月刊WiLL9月号(ワック)が、ついに、表紙に「廃太子」という言葉を使い、それを勧めるがごとき論文を掲載した。橋本明「『廃太子』を国民的議論に」がそれで、巻頭目次欄でもこのタイトルのままだ。
実際には「廃太子」のみを論じているのではなく、皇太子妃殿下の「現状」からして、次の選択肢があると考えているようだ(p.39-)。
第一は、別居して雅子妃殿下が徹底的に治療し、健康を取り戻す。第二は、離婚。第三が「廃太子」で、これは「秋篠宮を皇位継承第一位にする方策」を同時に意味する。
というわけで現在の皇太子殿下の「廃太子」のみを「国民的議論に」と主張しているわけではないが、「廃太子」をも明確に視野に入れてその可能性を論じている点で刮目されるべきであり、かつ憂慮される。
現皇室典範3条は「皇嗣に、精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるときは、皇室会議の議により、前条に定める順序に従つて、皇位継承の順序を変えることができる」と定める。
すでに立太子を済ませ、皇太子=皇位継承第一位順位者となっている現在の皇太子殿下の「廃太子」には、「精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるとき」という要件の充足が必要であり、その旨の皇室会議の認定が必要だ。
橋本明によると所功がサンデー毎日(毎日新聞社)7/26号に書いているようだが、所功が言うように、皇太子妃殿下の病気その他の事情が、皇太子殿下自身についての、「精神若しくは身体の不治の重患があり、又は重大な事故があるとき」に該当するはずがない。この規定を無視するということは、法律(皇室典範)を無視することであり、法律違反措置を積極的に提唱しているに等しい。
この弱点を薄めるために、あるいは離婚若しくは「廃太子」論を展開するために橋本明が採っているのは、いわば天皇・皇后お二人の<一体論>だ。いわく、「お一人のうち一人が欠けても成り立たないほど二人が一人になったかと見まがう姿」を国民は見てきたが、「これが戦後の皇室のあり方」ではないか。
「戦後の皇室のあり方」を、憲法・法律を無視して勝手に決めるな、と言いたい。戦後まだ二代目の天皇・皇后にすぎない。
皇太子妃殿下、さらには皇后陛下のご病気、あるいは宮中祭祀への不参加すら、皇太子や天皇の地位を脅かすものでは全くない。
「お一人のうち一人が欠けても成り立たないほど二人が一人になったかと見まがう姿」はほほえましいし、望ましいかもしれないが、皇室あるいは天皇についての絶対的な慣習や要件ではない。例えば、戦後の昭和天皇の<地方巡幸>はおそらくほとんどが天皇陛下お一人でなされ、当時の皇后陛下は同行されていない筈だ。天皇および皇嗣としての皇太子と、皇后または皇太子妃を一体のものとして混同してはならない。
橋本明は<狂った>ことも述べている。すなわち、現皇太子殿下、「秋篠宮さま、黒田清子さま」の「三人」で、「皇位継承についてもどのような方法が一番良いのか…話し合って頂き」、「答えが出たら天皇〔今上天皇陛下〕に判断を仰ぐ」、「これが本当にベスト」だ(p.41)。
「天皇陛下の御学友」、元共同通信社記者・幹部だったという橋本明は、上のようなことを書いて恥ずかしくないのだろうか。そして皇室にとってもきわめて<危険な>主張であると感じないのだろうか。
橋本明は皇位継承者について要するに、<今上天皇の子どもたちで話し合え、結論が出れば今上天皇に申し出て判断を仰げ>と言っているのだ。馬鹿馬鹿しい。
<今上天皇の子どもたち>のうち誰がどのようにして<話し合い>を主導するのかよく分からないが、彼らの「答え」に今上天皇は拘束されるのか、それとも別のご「判断」もありうるのか。
橋本は実質的には「答え」を尊重されるだろうとのニュアンスで書いているが、論理的にはむろん、<今上天皇の子どもたち>と<今上陛下>のお考えが異なることはありうる。こんなこと、誰でも想定することができる。
上のような問題は本質的疑問では全くない。
橋本の議論は、皇室典範を、そして少なくとも明治以降の皇位継承ルールを全く無視している。
江戸時代以前も含めて、次期天皇=皇位継承者を前天皇が個人的に(好みで)決めたり、複数の皇位継承適格者(?)の「話し合い」で実質的に決めたりすれば、皇室内に混乱が生じ、ひいては国政全体にも悪い影響を与えることは、歴史的にも明らかだろう。
現皇室典範2条は皇位継承順序につき、以下のように定める(/は改行)。
「①皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。
一 皇長子/ 二 皇長孫/ 三 その他の皇長子の子孫/ 四 皇次子及びその子孫/ 五 その他の皇子孫/ 六 皇兄弟及びその子孫/ 七 皇伯叔父及びその子孫
②前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。
③前二項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする」。
橋本のいう「国民的議論」がこの条項の改正の議論を意味しているとすれば、それは論理的には成り立つ。だが、詳論はしないが、この諸規定はきちんと遵守していった方がよい(「皇族」の範囲に関する議論は必要だ)。
また、「この条項の改正の議論」を含まざるをえない「国民的議論」を、と主張しながら、改正案を示すことなく、ときどきの天皇やその親王(・内親王?)たちの「判断」や「話し合い」に委ねよ、としか主張しない橋本はきわめて無責任だ。さらに、皇室問題に関連してルールなきアド・ホックな判断の余地を大幅に認めようとする点で、皇室・皇位継承問題を混乱に陥れる危険な主張をしている。
皇室・皇位継承問題が<混乱>して喜ぶのは誰か。皇位の安定的継承がなされないことを喜ぶのは誰か。日本国内の、日本国民の中の「左翼」または<天皇制度解体論者>であり、日本から<日本的な(日本のナショナルな)>要素が欠落していくことを望む一部の外国だろう。
この問題に関するかぎり、月刊WiLL(ワック、花田紀凱編集長)は、今のところは表立った主張を声高にはまだしていない<天皇制度解体(廃止)論者>と同じ「極左」の位置にいる。
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