秋月瑛二の「自由」つぶやき日記

政治・社会・思想-反日本共産党・反共産主義

ハーバーマス

0125/中川八洋・保守の哲学(PHP、2004)を全読了。

 一昨日6日の夜に、中川八洋・保守主義の哲学(PHP、2004)をやっと全読了した。
 紹介又は引用したい箇所は多すぎる。全体の論調から日本の現在に即していえば、日本の「保守」言論界や自民党の中にも(中川からみれば)「危険」な思想に毒されていながらそれに気づいていない者が多くいることになるだろう。それだけ、中川の危機意識は強く、現状批判は厳しい。
 「あとがき」の冒頭はこうだ。-「日本は自由主義であるが、教育界・学界・出版界ではいまだに『マルクスとフロイトに代表される迷信の時代』(ハイエク)が続いており、日本は今も『思想における北朝鮮』の観を呈している。日本人の頭が左翼イデオロギーの思想に汚染された、奇怪な状況を見るにつけ、二十一世紀日本とは自由社会ではなく、一九九一年に滅んだ”二〇世紀のソ連”が再来していると思わざるをえない」。
 私も日本の「思想」状況はおかしい、とりわけ社会系・人文系の大学教授たちやマスコミで働く者たちの多くはかなりヒドい、とは思ってはいるが、上のようにまでは書けない(それほどとは思っていない)。
 例えば上の点にも現れているだろうが、中川の議論には従えないと思える点もあり、うーんこの点は私も中川の批判対象になるな、と感じた点もあった。
 いずれ具体的には、明日以降で話題にする。
 今夜は、中川が本文で言及しつつ、「日本を害する人間憎悪・伝統否定・自由破壊の思想家たち」として表でまとめている計30名をそのまま紹介しておく。中川・正統の哲学/異端の思想(徳間、1996)では「正統の哲学」者27人がリストアップされていたが、この保守の哲学(2004)による修正版は次回以降に記そう。
 ワースト6(没年順)-デカルトルソーヘーゲルマルクスレーニンフロイト
 その他24(没年順)-ホッブス、コンドルセ、ペイン、サン=シモン、ベンサム、シェイエス、フーリエ、コント、プルードン、フォイエルバッハ、ミル、バクーニン、エンゲルス、ニーチェ、クロポトキン、ケインズ、マンハイム、デューイ、ケルゼン、ハイデガー、マルクーゼ、サルトル、フーコー、カール・シュミット、ハーバーマス。(以上、p.385)
 かつて中学・高校時代に習ったかなりの世界的「思想」家が含まれている。マルクーゼやサルトルが入るのは当然だろうと思いつつ、ハイデガー、カール・シュミット、ハーバーマスが入っているのはかなり印象的だ。現在でもハーバーマス(の理論)を参考にしようとする人は結構いるのではないか。
 また、中川によればケインズも「日本を害する」。-「道徳破壊のマルクス経済学と、道徳否定のケインズ経済学とは”反道徳”において双生児である」(p.345)。
 ケインジアンはかつての首相の中にもいたし、財務省官僚の中に今でもいくらでもいそうな気がするが、このあたりになると私には殆ど分からない。ハイエクと対比されるのは解るが、一挙にマルクスらと同列にされてしまうとは…。


