月刊・諸君!7月号(文藝春秋)の「われらの天皇家、かくあれかし」という大テーマのもとでの計56人の文章のうち、現皇太子妃(雅子妃殿下)の現況についての何らかの言及のある文章は―区別がむつかしいものもあるが―20。6/13に続いて、その内訳を瞥見する。
 2 現皇太子妃(雅子妃殿下)に対して批判的、又は皇太子・同妃ご夫妻(もしくは妃殿下との関係で皇太子)に「注文」をつけている、というようにあえて一括できそうなのは、次の4名だ(当然に、区別・分類はむつかしいものであることを繰り返しておく)。
 ①秦郁彦-「雅子妃が…美智子皇后に代わって『国母』としての」役割を果たしうるか。「お病気ならしかたがない。回復を待つしかない」という「国民の思いやりも、そろそろ限界に達しそうな気がしている」(p.243)。
 ②久能靖-雅子妃をかばう皇太子も宮中祭祀の重要性を認識しているはずで、「皇室は祈り」との美智子皇后の言葉を「重く受け止めて欲しい」(p.204)。
 なお、この久能靖は「皇室ジャーナリスト」だが、「ジャーナリスト」は比較的に皇太子等の皇族に対して<対等>の物言いをする傾向にあるのを感じた。
 例えば、皇太子妃(問題?)にとくに言及している中に含めていないが、「ジャーナリスト」との肩書きの奥野修司は、近年「戦後の民主化を象徴した筈の『開かれた皇室』が、急速に『閉ざされた皇室』に変質しはじめた」と書いている。「開かれた皇室」論を微塵も疑っていないようなのは興味深い。また、奥野の「天皇ファミリーは裸のまま、危機にさらされている」(p.194)という<客観的>な表現の仕方も、天皇家を取材(・ジャーナリズム)の対象としてしか見ていない心性を感じさせる。
 ③山内昌之-今上天皇・皇后は「『祈り』の姿勢」をもち、敬愛されている。「皇太子御夫妻」は「この『祈り』の意味と無私の価値」を「継承して欲しい」(p.265)。
 これらの②と③は、とくに③は、<批判的>ニュアンスの少ない、むしろ「期待」を示すものとして、次の<中間派>にも分類できそうだが、何らかの<不満>があるからこそこれらのような「期待」又は「注文」の文章ができている、とも読める。
 外国人の文章を取り上げる意味は疑問なしとしないが、④ケネス・ルオフ-皇太子ご夫妻にはまだ「明確な象徴性がない」。「社会的に有意義なお仕事…に努力を注ぐ道を決心なさるべきだろう」。
 以上の4名は皇太子妃(・皇太子ご夫妻)に批判的だとしても、離婚・皇后位不適格・(皇太子の)皇位継承疑問視、といった議論と結びつけているわけではない。この点で、先に記した中西輝政・八木秀次・西尾幹二のグループとは全く異なっている。
 3 <中間派>とかりに呼んでおくが、現況に<憂慮>を示しつつ皇太子妃(・皇太子)を批判するわけではない(少なくともその趣旨は感じ取れない)人々が5名いる。五十音順に記す。
 ①大原康男-「皇太子妃雅子殿下のご病気とそれに伴って聞こえてくる大内山のざわめきも気がかり」だ(p.189)。
 大原の「気がかり」のあと二つは、皇位継承者(おそらくは悠仁親王以降の)問題と(天皇の)靖国神社ご親拝問題。なお、「大内山のざわめき」という「ざわめき」という言葉に、<騒いでいる>者たちへの批判的なニュアンスを感じ取ることが不可能ではない。その点を強調すると、次の<批判者を批判する>グループに入れてもよいことになろう。
 ②佐藤愛子-皇太子妃問題は「誰が悪いのでもない。時代の変化のゆえの悲劇」だ。「時代の波に揉まれておられる」天皇陛下を「おいたわしく思う」。
 ③田久保忠衛。「雅子妃に環境を合わせるか、…現状を続けるのか、環境と御本人を分離するかのいずれかしか対処方法はない」と書いて、抽象的にせよ制度論・方法論に踏み込んでいるようである点は、西尾幹二らと共通性がある。しかし、皇太子妃に対する批判的な心情は殆ど感じられず、上の文につづけて、「胸が痛む。ましてや天皇、皇后陛下の御心痛はいかばかりか」と書く。
 また、天皇・皇后両陛下と皇太子・同妃一家に<亀裂あり>旨の宮内庁長官発言やその報道ぶりに関して、「世界に例のない日本の皇室に反対する向きはさぞかし喜んでいるだろう。『天皇制打倒』などと叫ぶ必要もなくなるから」と書き、さらに、「スキャンダルを暴くマスコミの集中攻撃」に触れて、「国の中心を寄ってたかってつぶすのか」とも記す。
 これらの後者の部分は西尾幹二らとはむしろ正反対の立場のようでもあり、むしろ次の<批判者を批判する>立場のようにも解釈できる。
 というように分類し難いところがあるが、両方を折衷して無理やり<中間派>としておく。
 ④中西進-「週刊誌の広告」に「心が痛む」。皇太子妃の夢が実現できないのは、「国民および皇室関係者が、…あいまいな皇室観の中で八方塞がりになっている」からだ(p.236、p.238)。
 ⑤松崎敏彌-「雅子さまには、一日も早く、ご体調を回復していただき、お元気な笑顔を再び見せていただきたい」(p.255)。
 4 以上。あと残りは6人。この人たちは<批判者(マスコミを含む)を批判する>というグループとして一括できると思っている。別の回に。