一 1オクターブ12(13)音のうち主要なのは、ドレミファソラシ(ド)という7音(8音)だ。あるいは、ABCDEFGの7音だ。
ピアノ・オルガン類でこれらだけが白鍵で弾かれ これら以外の「派生音」は#または♭が付き、ピアノ・オルガン類では黒鍵で弾かれるのは、いったいなぜだろうか。
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二 YouTubeを含むネット上に、「音大卒が教える〜」と称するサイトがある。その他にも、音楽または「音楽理論」の「専門家」の(又はそれらしき)人々が書いた、または語った、「音楽理論」に関する情報が溢れている。
「現在の音階は古代ギリシャの哲学者・ピタゴラスが作った」と無邪気な間違いを堂々と語っている人がいた。それでも、総じては、役立つ、参考になるものがある。
しかし、物足りないと感じたり、そのような説明に何の意味があるのか、と疑問に思ったりすることも多い。
そして、上の一に掲げた問題にどのように解答しているかに関心をもつが、この疑問を解消してくれる説明を読んだり見たりしたことはない。
「幹音」7つと「派生音」5つで1オクターブが構成される。ピアノ等の鍵盤楽器では前者は白鍵で、後者は黒鍵で弾かれる。これらはいったいなぜか、なぜそうなったのか、という問題だ。
1オクターブは12音で構成されるということと「ドレミファソラシ(ド)」の幹音7つによる音階設定を自然現象のごとく当然視していたのでは、解答することができないだろう。
なお、「幹音」と「派生音」という用語とこれらの区別が日本の「専門」音楽教育で一般的に定着しているのかは、私は知らない。
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三 <音楽情報サイト🎵ハルモニア>が、「ピアノの黒鍵はなぜあの位置に?鍵盤楽器の黒鍵・白鍵の並び方の意味」をつぎのようにまとめている)。
①「白鍵と黒鍵の独特な配置により、12種の音の位置が視覚で瞬時にわかる」。
②「黒鍵を奥に配置して浮かび上がらせることにより、離れた音でも片手で同時に弾いたり、行き来したりすることができる」。
納得できるのは後者だけだ。ヒト・人間の手・てのひら・指の大きさからする条件が、鍵盤楽器には課せられるだろう。だが、両手を用いて弾くのなら、この限界は問題でなくなるかもしれない。
また、この説明では1オクターブ12音と白鍵7音が前提とされているのだろうが、この前提自体に関する説明はない。
前者は、「独特な配置」の根拠・背景に触れていないので、何も語っていないのとほとんど同じだ。白鍵と黒鍵が交互に並んでいたのでは音の適切な位置が分かりずらい等だけでは不十分だろう。
なぜ白鍵7つで黒鍵5つなのか、
加えて、黒鍵5つはなぜ左側に白鍵に挟まれて二つ、右側に白鍵に挟まれて三つ配置されているのか。
なぜ左側に三つ・右側に二つではないのか。
あるいは、左側に黒鍵一つだけ、右側に黒鍵四つ(またはその反対)でも、黒鍵5つ、白鍵7つを構成できるのではないか。
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この問題に適切に回答するためには、「ドレミ〜」の7音の音階の特徴を語る必要がある。以下、いわゆる「長調」に話題を限る。
すなわち、その重要な特質は、<十二平均律>でもそうなのだが、残る他の7音の間の関係と異なり、E-FとB-Cの間だけは「半音」関係だ、ということだ。
「全音」と「半音」の厳密な意味(周波数または周波数比の違い)は同一ではないが、ピタゴラス音律でも純正律等でも、幹音相互の関係に、「全音」と「半音」の区別があった(純正律では二種の「全音」があった)。whole-half、ganz-halb の区別があった。
そして、厳密な高さ(周波数比)は違うが、E-F、B-C の間は「半音」だった。
これが<十二平均律>でも維持されている。だから、E-F、B-Cの間には、「全音」を分割する「半音」=黒鍵が置かれないのだ。
なお、「全音」一つの分割方法は<十二平均律>では単純だが、歴史的にはかなり複雑だ(単純な周波数比ましてや周波数の数値の中間値ではなかった。純正律の場合は「派生音」の周波数の数値自体に諸説があるようだ)。
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四 ピタゴラス音律、純正律等(中全音律=ミーントーン等々)において、なぜE-F、B-Cだけは「半音」とされたのかに、さらに立ち戻らなければならない。
