NHK会長が交代して、ニュース9のキャスター・大越健介も交代かと期待していたのだが、そうはならなかった。個別の人事にまで経営委員会は容喙できないようだ。
 そのNHKニュース9と大越健介だが、もともと午後7時からのNHKニュースよりも<偏向・倒錯>度が高いと思っていたところ(7時半からの国谷某女性の番組は午後7時からのNHKニュースには入らない)、7月17日放送の大越健介のセリフを聞いて、<またやってしまった>と思った。
 すでに、週刊新潮7/31号p.38-39、月刊WiLL9月号p.29-30(西村幸祐)が取り上げている。また、朝日新聞の百田尚樹批判を批判する中で産経新聞7/26の「産経抄」も論及している。これだけあると、記憶に頼らなくとも引用ができる。週刊新潮上掲によるカッコ付きの大越健介の発言は、以下のとおりだった。いわゆる「在日」の人々の結婚観の変化をテーマとする特集?の中で述べた。
 「在日一世のコリアン一世の方たちというのは、韓国併合後に強制的に連れてこられたり、職を求めて移り住んだきた人たちで、大変な苦労を重ねて生活の基盤を築いてきた経緯があります」。
 後段の「在日」の「方たち」に対する優しさも気にならないではない。「大変な苦労を重ねて生活の基盤を築いてきた」のはおおむねは事実なのかもしれないが、かりにそうだったとしても、それは「祖国」とくに韓国へは戦後に帰国できたにもかかわらず、自由な意思によって日本在住を選択した結果でもあろう。安易に偽善的な優しさを示してもらっても困る。
 むろん重大なのは、「在日一世のコリアン一世の方たちというのは、韓国併合後に強制的に連れてこられたり…」という部分にある。大越健介又は原稿を書いたディレクター若しくは記者の理解によると、現在の「在日」の人々の半分は日本国家によって「強制的に連れてこられた」者たちの子孫であることになる。この部分を先に述べていることからすると、「職を求めて移り住んだきた人たち」よりも多い印象を与える言葉にもなっており、 「在日一世のコリアン一世の方たち」のうち「韓国併合後に強制的に連れてこられた」のは50-55%にはなる、という理解に基づいているようでもある。
 週刊新潮の記事で鄭大均が、月刊WiLL9月号で西村幸祐が批判しているので、大越らNHKニュース9制作者の「歴史認識」の誤謬をここではもはやくり返さない。私自身は大越の言葉を耳にしたあと放任できないと思い、NHKに対する意見の窓口、0570-066-066又は050-3786-5000にクレームの電話を当番組の時間内にかけた者の一人だった。
 さて、ニュース9又は大越健介は、この問題をどう処理するつもりなのだろうか。歴史的に事実ではない報道をすれば、訂正し、正確な情報に改め、かつ詫びる=謝罪するのが、まっとうな社会あるいは会社・団体のあり方だろう。
 その後、大越健介は7/17の報道(新聞で言えば「記事」の一部になる)の誤りを訂正し、謝罪したのか?
 まさか、<ネトウヨ>が騒いでいるだけと頬かむりしたままを続けるつもりではないだろう。
 かりに、そんな気分で訂正も謝罪もしないとすれば、「国民運動」を起こしてでも、ニュース9の当該部分の担当者と大越健介を更迭しなければならない。
 もともと、ニュース9と大越健介には、<保守>からの批判よりも<左翼・リベラル>からの批判を避けたいという気分をうかがうことができた。例えば、半年以上前、特定秘密保護法をめぐる<街の声>について、午後7時からのニュースでは賛成意見2名を先に、反対意見2名をその後で紹介していたが、 同じ日のニュース9では反対意見2名、賛成意見1名(順番は今では忘れた)を紹介する、という違いがあった。「政治部記者」の大越健介の<イデオロギー>又は個性にもよるのだろうが、番組担当のディレクターのそれの方が大きいのかもしれない。
 ところで、さらに近日中に知ったのだが、経営委員の百田尚樹が7/17の大越発言を7/22の経営委員会で批判したらしい。これを朝日新聞が「百田尚樹氏、大越キャスター発言」という見出しの記事でとり挙げて、<放送への介入>と言いたいらしき批判をしたらしい。
 朝日新聞は放送法32条違反だと言いたいようだが(例のごとく断定はしていない)。同条は「①委員は、この法律又はこの法律に基づく命令に別段の定めがある場合を除き、個別の放送番組の編集その他の協会の業務を執行することができない。②委員は、個別の放送番組の編集について、第三条の規定に抵触する行為をしてはならない」と定め、同法3条は「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定める。
 放送法に関する定着した解釈らしきものがあるのかどうかは知らないが、委員会での委員の(番組放送後の)発言が個別の番組の「編集」その他の「実行」にあたるはずはない。また、委員会での委員の特定の番組又はその内容に関する発言が「放送番組」への「干渉」に当たるのだとすれば(文理上は該当すると解釈できる可能性があることは否定しないが)、そのように解釈してしまうと、かりに「経営」にも重大な影響そうな個別の番組についてであっても委員は一言も質問や発言をできなくなってしまう。もともと、経営委員会の発言内容が朝日新聞にだけは漏れているようであるのも奇妙なのだが、朝日新聞が大きくは問題視しない(騒がない)意向のようであるのも、上の形式的な解釈を採るつもりはないのかもしれない。
 上記の「産経抄」 は、「経営委員会は、経営の基本方針を決める機関だが、受信料の徴収率に直結する番組について質問をするのは不思議でも何でもない。『放送番組は何人からも干渉されない』と規定する放送法に抵触する、とはヤクザのいいがかりに近い」と述べた。最後の比喩は厳しいが、内容的には穏当なところではないか。
 そのことよりも、朝日新聞の記事(7/26)の問題は、大越健介の発言内容の当否ついては、全く言及していないことだ。「在日」の由来に関する自らの、又は自社の見解を示して初めて、百田発言を問題にできるのではないか。
 一般論としていうと、内容・中身について世論を説得できない、多数派を形成できない場合には、<手続>又は<形式>に重点を変えて批判の対象にする、というのは「左翼」、そして朝日新聞がこれまで戦後ずっととり続けてきた論法でもある。今回は立ち入らないが、集団的自衛権閣議決定の翌朝の社説の最初の文章は「民主主義」破壊という観点からの批判であったことには訳が分からず、かつ呆れた。
 ついでに書けば、上記「産経抄」子は「大越氏の発言は、視聴者に「強制連行」を印象付けたといってもよく、東大出のニュースキャスターの歴史認識がこの程度では、百田氏ならずとも心配になってしまう」、と述べている。
 「東大出のニュースキャスターの歴史認識」を心配してもよいが、問題はもっと深刻だと思われる。その深刻さへの感度が少し鈍いように感じる。公共放送と言われるNHKの代表的なニュース番組において、キャスターが、「在日一世のコリアン一世の方たち」の少なくとも半分は日本国家が「韓国併合後に(朝鮮半島から)強制的に連れて」きた、という歴史「認識」を示したのだ。こんな誤ったイメージ操作を許してはならないだろう。
 ニュース9又は大越健介は訂正して詫びるのか。詫びるべきだ。ついでにいうと、産経新聞は、そういう論調に立つべきだ。