ドイツ・フランクフルト(am Main)のNeue Kritik という出版社が、<Transit>と題するおそらく季刊雑誌を発行している(または発行していた)。
その第34号=2007年/2008年冬季号は、二つの特集を主内容にしており、その第一は、「レシェク・コワコフスキ(Leszek Kolakowski)の80歳の誕生日に寄せて」だった(試訳者注1)。L.Kolakowski、1927.10生〜2009.07没。
巻頭の編集の辞はほとんどをL.Kolakowskiへの言及で費やしており、特集は、そのKolakowski の1957年のエッセイ「社会主義とは何か?」(試訳者注2)を再録しているほかは、つぎの四つの論稿で成っている。番号数字は原雑誌にはない。日本語は、試訳。
1/Krzysztof Michalski, 全体の裂け目。
2/Tony Judt, 全てのお別れに?—今日に読むKolakowski の〈マルクス主義の主要潮流〉。
3/John Gray, 共産主義から新保守主義へ。
4/Marci Shore, 家族のドラマ—ユダヤ人とヨーロッパの共産主義。
興味深いのは、この4名のうちの2名がTony Judt(トニー・ジャット)とJohn Gray(ジョン・グレイ)だ、ということだ。
この二人が書いたものの一部は、この欄で何回にも分けて試訳を掲載したことがある。(試訳者注3)
この二人の政治的立場は同一ではないだろうが、いずれも明確な反共産主義者で、L・コワコフスキを高く評価している(かつ敬愛の念を抱いている)ことでは共通していた。(試訳者注4)
二人の著書の邦訳書はあり、とくにJohn Gray 著には多い。だが、ジョン・グレイ(London大学教授)の邦訳書が多いのは「新保守主義」、「自由原理主義」ないし「新自由主義」に対するこの人の批判的立場が日本の出版業界隈で「左翼(的)」だと受けとめられた可能性があるからだろう、と私は思っている。明確な「反共」の立場の欧米の書物は、日本では翻訳書が出版され難い。
現に、この欄にかなり(と言っても半分にはるかに満たないが)試訳を掲載した〈マルクス主義の主要潮流〉は、邦訳書が出ないままで終わりそうだ。日本の近年のいわゆる「保守」派も、「反共」を唱えつつ、欧米の共産主義・反共産主義に関する文献に興味を示さない。
以下、「編集の辞」のほとんどのLeszek Kolakowski に関する部分と、上の四つの論稿をできるだけ邦訳してみる。
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(試訳者注1) もう一つの特集は、「Anna Politkowskaja 追悼」だ。
この女性はロシア人ジャーナリストで、第二次チェチェン紛争、RSB(ロシア連邦保安庁)、プーチンに対して批判的だった。2006年に暗殺された。Anna Politkowskaja、1958.8生〜2006.10没、満48歳。
(試訳者注2) この小論は、加藤哲郎・東欧革命と社会主義(花伝社、1990)の表紙裏に掲載された。「ポーランドの哲学者・コラコフスキー」と執筆者名を記しているが、加藤は「コラコフスキー」へのそれ以上の関心を継続させなかったようだ。参照→No.1976/2019.09.13「加藤哲郎著とL・コワコフスキ」。
(試訳者注3) それぞれに言及した最初は、→トニー・ジャット(No.1525/2017.05.02)、→ジョン・グレイ(No.1565/2017.05.29)。
(試訳者注4) いずれにもその点が分かる論稿があるが、とくにT・ジャットは、〈マルクス主義の主要潮流〉(原著、1976(パリ)。第一巻独訳書、1977。全巻英訳書、1978)のアメリカでの再発行決定を歓迎する文章を2006年に書き、Kolakowskiの死の直後の2009年に哀惜感溢れる(と私は感じる)文章を書いた。彼自身が、翌2010年に難病のために死亡したのだったが。Tony Judt、1948.01生〜2010.08没、満62歳。
上の雑誌への寄稿は亡くなる2-3年前で、すでに病魔と闘っていたのではないかと思われる。
コワコフスキ追悼文、参照→No.1834・2018年7月30日付。この追悼文はのちに、つぎの邦訳書の中に収載された。当然ながら、訳は上と同じではない。
T・ジャット=河野真太郎ほか訳・真実が揺らぐ時—ベルリンの壁崩壊から9.11まで(慶応大学出版会、2019.04)。原書は、Tony Judt, When the Facts Change, Essays 1995-2010 (2015) 。
妻のJenniffer Homans が編者で、「まえがき」を彼女が書いている。そして、「人と思想」は区別しなければならないと冒頭に書きつつ、結局はT・ジャットの著作と人物像が入り混じった追悼の文章になっている(と私には思えた)。その点が興味深く、かつ感動的でもあって、いつか試訳してみたいと思っていたが、上の邦訳書に含まれている。
