大阪のキー局の一つ・毎日放送(MBS)5/11の夕方、君が代斉唱条例・職務命令と「口元チェック」(とりわけ最後の職務命令順守の確認のための方法)について、<特集>が放送された。
 いくつかの点で、<政治的偏向>を感じざるをえない。
 第一。<口元チェックはやりすぎとする校長が26人で過半数にのぼった>との語り(ナレーション)があり、円グラフの赤色部分で「過半数」ぶりが紹介されている。
 もともと「府下の学校長の声を特集」との前振りで始まっていたのだが、「口元チェック」という方法について府下学校長(高校長かと思われる)164名に対してアンケートを取ったところ、44名から回答を得たのだ、という。
 そうすると、回答率は44/164で、約27%(弱)。このようなアンケート回収結果でもって、校長の「揺れ動く声」(女性アナの言葉)について、何がしかのことを語れるのだろうか??
 回答しなかった120名の中には、この問題に関して何も感じていない校長の他、毎日放送によるアンケート調査の意図そのものを疑問視した校長もいたかと思われる。
 そのような<声なき>校長(73%)を無視して、いったいいかほどのことを語りうるのか。この点がそもそも疑問だ。
 「26人で過半数にのぼった」と明瞭に述べていたが、総数の164名に対する割合は約16%(弱)にすぎない。
 おおよそ6人に1人なので、それでも多いかなという印象はあるが、少なくとも、「過半数(の校長)が」チェック方法を「やり過ぎ」だと考えている、と報道するのは、3/4ほどが回答していないことからすれば、強引すぎるし、すでに何がしかの<意図>を感じても不思議ではないだろう。
 第二。学校での日の丸・君が代問題の<歴史>について、次のような説明が(昔の映像とともに)ナレーションで語られた。
 「…軍国教育を反省する気運が教師たちの間で高まった。…〔文部省学習指導要領による国歌化等のあとも〕多くの教員が戦争の記憶を刻む君が代・日の丸が再び教育現場に持ち込まれることに抵抗感を示してきた。…」。
 現在の日本の中学校や高校の教科書には、戦後史の一部について、このように書かれているのだろうか。
 こうした説明・叙述は、歴史の一つの見方にすぎないと思われる。にもかかわらず、まるで客観的な事実のごとく紹介されている。
 いずれにせよ、「…気運が教師たちの間で高まった」、「多くの教員が…抵抗感を示してきた」ことに共感する立場で、この特集が作られたことが明確になっている。
 言うまでもなく、製作担当者の、毎日放送労働組合書記次長・斉加尚代の<歴史認識>、そして<(先の)戦争観>が示されているに他ならないだろう。
 第三。今年1月に出た最高裁判決(東京都での君が代斉唱職務命令合憲、制裁としての懲戒処分の程度は一定程度に制限)のうち、一裁判官の、次の意見の部分を取り出して、語りととともに、画面上に文章を大書した。
 「憲法学などの学説及び日本弁護士連合会等の法律家団体においては,君が代を起立して斉唱することを職務命令により強制することは憲法19条等に違反するという見解が大多数を占めていると思われる。確かに,この点に関して最高裁は異なる判断を示したが,こうした議論状況は一朝には変化しないであろう」。
 このMBSの特集は、そして斉加尚代は、この意見に共感ないし賛成し、あるいは勇気づけられて、この部分をとくに紹介したのだろう。
 上の部分は一部省略されていて、原文の当該箇所全体ではない。それはともかくとしても、番組では何ら紹介されなかったが、上の部分は、そもそも職務命令自体も違憲だとして5名中1名だけの反対意見を書いた、弁護士出身の裁判官・宮川光治のものだ。
 「君が代を起立して斉唱することを職務命令により強制することは憲法19条等に違反するという見解が大多数を占めている」のか否か、「こうした議論状況は一朝には変化しない」のかどうか、私には即断できない。
 だが、少なくとも、上のような見方は宮川光治という一裁判官の見方にすぎないのであり、これがまるで正しいもしくは適切だという保障は何もない。
 番組では「ある裁判官はむつかしさを指摘」しているとして上の部分を紹介したが、「むつかしさを指摘」しているのではなく、<国歌斉唱職務命令の強制は憲法19条等違反だとするのが法学界等では大多数だ>という認識が述べられており、それが法学界等では常識(大多数の見解)だとの印象を与えるものになっている。
 このあたりには、おそらくは斉加尚代の、巧妙なゴマカシがある。五名中四名は、つまり最高裁の裁判官という<法律の世界>の重要な人物たちは、国歌斉唱職務命令を合憲だとしたという重要な事実を、まるで忘れさせようとするかのごときものになっている。 
 巧妙な、そしてじつにいやらしい、偏向した番組作りだと思われる。
