1」(一番下の第1線上)、「2」、「3」、「4」、「下5」、「上5」の表記があり、一番上の第13線の上には再び「1」の表記がある。
一番下の「1」を「ド」とした「5音」音階の並びを、<陰旋>と<陽旋>について、前々回にすでに記載した。
<陰旋>。
上行—①ド、②ド♯、③ファ、④ソ、⑤ラ♯、⑥ド。
下行—⑥ド、⑤ソ♯、④ソ、③ファ、②ド♯、①ド。
<陽旋>。
上行—①ド、②レ、③ファ、④ソ、⑤ラ#、⑥ド。
下行—⑥ド、⑤ラ、④ソ、③ファ、②レ、①ド。
これらでの各音の表示は〈十二平均律〉等によるものではないので、誤解も生じ得るだろう。
——
各音の(1に対する)周波数比と各音間の周波数比の比率(間差)が明記されているので、これを紹介する。「下行」の場合も、小さい順に並べる。「⑥2」は秋月が追加した。
<陰旋>。(p.97-p.98)
上行—①1、②16/15、③4/3、④3/2、⑤7/4※、⑥2。
下行—①1、②16/15、③4/3、④3/2、⑤8/5、⑥2。
(上行⑤※についてはなお後述参照—秋月。)
「間差」(p.106-7)。「各音間の音程」と称されている(同左)。上行と下行を一括する。
①-②16/15、②-③5/4、③-④9/8、④-下⑤16/15、④-上⑤7/6、下⑤-⑥5/4、上⑤-⑥8/7。
原著p.107は、①を「第一音」と称し、ここでの⑥を「第一音甲」と称している。
なお、上行⑤7/4※については、以下の旨の叙述がある。p.98。
「上行第五音」に数種がある主因は流派にある。12/7と7/4は「西京地歌」に9/5は「関東の長歌」に用いられ、「山田流」は三種を「混用」する。但し、「音の一定不変なる楽器」では「上高中の中間」で代えるのが「適度」だ。
要するに、諸音があって一定していないが、「中間」の7/4を選ぶのが適切だ、ということだと思われる。
いずれを選ぶかによって、上行⑤の④や⑥との「間差」も変わってくる。p.106-7。
上行⑤12/7の場合。④-⑤=8/7、⑤-⑥=7/6。
上行⑤9/5の場合。④-⑤=6/5、⑤-⑥=10/9。
——
<陽旋> (p.101-2)
上行—①1、②10/9、③4/3、④3/2、⑤9/5、⑥2。
下行—①1、②10/9、③4/3、④3/2、⑤5/3、⑥2。
「間差」=「各音間の音程」(p.107)。上と同じく、①を「第一音」と、ここでの⑥は「第一音甲」と称されている。上行と下行を一括する。
①-②10/9、②-③6/5、③-④9/8、④-下⑤10/9、④-上⑤6/5、下⑤-⑥6/5、上⑤-⑥10/9。
——
三 いろいろな数字が出てきた。上原の著での〈西洋音楽〉観や中国・日本での各音の呼称には立ち入らず、表面的な比較考察の結果だけを、とりあえず、示しておく。
——
既述のように、〈十二平均律〉での呼称に似た言葉を使うと、<陰旋>、<陽旋>の並びは、以下のように表現することができた。上行と下行を一括する。
<陰旋>。
①ド、②ド♯、③ファ、④ソ、⑤ラ♯(下行はラ♭)、⑥ド。
→①ドを「ミ」に替えての上行。①ミ、②ファ、③ラ、④シ、⑤レ、⑥ミ。
<陽旋>。
①ド、②レ、③ファ、④ソ、⑤ラ#(下行はラ)、⑥ド。
→①ドを「レ」に替えての上行。①レ、②ミ、③ソ、④ラ、⑤ド、⑥レ。
——
以上の「レ」、「ミ」等々はそもそも〈十二平均律〉での呼称に近いものとして選んでいるので、かりに〈十二平均律〉での呼称に従うと、元に戻って同じことになる。
しかし、〈十二平均律〉では13音の12の「間差」は全て同じ数値であるのに対して、上に見たように上原の言う<陰旋>、<陽旋>での「間差」は大いに異なる。
——
周波数比はつぎのとおりだった、上行・下行を一括する。
<陰旋>。
①1、②16/15、③4/3、④3/2、⑤7/4(下行は8/5)、⑥2。
<陽旋>
①1、②10/9、③4/3、④3/2、⑤9/5(下行は5/3)、⑥2。
〈ピタゴラス音律〉での「ド」に対する「レ」、「ミ」等々はつぎのとおりだ。この音律での全12音、「7音」音階での周波数比はじつは確言できない(私は説明の仕方に疑問をもっている)のだが、「定説」的なものに従って、上の6音の対1の周波数比を示すと、つぎのようになる。A=上の<陰旋>での①ド〜⑥ドの6音、B=上の<陽旋>での①ド〜⑥ドの6音について、ピタゴラス音律での各音の周波数比を示したもの。
A/①1、②2187/2048(または256/243)、③4/3、④3/2、⑤128/81(ラ♭)、⑥2。
B/①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16(ラ)、⑥2。
——
〈純正律〉での「5音」音階については省略する。
私が頭と計算だけで作り出した「私的」音階の、M、N、Pの三種の「7音」音階+〈12音階〉の元はXとZだったが、そこでの「5音」音階の並びは、つぎのようだった。
1、(4/3)、(3/2)、2という「3(4)音」のうちの最大の「間差」である4/3を小さい方から(9/8)で分割してXを、大きい方から(9/8)で分割してZを、作ることができた。