0042/「団塊」世代のみが「隠れた世紀病」に罹ったのか-「正論」5月号・田中英道論文を読む。

 月刊正論5月号(産経)に田中英道「「68年世代」の危険な隠れマルクス主義-左翼思想に染まったのは日本の「団塊の世代」だけではない」がある。新聞広告にこのタイトルが載っていて、関心を持ち買って読んだ。
 日本の「団塊の世代」は「左翼思想に染まった」ことを前提とする副題が気になった。当時は大学進学率はたぶん約1/3で、大学生でなかった者、そして大学生でも少なくとも過半は(たぶん3/4は)、大学での「全共闘」運動を経験していないからだ。
 だが、一時期新しい教科書をつくる会々長だったという田中の主題は、「団塊」世代の厳密な分析ではなさそうだ。すなわち、大雑把に言って反権力・反(資本主義)体制ではマルクス主義と共通する(その意味で「隠れマルクス主義」の)、マルクーゼ(1898-1979)やハーバーマス(1929-)を代表とする所謂フランクフルト学派の論文・発言・行動の影響を受けて欧米でも「68年」頃に過激な学生運動があり、日本の「68年」を中心とする、「団塊」世代が担った全共闘運動もその一環だった、その意味で世界的な同一世代による社会変動がこの頃に起きた(そして社会はより悪くなっていった)、というのが最も主張したいことのように読める。
 それはそれで興味深いし、恥ずかし乍ら、ルーマンとやらの論争でも有名な(だが読んだことのない)ハーバーマスがフランクフルト学派に属することも初めて知った。だが、背景的な欧米の同時代の雰囲気は指摘のとおりだとしても、「全共闘」運動(又は「団塊」世代)とフランクフルト学派の関係については、そもそも「全共闘」運動は何だったか、どういう理論と組織に支えられていたのか、を含めて、もう少し実証的な叙述又は根拠が欲しい、という感じがする。
 また、この論文は「団塊」世代批判だ。かいつまんで紹介すると、この世代による「自由教育」が「寒々しい日本人とその家族を生み出した」、フランクフルト学派の影響も受けて、環境・男女同権・原発等々につき「反権威主義」という名の「破壊運動」を継続しており、「大学とかマス・メディアを支配している「団塊の世代」が、保守主義の傾向に、常に反対の態度」をとり、「贖罪観を、日本人に植え付けようとする動き」を支えているのもこの世代だ、「大学教員やマス・メディアに巣くうこうした運動」を注意深く見守り、阻止すべきだ、この世代の「隠れた世紀病」の克服は容易でない。
 省略しすぎの紹介だが、論証にはあまりに具体的・実証的・統計的根拠がなさすぎるだろう。殆ど何も示しておらず、田中の「直感」によるものと思われる。
 しかし、じつは半分は、私の直感も田中の見方を支持している。朝日新聞の若宮啓文は1948年生まれで、自ら「社会党支持だった」ことを雑誌上で明言しているくらいだから、田中の主張を裏付ける、恰好の、典型的な人物かもしれない。一方、支持できない、又は不十分だと思う残り半分は、つぎの点に関係する。
 第一に、「隠れた世紀病」あるいは「隠れマルクス主義」あるいは「反権威主義」という病に罹っているのは、日本においては「団塊の世代」だけだろうか。この著者を含む60年安保世代のある程度の部分も、田中はきっと健康だったのだろうが、すでに罹っていたと思われる。
 1960年に20歳になった人は1940年生れで、1945~1952年の「占領下」の教育を少なくとも部分的には経験しているのだ(その間に東京裁判があり「新」憲法施行もあった)。フランクフルト学派の動向などに関係なく、彼らが受けた、GHQ批判・日本の伝統擁護等々が許されない教育が<病原菌のない、正常な>ものだったとは思われない。また、その時期に日本のマルクス主義は復活しているのだ。
 第二に、「団塊」世代に全く責任がないとは言わないが、指導・煽動した別の世代が存在すると思われる、ということだ。「団塊」世代は完全に自分たちだけの力で67年~71年頃の全共闘運動等々を展開したのだろうか。使嗾し、誘引する、もっと年上の別の人たち又は世代がいたに違いない、と私は思っている。いつか触れた川上徹は1940年生まれの筈で「団塊」世代ではなく、日本共産党・民青同盟の側の指導者だった。中核派の北小路敏は生年を確認できないが、60年安保の際もブントに属して主流派全学連幹部として「活躍」したようで「団塊」世代ではなく、かつ67年~71年頃は革共同中核派の指導者で同派を通じて「全共闘」や「全闘委」にも影響を与えていただろう。東京大学全共闘の議長だった山本義隆は1941年生まれで、「団塊」世代ではない。
 私の印象では、それこそ相当に「直感」的だが、「団塊」世代、大まかには1952年生まれ(今年に55歳)辺りを下限として、それ以上の年齢の人々でおおよそ1928~29年生まれ(今年78~79歳)までの人々は、それ以下の世代よりも、「反権力」的信条あるいは「何となく左翼」の気分がより強い。
 きちんとした資料は示せないが、日本社会党又は(日本共産党を含む)「革新」勢力の支持者が最も多かったのは、日本社会党がなくなるまでの数十年間の世論調査の報道の記憶では、おおよそ「団塊」世代を含むそれ以上の世代だったように思うのだ。
ギャラリー
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