唐突だが、この問題は、<十二平均律>での音階が説明される中でネット上でもしばしば言及される「五度圏」に関係している。
「五度圏」という術語自体がピタゴラス音律の歴史を引き摺っていると私には思える。
それはともかく、「五度圏(表)」は相当に興味深いもので、1オクターブ12音自体を疑問視しない限りは、「音楽理論」と多様な関係がある。
例えば、五線譜での楽譜上で調を発見するのに役立つともされる。
しかし、(長調の場合は)「シミラレソドファ」または逆の「ファドソレラミシ」を「覚えなさい」という説き方だけでは、音楽「理論」をつまらない知識の集合にしてしまうだろう。
さて、上の並びは、<調>の探索に際して、楽譜上の最初に付されている調号記号の♭(フラット)が楽譜上の「シ」の位置に一つあればヘ長調、「シとミ」に二つあれば変ロ長調、…、#(シャープ)が楽譜上の「ファ」の位置に一つあればト長調、「ファとド」の位置に二つあればニ長調、…、ということを示す、という意味がある(旋律自体を弾けば又は歌えば容易に判明するので、こんな面倒なことをする人がいるのだろうか、とも思うが)。
しかし、より重要なのは、上で得られる長調の順序は(#を優先すると)「トニイホロ」になり、その前に調号記号が何も付かない「ハ」長調、とさらにその前に♭が1つだけ付く「へ」長調を加えると、「ヘハトニイホロ」の順序になる、ということだ。
これは、「ドレミ…」を相対音の表記にのみ用い、絶対音を「ABC…」で表記するとすると、F-C-G-D-A-E-Bの各長調(major、dur)を意味する。つまり、これらを「主音」とする長調の並びを意味する。
そして、ピタゴラス音律での各音設定過程での出発点である一定の音をかりにFとすると、上の7音はつぎつぎと3/2を乗じて(1-2の範囲内になるよう1/2又はその乗数を掛けて)得られる、ピタゴラス音律での各音に合致している。
F=1、C=3/2、G=9/8、D=27/16、A=81/64、E=243/128、B=729/512。
これをC=1にして書き換えると、つぎのとおり。
F=2/3、C=1、G=3/2、D=9/8、A=27/16、E=81/64、B=243/128。
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上の7音は全て、♯や♭の付かない「幹音」だ。順序を変えて、小さい順に並べると(但し、1-2の範囲内になるよう、F=4/3とする)、つぎのようになる。
C(1)、D(9/8)、E(81/64)、F(4/3)、G(3/2)、A(27/16)、B(243/128)。
これはCをかりに「ド」と言うと、ピタゴラス音律での「ド〜シ」の音階だ。1オクターブ上のCを加えると、「ドレミファソラシド」になる。
このピタゴラス音律での音階において、各音の差異(周波数比)は、こうなる。
E-F、4/3÷(81/64)=256/243。
B-C、2÷(243/128)=256/243。
これら以外の、隣り合う各音の差異(周波数比)は、計算過程を示さないが、全て、9/8だ。
ピタゴラス音律における「全音」は対前音比9/8(=1.125)で、「半音」は対前音比256/243(=約1.0535)ということになる。
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繰り返す。
第一。ピタゴラス音律の各音設定過程での(一定の基音の設定を一回と数えて)7回の計算作業で生じる7音は、全てが現在に言う「幹音」で、「ドレミファソラシ(ド)」を構成できる。12音のうち、最初に設定できる7音こそが、現在にいう「幹音」であり、その後の計算作業で残る5音の「派生音」が生まれたのだ。
第二。7つの幹音の相互関係を吟味すると、E-FとB-Cの差異(周波数比)だけが「半音」で、これら以外は、同じ大きさの「全音」だ。
これらは、ピアノの白鍵と黒鍵の配置関係にすでに対応している、と言えないか? 例えば、E-F、B-C の間には黒鍵は存在しないことになる。これは、ピタゴラス音律であってもすでに見られる現象だ。現在の<十二平均律>は、具体的数値を変更はしたが、これらを継承しているのではないか。E-F、B-Cの間には黒鍵を置かず、それら以外の「幹音」の間には黒鍵を挿入すると、現在に一般的なピアノ等の白鍵(7)・黒鍵(5)の配置になる。
