〇田母神俊雄・自らの身は顧みず(ワック、2008)を先日に、全読了。
収録されている問題の論文はこの本で僅か14頁(実質13頁、16行×38字×13頁=7904)で、8000字、400字原稿用紙20枚、200字詰めだと40枚に満たない。この程度の論文がなぜこんなに大騒ぎになるのか不思議だし、また、既述のとおり、この程度の字数で<戦後民主主義>の「空気」に染まっている人々の考え方・意識を変えられるとは思えない。
むろん田母神は応募しただけで、そんな大それた気持ちはなかっただろう。また、少しずつでも身の回りに同調者又は同一問題意識保持者が増えればよいわけだ。自分の認識を整理してまとめておく機会としても利用したのだと思われる。
産経新聞紙上「正論」で、桜田淳がいかに内容が正しくても方法等が拙劣、他に論ずべき課題がある旨、と田母神に批判的だ。後者の批判はいわゆるないものねだり的で全く的確ではない。過去のことではなく現在ある危機を論じよと桜田は主張するが、あれもこれも、いろいろなことが大切なのだ。懸賞論文のテーマに応じて制限枚数内で書いた論文を<現在そこにある危機>を見ていない、と批判するのは(今時の政治情勢・意識情勢との関係でも)適切とは思えない。
桜田淳は、即日の更迭→退職決定をどう考えるのか、田母神論文に対する朝日新聞等のヒステリックな反応をどう考えるのか、等については全く触れていないのではないか。この人の頭はそのかぎりで、ポイントを外しているようだ。
田母神の上の本の逐一の感想は以下を除き、省略。
日本の防衛(軍事)産業にも触れている。きちんと育成して、アメリカから高価な兵器等を買わざるを得ない状況を脱するべきだ、と感じる。<財政再建>にも役立つではないか。むろん、日本の<自立>のためでもある。ついでに、最近の雇用情勢との関係では、武器輸出(外国への販売)を認められた産業となればかなりの雇用者・従業者が必要になり、雇用対策・失業対策にもなる。こんなことを書くと、福島瑞穂的・辻元清美的「非武装・平和主義者」は、目を吊り上げるのだろうなぁ。
〇小林よしのり・ゴーマニズム宣言NEO(ネオ)1(小学館、2008.12)を数日かけて全読了。
かなりの部分はサピオ等ですでに読んで(見て)いる。
1.大江健三郎のことを思い出す。「『沖縄ノート』は究極の差別ブンガクであり、大江健三郎は究極の偽善者である」(p.76)。
2.以前に「言論封殺魔」という語で誰を指しているのか不明瞭だったのたが(「現役官僚」だけがヒントだった)、佐藤優であることが分かった(p.135~)。議論・論争に立ち入らないが、小林よしのりは敵の多い人だろうとも感じる。にもかかわらず自説に正直でかつ率直に表現できるのは大したものだし、羨望しもする。彼自身がそれだけの地位を占めている、とも言える。
3.小学館は、井沢元彦や小林よしのりに紙面を提供し出版元となって、朝日新聞・岩波書店的メディア・出版社と一線を画すことを決断しているかに見える。ある程度は(又はかなり?)勇気のいることだ。その勇気は貴重で、称えたい。「左」に擦り寄って挫折する可能性があるのは講談社ではないか。
きちんと見ていないので正確には書けないが、文藝春秋(株)は本誌のほか、最新の月刊諸君!でも、田母神俊雄論文を擁護する(少なくとも問題提起としてきちんと受け止める)誌面づくりをしていないようだ。諸君!を毎号買っていたのは今年の前半のいつ頃までだっただろうか。当面は諸君!を買わない(読まない)。
ついでに、新潮45(新潮社)は編集長が替わったようで、以前よりも魅力的になっている。もっとも、(新聞の広告面で)執筆者の一人に保阪正康がいるのを見て購入する気がなくなった。
4.小林よしのりの上掲本によると、保阪正康は「蛸壺史観」の持ち主で、「蛸壺史観」とは、「ひたすら日本の内部にだけ目を向け、なぜ無謀な戦争に至ったのか?と、内部の『犯人探し』に終始し、贖罪だ、反省だと言い始める歴史観」のことをいう(p.213)。
小林によると、保阪の最近の新書(朝日新書+保阪となると私は購入する気が全く生じない)には所謂GHQ史観を「素直に受け入れ」「相応に納得して」生きてきた旨が書かれているらしい。
1945年に10歳~15歳だった1930~1935年生まれの人々は<特殊な>世代だと書いたことがある(大江健三郎、樋口陽一等々はここに入る)。1939年生まれで終戦時満5歳、占領下の小学校教育を受けた保阪正康も上に近い世代だろう。
むろん生年と世代が決定的だと主張しているわけではない(上の<特殊な>世代に西尾幹二もいる)。だが、GHQの史観とその政策(・教育)方針を批判できなかった占領下に育ち、その時代の教育を受けた、ということは、すでに少なくとも<何となく左翼>になるだけの素地を身に付けた、ということを意味する、と私は考えている(「団塊」世代は、占領下に生まれても、学校教育を受け始めるのは再独立後だ)。
5.小林が『月刊日本』2008.06月号に載せた論文も収録されている。これはたぶん古書で買ってしばらくのちに読んでいた。
マンガでは「無名評論家」とか書かれて、名前すら紹介されずに批判されているが、上の論文では「山崎行太郎」と明記されている。山崎は有り難く思わないといけない。
もう一度書いておくが、山崎行太郎とは、2006年の前半に自己のブログで当時の安倍晋三首相を「気違い」と呼び、改憲の姿勢を「気違いに刃物」と形容した(無名の)<文芸評論家>だ。
<保守的>らしい雑誌名称の「月刊日本」の編集部は何を考えているか知らないが、この山崎行太郎が「保守」である筈がない。小林よしのりの追記によると同編集部は小林の議論は「軍命令」の存否という「大局の見えていない議論」に終始して「本誌の狙いからは外れてしまった」と書いたらしい(翌07月号)。キミョウな月刊雑誌があるものだ。
6.チベットとウィグル(東トルキスタン)に関する二話は最近のサピオ連載外のもので、読み(見)ごたえがある。日本人の中にある中国(中国共産党)をできるだけよく見たいという感情・心性はいっいたどこから来ているのか、と改めて訝しく感じる。朝日新聞記者等が<工作>の対象になっていない、とはむろん言い切れない。
〇田久保忠衛=櫻井よしこ・国家への目醒め(海竜社、2008.12)の、田母神俊雄論文への言及が始まるp.218からその章の終わりのp.258まで計40頁だけ読んだ。
〇先週あたり(先々週?)から大石眞・立憲民主制(信山社、1996)を読み始め、p.62まで進んでいる。最近の本ではないが、読みやすく、概念の説明がしっかりしている。辞典的に使えなくもない。既出の論文を再掲しているらしい最後の章を除くp.123までを読み終えたい。
以上、読書メモ。読書三昧の生活をしているわけでは全くない。
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