〇山村明義・本当はすごい神道(宝島社新書、2013)を、たぶん先週初めに読了。同・神道と日本人(新潮社、2011)も所持していて、より重要なようだが、重たい感じで、冒頭掲記のものを先に読んだ。
 最初の方で、知らなかったことをいくつか知り、宗教(・神道)に関する現在の日本のマスメディアの異様さも感じる。以下は、知らなかったこと(~p.61)。

 ・2011-12年サッカー・ワールドカップの直前、日本代表チームは男女ともに「熊野三山」に参拝した。選手・関係者でかなりの人数になる。なぜ熊野かは省略する。私も熊野三山(本宮・新宮・那智)を二回は巡拝している。
 ・トヨタ自動車のある豊田市には「トヨタ神社」ともいわれる豊興神社があり、毎年年頭、トヨタグループの幹部たちは参詣する。三菱グループの「守護」神社は大阪市西区にある土佐稲荷神社、三井グループのそれは東京都墨田区の三囲神社、等々。いわば「企業神社」は多数ある。

 ・出光興産のそれは、出光佐三の郷里近くの宗像大社

 ・海上自衛隊護衛艦「いせ」には伊勢神宮の祠があり、同「ひえい」には東京・日枝神社の神札が貼られいる、等。

 ・朝日新聞社にすら、東京・中央区築地に波除稲荷神社という「氏神神社」がある。社の新車にはこの神社で「新車祓い」をする。関連会社の朝日浜離宮ホールは、歳末の舞台挨拶の日に波除稲荷神社の神職者が神事を行っている。

 政教分離とかの問題では小うるさい朝日新聞にも特定の「守護」神社があるとは愉快ではないか。

 〇東京巨人軍が宮崎神宮に、阪神タイガースが(西宮神社ではなく)広田神社(西宮市街地の北)に、シーズン開始前に必勝または優勝祈願をすることは、毎年のようにテレビのスポーツ番組で報道されている。

 上の点では、特定の、といえなくもない宗教、すなわち神道に対しておおらかとも見えるマスコミも、他の点ではほとんど宗教・神道関係の報道を避けている。

 最初に記したサッカー団体によるこぞっての熊野参拝は知らなかった。サッカー関係者にとっては大行事のはずだが、マスコミは取りあげていないのではないか。

 今年は出雲大社の60年ぶりの遷宮、伊勢神宮の式年遷宮の年だ。前者はすでに終わったはずだが、テレビではおそらく全く報道していない(地元・島根県は別かもしれない)。
 伊勢神宮の式年遷宮に関する報道もおそらくまったくなされていない。週刊誌や雑誌が取りあげ、それだけでの特集をする雑誌・ムック類も多数出版されているが、テレビや一般新聞はおそらく何も
報道していない。遷宮ですらこうなのだから、外宮境内に「遷宮館」が完成していることなどは全国ニュースとしてテレビ・一般新聞で報道されたことはないだろう。

 どこか異常ではないか。むろん、様々の信仰をもつ視聴者・読者がいるから<特定の>宗教に関する報道はできない、という理屈によるのだろう。

 しかし、かつてこの欄で伊勢神宮や神道、それらと皇室との関係についてかなり熱心に言及したことがあるのだが、宗教といわれるものの中で、少なくとも「神道」だけは別扱いがされてよい、されるべきだ、と考えている。
 法的理屈がまったくなくはない。世襲の天皇制度を現日本国憲法も認めているが、天皇家の宗教はいうまでもなく「神道」だ。神宮の式年遷宮の祭主代理は現皇太子殿下の妹の黒田清子さん(祭主は今上天皇の姉の池田厚子さん)であることにも示されているように、また遷宮の細かな準備日程は今上天皇の「許可」(正式用語ではない)にもとづいているように、伊勢神宮の式年遷宮とは実質的または本質的には天皇家の行事に他ならない

 この式年遷宮に対しても天皇・皇室はもちろん何らかの費用を負担しているが、それが「内廷費」といういわばポケットマネー、「お手持ち金」として支出されるのも奇妙なことだ。テレビや家具あるいは皇居内用の自動車を購入する費用と、法律上はまったく同質のものと扱われているのだ。

 そもそもは1945年の「神道指令」にもとづき、また現憲法の「政教分離」原則によってこうなっている。しかし、憲法上の存在である「天皇」の宗教が一貫して神道であることは占領期にも、日本国憲法制定時にも公知のことだったはずだ。天皇制度を維持するかぎり、何らかの配慮または特別の考慮が払われてしかるべきだったはずなのだが、何もなされなかった。
 その結果として、現在のテレビや一般新聞の神道に対する「冷たさ」がある。むろん一般国民はそんなマスコミの態度にかかわりなく、初詣をし、七五三行事をし、パワースポット巡りをしているのだが…。

 富士山が世界遺産とされたのは「自然遺産」ではなく、「文化遺産」としてだったことの意味を、テレビ局・一般新聞の関係者はしっかりと考えるべきだろう。「文化」には宗教も含まれている。富士山という山岳のみが世界遺産指定をされたのではなく、<富士山信仰>のあることを前提として、富士宮浅間神社を含む種々の宗教施設も含めて世界遺産とされたのだ。

 思うに、世界遺産指定関係者、ユネスコの方が、日本のマスコミよりもはるかに宗教に対して大らかだ。どういう国の者が指定メンバーなのかは知らないが、彼らは日本には日本独自の宗教がある、ということを、ごく自然な、ごく当たり前のこととして、神社等を含む「富士山」を世界遺産の中の「文化遺産」として指定したのだと思われる。

 日本には日本独自の文化があり、日本独自の宗教がある。当たり前のことではないか。日本のとくに「左翼」マスコミは、「日本独自の」ものが嫌いなのに違いない。NHKも含めて、伊勢神宮の10月初旬の遷宮行事がどう報道されるのか、注目しておきたい。