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ピアノ・オルガン類でこれらだけが白鍵で弾かれ これら以外の「派生音」は#または♭が付き、ピアノ・オルガン類では黒鍵で弾かれるのは、いったいなぜだろうか。
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二 YouTubeを含むネット上に、「音大卒が教える〜」と称するサイトがある。その他にも、音楽または「音楽理論」の「専門家」の(又はそれらしき)人々が書いた、または語った、「音楽理論」に関する情報が溢れている。
「現在の音階は古代ギリシャの哲学者・ピタゴラスが作った」と無邪気な間違いを堂々と語っている人がいた。それでも、総じては、役立つ、参考になるものがある。
しかし、物足りないと感じたり、そのような説明に何の意味があるのか、と疑問に思ったりすることも多い。
そして、上の一に掲げた問題にどのように解答しているかに関心をもつが、この疑問を解消してくれる説明を読んだり見たりしたことはない。
「幹音」7つと「派生音」5つで1オクターブが構成される。ピアノ等の鍵盤楽器では前者は白鍵で、後者は黒鍵で弾かれる。これらはいったいなぜか、なぜそうなったのか、という問題だ。
1オクターブは12音で構成されるということと「ドレミファソラシ(ド)」の幹音7つによる音階設定を自然現象のごとく当然視していたのでは、解答することができないだろう。
なお、「幹音」と「派生音」という用語とこれらの区別が日本の「専門」音楽教育で一般的に定着しているのかは、私は知らない。
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三 <音楽情報サイト🎵ハルモニア>が、「ピアノの黒鍵はなぜあの位置に?鍵盤楽器の黒鍵・白鍵の並び方の意味」をつぎのようにまとめている)。
①「白鍵と黒鍵の独特な配置により、12種の音の位置が視覚で瞬時にわかる」。
②「黒鍵を奥に配置して浮かび上がらせることにより、離れた音でも片手で同時に弾いたり、行き来したりすることができる」。
納得できるのは後者だけだ。ヒト・人間の手・てのひら・指の大きさからする条件が、鍵盤楽器には課せられるだろう。だが、両手を用いて弾くのなら、この限界は問題でなくなるかもしれない。
また、この説明では1オクターブ12音と白鍵7音が前提とされているのだろうが、この前提自体に関する説明はない。
前者は、「独特な配置」の根拠・背景に触れていないので、何も語っていないのとほとんど同じだ。白鍵と黒鍵が交互に並んでいたのでは音の適切な位置が分かりずらい等だけでは不十分だろう。
なぜ白鍵7つで黒鍵5つなのか、
加えて、黒鍵5つはなぜ左側に白鍵に挟まれて二つ、右側に白鍵に挟まれて三つ配置されているのか。
なぜ左側に三つ・右側に二つではないのか。
あるいは、左側に黒鍵一つだけ、右側に黒鍵四つ(またはその反対)でも、黒鍵5つ、白鍵7つを構成できるのではないか。
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この問題に適切に回答するためには、「ドレミ〜」の7音の音階の特徴を語る必要がある。以下、いわゆる「長調」に話題を限る。
すなわち、その重要な特質は、<十二平均律>でもそうなのだが、残る他の7音の間の関係と異なり、E-FとB-Cの間だけは「半音」関係だ、ということだ。
「全音」と「半音」の厳密な意味(周波数または周波数比の違い)は同一ではないが、ピタゴラス音律でも純正律等でも、幹音相互の関係に、「全音」と「半音」の区別があった(純正律では二種の「全音」があった)。whole-half、ganz-halb の区別があった。
そして、厳密な高さ(周波数比)は違うが、E-F、B-C の間は「半音」だった。
これが<十二平均律>でも維持されている。だから、E-F、B-Cの間には、「全音」を分割する「半音」=黒鍵が置かれないのだ。
なお、「全音」一つの分割方法は<十二平均律>では単純だが、歴史的にはかなり複雑だ(単純な周波数比ましてや周波数の数値の中間値ではなかった。純正律の場合は「派生音」の周波数の数値自体に諸説があるようだ)。
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四 ピタゴラス音律、純正律等(中全音律=ミーントーン等々)において、なぜE-F、B-Cだけは「半音」とされたのかに、さらに立ち戻らなければならない。
