一 二年前の朝日新聞による安倍晋三(内閣)攻撃のひどさは、月刊正論9月号(産経新聞社)の長谷川三千子「難病としての民主主義/いま日本国民は何を自戒すべきか」では、こう叙述されている。
「安倍首相に対する朝日新聞の『言葉』は、徹頭徹尾『感情的』であり、ハイエナの群れが、これぞと狙ひをさだめた獲物の、腹といはず足といはず、手あたり次第のところにかじり付き、喰い破ってゆくのを思はせる、『残酷』さにみちていた。そして、それは少しも『無力』ではなかったのであり、朝日新聞の『言葉のチカラ』は、つひに安倍首相の体力・気力を奪ひ去つて、首相の座から追ひ落とすことに成功したのであつた。政権の『投げ出し』だと言って騒ぎたてた、あの時の朝日新聞のはしゃぎぶりはまだ記憶に生々しい」(p.58)。
なお、ここに触れられているように朝日新聞が一時期喧伝していた<ジャーナリズム宣言>の中の「言葉は感情的で、残酷で、ときに無力だ。それでも私たちは信じている、言葉のチカラを」とのフレーズが、上では意識されている。「言葉のチカラ」によって虚偽でも真実に変えてみせるという朝日新聞の宣言かとも受け取れ、気味悪く感じたものだった。
また、長谷川は、「もっとも厄介なこと」は「言葉」による「感情的で、残酷」な政府攻撃こそが「民主主義イデオロギーにかなつたことだ」ということだ、ということを指摘する中で上を述べているが、この「デーモクラティア」にかかわる論点には立ち入らない。
二 月刊正論9月号では、編集者が民主党・鳩山由紀夫の「友愛」論と関係づけているのか否かは分からないが、それとは独自に、竹本忠雄「厄災としてのフランス革命/博愛は幻想-ルイ16世の遺書を読み解く」(p.200-)が目を惹く。
1791年にパリから(ヴァレンヌを経て)オーストリアへ「逃亡」しようとしたが「逮捕」され、1793年に「斬首」されたルイ16世の政治的遺書にあたる「告辞」(1791.06.20付)が発見されたらしい。そして、その内容の概略の紹介や一部の邦訳が載せられている。
詳細な引用はしかねるが、「革命と共和制の『大義』を誇大に評価する一方、恐怖政治の残虐と、それに対して抵抗する反革命運動の民衆を相手に各地で展開された大虐殺の事実とを、無視または隠蔽しようとする進歩主義史観が、これまで日仏間の言論界を制してきた」(p.204)状況の中で、フランス最後の絶対君主=悪、フランス革命=善という「日本における共和制論者、すなわち進歩主義史観の持主たち」(p.203)の通念を少なくともある程度は揺るがしうる。
また、王妃アントワネットも「斬首」されたとともに、よく知らなかったが、わずか10歳の長子ルイ17世(カペー・ルイ)も「両親の処刑のあと獄中で革命政府の手により残酷な殺され方をした」(p.201)、「残酷な獄中死」をした(p.204)、「残酷な犠牲者となった」(p.205)、らしい。
元国王夫妻の処刑やその長子のかかる処遇は<革命>の成就にとってもはや無意味だったと思われる。また、ヴァンデやシュアンの「戦い」に対する弾圧=大虐殺の実態につき、フランスでも、「ナチによるユダヤ人虐殺」のみならず「われわれフランス人もジェノサイドをやった」との事実を認めようとする運動があるらしい(p.205)。
日本の明治維新の際の<残虐さ>の程度と比較したくもなる。また、竹本忠雄は「フランスでは立憲君主制は一夜にして崩壊し、日本ではいまなお保持されているが、主権在民を基本とする以上、法的に〔な?〕危うさは変わらない。昨今の日本政府の舵取りは奇妙に、フランス革命の初期の一連の出来事とパラレル」だ、と述べて日本の<天皇制度>へも論及していて興味深いが、これ以上は立ち入らないでおこう。
ルイ16世
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