X—①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16、⑥2。
Z—①1、②32/27、③4/3、④3/2、⑤16/9、⑥2。
——
四 このように、既存のものとして知られているものの若干(+「私的」音階での途中)と「5音」が一致しているものは一つもない。日本の伝統的音階とされる四種との異同は、「日本の伝統的音階」は別の主題としたいので、ここでは取り上げない。
しかし、〈十二平均律〉は別として、<陰旋>・<陽旋>、ピタゴラス音律、「私的」なX・Zにおいて、明らかに一致していることがある。
それは、③と④の数値がそれぞれ全く同じ、ということだ。
すなわち、第3音=4/3、第4音=3/2。
これらは、第1音を「ド」とすると、それぞれの「ファ」と「ソ」に当たる。
また、〈十二平均律〉的に言うと「ファ」と「ソ」の二音が(4/3)と(3/2)になるということに限っては、これまでに言及したことがたぶんないが、〈純正律〉でも全く同じだ。
----
この、(3/2)と(4/3)がつねに使われているということは、きわめて感慨深い。
1とその1オクターブ上の2のあいだに新しい音を設定しようとした古代からの人々がまず思い浮かべたのは、1に対する(2/3)と(3/2)の周波数比の音だろう、と想像してきたからだ((2/3)は容易に「同」音の(4/3)に転化する)。(3/2)と(4/3)の二音を、(1と2に次ぐ)「原初的」な音ともこの欄で称した。
(3/2)と(4/3)は〈ピタゴラス音律〉での音の設定でも発生するが、この二音は〈純正律〉でも同じく使われる。
周波数比が2対3または3対4ということは、1または2ときわめて「調和」または「協和」しやすいことを意味する(2との関係では3対4または2対3)。
古くからヒト・人間はそう感じてきた。日本の人々もまた、おそらく明治期以前からとっくにそうだったのだ。
——
長方形(枡形)が12個積み上げられている。接する箇所を一つの線とすると、下に何もない線(一番下の1個めの長方形の下部の線)から上に何もない線(一番上の12個めの長方形の上部の線)まで、13の横線がある。長方形の中にではなく、それらの線上の6箇所に「1」(一番下の第1線上)、「2」、「3」、「4」、「下5」、「上5」の表記があり、一番上の第13線の上には再び「1」の表記がある。
一番下の「1」を「ド」とした「5音」音階の並びを、<陰旋>と<陽旋>について、前々回にすでに記載した。
<陰旋>。
上行—①ド、②ド♯、③ファ、④ソ、⑤ラ♯、⑥ド。
下行—⑥ド、⑤ソ♯、④ソ、③ファ、②ド♯、①ド。
<陽旋>。
上行—①ド、②レ、③ファ、④ソ、⑤ラ#、⑥ド。
下行—⑥ド、⑤ラ、④ソ、③ファ、②レ、①ド。
これらでの各音の表示は〈十二平均律〉等によるものではないので、誤解も生じ得るだろう。
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各音の(1に対する)周波数比と各音間の周波数比の比率(間差)が明記されているので、これを紹介する。「下行」の場合も、小さい順に並べる。「⑥2」は秋月が追加した。
<陰旋>。(p.97-p.98)
上行—①1、②16/15、③4/3、④3/2、⑤7/4※、⑥2。
下行—①1、②16/15、③4/3、④3/2、⑤8/5、⑥2。
(上行⑤※についてはなお後述参照—秋月。)
「間差」(p.106-7)。「各音間の音程」と称されている(同左)。上行と下行を一括する。
①-②16/15、②-③5/4、③-④9/8、④-下⑤16/15、④-上⑤7/6、下⑤-⑥5/4、上⑤-⑥8/7。
原著p.107は、①を「第一音」と称し、ここでの⑥を「第一音甲」と称している。
なお、上行⑤7/4※については、以下の旨の叙述がある。p.98。
「上行第五音」に数種がある主因は流派にある。12/7と7/4は「西京地歌」に9/5は「関東の長歌」に用いられ、「山田流」は三種を「混用」する。但し、「音の一定不変なる楽器」では「上高中の中間」で代えるのが「適度」だ。
要するに、諸音があって一定していないが、「中間」の7/4を選ぶのが適切だ、ということだと思われる。
いずれを選ぶかによって、上行⑤の④や⑥との「間差」も変わってくる。p.106-7。
上行⑤12/7の場合。④-⑤=8/7、⑤-⑥=7/6。
上行⑤9/5の場合。④-⑤=6/5、⑤-⑥=10/9。
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<陽旋> (p.101-2)
上行—①1、②10/9、③4/3、④3/2、⑤9/5、⑥2。
下行—①1、②10/9、③4/3、④3/2、⑤5/3、⑥2。
「間差」=「各音間の音程」(p.107)。上と同じく、①を「第一音」と、ここでの⑥は「第一音甲」と称されている。上行と下行を一括する。