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その第34号=2007年/2008年冬季号は、二つの特集を主内容にしており、その第一は、「レシェク・コワコフスキ(Leszek Kolakowski)の80歳の誕生日に寄せて」だった(試訳者注1)。L.Kolakowski、1927.10生〜2009.07没。
巻頭の編集の辞はほとんどをL.Kolakowskiへの言及で費やしており、特集は、そのKolakowski の1957年のエッセイ「社会主義とは何か?」(試訳者注2)を再録しているほかは、つぎの四つの論稿で成っている。番号数字は原雑誌にはない。日本語は、試訳。
1/Krzysztof Michalski, 全体の裂け目。
2/Tony Judt, 全てのお別れに?—今日に読むKolakowski の〈マルクス主義の主要潮流〉。
3/John Gray, 共産主義から新保守主義へ。
4/Marci Shore, 家族のドラマ—ユダヤ人とヨーロッパの共産主義。
興味深いのは、この4名のうちの2名がTony Judt(トニー・ジャット)とJohn Gray(ジョン・グレイ)だ、ということだ。
この二人が書いたものの一部は、この欄で何回にも分けて試訳を掲載したことがある。(試訳者注3)
この二人の政治的立場は同一ではないだろうが、いずれも明確な反共産主義者で、L・コワコフスキを高く評価している(かつ敬愛の念を抱いている)ことでは共通していた。(試訳者注4)
二人の著書の邦訳書はあり、とくにJohn Gray 著には多い。だが、ジョン・グレイ(London大学教授)の邦訳書が多いのは「新保守主義」、「自由原理主義」ないし「新自由主義」に対するこの人の批判的立場が日本の出版業界隈で「左翼(的)」だと受けとめられた可能性があるからだろう、と私は思っている。明確な「反共」の立場の欧米の書物は、日本では翻訳書が出版され難い。
現に、この欄にかなり(と言っても半分にはるかに満たないが)試訳を掲載した〈マルクス主義の主要潮流〉は、邦訳書が出ないままで終わりそうだ。日本の近年のいわゆる「保守」派も、「反共」を唱えつつ、欧米の共産主義・反共産主義に関する文献に興味を示さない。
以下、「編集の辞」のほとんどのLeszek Kolakowski に関する部分と、上の四つの論稿をできるだけ邦訳してみる。
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(試訳者注1) もう一つの特集は、「Anna Politkowskaja 追悼」だ。
この女性はロシア人ジャーナリストで、第二次チェチェン紛争、RSB(ロシア連邦保安庁)、プーチンに対して批判的だった。2006年に暗殺された。Anna Politkowskaja、1958.8生〜2006.10没、満48歳。
(試訳者注2) この小論は、加藤哲郎・東欧革命と社会主義(花伝社、1990)の表紙裏に掲載された。「ポーランドの哲学者・コラコフスキー」と執筆者名を記しているが、加藤は「コラコフスキー」へのそれ以上の関心を継続させなかったようだ。参照→No.1976/2019.09.13「加藤哲郎著とL・コワコフスキ」。
(試訳者注3) それぞれに言及した最初は、→トニー・ジャット(No.1525/2017.05.02)、→ジョン・グレイ(No.1565/2017.05.29)。
(試訳者注4) いずれにもその点が分かる論稿があるが、とくにT・ジャットは、〈マルクス主義の主要潮流〉(原著、1976(パリ)。第一巻独訳書、1977。全巻英訳書、1978)のアメリカでの再発行決定を歓迎する文章を2006年に書き、Kolakowskiの死の直後の2009年に哀惜感溢れる(と私は感じる)文章を書いた。彼自身が、翌2010年に難病のために死亡したのだったが。Tony Judt、1948.01生〜2010.08没、満62歳。
上の雑誌への寄稿は亡くなる2-3年前で、すでに病魔と闘っていたのではないかと思われる。
コワコフスキ追悼文、参照→No.1834・2018年7月30日付。この追悼文はのちに、つぎの邦訳書の中に収載された。当然ながら、訳は上と同じではない。
T・ジャット=河野真太郎ほか訳・真実が揺らぐ時—ベルリンの壁崩壊から9.11まで(慶応大学出版会、2019.04)。原書は、Tony Judt, When the Facts Change, Essays 1995-2010 (2015) 。
妻のJenniffer Homans が編者で、「まえがき」を彼女が書いている。そして、「人と思想」は区別しなければならないと冒頭に書きつつ、結局はT・ジャットの著作と人物像が入り混じった追悼の文章になっている(と私には思えた)。その点が興味深く、かつ感動的でもあって、いつか試訳してみたいと思っていたが、上の邦訳書に含まれている。
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