西村幸祐・「反日」の構造(文芸社文庫、2012.02)は同名の単行本(PHP)の文庫版だ。
この人の書いていることには、<「反日」主義>なる概念がどの程度厳密なものとして通用するだろうか等の疑問はあるが(p.6-「反日というシステム」、p.25-「反日メカニズム」)、ほとんど違和感を覚えたことがない。
文庫版のまえがき中の、「岩波書店、朝日新聞という戦後サヨクの牙城」、「NHKの偏向番組は非常に巧妙に作られて…」などの表現は、真似して使ってみたい。
新たな「書き下ろし」とされる第一章中の、「共産主義」という「ヨーロッパの妖怪は完全に絶滅ししたわけではなく、まだ余命があったアジアの妖怪に転生し、乗り移っ」た、「アジアの妖怪たちは変異し獰猛に生き続け、北東アジアだけが二十世紀の遺物である冷戦構造に捉われることになってしまった」(p.21-22)、という文章は、まさに正しい認識を示すもので、多くの人々に共有されなければならない、と思われる。イデオロギーを軸にした保守対革新、左翼対右翼の時代ではもはやなくなったと、さかしらに言う者が少なくないが(当然に、相対的には「左翼」の側に多い)、完璧に誤っている。
自民党の森喜朗なども、冷戦終結・今や新時代という認識を持っているような感じだ。日本社会党に政権担当を期待できず、自民党が社会民主主義的政策をも採用せざるをえなかった、という日本特有の事情はあるが、本来の自民党等の<保守>=「反共」勢力は、1981-1991年の後に、徹底して「反共」攻撃をして、日本に執拗に残存していた、コミュニズム(共産主義)・および親コミュニズム(=「容共」)を潰しておくべきだったと思われる。にもかかわらず、もはや共産主義の敗北は誰にも明白だとでもいうふうに安心したのか、逆に油断してしまったかに見える。
書いたことがあるように、また誰かも指摘していたように、共産主義・「容共」勢力<「左翼」が、昔ながらの公式的・教条的なマルクス主義またはマルクス・レーニン主義の用語を使って活動しているわけではない。もともと日本共産党自体が、「自由と民主主義」あるいは「平和と人権」を表向きは肯定し、その中に本来のコミュニズムを隠してきた(およそ1955年、1961年以降)。
今日では、フェミニズム(「男女共同参画」)や<環境保護>派等々にかたちをかえ、さらに<反核>を継承した、大江健三郎らの<反原発>運動などへと「転生」している。
そしてなるほど、彼ら「左翼」に共通しているのは、かつて日本はとくに(現在の)北東アジア諸国に道義的に悪いことをした、彼らの「反日」を非難するのは、<歴史を直視しようとしない>、偏狭なナショナリズムだ、とかの「反日迎合」主義かもしれない。
西村幸祐はGHQ史観からの離脱をさせまいとする「オートマティカルな自己検閲機能」・「自己検閲」システムが日本のメディアに存在してきたことを指摘しつつ、次のように書く。基本的に同感だ。
「六十年以上継続する検閲システムは、七〇年代までマルクス主義に補強され、八〇年代から新たな反日主義によってバージョンアップしたものだった」(p.32)。
そして、「本来の<リベラル>な言論、思想をなりふりかまわず組織的に抑圧し、弾圧する<反日ファシズム>」が「左翼勢力によって形成されてきた」、とする(p.33)。
そんなに大げさにあるいは深刻に考えなくとも、という能天気の人々も多いのだろうが、この指摘も(概念の厳密さは別として)正しいと思われる。
能天気な人々は、基本的に<反日ファシズム>に支配された大手マスメディアによって「マインド・コントロール」をされているにすぎないだろう。
前回に言及した、撃論+(プラス)の中の水島総の論考(「なぜチベット尼僧焼身抗議は報じられなかったのか)」は、そのタイトル通り、35歳のチベット尼僧の焼身抗議自殺を日本のメディアはほとんど報道しなかった(大きく取り上げたのは皆無だった)ということから書き始めている。
NHKは最近、PAC3沖縄配備に反対する「百余名」の沖縄でのデモをニュースで取り上げたようだし、少し前には、アメリカでの「格差」反対デモを大きく紹介していた。しかし、自らを被告とする台湾人等の訴訟がらみの大規模なデモ行進を報道しないのはひょっとすれば当然かもしれないとしても、渋谷近辺で行われた日本国民等<数千名>による、尖閣問題・事件を契機とする<反中国>の集会・デモについては一回めはいっさい報道せず、二回目のそれは7時台ではなく9時台のそれで簡単に触れたにすぎなかった(2010年秋)。
NHK自体が、すでに腐っている。ましてや民間テレビ局をや、だろう。さらに言えば、地方テレビ局は中央キー局が作った番組を垂れ流しているだけだ(ごく一部のローカルニュースを除いて)。
西村幸祐の指摘の紹介も民間テレビ放送局批判もさらに続けたいが、今回はとりあえず、ここまで。
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