2007年7月の参院選の際の朝日新聞の報道ぶりは異常で、産経新聞は<何たる選挙戦!>と銘打つ連載をしていたし、古森義久の2007.07.11のブログのタイトルは「朝日新聞の倒閣キャンペーンの異様さ」だった。
古森義久は2007.07.13のブログでは、「朝日新聞の倒閣キャンペーン社説ーー『前のめり』症候を診る」と題して、本欄で前回に引用・掲載した朝日新聞2007.07.12社説を、かなり詳しく批判的に分析していた。それをそのまま再掲してみよう。
なお、たんなる懐古趣味で二年前を思い出しているのではない。朝日新聞らが誘導した2007参院選での自民党大敗北こそが国会に「ねじれ」をもたらし、与党の政権運営を難しくしてきた。そして、今日がある。
<四年間に四人もの首相>と批判的に述べられもするが、交替せざるを得なかった大きな背景は参院では野党が多数派だったことにある。また、明瞭に語られることは何故か少ないが、衆議院で与党が有していた2/3以上の多数を利用して再議決しないと、参議院で法律案が否決されてしまえば、いかなる法律も成立せず、法律制定によって政治・行政を行っていくことが困難だった。そしてまた、このことは、衆院2/3以上多数の放棄をほぼ意味する「衆院解散」を歴代首相、とくに麻生太郎首相が躊躇した大きな一因だった、と思われる。
そして、現在、朝日新聞ら「左翼」が目論んだ<政権交代>が眼前にあるらしい。朝日新聞に二年前ほどの<異様さ>がないかもしれないのは、安倍・福田・麻生内閣時代にずっと、つねに与党を批判する方向で記事を書いてきたからだろう。<政権交代>にとって有利な情報は大きく、それにとって不利な情報は小さく、取り上げてきたのだ。むろん100%の有権者が朝日新聞の報道ぶりに影響を受けることはないが、5~20%の人々の投票行動を一定の方向に誘導することは十分にありうる。10%の票でも当落を決する力がある。
世論調査の結果や選挙結果が、マスコミの大勢の論調の誘導力をあとで証明するだけ、になるとすれば、何と嘆かわしい現象だろう。
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古森義久2007.07.13ブログ(全文、/は元来は改行)
//「朝日新聞の倒閣キャンペーン社説ーー『前のめり』症候を診る」
朝日新聞を続けて論じるのも芸がないとは思うのですが、最新の社説一本を一読しただけで、自分がつい2日前に書いたことが裏づけられる思いに鼓舞されたから、と申しましょうか。/それほど偏向が顕著なのだともいえます。「安倍憎し」の私怨が暴走すれば、その前のめりは方向感覚を失い、閉塞だけが強まり、均衡をなくして、よろよろ、論理さえも薄れていく、ということでしょうか。/情から始まる一点集中傾向は、論理や事実に基づくはずの文章を書く人間の頭脳さえも痺れさせる。もって自戒ともしたい現象です。
さて論題とする朝日新聞の社説は7月12日付、「参院選告示」「『安倍政治』への審判だ」という見出しでした。
まず最大の特徴をいえば、看板に偽りあり、「安倍政治」への言及がほとんどないのです。あるのは反安倍勢力が取り上げるトラブル現象ばかりです。/まあ、順番に論評しましょう。社説の全文を紹介するわけにもいかないので、主要部分を順に引用しながら、コメントしていきます。
<<「宙に浮いたり、消えたり」の年金不信、閣僚に相次いて発覚した「政治とカネ」のスキャンダル、無神経な失言の連発、いわば「逆風3点セット」にきりきり舞いの状態が続くなかで、選挙戦に突入することになった。/首相にとって、この選挙は小泉前首相の時代とは違う「安倍カラー」を前面に掲げ、有権者に問う場になるはずだった。そのためにこそ、国民投票法など対決色の強い法律を、採決強行を連発しながらどんどん通していった。/教育再生や集団的自衛権の解釈などでいくつもの有識者会議をつくり、提言を急がせたりもしている。/首相はテレビ局などを行脚して「この9か月の実績を評価してほしい」と訴えている。だが、逆風3点セットに直撃され、「年金記録信任選挙」(民主党の小沢代表)の様相を呈しているのはさぞかし不本意なことだろう。/むろん、年金の問題などはこの選挙の大きな争点だ。国民の不信や怒りにどう応え、安心できる制度、組織をつくるかを論じる必要がある。>>
さあ、以上がこの社説の前半のほとんどです。/この部分での主眼はこの参院選挙を「年金選挙」あるいは「逆風3点セット選挙」と特徴づけている点です。見出しでは「安倍政治」全体への審判であるかのようにうたいながら、実際には安倍政権の政策自体からは外れたミスやスキャンダルに重点を置き、そのうえで小沢一郎氏の言をそのまま使って、「年金記録信任選挙」であるべきだという主張を述べているに等しいのです。
