在米日本大使館の北野充広報担当駐米公使は、(1)旧日本軍の関与の下で女性の名誉と尊厳を傷つけたと認める、(2)同問題でおわびと反省を表明した河野談話を継承する、安倍晋三首相もこの方針を維持する、と説明して、慰安婦問題と北朝鮮の日本人拉致問題を同一次元で論じているとして日本非難の社説を掲載した米ワシントン・ポスト紙に反論したという。
馬鹿なことをしている。前々から感じていたことだが、安倍首相の意向と、<とにかくとりあえず穏便に>という(いつもながらの?)日本外務省の方針とは食い違っているのではないか。すでに十分に謝罪しているから決議しないでくれというのは、愚の骨頂だ。情けなくなる。
朝日新聞は、3/27の星浩コラム等々、慰安婦「問題」の経緯も争点も、そして米国下院の決議案に賛成か反対かも曖昧にしている。おそらくは決議案採択をきっと朝日は歓迎するつもりなのだろう。その点、読売新聞は、同日3/27朝刊に「基礎からわかる「慰安婦問題」」とのほぼ一つの面を使った適切な解説記事を載せており、朝日と比べて圧倒的に誠実であり、姿勢が明瞭だ。
あらためて上の読売の記事中の米下院決議案の外務省仮訳を見ると、責任を公式に認めて謝罪せよと要求したあと、「日本国政府による強制的売春である「慰安婦」制度は、その残忍さと規模において、輪姦、強制的中絶、屈辱的行為、性的暴力が含まれるかつて例のないもので…20世紀最大の人身売買事業の一つであった」と述べ、「(日本国政府)が日本帝国軍隊による「慰安婦」の性的奴隷化や人身売買は決してなかったとのいかなる主張に対しても明確かつ公に反論すべきであることを決議する」と結んでいる。
米国下院は、そしてアメリカ人は、こんな下品な言葉が出てくる決議を公式にしようとしているのか侮蔑したい気分にもなるし、月刊WiLL5月号の堤堯・久保紘之対談の一部のように、かつての米軍兵士は戦地や占領下日本で「特殊慰安施設」に「関与」しなかったのか、と糾したくもなる。
だが、問題は、この案の背後にいる主として反日中国系団体・中国政府(中国共産党)による歴史の偽造を、日本人が、日本政府が黙視してよいか否かだ。中国が仕掛けている「情報戦争」、「国際世論誘導戦争」の一環と見なしておく必要がある。
繰り返す必要はないだろうが、私自身の言葉で書いておくと、上の決議内容は、事実ではない。日本国政府はを「人身売買事業」をしていない。「日本帝国軍隊による「慰安婦」の性的奴隷化や人身売買」もなかった。
よくありそうな誤解は、軍が慰安所や慰安婦募集事業者に何らかの形で「関与」したことをもって、軍又は政府の「関与」を肯定し、やはり悪いことをしたのではないか、というものだ。例えば「inkyoさん」は3/27に次のように書く。http://inkyo.iza.ne.jp/blog/entry/140920/
「安倍さんは、《「心の傷を負い、大変な苦労をされた方々に心からおわびを申し上げている」》と詫びながら、軍の関与を否定している。当時の政府が慰安所の設置や募集に関し一切関与していないのであれば、狭義の関与は否定できるかもしれないが、軍人の規律を守り防諜防止等の観点から、日本政府が慰安所の設置等に関与しているのであれば、広義・狭義の理屈は理解されない。それより、慰安所を設置しないと軍の規律が守れないとするなら、日本人としてその方が恥ずかしい。たとえ、戦時下で異常な心理状態になるとしても。」
私もまた、「当時の政府が慰安所の設置や募集に関し一切関与していない」とは思わない。また、「慰安所の設置等に関与している」こともあっただろうと思う。慰安所の存在を当然に知っていただろうし、衛生面での配慮等々もしただろう。慰安所経営者に対して注意・警告又は場合によっては要望をしたこともあっただろう。
だが問題は、上のような事実の存否及び当否にあるのではない。上のような「関与」と決議案にいう「人身売買事業」あるいは慰安婦の「強制連行」とは全く別のものだ。問題は、日本政府又は軍が、慰安婦にすべく女性を「強制連行」したのかどうか、そうした意味での「強制」的契機を含む「人身売買事業」をしたのか否か、なのだ。通常の理解力があれば、「広義・狭義の理屈」は分かるはずなのであり、これをおそらく意識的に曖昧にしているのが朝日新聞であり、広義のものがあれば狭義のものもあったに違いないとの(じつは根拠のない)前提で書かれているのが米国下院決議案だ。
「inkyoさん」は「慰安所を設置しないと軍の規律が守れないとするなら、日本人としてその方が恥ずかしい」と書くが、慰安所・慰安婦の存在自体が「悪い」ことだったかどうかは、戦地という場所的特性や「公娼制度」が存在した時代だったこともふまえて、別に議論すべきものだ。この点につき詳しいのは、秦郁彦・慰安婦と戦場の性(新潮選書、1999)だろう。「inkyoさん」は何歳の方か知らないが、こうした本を読んで「勉強」してみたらどうか。
同じ読売3/27によると、下村官房副長官が「強制連行について軍の関与はなかった」と述べたことに対して、民主党の鳩山由紀夫は「歴史をもっと勉強してほしい」等と述べて批判した、という。「歴史をもっと勉強」する必要があるのは、鳩山由紀夫自身だ。民主党の中にも、松原仁(いまは無所属だが、西村真悟)等、歴史が分かっている議員もいるだろう。思わぬ形で、鳩山由紀夫の無知さ・不勉強ぶりを知った。
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