①-②10/9、②-③6/5、③-④9/8、④-下⑤10/9、④-上⑤6/5、下⑤-⑥6/5、上⑤-⑥10/9。
——
三 いろいろな数字が出てきた。上原の著での〈西洋音楽〉観や中国・日本での各音の呼称には立ち入らず、表面的な比較考察の結果だけを、とりあえず、示しておく。
——
既述のように、〈十二平均律〉での呼称に似た言葉を使うと、<陰旋>、<陽旋>の並びは、以下のように表現することができた。上行と下行を一括する。
<陰旋>。
①ド、②ド♯、③ファ、④ソ、⑤ラ♯(下行はラ♭)、⑥ド。
→①ドを「ミ」に替えての上行。①ミ、②ファ、③ラ、④シ、⑤レ、⑥ミ。
<陽旋>。
①ド、②レ、③ファ、④ソ、⑤ラ#(下行はラ)、⑥ド。
→①ドを「レ」に替えての上行。①レ、②ミ、③ソ、④ラ、⑤ド、⑥レ。
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以上の「レ」、「ミ」等々はそもそも〈十二平均律〉での呼称に近いものとして選んでいるので、かりに〈十二平均律〉での呼称に従うと、元に戻って同じことになる。
しかし、〈十二平均律〉では13音の12の「間差」は全て同じ数値であるのに対して、上に見たように上原の言う<陰旋>、<陽旋>での「間差」は大いに異なる。
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周波数比はつぎのとおりだった、上行・下行を一括する。
<陰旋>。
①1、②16/15、③4/3、④3/2、⑤7/4(下行は8/5)、⑥2。
<陽旋>
①1、②10/9、③4/3、④3/2、⑤9/5(下行は5/3)、⑥2。
〈ピタゴラス音律〉での「ド」に対する「レ」、「ミ」等々はつぎのとおりだ。この音律での全12音、「7音」音階での周波数比はじつは確言できない(私は説明の仕方に疑問をもっている)のだが、「定説」的なものに従って、上の6音の対1の周波数比を示すと、つぎのようになる。A=上の<陰旋>での①ド〜⑥ドの6音、B=上の<陽旋>での①ド〜⑥ドの6音について、ピタゴラス音律での各音の周波数比を示したもの。
A/①1、②2187/2048(または256/243)、③4/3、④3/2、⑤128/81(ラ♭)、⑥2。
B/①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16(ラ)、⑥2。
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〈純正律〉での「5音」音階については省略する。
私が頭と計算だけで作り出した「私的」音階の、M、N、Pの三種の「7音」音階+〈12音階〉の元はXとZだったが、そこでの「5音」音階の並びは、つぎのようだった。
1、(4/3)、(3/2)、2という「3(4)音」のうちの最大の「間差」である4/3を小さい方から(9/8)で分割してXを、大きい方から(9/8)で分割してZを、作ることができた。
X—①1、②9/8、③4/3、④3/2、⑤27/16、⑥2。
Z—①1、②32/27、③4/3、④3/2、⑤16/9、⑥2。
——
四 このように、既存のものとして知られているものの若干(+「私的」音階での途中)と「5音」が一致しているものは一つもない。日本の伝統的音階とされる四種との異同は、「日本の伝統的音階」は別の主題としたいので、ここでは取り上げない。
しかし、〈十二平均律〉は別として、<陰旋>・<陽旋>、ピタゴラス音律、「私的」なX・Zにおいて、明らかに一致していることがある。
それは、③と④の数値がそれぞれ全く同じ、ということだ。
すなわち、第3音=4/3、第4音=3/2。
これらは、第1音を「ド」とすると、それぞれの「ファ」と「ソ」に当たる。
また、〈十二平均律〉的に言うと「ファ」と「ソ」の二音が(4/3)と(3/2)になるということに限っては、これまでに言及したことがたぶんないが、〈純正律〉でも全く同じだ。
----
この、(3/2)と(4/3)がつねに使われているということは、きわめて感慨深い。
1とその1オクターブ上の2のあいだに新しい音を設定しようとした古代からの人々がまず思い浮かべたのは、1に対する(2/3)と(3/2)の周波数比の音だろう、と想像してきたからだ((2/3)は容易に「同」音の(4/3)に転化する)。(3/2)と(4/3)の二音を、(1と2に次ぐ)「原初的」な音ともこの欄で称した。
(3/2)と(4/3)は〈ピタゴラス音律〉での音の設定でも発生するが、この二音は〈純正律〉でも同じく使われる。
周波数比が2対3または3対4ということは、1または2ときわめて「調和」または「協和」しやすいことを意味する(2との関係では3対4または2対3)。
古くからヒト・人間はそう感じてきた。日本の人々もまた、おそらく明治期以前からとっくにそうだったのだ。
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