唐突だが、この問題は、<十二平均律>での音階が説明される中でネット上でもしばしば言及される「五度圏」に関係している。
「五度圏」という術語自体がピタゴラス音律の歴史を引き摺っていると私には思える。
それはともかく、「五度圏(表)」は相当に興味深いもので、1オクターブ12音自体を疑問視しない限りは、「音楽理論」と多様な関係がある。
例えば、五線譜での楽譜上で調を発見するのに役立つともされる。
しかし、(長調の場合は)「シミラレソドファ」または逆の「ファドソレラミシ」を「覚えなさい」という説き方だけでは、音楽「理論」をつまらない知識の集合にしてしまうだろう。
さて、上の並びは、<調>の探索に際して、楽譜上の最初に付されている調号記号の♭(フラット)が楽譜上の「シ」の位置に一つあればヘ長調、「シとミ」に二つあれば変ロ長調、…、#(シャープ)が楽譜上の「ファ」の位置に一つあればト長調、「ファとド」の位置に二つあればニ長調、…、ということを示す、という意味がある(旋律自体を弾けば又は歌えば容易に判明するので、こんな面倒なことをする人がいるのだろうか、とも思うが)。
しかし、より重要なのは、上で得られる長調の順序は(#を優先すると)「トニイホロ」になり、その前に調号記号が何も付かない「ハ」長調、とさらにその前に♭が1つだけ付く「へ」長調を加えると、「ヘハトニイホロ」の順序になる、ということだ。
これは、「ドレミ…」を相対音の表記にのみ用い、絶対音を「ABC…」で表記するとすると、F-C-G-D-A-E-Bの各長調(major、dur)を意味する。つまり、これらを「主音」とする長調の並びを意味する。
そして、ピタゴラス音律での各音設定過程での出発点である一定の音をかりにFとすると、上の7音はつぎつぎと3/2を乗じて(1-2の範囲内になるよう1/2又はその乗数を掛けて)得られる、ピタゴラス音律での各音に合致している。
F=1、C=3/2、G=9/8、D=27/16、A=81/64、E=243/128、B=729/512。
これをC=1にして書き換えると、つぎのとおり。
F=2/3、C=1、G=3/2、D=9/8、A=27/16、E=81/64、B=243/128。
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上の7音は全て、♯や♭の付かない「幹音」だ。順序を変えて、小さい順に並べると(但し、1-2の範囲内になるよう、F=4/3とする)、つぎのようになる。
C(1)、D(9/8)、E(81/64)、F(4/3)、G(3/2)、A(27/16)、B(243/128)。
これはCをかりに「ド」と言うと、ピタゴラス音律での「ド〜シ」の音階だ。1オクターブ上のCを加えると、「ドレミファソラシド」になる。
このピタゴラス音律での音階において、各音の差異(周波数比)は、こうなる。
E-F、4/3÷(81/64)=256/243。
B-C、2÷(243/128)=256/243。
これら以外の、隣り合う各音の差異(周波数比)は、計算過程を示さないが、全て、9/8だ。
ピタゴラス音律における「全音」は対前音比9/8(=1.125)で、「半音」は対前音比256/243(=約1.0535)ということになる。
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繰り返す。
第一。ピタゴラス音律の各音設定過程での(一定の基音の設定を一回と数えて)7回の計算作業で生じる7音は、全てが現在に言う「幹音」で、「ドレミファソラシ(ド)」を構成できる。12音のうち、最初に設定できる7音こそが、現在にいう「幹音」であり、その後の計算作業で残る5音の「派生音」が生まれたのだ。
第二。7つの幹音の相互関係を吟味すると、E-FとB-Cの差異(周波数比)だけが「半音」で、これら以外は、同じ大きさの「全音」だ。
これらは、ピアノの白鍵と黒鍵の配置関係にすでに対応している、と言えないか? 例えば、E-F、B-C の間には黒鍵は存在しないことになる。これは、ピタゴラス音律であってもすでに見られる現象だ。現在の<十二平均律>は、具体的数値を変更はしたが、これらを継承しているのではないか。E-F、B-Cの間には黒鍵を置かず、それら以外の「幹音」の間には黒鍵を挿入すると、現在に一般的なピアノ等の白鍵(7)・黒鍵(5)の配置になる。
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