 さらに、(あらためて録画を見てみると)宮川裁判官の意見は「反対意見」であるにもかかわらず、画面には「補足意見」と書かれていた。明らかな間違いだ。この二つは、まるで意味が違う。
 5/08朝に橋下徹に質問されても国歌起立斉唱職務命令の発布機関を答えることができず、「教員委員長」などという、存在しない行政機関名まで出していた斉加尚代は、肝心の判決すらきちんと読んでおらず、誰かの紹介した要約的なものをそのまま安直に使ったのだろう。
 なお、上のように「反対意見」中に書いた、おそらくは日弁連推薦によると思われる最高裁裁判官、元弁護士の宮川光治は、名古屋大学法学部出身で、経歴からして、学生時代に憲法学を長谷川正安に学んでいる。そして、長谷川正安(現在は故人)は日本共産党員学者だったと見られ、マルクシズム法学入門(理論社、1952年)、憲法とマルクス主義法学(日本評論社、1985年)といった著書もあった。
 宮川光治は政治的活動団体でもある日弁連のほか、もともと長谷川正安等の日本共産党またはマルクス主義的学者の影響を受けていたのではないか、とも想定される。
 そのような宮川の「反対意見」の一部を、特集では、宮川の個人名も出さず、少数の(一名だけの)「反対意見」中のものだとも明瞭にしないまま放映したのだ。杜撰であるとともに、意図して<偏向させた>ものになっているようだ。
 第四。大阪府教育委員会が、某一校長の口元チェックを同委員会の職務命令の範囲内、または校長が行いうる職務命令順守のチェック方法として許容される範囲内であることを確認する場面が映し出された。この私の文章も不鮮明であるように、いったい何を教育委員会が許容したのだったのか、分かりづらい、曖昧な放送(放映)内容になっていた。
 このあたりにも、何らかの意図が働いている可能性がないとは言えないだろう。
 第五。橋下徹は教員の(上司による)職務命令順守の問題に焦点を当てようとしており、<思想良心の自由とは別々だ>と主張している、と司会者たちは紹介した。
 私は、斉加尚代との間の5/08朝のやりとりの映像も見たが、橋下徹は<思想良心の自由とは別だ>とか<思想良心の自由とは無関係だ>とは一言も明言していない。
 そのように解釈できるのかもしれないが、それはあくまで<解釈>にすぎず、橋下徹が明確にそう言ったかのごとき印象を与えており、虚偽の報道ぶりではないだろうか。ここにも、何らかの意図をもった<政治的偏向>が感じられる。
 第六。上の前に、口元チェックを当然とする校長一人と批判視する校長二人の発言または文章を紹介した。前者は文章も短く、後者は長い。明らかに後者に好意的に、後者に重点を置いて、番組作りがなされていた。
 第七。上(第五で言及した部分)の後に、職務命令と内心の自由または思想良心の自由とは切り離すことはできない旨の、高橋和之(明治大学。前東京大学)、山西義明(大阪弁護士会副会長)の発言をインタビュー画面とともに放映した。
 橋下徹は切り離そうとしている、という紹介のあとだから、当然に、二人は橋下徹の主張を批判した、という構成になっている。
 そのような構成になることに高橋らが事前に知っていたかも疑わしいが、その点はともかくとしても、高橋和之、山西美明とは異なる見解の持ち主も登場させないと、公平さを欠いているだろう。知るかぎりでは、国歌斉唱職務命令と「内心の自由」の関係について、百地章はこの二人とは異なる旨を産経新聞紙上に書いていた
 もともと、橋下徹が、斉唱職務命令と憲法19条等とが無関係(完全に別々のもの)と主張している、という番組の前提自体がおかしいとも言えるのだが。橋下徹は、斉加尚代との間の5/08朝のやりとりでは、憲法との関係は府教育委員会に訊いてほしい、と応答していたと記憶する。
 以上。
 斉加尚代と毎日放送は、橋下徹批判を意図して番組(特集)を作ろうとしたが、最後の本人のコメント取材のところで、斉加尚代の勉強不足・知識不足が露呈したものの、そして、何とか橋下徹との(同僚らとの間での)事前確認事項をぎりぎり守ろうとししつつも、その結果としてある程度は抑えつつも、基本的な部分では当初の企図どおりの番組にしたのではないか、と思われる。
 5/08の橋下徹への質問の前にすでに描いていたストーリーと取材・作成済みの映像等をおそらくは基本的には利用できたのではないか、と想像される。
 女性アナ(髙井美紀)が最後に「…今一度立ち戻ってみなさんと考える機会になればと思いとり上げた」とか述べたのは、白々しい。偽善丸出しのマスコミの現在を象徴している、とも言える。
 斉加尚代、およびこのような政治活動家を「飼っている」毎日放送(MBS)については、なお別に言及する機会を持ちたい。

 斉加尚代も有名になったものだ。朝日新聞の本多勝、松井やより(故人)、本田雅和、NHKの長井暁らに次ぐ、大阪から出たマスコミ界のスターになるだろうか。