黒田裕樹・希望の分子生物学—私たちの『生命観』を書き換える(NHK出版新書、2023年11月)。
 読了した。なかなかよくできた本だ。
 第1章では、「文科」系的日本人にも比較的に分かりやすく、「現代生命科学」の基礎を9項目に分けて説明してくれている。
 分類学、「悠久」を前提とする「進化」論、生物とは、栄養素、「始原生殖細胞」、免疫、等々。
 その他の紹介、要約等は今回はしない。
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 カント、マルクス、ニーチェ等々、あるいは少なくとも19世紀末までの「哲学」・「思想」等はほとんど役に立たない。
 読了して、記憶に強く残っていた<現代的>問題のうち、二つだけ取り上げる。
 第一。遺伝子「組換え」技術によって「大きな変革が予測される分野」の一つに、つぎがある。
 「寿命=老化に関与する遺伝子をターゲットとして、寿命または健康寿命を延ばせるようになる」。
 以下は、示唆を得ての秋月の文章。技術的には、ほぼ全員について遺伝子上の100歳寿命を実現できるものとする。
 <少死化>時代となって、「食糧」問題はどうなるのか。
 「寿命・健康寿命の延長」を望む者が対価を払って遺伝子改変を受ける場合、100歳寿命化はいかほどの金額になるのだろうか。
 望んでもその金額を支払えない者が出てくる。貧富の差異によって、「(健康)寿命」延長の可能性が変わる。
 この「不公平(?)」を、<国家>は貧者への補助金(・助成金)によって解消すべきか?
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 第二。「ブタの臓器」をヒトに移植する、またさらに、ブタの体内で「ヒトの細胞からなる臓器をつくる」、といった研究が行われている。後者ではきわめて短期間で目的のヒトの臓器を獲得できる。
 以下は、著者の言葉。「倫理的な問題を引き起こす可能性」がある、という。
 「例えば、人間の細胞がブタの脳にも混ざる可能性があり、そうなるとそのブタは何らかの形で『人間的』な認識を持つかもしれないと考えられます。
 だとしたら、そのブタを殺してもよいのか。」
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