一 「フランス・ジャコバン独裁と1793年憲法再論-河野健二と樋口陽一・杉原泰雄」とのタイトルで簡単にまとめたことがあった(2008/11/02)。
河野健二・フランス革命小史(岩波新書、1959。1975年に19刷)は、これまでの「体制派」=「進歩派」=「左翼」のフランス革命史・フランス革命観を叙述していると見られる。重複部分があるが、フランス1793年憲法・ジャコバン(=ロベースピエール)独裁については、以下のごとし。
「ロベスピエール派」の「政治的実践」は失敗したが、「すべて無効」ではなかった。「モンターニュ派」による国王処刑・独裁強化は「一切の古い機構、しきたり、思想を一挙に粉砕し、…政治を完全に人民のものにすることができた」。「この『フランス革命の巨大な箒』(マルクス)があったからこそ、人々は自由で民主的な人間関係をはじめて自分のものとすることができた」(p.166-7)。/「モンターニュ派」独裁の中で、「私有財産にたいする攻撃、財産の共有制への要求があらわれた」。とくにロベスピエールは、「すべての人間を小ブルジョア的勤労者たらしめる『平等の共和国』」を樹立しようとした。しかし、戦争勝利とともに「ロベスピエール派」は没落し、上の意図は「輪郭がえがかれたままで挫折した」(p.190)。/「資本主義がまさに出発」しようとしているとき、「すべての人間を小ブルジョアとして育成し、固定させようとすることは、歴史の法則への挑戦であった」。「悲壮な挫折は不可避であった」(p.190)。/ロベスピエールが「独裁者」・「吸血鬼」と怖れられているのは彼にとって「むしろ名誉」ではないか。彼こそ、「民衆の力を基礎として資本の支配に断乎たるたたかいを挑み、一時的にせよ、それを成功させた最初の人間だから」だ(p.191)。
ロベスビエールは失敗したが、しかし、それは時代を先取りしすぎていたからで、彼らが指し示した歴史的展望は不滅のものだ、とでもいいたげだ。マルクス主義者又は親マルクス主義者にとって、ロベスピエール独裁とは、<ブルジョア(市民)革命>に続く、<社会主義革命>(プロレタリア独裁?)の萌芽に他ならなかった。
かかる「ジャコバン(モンターニュ)独裁」観に、樋口陽一も立っていたといってよい。樋口は同・自由と国家(岩波新書、1989=ソ連解体前)p.170で、日本人はフランスの1793年の時期を、「ルソー=ジャコバン型個人主義」を「そのもたらす痛みとともに追体験」せよ、と主張していた。
二 日本国憲法の教科書・概説書の中に、索引によると、フランス1973年憲法に6カ所で言及しているものがある。
辻村みよ子・憲法/第3版(日本評論社、2008)だ。なお、日本評論社から憲法(日本)の教科書・概説書を出版しているのは、この辻村みよ子と、浦部法穂の二人かと思われる。日本評論社の<法学>系出版物の「左翼」傾向はこの点でも例証されていると考えられる。
以下、辻村みよ子の上の著がフランス1973年憲法をどう記述しているかをメモしておく。
①「ブルジョアジー」が狭義の「国民主権」を定めた1791年憲法に対して、「王権停止後に初の共和制憲法として成立した1793年憲法は、平等権や社会権の保障のほか、市民の総体としての人民を主体とする『人民(プープル)主権』原理に基づく直接民主主義的な統治原理を採用した。しかし、この急進的な憲法は施行されず、1795年憲法が制定されて、…<以下、略>」(p.22)。
この部分は諸外国における「近代憲法の成立」の説明の中にある。諸外国とはイギリス、アメリカ、フランスで、ドイツに関する記述はない。
②日本の「私擬憲法草案」の中では、植木枝盛起草の『東洋大日本国国憲按』(1881)には、「フランス1789年人権宣言のほか、急進的な1793年憲法の人権宣言の抵抗権や蜂起権の影響が認められる」(p.34)。
この部分は、明治憲法の制定過程に関する叙述の中にある。
くり返しておくが、フランス1793年憲法とは、現実には<施行されなかった>憲法だ。つづく。
モンターニュ派
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