〇久しぶりに、小林よしのりの言説をとり挙げよう。
①5/16に「ゴー宣道場」のブログでこう書いた。
「橋下徹の慰安婦問題に対する認識は基本的に正しい。/微妙に間違ってる点もあるが、一歩も引かぬ態度は支持するから、頑張ってほしい。
安倍晋三や、稲田朋美や、産経新聞は、慰安婦に対する見解を180度変えてしまっている。/『女性の尊厳損ね許されぬ』には呆れてしまった。
まったく唾棄すべき奴ら、軽蔑すべき奴らだ!
安倍政権も産経新聞も、結局、アメリカの顔色を見て怯え、慰安婦問題でもどんどん自虐史観に戻ってしまったのだ。/卑怯者とは、こういう奴らのことを言う。」
これは産経新聞5/15社説も読んだ後のものに違いない。
②また、産経新聞5/26の「花田紀凱の週刊誌ウォッチング」によると、小林よしのりは週刊ポスト(小学館)5/31号で次のように語った、という。
「橋下徹は、まるで『王様は裸だ』と叫んでしまった子供のようである。どんな反応が起きるのかまったく考えず、愚直に“本当の話”をし始めている」。「橋下発言は、何ら間違っていない」。「強制連行」・「従軍」に関しては「議論はとっくに決着している」。
③小林の舌鋒の矛先は、自民党・安倍晋三政権に強く向けられている。6/04発行となっているメールマガジン「小林よしのりライジング」40回では、次のように言う。
「『河野談話』を修正か破棄し、「慰安婦制度は、当時は必要だった』と唱えたら、どんな目に合うか橋下徹が身をもって示し、安倍自民党はそれを傍観して震え上がったわけだ。
誰も国のために戦った祖父たちの名誉を守ろうとしない。/日本は「性奴隷」を使用したレイプ国家にされてしまっているのに、安倍政権は何のアクションも起こさない。
橋下徹と一線をひいて、『村山談話』、『河野談話』を引き継ぐ歴代政権と何ら変わりがないことを、国際会議の場で必死で強調し、『戦後レジーム』の洞穴に引き籠って出て来なくなった」。
〇小林よしのりの上の③は当たっているかもしれない。
安倍首相は5/15、参院予算委員会で、「過去の政権の姿勢を全体として受け継いでいく。歴代内閣(の談話)を安倍内閣としても引き継ぐ立場だ」と述べた。これは翌5/16の産経新聞の記事による。同時に、「日本が侵略しなかったと言ったことは一度もない」と述べたようだ。
これは<村山談話>を引き継ぐ、という趣旨だろう。
産経の同記事が書くように、安倍首相は4/22に<村山談話>について「安倍内閣として、そのまま継承しているわけではない」と述べ、翌4/23には「侵略の定義は定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかで違う」と述べていたにもかかわらず、である。
いったい何があったのか。
5/13が橋下徹慰安婦発言、橋下徹発言ほぼ全面批判の産経新聞社説は5/15だった。
安倍首相は、橋下徹発言に対する反響に驚き、かつ産経新聞までが橋下発言を厳しく批判していることを知ったからこそ「軌道修正」(5/16産経記事)をしたのではなかっただろうか。
参院選挙まであと二月余という時期も関係していたかもしれない。
だが、産経新聞5/15社説が<橋下徹発言は舌足らずだが、また一部に問題はあるが、おおむね(基本的には)正しい。河野談話の見直しを急ぐべきだ」という基本的な論調で書かれていたらどうなっていただろうか。
社説は場合によっては瞬時に基本的な主張内容を判断して数時間以内に文章化しなければならない場合もあるだろう。そういう場合にこそ、書き手のまたは論説委員グループの<政治的感覚>が問われ、試される。
結果として、基本的には朝日新聞のそれと似たようなものになった産経新聞5/15社説は、安倍首相の感覚・判断をも狂わせた可能性がある、と感じられる。「女性の尊厳損ね許されぬ」を優先し、問題の「本質」、「より重要な問題」の指摘を数日あとに遅らせた5/15産経新聞社説は、基本的には<犯罪的な>役割を果たしたのではないか。怖ろしいことだ。
最近にこの欄で<村山談話>の見直しはどうなっているのかと書いたばかりだが、安倍首相が国会で(少なくとも当面は、だろうが)「引き継ぐ」と明言しているとは、ガックリした。選挙対策、あるいは日本維新の会との差別化の意図によるとしたら、馬鹿馬鹿しいことだ。