一方、かんじんの「安倍政治」については、この社説は正面からはなにも触れていません。憲法改正という重大なテーマさえも、「国民投票法など対決色の強い法律」という一言ですませるのです。
「安倍政治」を語るならば、当然、教育基本法の改正、憲法改正を目指しての国民投票法の成立、天下りを規制する公務員制度改革法の成立、防衛庁の省昇格、そして中国や韓国との関係改善、さらにはNATOとの初の首相レベルでの接触、インドやオーストラリアとの「民主主義の共通価値観」に基づく新連携などなどが、少なくとも言及されるべきでしょう。
ところが、この朝日社説はこれら重要案件のほんの一部の、しかもその末端だけをとらえて、「負」の情緒いっぱいの主観的な表現でけなすだけです。
「対決色の強い法律を」「採決強行を連発しながら、どんどん」「提言を急がせたり」という表現がそれです。
そもそも安倍首相が主導した一連の重要法案成立を単に「安倍カラー」という皮相な描写でしか言及していないのも、なんとも情緒的に映ります。その背後に感じさせられる黒い影は、なんとか安倍政権を倒したい、という情念でしょうか。
だからこの社説は結局は、今回の参院選は「安倍政治」の審判ではなく、「年金」や「逆風3点セット」への審判であり、そうであるべきだ、と主張していることになります。見出しから連想させられる重要政策案件の議論はまったくないのです。だから私は「看板に偽りあり」と評したわけです。
さてこの社説はちょうど真ん中あたりで、さすがに気が引けたのか、あるいは欠陥に気づいたのか、安倍政権の政策面にも、あらためて触れてみせます。以下のような記述です。
<<だが同時に、この9か月に安倍政治がやったこと、やらなかったことを、その手法も含めて有権者がしっかりと評価するのが、この選挙の重要な目的であることを忘れてはならない。>>
さあ、こういう記述が出てくれば、当然、後に続くのは、その「安倍政治」の検証だと思わされます。
ところがこの社説はそれが皆無なのです。安倍政権の政策の検証どころか、また論題は「逆風3点セット」にもどってしまうのです。/だから一つの「論説」としては構造的に支離滅裂、安倍叩きに没入するあまり、「論」の構成さえもヘナヘナ、朝日新聞が自分たちの気に入らない相手の言動を描写するときに愛用する表現でいえば、まさに「前のめり」のあまり、視力も知力も麻痺したとさえ、思わされます。
この社説の結び近くでは、安倍政権の政策論に替わって、また以下のような記述が出てきます。読者に対し選挙への態度を呼びかける記述です。
<<年金をはじめ、赤城農水相の事務所経費で再燃した「政治とカネ」の問題などの3点セットは、どれも大事なテーマである。>>
やはりこの選挙では「安倍政治」ではなく、「逆風3点セット」をみよ、というアピールだともいえましょう。
しかし同社説はここでまた気が引けたのか、その直後にいかにも体裁に以下のことを書いています。
<<そして、これからの日本の政治のあり方をめぐって重要な選択が問われていることを心にとめておこう。>>
これまた「日本の政治のあり方」や「重要な選択」についてはなんの説明もありません。/そして社説は次のような奇妙な記述で終わっています。
<<安倍政治がめざす「戦後レジームからの脱却」か、小沢民主党がめざす政権交代可能な二大政党制か--。投票日までの18日間、しっかりと目を凝らしたい。>>
同社説がここでやっと「戦後レジームからの脱却」をあげたことは評価しましょう。これこそ「安倍政治」の特徴だからです。しかし社説では前述のように、その内容の議論が皆無です。議論は「逆風3点セット」だけなのです。
しかもこの結びは、「戦後レジームからの脱却」に替わる選択肢として、「政権交代可能な二大政党制」を記しています。この点が奇妙なのです。
「戦後レジームからの脱却」が一つの選択肢ならば、他の選択肢はまずは「戦後レジームの保持」となるでしょう。そうでなくても、「戦後レジームからの脱却」以外の政策が示されるのが普通です。それがここでは一気に政策の論議や比較をすっ飛ばして、「政権交代」となります。/「政権交代可能な二大政党制」はすでに存在するではないですか。政権交代は衆院選挙で野党が勝てば、いつでも、いくらでも可能なのです。そのための二大政党制の政治メカンズムはすでに存在するのです。
やはり朝日新聞にとってはこの参議院選挙は「政権交代」こそが目標なのだ、という本音が結びのこんな記述の構成にもあらわれている、と感じた次第でした。//
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